初対面 あるテンプレお嬢様の憤慨
ツンデレって難しい……
全くなんなんですの。あの転校生は!いちいち「ですぅ」とか「なのぉ」とか気持ちの悪くて品のない話し方をしているなんて名門校である石蕗学園を馬鹿にしているとしか思えませんわ!若竹先生に媚びを売るような態度もしているそうですし、学園に相応しい生徒とは思えないのですけど。
その上、転校一日目で「少し可愛いけれど、非常識な子」と噂されるなんて、同じ石蕗学園の生徒として恥ずかしいにもほどがありますわ。だって、たった一日ですわよ。たった一日!それも昼休み前に!一体どれだけ、その短時間で問題行動を起こしていますの!本当に何故、転校して来られたのかしら。いえ、キッチリ手続きをして編入試験を受けたからだというのは知っていますけど。
学園統治組織の一つ特別委員会の一員としては、やっぱり見過ごすませんわ!まぁ。都合よく、もう一つの学園統治組織である生徒会と合同の早朝会議が開かれることになったのだけど。その議題は「要注意人物だと多くの人間に認識された転校生対策」でしたのよ。まさか、転校一日目の人間に対して、こんな会議を開くことになるなんて思っても見ませんでしたわ。
会議中は転校生への苛立ちから、つい公衆の面前で声を荒げるなんて、はしたない真似をしてしまいましたわ。恥ずかしいですわね。水瀬副会長が話を突然変えたので、いつものように水をさしてきた方との言い争いにはなりませんでしたけど。
私が苛立ったり、声を荒げるなんて真似をしてしまったのも、全て、転校生の桃園姫花と私と同じ特別委員会役員の夢宮藤乃が悪いんですわ!まぁ。ほんの少しだけ私にも反省すべき点は有るかもしれませんが、大多数はこの二人のせいですわ!そうに決まっていますわよ!
桃園姫花はともかくとして、夢宮藤乃とはお互いに幼稚舎からの内部生ですから、十年来の長い付き合いになりますの。でも、私は、はじめて会った時から夢宮藤乃とは性格があいませんのよ!あの、人の話をまともに聞かない態度や間延びした口調が、いちいち神経を逆撫でするんですわ!夢宮藤乃と話に聞いた桃園姫花はそういう点では本当に、そっくりですわね。血縁関係者だと言われても私は驚きませんわ。
あら。夢宮藤乃が嫌いだから、私は話に聞いただけの桃園姫花にも腹が立つのかしら?いいえ。違いますわ。夢宮藤乃が居なくても桃園姫花は好きになれませんでしたわね。私の性格上ああいう周りに迷惑をかけながらも、それを自覚しないような人間は、とにかく気に入りませんのよ!
でも、気に入らないからといって虐めのような下等な真似を私は断じてしませんわ。もちろん、私以外の方がすることであっても、そのような真似を許すつもりもありませんわよ。だって、私は誉れ高き藍川の娘――藍川菜実ですもの!
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ええ。私虐めのような下等な真似はしませんわ。ですが、桃園姫花のあの態度は何ですのー!蒼依が迷惑しているにも関わらずつきまとうなんて信じられませんわ!いえ。蒼依が心配なわけでは断じてありませんわよ。ただ、特別委員会の役員として一生徒の学園生活を脅かすような真似は控えるべきだと思っただけですわ。
しかも、噂で聞く限り桃園姫花は朝から蒼依達に近づき迷惑をかけたというではありませんか!その時に水瀬書記に妙な言いがかりをつけて水瀬副会長と今年から生徒会補佐になった雪城瑠璃さんに返り討ちにあったとか。お二人ともグッジョブですわ!と思わず頭の中で褒め称えてしまいましたわ。直接、本人達には言えませんけど。
それだけでなく、彼等のクラスメイトは女生徒を中心として一丸となって桃園姫花から蒼依を守ったとお聞きしましたわ!なんて素晴らしいのでしょう!これこそ名門校である石蕗学園の生徒達の行動ですわね!桃園姫花も見習うべきですわ!どうせなら私も参加したかった――いいえ。何でもありませんわ!私も蒼依の側にずっと居たかったなんてこと絶対にありませんわよ!
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「桃園姫花は、身の程知らずにも蒼依君につきまとってるみたいね。全くなに考えてるのかしら」
「本当ですね~。蒼依君も鬱陶しがってるみたいです~」
「クラスメイトさん達がなんとかしてくれてるみたいだけど、一日中つきまとわれるのは困っちゃうよね」
凄まじい笑顔を浮かべた柚木先輩の言葉に即座に反応したのは夢宮藤乃でしたわ。それに続いた深尋先輩も桃園姫花の行動に対して複雑な顔をしていますわ。そうそう、深尋先輩は柚木先輩のように、過激思考でもなく夢宮藤乃のように人の話を聞かない人間でもないので、まともに会話が出来る貴重な人材ですのよ。
「柊だけじゃなく水瀬達も迷惑をかけられてるみたいだな」
「噂通り本当に常識を知らない子なのね。私、同学年じゃなくてよかった」
二人だけで仲良く会話をなさっているのは「石蕗の美女と野獣」こと姫倉先輩と大熊先輩ですわ。お二人は恋人同士でことあるごとに甘い空気を出していますの。私もいつか蒼依と――いえ、やっぱり、何でもありませんわ。
此処は特別委員会役員室と言いますの。あまり生徒会室と造りは変わりませんわね。私達は今、桃園姫花について再び話し合っている最中ですのよ。なんせ、今日一日で彼女に対する周りの評価は一気に下がりましたもの。まぁ。好評価なんて元々なかったのですからゼロからマイナスになったという感じかしら。
それというのも蒼依達へのつきまといのみならず、諫めてくれている同じクラスの人間への暴言に、周りを省みない迷惑行為などなど、聞いていて頭が痛くなりましたわ。桃園姫花は本当に私達と同じ高校二年生なのかしら。
生徒指導部兼桃園姫花の担任である若竹先生の注意であっても耳をかさないそうですし、何と言いましょうか、一組や三組の子に話を聞く限り桃園姫花は異常なまでのポジティブ思考と自己愛精神と被害妄想の持ち主のようですわね。
蒼依や水瀬副会長、若竹先生には何をしても絶対に嫌われることはなく、今回のつきまといに対する蒼依達の態度は恥ずかしがっているだけ、若竹先生の注意も自分が蒼依達に構うことへの嫉妬。そして、自らは世界の中心であり自分こそが世界で一番愛され必要とされる人間であり、自分の行動を邪魔したり諫める方は自分を羨み嫌っている人間達だと思い込んでいるそうですわ。
凄まじい思考回路ですわね。夢宮藤乃以上ですわ。こんな方が存在するなんて呆れを通り越して、いっそ尊敬しますわよ。一体どういう環境で生活していたらこんな考え方になるのかしら。私には想像もつきませんわね。まず、その考えが間違っていると教える必要があるのでしょうけど、話を聞く限り無理そうですわ。なんというか、まだ、たった二日目だというのに前途多難ですわね。
でも、私は頑張りますわ。なんとしてでも桃園姫花を変えて見せます!全ては蒼依との幸せな学園生活のために――って違いますわ。石蕗学園に在籍する多くの生徒達が穏やかで幸福な学園生活を送る為に一生懸命頑張るのですわ!本当ですわよ!?