夏休みまで 2
遅くなりましたm(_ _)m
2人だけで向かい合ってする食事に緊張感は一切ない。昔からの付き合いというのは色々詮索されかねない関係ではあるが当人同士だけなら楽なものだ。
「ああ。そうだ。瑠璃は、あれ以降、桃園と遭遇していないのかね?」
「ええ。まぁ。たまに見かけることはありますけど。要さんは……嫌でも授業で顔合わせますよね」
「ふむ。顔を合わせるだけだがね」
「柚木先輩の話を聞く限りだと桃園さんは要さんも攻略キャラ? って思ってるみたいですけど、接触するために授業についての質問とかしてこないんですか?」
楽しい食事時にクソ女について話すのは、あまりよろしくないかもしれないが先に話をふってきたのは要さんなので色々聞いても問題はないだろう。
「ああ。例の攻略キャラというやつか。……そうだな。私も入っているらしいがアレはそもそも授業内容について質問が出来るような人間ではないのだよ。プライベートなことについて尋ねられることはあるが答える義務はないゆえ放っているな」
「まぁ。生徒からの質問に一々答える必要はないですよね。授業内容に関しても要さんの場合、分かりやすいから質問する必要ないですし。しかし、プライベートな質問って例えばどんなことを聞かれるんですか?」
「交友関係や休みの日の過ごし方などだな。何処に買い物に行くのかとか、家にいる方が多いのかとか。そんなことを知ってどうしたいのか全く理解出来んが」
後者の質問に関しては多分、学園内じゃなくて学園の外で会いたいんだと思いますよという言葉は秘めておく。ああいうシミュレーションゲームは会話とイベントとフラグ回収が大切らしいからな。
クソ女にしてみれば要さんと学園外で会うために必要な会話やフラグをたててイベントをおこそうとしているんだろうが、圧倒的に好感度が足りないから失敗するんだ。
日頃の行いって大事だよな。しかし、実際クソ女って今の時点でどれくらい必要なイベントをおこせているんだろうか? 若竹先生以外の攻略キャラの好感度は軒並み底辺だし会長や茜先輩に至っては未だに接触出来ていない。
まだ序盤と言えば序盤だが、もう少ししたらイベントの宝庫である夏休みが待っている。クソ女がここで一気にたたみかけてくる可能性はあるが、イベントとかって確かこの時期じゃなきゃだめとかこのフラグを回収しておかないと発生しないとかあったよな?
そう考えるとクソ女がおこせないイベントは割とありそうだ。問題は夏休み中は今以上に遭遇率が高くなりそうってことだが。一応聞いておくか。
「要さん。桃園さんって夏休みはどうなるんですか?」
「ほう。気になるのかね?」
珍しいと言いたげな目で見られるが、分からなくはない。私が凪ちゃん以外に関心を持っているなんて付き合いが長くて私をよく知っている要さんにしてみれば不思議でたまらないことだろう。
「桃園さんが補習やら奉仕活動やらで学園に来るなら凪ちゃんとの遭遇率が上がりますからね。気にもなりますよ」
「なるほどな。瑠璃がとうとう水瀬以外にも関心を持ったのかと思ったが、やはり気になるのは水瀬関連か」
「そうですね。……要さんの言い方、少し引っかかるんですけど……」
「そうかね? それなら幸いだ。引っかかるような言い方をあえてしたのでね」
「どうしてですか?」
「あまり、こういうことは言いたくないのだが、瑠璃はもう少し水瀬以外にも関心をもちたまえ。……龍崎と橘がお前が助けた人間達に面倒をかけられているという話は知っているかね?」
「……この間、橘君に聞いてはじめて知りました」
「そうだろうな。瑠璃は水瀬のことには敏感だが、それ以外の人間――自分に関することにすら鈍感だ。それは、諸手を上げて受け入れられる状態ではない」
「そんなにいけないことですか?」
「いけないということではない。ただ、私からしてみればいいとは思えないというだけだ」
要さんは珍しく――本当に珍しく顔をしかめた。それほど要さん的には私の状態は悪いってことなんだろうか? いつから、こんなことを思っていたのか分からないけど多分ずっと違和感を感じ続けてはいたんだろう。橘達の件を引き合いに出したのは単純に言いやすかったからだろうな
凪ちゃんだけが大切って私の状態が歪なのは理解している。要さんが言うように周りをもっと見るべきだとも一応分かってはいるんだよな。ただ、変わる気がないってだけで。
だって、そこまで差し迫って変わる必要があるように思えないし。確かに私のせいで凪ちゃん以外の人間が迷惑を被るのは申し訳ないと思うが、人間って生きている以上必ず何かしら周りに迷惑をかけるものだよな。人によっては死んでからも迷惑かけるしな。
「そうですか。でも、要さんは私が今更変われると思いますか? 凪ちゃんと出会ってから、もう10年近いんですよ?」
「お前は変えようと努力しない上に変わる気すらないんだろう? 私が問題視しているのは、その部分だ。瑠璃。お前と水瀬は永遠に傍にいられるわけではない。大学に行けば学部が離れる可能性もある。お前はそれに耐えられるか?」
なんだ。そんなことを気にしているのか。少し拍子抜けだな。私は夢見がちな少女ではないから、ちゃんとソレくらいは視野に入れて考えている。
「耐えられますよ。それくらいの覚悟はあります。それに、学部が離れたり違う大学に行ったとしても凪ちゃんとの繋がりが何かしらあれば満足出来ますよ」
「……そうかね」
要さんに溜め息を零された。今日は珍しい顔ばかり見る。多分あんまりな物言いに呆れられたんだろうが仕方ないよな。良くも悪くもこの人は私を気にかけてくれているし。それを鬱陶しいとは思わないが、だからといって何が変わるわけでもない。
そこらへんの頑固さは私もクソ女と同じかもしれないな。現実を現実と認めないクソ女と凪ちゃんだけに固執して変わる気のない私。拘るものは全く違うが少しだけ私達は似ているかもしれない。
まぁ。クソ女のように見苦しい行動をする気はさらさらないが。本当にクソ女はもう少し謙虚さを身につけるべきだったよな。柚木先輩に完璧に目を付けられてるし。女たらし先輩も大変だ。
「お前が私の言葉くらいで変わってくれるとは思っていなかったが、やはり複雑な気分だな」
「……すみません」
「気にしなくてもいいさ。お前をそうしてしまったのは、私達のせいでもあるのだろうからな」
「……それは、違いますよ……」
そうだ。別に要さん達のせいではない。というより、凪ちゃん以外に私に影響を与えられる人間がいないのだ。要さん達には悪いが所詮彼らでは凪ちゃんのように私に影響を与えることすら出来ない。だから、要さんは何も悪くないのだ。




