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石蕗学園物語  作者: 透華
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体育祭問題 1

 始業式、入学式、全校集会が無事に終わり、次にある大きな行事は体育祭だ。5月に行われる体育祭の前には学年が上がって最初の実力テストが行われるが復習をしっかりしておけば問題ない。何せ私は二回も同じことを学んでいるのだ。ただ、気を抜くつもりはないから、家ではいつも去年のノートを眺めている。実力テストのことはおいておくとして、厄介なのは体育祭だ。

 今までの新入生に配布する冊子などは生徒会だけで作れたが体育祭となると、そうはいかない。まず、特別委員会の体育委員長を中心とした体育委員と種目を決めなければならない。

 ただ、体育委員の人間は基本的にスポーツ特進科の生徒が多くスポーツ推薦で学園に入っている人もいるので、そういう人には出来るだけ部活に出られるような配慮も必要になる。正直に言って、そんな配慮をしなければならない生徒を委員にいれないで欲しい。面倒くさい。

 私のクラスの体育委員もスポーツ特進科の生徒だが、彼はスポーツ推薦の生徒ではない。スポーツ推薦とは中学の頃の部活動で素晴らしい成績を残した生徒が受けられるもので奨学生と同じく金銭面での援助などが受けられ部活の成績を維持することが義務付けられている。それと似たものが芸術推薦だ。

 スポーツ特進科は主に運動に優れた生徒が属しているが、皆が皆スポーツ推薦で入っているわけではなく、学園の援助なしに外部の奨学金などで学費を補助している人も多い。

 石蕗つわぶき学園高等部には普通科、スポーツ特進科、芸術特進科の三つがあるがクラスは学科ごちゃ混ぜだ。それというのも石蕗学園が金持ちの集まる学園ということに起因する。スポーツ特進科や芸術特進科だけでクラスを固めてしまうと普通科とは授業が被らないことが多いため自然と交流する機会がなくなるし外部生だらけだから浮く。

 だが、スポーツ特進科や芸術特進科に入る人間は大抵それで身を立てることを目指しているのだ。そんな人間に必要なのは実力だけでなくパトロンやスポンサーである。だから、金持ち内部生が多い普通科とクラスをごちゃ混ぜにすることで金持ちと友人になる機会を作り将来のパトロンやスポンサー探しに役立てろという感じらしい。

 何とも自主性を重んじる石蕗学園らしいというかなんというか。ただ実際このやり方は結構いいというのは事実だ。パトロンもスポンサーも全く知らない相手に金払うのは躊躇うが息子、娘の友人とかだと割と金払いがよくなるそうだ。後は成長して社長になった友人自身がパトロン若しくはスポンサーになることが割とあるらしい。

 私がスポーツ特進科と芸術特進科について詳しく知ったのは、この学園に来てからだった。一応ゲームにも設定はあったし、スポーツ特進科の生徒もいたのだが、攻略キャラは男女共に普通科だけだった。

 いや“男主人公”には、1人だけスポーツ特進科の攻略キャラがいたか。その子は一年生なので、今は面識がない。要職につくこともないし会ったところで得もないので今後も会う気はないが。

 まぁ。話がかなりそれたが体育祭の問題に戻るとしよう。生徒会としては話し合うことが多々あるので、種目くらいは早く決めてしまいたいのが本音だ。だが、新学年になったばかり入学したばかりということもあり皆色々と慣れていないせいでやりにくいのだ。その気持ちも分かるので急かすわけにもいかない。

 ついでに言うなら話し合いの時間もあまりとれないのが現状だ。話し合いの時間を放課後にすると、ほぼ運動部に入っている体育委員は話し合いに参加し辛くなり、だからと言って早朝にしても朝練がある。そうなると、朝練が始まるよりも早い時間か部活後の時間か短いが昼休みのどれかになってしまう。

 その結果、朝練より前と部活後は部活によって時間が変わるので、昼休みに話し合いが行われることになった。よくも、貴重な昼休みを潰してくれやがったなと少しイラついたのは周りには秘密だが。

