体育祭 3
落ち込んだ若竹先生を慰めつつ大玉転がしを観戦した。正直に言ってクソ女のことで勝手に落ち込んでいる若竹先生を慰めるのは、面倒くさいことだったけど、ウジウジされてもウザいしな。水瀬は若竹先生を気遣わしげに眺めていたが学年代表リレーに出場するために出場待機場所に行った。
多分クソ女に迷惑をかけられている同志的な感覚を抱いたんだろう。ただ。水瀬は「桃園さんのことは気にしなくてもいいんじゃないですか? 自分でも考えて出場競技を選んだんですし」とか言っていたし、あれは暗に「何があっても自業自得」だと切り捨てていた気がする。
そうそう。この学園の体育祭では白組にあたる 牡丹組は白い布に赤色で牡丹の花を刺繍した腕章を紅組にあたる薔薇組は紅い布に白色で薔薇の花を刺繍した腕章をつけることになっている。少し幅広い布だけどゴワゴワしない薄いもので、ジャージの下につけてても違和感はあまりない。小学校と中学校は鉢巻きだったけど腕章の方が個人的には楽かな。マジックテープこと面ファスナーで着脱可だしね。
「颯君はアンカーだったかしら?」
「あれ? そうだっけ?」
「さぁ? 一々誰がアンカーかなんて気にしてないから知らないわ。瑠璃ちゃんもでしょう?」
「まぁね。凪ちゃんと私が何番かくらいしか気にしないかな」
「颯君……」
「お前達同じクラスだろう? 少しは気にしてやれよ。何で敵チームの俺達の方が把握しているんだ」
「「だって興味ないですし」」
頭を抱える会長と茜先輩を後目にグラウンドに目を向ける大玉転がしの片付けをしているようだ。ちらりと会長達以外に視線を移すと凪ちゃんと烏羽先生以外は何ともいえない表情を浮かべていた。あれか。水瀬に同情中とかか。でも、誰だって自分とさして親しくもない人間の予定なんていちいち把握しないと思うんだよね。
クソ女みたいな危険人物は例外だけど。一応凪ちゃんにとって水瀬は従兄弟だけど、走る順番までは興味なかったんだろうな。興味がなかったというか、把握する必要がなかったというか。だって、水瀬って目立つから知らなくても、走ってたら直ぐに分かるし。事前に調べる必要はない。
「あっ、学年代表リレーが始まるぞ! やっぱり、水瀬はアンカーみたいだな」
「す、凄いっすね。俺アンカーとか絶対出来ない……」
「大丈夫だよ! 浅葱だってアンカー出来るよ!」
若竹先生の言葉にグラウンドを再び見ると確かにタスキをかけた水瀬が見える。というか、私は橘が龍崎を励ましている姿ばかり見ている気がするんだが、つくづく面倒なヤツだな。溜め息混じりに座席に視線を移すと若竹先生が一番前の席にちゃっかり腰を下ろして完全に観戦体勢に入ってやがった。
スピードにもよるがアンカーならまだ大分出番まで時間があるだろう。しかし、そうなると私と凪ちゃんは出場待機場所で水瀬の走る姿を見ることになりそうだな。そうそう学年代表リレーは各クラスから男女で2人ずつ選抜されチームが出来上がる。学年が6クラスある中で3、3で牡丹組と薔薇組に分かれるので1チーム6人のリレーだ。
パンっと音が鳴り一年から三年までの牡丹組と薔薇組の女生徒の6人が一斉に駆け出した。応援の声がグラウンドに響き渡る。何というか気合い入ってるな。あっ。走る順番は奇数が女、偶数が男だから必然的にアンカーは男になるんだよね。
「あっ、螢! 今のところ一位は葛さんみたいよ!」
「当たり前だろう? ウチのクラスの代表なんだからな」
なるほど今一位を走っているのは薔薇組の三年か。リレーのコースは第一走者がくじ引きで決めることになるから、あの三年は引きもよかったのかな。牡丹組の二年は何位だろうか? 学年が分かるようにはなってないから、さっぱり分からないな。
