表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石蕗学園物語  作者: 透華
13/107

体育祭問題 2

 結局、生徒会だけでは種目の判断は出来ないが、案として大玉転がしと綱引き(手袋着用)と障害物競争はあげてみようという話になった。

 皆、新しい競技を追加して見たかったらしい。特に生徒会役員が推していたのは障害物競争だった。なぎちゃんが話した障害物は網をくぐるとか平均台を渡るとかだったが、網は無理かもしれないが平均台は多分いけるだろう。

 とりあえず、明日はあみだくじでチーム決めをして、種目についても少しだけ話を進めることが決まった。まぁ。私は玉入れに出るつもりなので、玉入れさえ消えなければいい。

 1人最低一つの競技に出ればいいので、そういう点ではかなり楽だ。小学校や中学校では必ずリレー競技にも出なければならなかったし。走るのが苦手な私にとっては地獄だった。

 ちなみに凪ちゃんは文武両道なので足もかなり早くリレーでアンカーを務めたこともある。流石凪ちゃんだ。他の生徒会役員も私以外は運動が得意な連中が揃っている。乙ゲーの攻略キャラは伊達じゃないということか。何か腹立つな。

 私は溜まったストレスを発散するために豆腐を擂り粉木でゴリゴリと潰す。今日の晩ご飯の一品である白和えを作っているのだ。ゴマは既に潰されている。この中に味噌とほうれん草と砂糖を加えたら完成。

 明日のお弁当に持って行くのに丁度いいので、たくさん作っておこう。凪ちゃんも好きだと言っていたし、おかずを交換しあうのもいいかもしれない。最近は昼休みに話し合いが行われるので、ゆっくり食事が出来るわけではないが少しくらい潤いがあってもいいだろう。

 私と凪ちゃん、というより生徒会役員は最近いつも昼休みがはじまると同時に体育委員達と会議をする会議室に集まって昼食をとっている。会長がお弁当箱を持っている姿は何だか笑えるのだが、それを言ったら怒られると想像出来るので言わないでおく。

 私があみだくじを提案したのは、そんな私達しかいない昼食の時間帯だった。だから会長は多分五限と六限の間の休み時間に教室であみだくじを作ったんだろう。今になって思えば、10分で書いたとは思えないクオリティーの高さだった。

 まぁ。明日の話し合いであかね先輩はかなり苦労することになるだろうが。しかし、提案しておいて何だが、生徒会役員が全員同じチームになったりしたら、どうしようか。流石に疑われそうだよな。

 少なくとも、私、凪ちゃん、水瀬みずせが同じチーム、会長と茜先輩が同じチームなのは確定しているし。龍崎りゅうざきたちばなは常に行動を共にしているが確か違うクラスだったはずだ。3人と4人にバラけてくれると丁度いいんだが。

 考え事をしていたせいか、いつの間にか擂り鉢の中の豆腐はぐちゃぐちゃになっていた。とりあえず、今は白和え作りに専念しよう。私はそう決めて、砂糖と味噌を擂り鉢の中に突っ込んだ。


* * * * * *


「美味しい! 私、瑠璃るりちゃんの作る白和え好きよ。あっ。卵焼きも交換してくれる? 瑠璃ちゃんの作る甘い卵焼きも大好きなの!」


「凪ちゃんが喜んでくれて、よかった。代わりに私は出汁巻きもらっていい?」


「ええ。いいわよ!」


 凪ちゃんの「好き」たくさんもらっちゃったなぁ。嬉しい。やっぱり、お喋りしながら食べると楽しいし美味しさが倍になるよね。まぁ。白和え作る時にストレス発散してたなんて絶対言えないけど。


「瑠璃ちゃんの卵焼きって甘いの?」


「少し砂糖入れてるんですよ。あと、めんつゆで味付けしたりしてます」


 茜先輩が不思議そうに私の卵焼きを眺めてきた。どうやら茜先輩は甘い卵焼きは作らないらしい。私は前世からずっと卵焼きは甘い物を食べている。出汁巻きも好きなんだけど自分で作ると微妙な味になるんだよね。やっぱり、一流料理人のは味が違うな。


