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石蕗学園物語  作者: 透華
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影響 ある騒がしい庶務の驚き

 僕の雪城瑠璃ゆきしろ るり先輩に対する第一印象は「思っていたより普通の優等生っぽい女の子」だった。外部生として入学し、その年に十数人の生徒――それも内部生である上流階級者達数人を含めた人間を退学に追いやり「石蕗つわぶきの魔女」なんて「石蕗一の女たらし」並みに異質な異名をつけられた人だなんて微塵も思えなくて、正直に言って戸惑ったんだ。

 最初は「石蕗の魔女」なんて、おどろおどろしい名前で呼ばれてるから、さぞ不気味な人間なんだろうって思ってた。でも、年齢よりも落ち着いた雰囲気で年下の僕達に対しても丁寧な言葉遣いで話してくれたんだよね。見た目も腰まで長い黒髪に黒目で普通の顔立ち。シャツの第一ボタンもネクタイもキッチリしめてたし。何も知らない人が見たら、きっと「名門校に通う普通の子」にしか見えないだろうなって感じ。

 話しをしてみると意外と気さくで優しいし、思っていたより気が利く人だった。けい先輩やそう先輩や浅葱あさぎがファンクラブの人達と前より仲良くなれた――っていうか友好的な関係を築けたのは瑠璃先輩の後押しがあったおかげだしね。何よりなぎ先輩とのやり取り見てたら「怖い先輩」っていうより親友思いの努力家って印象がすごく強くなっちゃったんだ。

 会ったばかりの頃はあんなに怯えていた浅葱も交流会を過ぎたあたりから、あんまり瑠璃先輩のことが怖くなくなったみたい。むしろ今では颯先輩達と同じ括りで頼りになる優しい先輩って思ってるんじゃないかな? 凪先輩に対しては、それだけじゃないみたいだけど。浅葱は気づかれてないと思ってるから本人には言わないけどね。それでも、瑠璃先輩のことを怖いと思うときは今でもたまにあったけど、流せる程度のことだったんだよ。今日まではね。

 僕は今日はじめて「石蕗の魔女」に会った気がする。瑠璃先輩が凪先輩のことだけを特別扱いしてるのは前から分かってた。僕だって他の人よりも浅葱を優先するし、大切にもする。だから、別にそれをおかしいことだなんて思わなかった。でも、凪先輩と瑠璃先輩の普段の姿を見てると瑠璃先輩より凪先輩の方が瑠璃先輩への思い入れが強いような気がしてたんだよね。

 何はともあれ僕が瑠璃先輩を「石蕗の魔女」だと強く感じたキッカケについて思い出すことにしよう。それは、瑠璃先輩が昼休みに違反者を見つけたことからはじまった。いつもなら、凪先輩達と一緒生徒会室に来るのに今日だけは瑠璃先輩は居なかったから気になって聞いてみると「人と会う約束が出来たから」なんだって凪先輩が不機嫌そうに教えてくれたんだよね。凪先輩は瑠璃先輩が居ると機嫌がいいし悪くなっても直ぐによくなるんだけど瑠璃先輩が居ないと凄く尖った雰囲気になるから、ちょっと困る。

 そんなことを思いながら昼休みを過ごしていたら瑠璃先輩から凪先輩に電話があった。「違反者見つけたから生徒会室にいけない」なんて、生徒会役員ならおかしくない内容だったけど、僕と浅葱以外の生徒会役員達はいきなりはりつめてた雰囲気になった。普通だったのは烏羽先生だけだったかな? 凪先輩も緊張するってより心配が先に立ってた感じだった。正直に言って颯先輩達が何で、そんな雰囲気になったのか分からなかったから僕と浅葱は首を傾げるしかなかった。その理由は放課後になってから分かったけどね。


* * * * * *


「どうしたのー?」


「も、た、たちばな様!」


龍崎りゅうざき様もいらっしゃるわ!」


 なんとなく居心地が悪いと思いながらも結局、昼休みが終わる少し前に一年の教室がある階に戻った。廊下はヤケに騒がしくて、特に女の子が大勢集まっている。いつも騒がしいと言えば騒がしいけど、今回は何か戸惑いを含んだざわめきって感じだった。瑠璃先輩が関係してるのかな? と思いながら浅葱と一緒に首を傾げてたら案の定だったんだよね。


「実は、芥子けし様が、生徒指導室に呼ばれたらしいんです!」


「風紀委員に連れて行かれたらしくて……」


「その時に朽葉くちはさんと刈安かりやすさんの2人も一緒に居たそうですの!」


「石蕗の魔女と騎士様が関わっていると聞きましたわ!」


「橘様と龍崎様は何かご存じなのでは?」


 芥子さんは生粋の内部生で上流階級者な上プライドが高いタイプ。朽葉さんは瑠璃先輩と同じ奨学生の外部生。刈安さんは朽葉さんと同じく外部生でスポーツ特進科の生徒。芥子さんは前から成績優秀な朽葉さんを嫌ってるみたいだったし、朽葉さんは朽葉さんで権力を笠に着てる芥子さんを嫌ってた。刈安さんはそんな朽葉さんの友達だったっけ?