そもそも、だだっ広いグラウンドで走っている個人を特定出来る茜先輩の視力が凄いと思う。私もさっき水瀬を見つけたけど周りの態度と若竹先生の言葉で分かったってだけだし。そう考えると若竹先生の視力も恐ろしいほどいいことになるな。
「あっ! 牡丹組の人が抜いた! あの人も凄く早いね!」
「負けるな。薔薇組二年! ファイトだ! ファイト!」
「うう。牡丹組の一年は今のところ一番後ろだ……」
なんか意外と皆盛り上がっている気がするな。会長と茜先輩も悔しそうな顔をしているし。冷静に眺めてるのは、どちらにも属していない烏羽先生とあまりやる気のない私と凪ちゃんくらいか。そういえば烏羽先生はたった1人の生徒会顧問だから担任持てなくなったんだよね。
私は顧問だって勘違いしてたけど、去年まではあくまで副顧問だったらしく、私達の担任も出来てたみたい。教師も大変だな。いや、去年よりは業務が減って楽にはなったのか? まぁ。私立だから公立と比べると色々と自由な部分はあるのかな? そこら辺はもう一歩分からないけど、私は絶対教師にはなりたくないな。クソ女みたいな生徒がいたらぶん殴りたくなるし。
「瑠璃ちゃん。もう3人目だし、そろそろ着替えて移動しましょう? ちゃんと、アイツが走ってる姿を見ておかないと文句言われそうだし」
「……そうだね。移動しよっか。というわけで、私と凪ちゃんは出場待機場所に行きますね」
「分かった。桃園と遭遇しないように気をつけたまえ」
「妙なフラグたてないで下さいよ……」
「ふむ。すまなかったな」
ジト目で烏羽先生を睨みながら、ジャージを脱ぐと、少しだけひんやりした。本当に変なフラグを立てるのはやめて欲しい。クソ女と遭遇したら色々な意味で厄介なんだからな。別に言い負かすのは簡単だけど、凪ちゃんに不快な思いをさせることになるし。ああ。でも、クソ女には今日も監視役がついてるのかな?
凪ちゃんと連れ立って歩き出場待機場所に向かう。ありがたいことに出場待機場所までの道はクソ女が所属する薔薇組側ではなく牡丹組の後ろを通る形になっていた。多分、コレも学園側の配慮なんだろうな。途中、私達のクラスの後ろを通ったが予想通り熱狂的に応援していた。よかった生徒会に入ってて。
「結構、人いるね」
「そうね。まぁ。一応見ておけば問題ないわ」
出場待機場所には既にかなりの人が待機していた。玉入れが団体競技のせいもあるんだろうけど、多分、水瀬が学年代表リレーに出場するというのも理由の一つではあるんだろう。それにしても、集まるのが早い気がするが、他にも何かあるのかな?
「きゃぁ!」という黄色い悲鳴に現在走っている人を見ると木賊先輩がいた。汗がキラキラ輝き、いつも以上に凛々しい表情をしていた気がする。見れたのは1、2秒だったから、断言は出来ないけど。水瀬だけじゃなく木賊先輩効果もあったら、そりゃ女子は集まるの早いよね。
「今更だけれど、ウチの学園ってミーハーが多いのかしらね」
「どうだろうね。でも、写真は高く売れそうだけど」
「そうそう。体育祭は稼ぎ時なんだよね」
「げっ」
「うわ。失礼なヤツ。その顰めっ面写真に撮るぞ」
「蒼依。凪ちゃんを困らせないで」
「あーん。瑠璃ちゃん大好き!」
「私も。凪ちゃん大好き。それで、蒼依は木賊先輩と水瀬君を撮りに来たの?」
「そういうこと。今、一位だしな。丁度いいかと思って。って、来たー!」
蒼依の声にグラウンドを見ると水瀬がキラキラと汗を輝かせながら真剣な表情で疾走した。再びあがる黄色い悲鳴。一体、あと、何回聞けばいいのやら。ところで、何で顔がいいヤツだと汗をかいていても「暑苦しい」とか「汗臭い」ではなく「爽やか」とか「格好いい」という印象を抱かれるんだろうな。