「今日もここで食べていたのか。いつも悪いな」


 ガラッとドアを豪快に開けて入って来たのは特別委員会体育委員長の大熊鉄おおぐま てつ先輩だ。特別委員会で唯一の男性で名前の通り大柄だが熊のような愛嬌のある顔をしている。柔道部だからなのか頭は丸刈りだった。些か脳筋の気はあるが、正義感のある優しい人柄をしている。


「こんにちは。今日は私達もここで食べてもいいかしら? 鉄君がそうしたいらしいの」


 大熊先輩の後ろからひょっこり顔を出したのはふわふわした胡桃色の髪に同色の大きな瞳をした小柄で愛らしい女性。別名「石蕗の妖精」私の「石蕗の魔女」とは比べものにならない可愛らしい異名だが、よく似合っている。

 実はあまり広まってはいないが凪ちゃんにも「石蕗のシンデレラ」という異名がついている。「シンデレラ」の親友が「魔女」とは変な話かもしれないが、アンバランスさは大熊先輩達も同じで2人セットで「石蕗の美女と野獣」とも噂されている。

 そう、この人は大熊先輩の彼女であり美化委員長を務めているが特別委員会に所属する女性の中で唯一“男主人公”の攻略キャラにならない姫倉胡桃ひめくら くるみ先輩だ。

 胡桃先輩にも一年の頃に世話になったことがある。見た目は愛らしいが中身はなかなか計算高い女性で、純情な大熊先輩を落とすために、あの手この手を使った。内容はある程度把握しているが私には関係ないのでおいておくとしよう。

 その努力が実ってか今では、すっかり学園で一、二を争うバカップルになっている。仲がいいのは素晴らしいのだが、正直に言って単体なら兎も角2人一緒にいるとかなり鬱陶しい。モテない女の僻みではなく、生徒会役員も全員げんなりしている。

 だが、断ると大熊先輩に悪い気もするし、胡桃先輩にも失礼な気がする。というか、大熊先輩がへこむと胡桃先輩がキレるから色々厄介だし、2人のイチャつきはスルーすればいい。


「お2人ともお弁当を持っていらしたなら、座ったらどうですか? 時間なくなっちゃいますし」


「ありがとう。瑠璃ちゃん。ふふっ。よかったわね。鉄君」


「ああ! ありがとう雪城ゆきしろ! く、胡桃もありがとうな」


「ううん。気にしないで。あっ。私ね。鉄君に食べて欲しくてお弁当手作りしてきたのよ」


 うん。いつも通りのイチャイチャぶりだ。生徒会長には「面倒な奴らを部屋に入れやがって」とでも言いたげな目で見られたが、口で言わないところを見ると非難すれば胡桃先輩に何かされるって分かっているみたいだな。

 しかし、本当に世の中は不思議だ。2人の馴れ初めが大熊先輩の一目惚れじゃなくて胡桃先輩の一目惚れだっていうんだから。それに大熊先輩は柔道部所属のスポーツ特進科の生徒。胡桃先輩は内部生のお嬢様だしなぁ。しかも、胡桃先輩のご両親は2人の交際を認めているらしい。凄いな大熊先輩驚くべき人望だ。

 2人が交際をはじめたのは去年のことだったので、あの時の内部生男子の嘆きを思い出す。最初は釣り合わないとかゴチャゴチャ言っていたが、いつの間にか収束していた。多分、2人を応援していた人間達に何かされたんだろう。

 そうそう。大熊先輩が一般庶民より少しいい程度の家柄でありながら体育委員長を務めているのは、私のように学園の消えかかった制度を利用したわけではなく偏に彼の人望によるものだ。

