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石蕗学園物語  作者: 透華
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資料運び 4

「遅い! 萌黄もえぎ浅葱あさぎだけならともかく、そう雪城ゆきしろ。お前達まで共に行っていて何でこんなに時間がかかったんだ!? 普段の二倍以上だぞ!」


 生徒会室のドアを開けようとした瞬間にドアがひとりでに開き――なんてことはなく内側から開けた会長に開口一番怒鳴られた。まさか、ずっとドアの前で待機していたんだろうか?

 少しだけイラッとしていると、ドアの前で仁王立ちしていた会長が会長の横から出てきた手によって視界から消える。「ウワッ」という会長の叫び声がしたあたり、突き飛ばされたか何かしたんだろう。


「まぁまぁ。けいったら落ち着きなさいな。皆が中に入れないでしょう? ごめんなさいね。颯君、浅葱君、萌黄君、瑠璃るりちゃん。螢はなかなか戻らない貴方達を心配してたのよ。その心配が不安になって、つい怒鳴ってしまっただけなの。悪く思わないであげてね」


 会長を押しのけたのはあかね先輩だったらしい。茜先輩は申しわけなさそうな顔をしながら私達を生徒会室の中に迎え入れてくれた。茜先輩の言葉が本当なら会長は結構心配性なのかもしれないな。ついでに沸点が低い。

 ちなみになぎちゃんは腕を組みながら無言で私以外の3人を親の仇を見るような目でじっと睨んでいたが、私が持っている資料に気がつくと走り寄って来てかわりに持ってくれた。なんて優しいんだろうか。

 そうそう烏羽からすば先生はいつもと変わらずソファーに座り優雅に本を読んでいるだけだった。一応「御苦労だったな」という言葉は小さく聞こえてきたけど。会長ほど過剰になれとは言わないが、もうちょっと反応して欲しいものだ。


「こんなに重いのを長時間持ち続けたんだもの。瑠璃ちゃん疲れたでしょう? 今、ミルクティー作ってくるから、ソファーでゆっくりしててね」


「ありがとう凪ちゃん。手間をかけさせちゃって、ごめんね?」


「全然気にしないでちょうだい! ……そうそう。あんた達は、瑠璃ちゃんをこんなに遅くまで連れまわした言い訳をせいぜい考えておきなさい。それじゃ、瑠璃ちゃん。美味しいお茶菓子も持ってくるから楽しみにしててね!」


 凪ちゃんはニッコリ私に笑いかけてから紅茶を淹れに行ってくれた。会長、茜先輩、水瀬みずせたちばなは絶句し、龍崎りゅうざきは顔を真っ青にして震えている。そんな中、烏羽先生は相変わらず我関せずと読書を続けていた。

 流石、烏羽先生だが、この人は何を言っても驚きそうにないよな。まぁ。でも、水瀬達が何に怯えているのか分からないんだけど。凪ちゃんに怯えてるっぽいのは何となく分かるんだが、一体凪ちゃんの何に対して怯えているんだ?

 水瀬達は「言い訳を考えろ」と言われていたから、そのことに怯えているのかもしれないが、言い訳なんて考えるまでもなくクソ女のせいだって包み隠さず正直に言えばいいだけなんだし。別に私達には落ち度はないんだから堂々としてりゃいいだけだろう。会長と茜先輩は本当に何に対して絶句してたのか分からないな。


「ああ。そういえば、柚木ゆずき先輩か若竹先生から連絡があるかもしれません」


「……また。何かに巻き込まれたのか? アレから一週間しか経っていないというのに、全くお前は……」


 会長の呆れ顔にイラっとする。好きで巻き込まれているわけじゃない。そもそも、前回も今回も生徒会に入らなければ無関係でいられたのだ。まぁ。生徒会に入ったのは会長のせい――というのも少しはあるが、私の意志である部分が大半だから文句は言えないが。


「そうは仰いますが、常日頃から女生徒達に囲まれ、つきまとわれる会長達に比べれば、まだ頻度は低い方だと思いますがね」


「ぐっ……だが、あれは周りが勝手にしていることだ。何より風紀に何か言われるような事態にはなっていない」


「柚木先輩は――」


「あいつが俺に文句を言うのは何時ものことだ。俺が何をしても気に入らないんだろうからな」


みどりちゃんはねぇ。まぁ。でも螢もどっこいどっこいだと思うけど……」


「俺はあいつよりはマシだ」


 人の話を遮るなと言いたくなったが、確かに柚木先輩を引き合いに出した私が悪かったな。柚木先輩と比べると会長はまだマシな方だ。金銭感覚は完全に狂っているがな。

 茜先輩は会長の憤慨した様子に肩をすくめると凪ちゃんが居る給湯室に歩いていった。多分、私以外の人間にコーヒーを淹れるためだろう。あの様子だと凪ちゃんは私と 自分のモノしか用意してなさそうだし。


