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石蕗学園物語  作者: 透華
95/107

夏休みまで 3

遅くなった割にグダグダで申し訳ありませんm(_ _)m

「ところでかなめさん。結局私の質問に対する答えってないんですか?」


「質問?……ああ。桃園ももぞのについてだったか?」


「はい。桃園さんが夏休みに学園に来るかいなかです」


 こいつ完全に忘れてやがったな。まぁ。何とか話を軌道修正出来たからいいが。


「ふむ。このまま問題を起こさなければ来る確率は高いと若竹わかたけは話していたな。個人的には無理だと思うが」


「それについては同意しますが、まさか、それ若竹先生には言ってませんよね?」


 この人は意外とデリカシーがないからな。もし言われてたら若竹先生はへこんでそうだよな。あの人繊細そうだし。


「若竹には言ってはいない。だが、流石に若竹も現状は理解しているだろう」


「それならいいですけど……まぁ。でも、確かに、桃園さんの状況を一番理解してるのは担任の若竹先生のはずですしね」


「そういうことだ。ただ、若竹は良くも悪くも甘い人間だからな。桃園を庇い立てして状況を悪化させなければいいが……」


「庇い立てして状況悪化って……若竹先生は生徒指導部の先生ではありますけど、若竹先生1人の力じゃたかがしれてますし大丈夫なんじゃないですか?」


 若竹先生はともかく他にクソ女を庇う人間なんて蓬生ほうしょう家以外にはいないだろう。どちらも上流階級の家柄だが、たった2家だし、若竹家が手を貸すとも思えないんだがな。


「若竹の立場は悪くなるだろう? ただでさえ今のアイツは学園内で微妙な立場にいるからな。1人の生徒――それも問題児に肩入れしているわけだから、他の教師からの目は厳しいのだよ。本人はもう一歩理解していないがね」


「あっ。そっちですか。若竹先生って教師間での評判は悪くなってるんですか?」


「そうだ。だが、先ほども言ったように若竹自身はもう一歩理解していない。アイツは悪意というものを碌に受けたことがない人間だからな」


「それでも、一応嫌われてるとか避けられてるとかは分かるんじゃないですか?」


「それが分からないのが若竹だ。アレは家族仲もよく、とんとん拍子で今に至るような人生を送っている。挫折も苦労も特になく、周りの環境にも恵まれていたからな故に悪意に鈍感すぎる。そして、人の苦悩にもな」


「悪意に鈍感なのはいいとして苦悩に鈍感って教師としてはちょっと問題ありません?」


「そうだ。問題がある。本人も一応その点については自覚があるのか何とかしようとはしているが、何とかしようと思って出来ることでもないからな」


 要さんは溜め息を一つ零した。意外と若竹先生のことを考えているんだな。しかし、あの人って本当に箱入り息子だったのか。だから、あんなに甘ちゃんなのかもしれないな。


「また話がずれてますけど、要するに、要さんとしては若竹先生に桃園さんを庇って欲しくないってことですか?」


「いや。一度痛い目を見るのもアレのためだと思っているよ」


「えっと、じゃあ結局何が問題なんですか?」


「若竹以外の学園内にいる殆どの上流階級者が桃園をよく思っていないということだな。下手したら若竹ではなく若竹家の問題になりかねないという部分だ」


「はぁ……」


 どうしよう。心底どうでもいい。上流階級同士で勝手に仲違いなり潰しあいなりすればいいと思ってしまうんだが。


「まぁ。ここら辺の話は瑠璃るりには関係のないことだったな」


「そうですね」


「さて、いい加減話を戻すとしよう。桃園が夏休みに来るかについては――現状では判断出来んな」


「あれ? さっきは学園にも来れないような状況になりそう的なことを言ってませんでしたっけ?」


 要さんの発言に思わず首を傾げる。クソ女が学園に来られなくなるなら私としては有り難いと思っていたのだが。


「ふむ。確かに、そのようなことを口にしたな。だが、桃園は理事会から精神的な問題がありながらも、それを改善できる可能性もあるという見方をされている。私が判断するにも至極微妙な状態なのだよ」