 ただ、競技を必ず二、三変えなければいけないとはいえ草案自体は冊子の時と同じく過去のものが使えるし種目数もそんなに多くなくていい。問題があるとすれば私のように運動が苦手な人間も出られる競技、楽しめる競技を選ばなければならないということだろうか? あと、殆どが良家の令息、令嬢なので出来る限り生徒が怪我をしない競技にしなければならない。

 そして、実は種目決めよりも厄介なのがチーム決めだ。さっき行ったようにスポーツ特進科の生徒はどのクラスにも居るのでスポーツ特進科の独壇場になることはない。

 それにスポーツ特進科をチームに入れたくて争奪戦になったりもしないのだがが、やはりスポーツ特進科の生徒が多いクラスが集まるとチームバランスが崩れることはある。

 だから、今年は公平にあみだくじをするように言っておいた。それで、チームバランスが崩れても仕方ないと受けとめて欲しい。運も実力のうちだろう。くじ引きだと一々作るのが面倒だし、話し合いだと決まるまで時間がかかる。

 ちなみにこのあみだくじを作るのは生徒会であみだくじをやるのは各クラスの体育委員だ。生徒会も線を書く人と牡丹組と薔薇組と答えを書く人を別々にしている。牡丹組と薔薇組なんてどこの昼ドラだよと思ったが、そっと胸にしまっておいた。多分言っても誰もこんなネタ分かってくれないし。一応牡丹組が白組、薔薇組が紅組らしい。とりあえず、これで、チーム決めは公平に出来るだろう。

 あぁ。そうそう各クラスの委員は既に決まっている。蒼依あおいは予想通りクラス委員の話は断ったのだが、代わりになった人が困らない程度にはクラスをまとめるのを手伝っている。とはいえ、うちのクラスは何だかんだでまとまっているので、あまり問題はないのだが。

 騒ぐのは水瀬みずせと蒼依を女子達が取り合う時くらいだろうか? 出場種目を決めるときに面倒事を起こさないでくれると助かる。まぁ。私となぎちゃんは五月蝿いと感じながらも冷めた目で見ているだけですむのだが。モテる男は大変だな。

 男2人にプラスして「凪ちゃんは取り合いにならないのか?」と思う人もいるだろうが、そこは凪ちゃんファンクラブ「万寿菊の会」会長で石蕗の魔女とか言われ危険視されている私が常に隣にいるので騒ぐバカはいない。

 水瀬も裏で地味に男子共を牽制しているようだし。本当、基本的に有能なのに凪ちゃんについてだけは不器用な奴だ。だが、その頑張りの褒美に今度凪ちゃんの好きなお菓子を教えてやろうかな?


* * * * * *


「コレはまた……」


「よく書けているだろう」


 私の目の前にあるのは生徒会長が書いたあみだくじだった。三学年が使うので、ちゃんと学年別に三枚の紙に別々のあみだくしが書かれている。生徒会長の性格なのか真っ直ぐと綺麗に線が書かれているのだが、やたらと横線や斜めの線が多い気がする。これは、線を辿るのが面倒くさそうだ。

 生徒会長が線を書いた理由は単純にあみだくじを見たことがなかったから好奇心が湧いたかららしい。私が教えたら嬉々として線を書く係に立候補してくれた。まさか、こんなややこしい物を作り出すとは思っていなかったが。

 ちなみに生徒会長だけじゃなく凪ちゃんと私以外の生徒会の人間はあみだくじを知らなかった。上流階級の人間はあみだくじをしないんだろうか? いや、多分ただの偏見だろうけど。どうなんだろう?