 朽葉さんが学年一位を最近キープしだしてから、芥子さんからのあたりがキツくなり始めてたのは知ってたけど、何かやらかしたのかな? 朽葉さんは瑠璃先輩と違って愛想笑いもしないような子だし。なれ合うつもりはありませんって態度で反感買いやすかったからなぁ。刈安さんとは仲良くなれたみたいだけど、あんまり友達は居ないっぽい。てか、瑠璃先輩が言ってた違反者って芥子さんとその取り巻き達のことだったんだね。


「朽葉さんと刈安さんが帰って来ましたわ!」


「芥子様は……いらっしゃらないわね」


「一体、どういうことなのかしら?」


 僕と浅葱はつい顔を見合わせて、同時にため息をついた。そりゃ、加害者より被害者の方が早く解放されるだろうさ。まぁ。芥子さんの取り巻き達も数人戻ってきてたけど。でも、そんなことも分からないあたり、この子達も芥子さん派だってことだよね。全く面倒くさいなぁ。ちょっと金があるだけで威張りくさって、そのくせ身分が上の人間には媚びへつらう連中って。まだ、そういうの気にしない外部生の方が一緒に居て楽だよなぁ。

 朽葉さんと刈安さんが付き添って来てくれた風紀委員の先輩に頭を下げて教室に入っていったのが見えた。取り巻き達はビクビクしてたけど、一体何言われたのかな? これから多分あの子達は質問責めにあうんだろうね。まぁ。僕には関係ないからいいけど。芥子さん達がどんな罰を受けるかは少し気になるけどね。これで少しは大人しくなってくれたらいいな。


* * * * * *


 瑠璃先輩は今、ご機嫌な様子で修学旅行で撮ってもらった写真を見ているけど、正直に言って僕は衝撃からぬけ切れていなかった。だって、芥子さんは自主退学なんだよ? 上流階級者が自主退学するなんて、よっぽどのことだ。朽葉さんが表沙汰にしたくないと言っていたはずなのに、そんな意見を無視したような行為だ。

 確かに証拠の動画があることや芥子さんよりも家柄が上の木賊とくさ先輩に見られたことは大きかったかもしれないし、一年の間では噂が広まっちゃったけど、二、三年では、まだ広まっていないだろう。それでも、自主退学を選んだってことは、瑠璃先輩に知られたことを危険視したからなんだと思う。烏羽先生がわざわざ瑠璃先輩に話したのは、それが理由なんだろうし。

 瑠璃先輩は確かに去年十数人の生徒を退学に追いやってるけど、それだけが理由なのかな? 瑠璃先輩はただの奨学生で後ろ盾はあっても瑠璃先輩自身が上流階級者の血縁ってわけでもないのに? よく分からないけど、裏に何かあるのかもしれない。

 僕が驚いたのは瑠璃先輩が烏羽先生の発言や芥子さんの結末に対して冷ややかだったことに対してだ。芥子さんが自主退学することのキッカケになったことに対して「今更」だと瑠璃先輩は言ったのだ。普通なら、誰かを退学に追いやるような結果になったら、動揺するはずなのに。まさか、こんなに無反応だとは思わなかった。

 瑠璃先輩は本当に凪先輩以外はどうでもいいんだなって漠然と感じた。だから、瑠璃先輩は僕達に優しいんだ。興味がないから。どうなってもかまわないから、親切に出来るんだって分かってしまった。それと同時に颯先輩達がはりつめた雰囲気になった理由も。

 だからって、瑠璃先輩を嫌いになったりはしないけどね。前からそんな気はしてたし。思い入れがないって理由があったとしても瑠璃先輩が僕や浅葱に優しくしてくれるのは事実だもん。浅葱は今はちょっとビビってるけど直ぐに、同じ気持ちになると思うんだよね。浅葱は普段は臆病だけど、本当はメンタル強いって僕は知ってるから。

 とりあえず、今は瑠璃先輩達の会話に参加することにしようかな。修学旅行の話は気になるし、僕が話に加わったら浅葱も会話に参加出来ると思うんだよね。浅葱だって、一歩が踏み出せないだけで色々お喋りしたいだろうし。僕も瑠璃先輩や凪先輩並みに親友馬鹿なのかもしれないな。まぁ。恥じることはないよね。親友を大切だって思うのは当然のことだもん!

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