 大熊先輩は気は優しくて力持ちを地でいく人だ。だからこそ、同じクラスになったとか同じ部活の生徒だけでなく困っているところを助けてもらったという人がかなりいる。そういう人達の後押しで体育委員長になったのだ。

 胡桃先輩も助けられた一人で元々、気になっていたらしいが「下心なく助けてもらった」ことが付き合う為に行動を起こしたきっかけらしい。何で私がこんなことを知っているかと言うと胡桃先輩本人に直接聞いたからだ。

 まぁ。付き合うように背中押したりもしたしな。なんせゲーム内でもこの2人はカップルだったし。私と胡桃先輩は柚木ゆずき先輩を通して知り合った。私としても胡桃先輩と知人になるメリットがあったし胡桃先輩としても外部生を知ることが出来れば告白に役立てられるというメリットがあったらしい。

 上手くいったようで何よりだが、ピンクオーラを撒き散らすのは控えて欲しい。流石に少しウザくなってきた。“ワタシ”の時も独身を貫き通し現在も恋愛ではなく友情に生きている私には辛いというか未知のオーラだ。


「そういえば、瑠璃ちゃん。生徒会補佐になったのね。挨拶が遅くなっちゃったけど、一年間よろしくね?」


 可愛らしい声の方を見ると胡桃先輩が小首を傾げて、こっちを見ていた。何とも、あざとい。隣にいる大熊先輩の顔が真っ赤になっているが胡桃先輩は何をしたんだろうか?


「はい。よろしくお願いします。胡桃先輩。大熊先輩」


「おお! よろしくな。雪城のことは、く、胡桃からよく聞いてるぞ!」


 大熊先輩が胡桃先輩の名前を呼ぶ度に「く、胡桃」となるのは未だに呼び慣れていないからだ。本当に純情というかヘタレというか。しかし、胡桃先輩は何を言ったんだろうか? 大熊先輩の様子を見る限りだと悪いことは言われていないようだが。


「胡桃先輩が、私の話をですか? 一体どんな?」


「真面目で頭もよくて友達思いの後輩だと聞いたぞ」


 ありがたいけど、褒めすぎです胡桃先輩。顔がひきつりそうになるのを耐えて大熊先輩に愛想笑いを返す。


「そうですか。そんなに褒められた人間ではないんですけど。胡桃先輩のお言葉が嘘にならないように努力します」


 そう私は本当に褒められた人間ではない。これから、事と次第によっては学園内の大勢の人間を不幸にする可能性だってある。だが、まぁ。胡桃先輩が言ってくれた言葉が少しだけ本当になるように努力はしよう。


* * * * * *


「とりあえず、種目決めの前にチーム決めを行う。一年、二年、三年に分かれ前にきて用紙にクラスを書け。もし、希望の線が重なった場合はじゃんけんで決めろ。結果は後で開示する」


 生徒会長の指示に従って体育委員達はゾロゾロと前に向かったが、生徒会長作のあみだくじに困惑しているような雰囲気が伝わってきた。彼らは、あみだくじを知らないから困惑しているというよりも知っているからこそ困惑しているように見える。そりゃ。普通のあみだくじを知っている人間が、あんなもん見たら困惑するだろうな。

 しかし、茜先輩はこの昼休み中に三枚のあみだくじの結果を出さなければならないのか、大変だな。あれを辿るのは、かなり時間がかかるだろう。それに集中力も必要だと思う。少し同情を込めた目で茜先輩を見ると私以外の生徒会役員も同じような目をして茜先輩を見ていた。事情を知るもの(製作者以外)は同じ気持ちらしい。


「書けた者から席に戻れ。会議を開始する」


 生徒会長はやたらと威厳のある声でそう言ったが周囲をよく分からない空気にした原因を作った人物だと思うと複雑な気分になる。そんなことを知るよしもない体育委員達は皆、文句もいわずに席へと戻って行った。まぁ。あみだくじの言い出しっぺは私だが、それは棚に上げさせてもらおうか。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