「うわ。何これ。面倒くさそうね。こんな分かり難いあみだくじ、初めて見たわ」


 横から覗き込んできた凪ちゃんがズバッと言うと、自信満々に紙を差し出していた生徒会長が少しへこんだ気がする。でも、事実だし仕方ない。辿る人間が可哀想になるあみだくじなんて私もはじめて見たし。


「そう言わないであげてちょうだい。けいったら教室で「分かり難い方がいいだろう」って頑張って書いていたんだから」


 苦笑を浮かべて生徒会長をフォローのは生徒会長と同じクラスのあかね先輩だった。生徒会長頑張りすぎだろう。ただ、まぁ。言い出しっぺは私だし。


「凄いあみだくじですね。私もこんなに線がたくさんあるのは、はじめて見ました。大変だったんじゃないですか?」


「まぁな。だが、くじ引きを作るよりは資源が無駄にならずに済む。いいな。あみだくじは」


 生徒会長は持ち直したのか少し嬉しそうにしている。意外だが生徒会長は資源の使い過ぎに気を遣うタイプなのか。でも、一人暮らししてる茜先輩の親友なら当たり前かもしれない。しかし、気に入ったのか、あみだくじ。


「答えを書く係でよかった」


 ぼそりと呟いたのは水瀬だった。アイツが答えを書く係だったのか。だが、まぁ。それには全面同意する。辿る役は誰だったっけ? そう思いながら、生徒会室を見回すと龍崎りゅうざきたちばなが気遣わしげに茜先輩を見つめ茜先輩は苦笑を浮かべていた。茜先輩で本当によかった。龍崎だったら今頃顔を蒼白にしていただろう。

 まぁ。妥当な人選かもしれない。人望のある3人があみだくじを作り、答えを書き、辿る係なら誰も文句を言わないだろうし。というか、バックが怖くて言えないだろうし。家柄とかファンクラブとか。


「とりあえず、コレでチーム分けの問題は片づいたが、種目決めが厄介だな。そういえば公立の学校ではどんなことをするんだ?」


 生徒会長はなかなか進まない種目決めに新しい案でも出そうと思ったのか外部生である私と凪ちゃんを見つめてきた。


「そうですね。大玉転がしとか騎馬戦とか綱引きとか棒倒しとかですかね。ね? 凪ちゃん」


「そうよね。騎馬戦とか割と盛り上がるのよね。あと棒倒しも結構楽しかったわ。あっ! あと障害物競争もあったわよね」


「あぁ。あったね」


 凪ちゃんは懐かしそうに目を細めていた。中学の頃までは公立に通っていた凪ちゃんにとっては、この学園よりも身近だったんだろう。それは、私も同じだが凪ちゃんみたいに懐かしいとは、あまり思わない。


「どんな競技なの?」


 橘は大きな萌黄色の瞳を輝かせている。今私があげた競技はこの学園の体育祭では行われない競技だ。多分大玉転がしは大玉が暴走して人に当たったら危険だから、騎馬戦と棒倒しは言うまでもないし綱引きは手の皮が剥けるとかだろうか? 障害物競争も恐らく危険だからだろう。


「大玉転がしは文字通り大きな玉を3、4人で転がしてリレーするんです。綱引きは両側に分かれて綱を引き合って棒倒しは立てた棒を守りつつ相手の棒を倒すんです。騎馬戦は数人で騎馬を作り移動して騎馬の上にいる人同士ではちまきなどを取り合うんですよ。障害物競争は文字通り障害物を設置して、それをクリアしながらリレーするんです」


「面白そうだけれど、ウチで出来そうなのは、大玉転がしくらいかしらね?」


「いえ。障害物競争も障害物を考えれば大丈夫だと思いますよ」


 皆興味深そうに聞いていたが、最初に反応したのは茜先輩と水瀬だった。生徒会長達は難しい顔で黙りこんでいる。そんなに悩むような内容だろうか?


「というか、この学園が過保護すぎるのよ。自主性重んじてる割にリレーとか玉入れとか借り物競走とか応援合戦とかしかないって、どうなの?」


 茜先輩と水瀬の言葉に突っ込んだ凪ちゃんに思わず頷く。この学園の体育祭は何というか走る系がやたらと多い気がする。あと、応援合戦とか別にいらないと思うんだけどな。

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