* * * * * *


「それで一体何があったの?」


「監視役から逃げ出した桃園ももぞのさんと遭遇して絡まれてたの。私が対応してる間に水瀬君が桃園さんを探しているであろう風紀に連絡入れてくれたおかげで、早く帰ってこれたんだよ。そういえば、私は前の件で「風紀より先に俺に連絡しろ」って会長に言われましたが、水瀬君は先に風紀に連絡をしてしまってよかったんですか?」


 凪ちゃんに説明する傍ら疑問に感じたことを水瀬に尋ねる。しがない生徒会補佐と副会長。しかも次期会長じゃ立場が全然違うから問題なかったんだろうか?


「……ああ。桃園さんは風紀の管轄だから螢先輩じゃなくて直接風紀に連絡しても大丈夫だったんだよ。今回が桃園さんじゃなくて一般生徒とのトラブル――それこそ雪城さんが以前遭遇したような内容だったら螢先輩にまず連絡したけどね」


「そうなんですか」


 水瀬はいきなり過ぎる質問に驚いたようだったが、キチンと答えてくれた。クソ女が風紀の管轄だったなんて初めて知った気がするな。茜先輩達には何か信じられないモノを見るような目で見られているが何故だろう?


「あの女。瑠璃ちゃんに迷惑かけたのね。まともに話通じなかったんじゃない?」


「そうなんだよー。僕と浅葱は面識すらないのに名前で呼ばれてさ。やたら馴れ馴れしかったんだ。まぁ。最終的には変な顔して風紀に連行されちゃったけど」


「な、なんか俺達があの人のこと助けるのが当然だと思ってたみたいっす」


「前から頭がおかしいとは思っていたけど、想像以上だったね……でも、浅葱がきっぱり彼女を拒絶したのは少し意外だったかな?」


 楽しげに龍崎を横目に見る水瀬は弟の成長を喜んでいる兄に見える。いや、実際にそんな場面に遭遇したことはないから分からないけど多分こんな感じだろう。


「あの浅葱が拒絶なぁ……それなら、あの転校生に少しだけ感謝してやらなくもないな」


「ふふっ。そうねぇ。でも、4人とも大変だったわねぇ」


「私はそうでもなかったですよ。変な先入観もたれてなかったので、勝手に彼女の意見を押しつけられることもなかったですし」


「ゆ、雪城先輩、滅茶苦茶冷静に対応してたっすよね」


「ああいうのは、先に感情的になった方が負けるんですよ。あと、分かり易すぎる嘘をついたりね」


「彼女はどんな嘘をついたのかね?」


「笑えますよ。なんせ「監視役とはぐれた」って言ったんですから」


「ほう? それは、また随分と杜撰な嘘だ。風紀委員が監視すべき人間を放っておくわけがないというのに」


「全くですね。……しかし、あの翠の部下を撒くとは……。正直に言って転校生を甘く見過ぎていたかもしれないな」


「螢先輩。それは仕方がないと思いますよ。今までの彼女の行動を考えると監視役を撒けるなんて考えられませんでしたから。彼女自身も、もしかしたら撒けるなんて考えてなかったのかもしれませんし」


「水瀬君の言う通りですね。……それに彼女が正常に戻った時、課題を殆ど終わらせてくれたおかげで風紀委員は監視役を減らさざるを得ない状況でしたし。監視が甘くなった隙をつかれたのでしょう。まぁ。これからは気を引き締めておくにこしたことはないでしょうが」


「でも、今回逃げ出したせいで、監視役の数は元に戻りそうよね」


「十中八九戻るでしょうね。それに、翠ちゃんのことだから戻す以上の措置もとりそうだわ」


「柚木先輩ですからね……」


 今回クソ女が逃げ出した件は公には多分なっていないが、風紀委員としては顔に泥をぬられたようなものだ。柚木先輩はプライドが高い人だし、処罰から逃げ出す人間を許さない厳しさも持っている。きっとクソ女の待遇は今まで以上に悪くなるだろう。あと、可哀想だがクソ女を逃がしてしまった風紀委員も。


「今頃アイツは転校生を尋問してるんだろうが、まともな会話になっているんだろうか?」


「それは……どうかしらねぇ」


「はーい。僕は無理だと思いまーす!」


「僕も萌黄に同意するよ」


「……お、俺もです」


「ていうか、普通に考えて無理でしょ?」


 うん。私もそう思う。柚木先輩がキレなきゃいいけど。でも、あの人って会長に対してと深尋みひろ先輩のことに関わる場合だけ沸点が異常に低いだけで普段は割と冷静だっけ? 何はともあれ、柚木先輩からの報告が楽しみだな。


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