交流会 4
茜先輩が昼ご飯だけでも自炊する予定をたてていたと聞いたのは今日の朝になってからだった。だが昨日のカレー作りを見て三食すべて別荘お抱えのシェフに作ってもらうことにしたらしい。今日の朝食は堅苦しいテーブルマナーを必要としないモノだったし、茜先輩曰わく「そういうモノは出さないようにお願いしてる」らしいし、私としてはラッキーだ。
実は私は昨日凪ちゃんと話している途中に眠ってしまい夕食を食べていない。そのこともあり朝一番に茜先輩に昨日のことを謝られ今日からのことを説明されたのだ。
眠ってしまった理由としては確かに料理を教えるのに疲れたというのもあるだろうがクソ女と離れられた安堵感の方が強かった気がするので、謝られた時は少しだけ罪悪感が芽生えたが、後者の理由を口にすると色々厄介なことになるので苦笑でごまかした。
「今日は天気がいいし、森林浴でもしましょうか。お昼も外で食べましょう」
「それは、いいな。そういえば、この近くに湖があるんだが、そこまで散歩でもしないか? たまにそこで食事もするしな」
「あら。テラスで食べるつもりだったんだけど、それもいいわね。皆はどうしたい?」
会長の提案に茜先輩は嬉しそうに笑ったが、具体的に歩いてどれくらいの距離なのか気になるな。花を見たり森を歩くのは結構好きだけど、あんまり距離があると疲れるんだよな。
「どれくらいの距離なのよ?」
「ここから歩いて30分程度だ。そんなに疲れるほどではないぞ。だが、まぁ。一応爺に確認しておくか」
凪ちゃんの質問に会長は呼び鈴を鳴らし爺こと高砂さんを呼び出した。会長の記憶違いとかだったら洒落にならないしな。ちなみに、この部屋は昨日私達が一番最初に入った部屋だ。
「お呼びですかな坊ちゃま」
「あぁ。確かここの森の中に滝があったよな? そこまで歩いて何分くらいで着く?」
「おお。彼処でしたら大凡30分程でつけるかと思います。そうそう今の季節ですと藤の花が見頃ですよ」
「藤の花ですか?」
「ええ。とても綺麗なのですよ。お嬢さんは藤の花をご覧になったことはありますかな?」
「いえ。本やテレビで拝見したことは、ありますが実物は一度も……」
「それなら見に行きましょうよ! そんなに遠くないみたいだし、私も実物見てみたいわ!」
「あら。2人とも見たことないの? それなら是非見に行かないとね。高砂さん。そこで昼食も食べたいんですが可能ですか?」
「かしこまりました。茜様。持ち運び出来るようにバスケットを用意いたします」
「頼んだぞ。爺」
「かしこまりました」
なんだか、あっさり決まってしまったが水瀬達はこれでいいんだろうか? まぁ。水瀬は凪ちゃんが行きたがってるしOKなのかな? あと龍崎も。それに橘は龍崎が行くならついていくだろうし、烏羽先生は生徒が決めたことには口出ししないし。ということは、一々確認しなくても全員OKなわけか。
* * * * * *
「そういえば、皆課題は進んでる?」
「一応進んでいますよ。あっ課題と言えば、桃園さんは凄いことになったそうですね……」
「凄いってどんなー?」
「必修科目の課題が二倍だそうだ。普段の授業態度を考えるとゴールデンウイーク中に終わるかは微妙な量だと言えるな」
「あら。いい気味」
「確かに、いい気味だね」
「何だ。意外と厳しい罰を与えたんだな。今までの放任っぷりから、あまり期待していなかったが嬉しい誤算と言うやつか」
「転校してきてから日が浅いってことで、学園からある程度は黙認しろって翠ちゃんは言われていたみたいだけれど、今までの迷惑行為にプラスして風紀チェックで9点叩き出しちゃったんじゃねぇ」
「きゅ、9点って……そんな人いたんですね。やっぱり、あの人怖い人なんだな……」