「理事会はあくまで桃園さんを擁護する立場にあるってことですか? 彼女にそこまでの価値があるとも思えませんけど」


 ぶっちゃけ理事会がクソ女を退学にしない理由が全く分からないのだ。クソ女を退学に追いやったら蓬生家は敵に回すかもしれないが、それだけだしな。他の上流階級の 家柄は味方につくだろう。


「瑠璃が分からないとは意外だな。……だが、瑠璃の性格を考えると当然か?」


「どういう意味ですか?」


「簡単な話だ。今までの退学者と桃園の違いを考えれば分かる」


「違いって家柄ですか?」


 そういえば今までの退学者は家柄が割といいところの人間ばかりだったよな。蓬生家って後ろ盾はあってもクソ女は一般庶民だし。


「惜しいな。簡単に言うなら自主的な退学者かそうでないかの違いだ」


「自主的って……今まで退学していった人の中にも退学を拒んだ人は居るんじゃないですか?」


「確かに居たが、最終的には納得して退学していった人間ばかりだ。親に逆らえない人間が多かったからな」


「なるほど。理事会としてはあくまで生徒側が「罪を認め石蕗つわぶき学園に自分は相応しくないとして自主的に退学した」って風にしたいわけですか」


「そういうことだ。その方が退学後のケアもしやすいからな。だが、桃園の場合、本人も蓬生家も退学を拒んでいるだろう?」


「今までのように追い出しにくいってことですね。確かに、今までの退学者って親や親戚は醜聞を恐れて協力的な立場にいましたし」


「そういうことだ。そういう家ならこちらも楽だったのだがな。それに、先ほどの精神的な問題にプラスして桃園は迷惑行為はしているが授業妨害や暴力行為、悪質な嫌がらせのような大きな問題は起こしていないから追い出すにしても理由としては弱くなるわけだ」


「そうですか。ということは、桃園さんがもうちょっと過激に動いてくれた方が追い出しやすいんですね」


「そうなるな。だが、過激に動き出した場合――というより被害者が出ることを考えれば動き出す前にとめなければならないからな。そちらを期待するわけにもいかないだろう?」


「それは言えてますね。それじゃあ、今のところはどうしようもないってことですか?」


「そういうことだ。ああ。言い忘れていたな。桃園が夏休みに学園に来るとしても監視者が同伴することになっているから、お前達と接触する可能性はかなり低いゆえ安心したまえ」


「それを先に言って下さいよ……」


 本当に変なところで抜けてるな。いや。抜けてると言うより今回の場合は要さんにしてみれば大した問題じゃないから忘れてたってだけかな。まぁ。要さんはクソ女を上手くあしらえる人だし。無理もないか。

 しかし、若竹先生がかなりの箱入り息子の甘ちゃんで理事会が動きたくない微妙な理由を知れたのはよかったのか悪かったのか。だが、おかげで若竹先生がクソ女を庇わないって行動をとるのは無理っぽいと分かった。

 あの人は多分潜在的に弱い者の味方につきたがるヒーロータイプなんだろうな。別にクソ女は弱者じゃないが、孤立しているという意味では弱者だし。今までよく悪い女に引っかからなかったものだ。多分要さんのおかげかな。

 逆に理事会はクソ女が今以上の何かやらかしたら嬉々として追い出しにかかりそうだ。蓬生家もフォロー出来ないくらいの何かと言ったらなかなか難しいかもしれないが、暴力行為とかなら誇張するのは簡単だしな。

 さて、これから、どう動こうか。クソ女が動いてくれるように刺激するのは監視者のことを考えるとリスクが大きいし。木賊とくさ先輩を利用するのも色々詮索されそうで面倒だよな。まぁ。動けるときに動くとしようかね。

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