どうやら、皆一様にクソ女に対しては思うところがあるらしい。会長や水瀬、凪ちゃんはもちろんのこと温厚な茜先輩も皮肉げに笑っているし天真爛漫な橘も黒い笑みを浮かべているくらいだしな。龍崎は龍崎でドン引きレベルが上がったようだ。
ちなみに今は湖の近くで食事をしている最中だ。高砂さんが言っていたように藤の花が綺麗に咲いている。さっき湖と藤の花と凪ちゃんという素晴らしいスリーショットをカメラに残すことが出来た。焼き増しをしたら凪ちゃんにもあげよう。
一番体格がいいということで龍崎が自主的に持ってくれたバスケットにはサンドイッチが入っていた。ちなみに辛子抜きである。正直に言って感動した。凪ちゃんに生暖かい目で見られたのは少し恥ずかしかったが、まぁ。いいか。だって凪ちゃんだし。
* * * * * *
藤の花の美しさや澄んだ湖、森林浴を満喫してから私達は帰路についた。夕飯までは自由時間になったので、私と凪ちゃんは課題に取りかかり無事に全て終わらせることが出来た。そのせいで明日は暇になったが2人でお喋りするのもいいだろう。
夕飯はパスタとサラダというシンプルなモノだったので食べやすかった。食べ盛りの男達にはスープや前菜がプラスされパスタの量も多かったが、私と凪ちゃんにはデザートを含めるて十分な量だったな。
さて、私と凪ちゃんの他にも生徒会のメンバーは今大部屋に集まっている。何でもゲーム大会をするらしい。ゲームなら蒼依が部屋に置いていったゲーム機があるから凪ちゃんや蒼依が泊まりに来た時にするんだよね。
ただ、今回は少し趣が違うらしいが何故か部屋を暗くしている。まさかと思うが夏でもないのにホラゲをする気だろうか? 私は別に怖いと思うタイプではないが龍崎とかは泣くんじゃないか。
「うわぁ。気持ち悪いー!」
「きゃぁぁあ」
「大丈夫だよ。凪ちゃん落ち着いて」
「そ、そうだよ。凪」
「ほう。最近のゲームはなかなか上手く出来ているものだな」
「は、は、は。そうですね」
「ちょっ、螢大丈夫?」
意外なことだったが、龍崎は全く怯えていなかった。寧ろ平気そうな顔で淡々とプレイしている。普段とは随分と違う態度にかなり驚いた。逆に怯えているのは龍崎、私、烏羽先生を除く全員だ。その中でも一番怯えているのが凪ちゃんだ。そういえば、凪ちゃんはホラー初体験なんだよな。児童養護施設には小さい子がいたからゲームとか映画とかなかったらしいし、家でも大抵やるのはパズルゲームとかだったし。
ちなみに今しているゲームはグロ有りのホラゲなので、耐性のない凪ちゃんは余計に怯え私にしがみついている。役得だな。ゲームは順番にプレイすることになっていたが、一番手の橘、二番手の水瀬、三番手の会長がトントン拍子にゲームオーバーになったので四番手の龍崎がしているわけだが、私達の出番はなさそうだ。
* * * * * *
「怖かったわ」
「だろうね。しかし、龍崎君にはびっくりしたな」
「確かに。ああいうのは平気なのね。あれがギャップってやつかしら。ギャップって言ったら会長が怯えてたのが少し面白かったわね」
「水瀬君も茜先輩も顔色悪くしてたよね。橘君はひたすら叫んでたけど」
「そうね。橘の叫びで少しだけ恐怖が和らいだわ」
「それなら、よかった」
凪ちゃんとベッドの中で談笑を続ける。「怖くて1人じゃ眠れない」と凪ちゃんに言われたので一つのベッドを2人で使うことにした。広さは十分あるので問題ないな。
ねぇ。凪ちゃんは気づいてるかな? 合宿に来てから生徒会に向ける笑顔が増えたことに。きっと無意識なんだろうね? それでも、いいよ。彼らは確実に凪ちゃんに惹かれているから。
だから凪ちゃんは笑っていてね。それだけでゴミになる可能性が減ってくれるから。処理する手間も省けるし。そんな物騒なことを考えながらも私は凪ちゃんとの談笑を続けた。




