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石蕗学園物語  作者: 透華
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夏休みまで ある不快な後輩の落胆

 ひいらぎ先輩と雪城ゆきしろ先輩の冷たい態度のせいで、百合ゆりちゃんは凄く落ち込んでる。何とかしてあげたいけど、やっぱり、もう一回雪城先輩とちゃんと話をするのが一番いいのかな? 妄想癖とか自己満足とか言われてたけど、そうじゃなくて百合ちゃんは本当にお礼を言いたかっただけなんだよって言えば、きっと分かってくれるよね!


刈安かりやす朽葉くちは。少しいいか?」


 なんて考えていると最近になって、やたらと話しかけてくるようになった龍崎りゅうざきが声をかけてきた。コイツはいっつも注意ばかりしてくるから、あんまり好きじゃないんだよね。


「えっと、何かな?」


「雪城先輩を困らせないで欲しい」


「「えっ?」」


「今日の昼休みに雪城先輩に迷惑をかけたって柊先輩が教えてくれたんだ。雪城先輩は何も言わなくていいって言ってたけど、雪城先輩は生徒会の仕事とかファンクラブの会長の仕事とかで大変なんだ。…………だから、今日みたいに雪城先輩に迷惑かけたりしないで欲しい」


 今までも龍崎は雪城先輩に近づかないで欲しいっぽいことは言ってたけど、こんなにハッキリ言われたことはなかった。そういうのは、いっつもたちばなが言ってきたし。


「めっ、迷惑なんてかけてないわっ。私はただっ」


「朽葉にその気が無くても雪城先輩が迷惑だって思ったら迷惑かけてるってことだと俺は思う」


「…………」


「雪城先輩は俺みたいなヤツにも勉強教えてくれたり気を遣ってくれる優しい先輩だ。だから、これからは雪城先輩を困らせるようなことはしないで欲しい。あと、図書室で騒いだら駄目だと思う。俺が言いたいのはこれだけだ。時間とらせて悪かったな」


 龍崎はこっちの返事も聞かずに大きな体をのそのそ動かして席に戻って行った。周りを見るとクラスメイト達がひそひそと話している姿が目に入る。龍崎って、酷い何もこんなに人が多いところで言わなくてもよかったじゃん。

 私たちに注意してきたけど、龍崎の方が何倍も質が悪いよ。ただでさえクラスで浮いちゃってるのに、余計に話しにくくなっちゃった。龍崎は自分に影響力があるって自覚してくれたらいいのにな。

 そっと百合ちゃんをうかがうと顔が青ざめてる。このままじゃ、百合ちゃんが可哀想だ。私が何とかしなくちゃ! 雪城先輩とクラスメイト達の誤解をといてみせる! そうやって自分を鼓舞していたら、先生が入ってきて慌てて席についた。


* * * * * *


「ねぇ。刈安さん。ちょっといいかしら?」


「はい! 部長どうしたんですか?」


 部活が終わった途端に部長に声をかけてもらった。今日一日の中ではじめて良いことがおきたって感じ! 何だか、普段より感動するな。


「貴女と貴女の友人が雪城さんに、よく分からない言い掛かりをつけて柊君と龍崎君に注意されたって部長会とかで噂になってるんだけど」


「……言い掛かりって」


 喜べたのもほんの少しの間だけだった。また、この話をされるんだ。なんで、皆して私達を悪者にしたがるのかな?


「確か、貴方達って柚木さんにも木賊さんにも雪城さんはお礼なんて望んでないから近づかないようにって言われていたはずよね。どうして、言いつけを破ったの?」


「だって、助けてもらったらお礼言わなきゃいけないし、それに百合ちゃんは雪城先輩に憧れてたから……」


 部長は柊先輩や龍崎と違って優しく問いかけてきた。部長は2人と違って私達のことを心配してくれてるんだろうな。


「私も助けてもらったらお礼を言うのは当然だと思うし、人に憧れることも悪いことだと思わないわ。でもね。刈安さん。柊君にも言われたかもしれないけれど、貴女達は自分のお礼したいって気持ちや憧れていた雪城さん像を彼女に押しつけただけじゃないの?」


「そんなことは……」


 柊先輩も龍崎も橘も同じことを何度も私達に言ってきたけど、そんなに重要なことなのかな? 雪城先輩は内部生にも影響力があって、何より自分と同じ奨学生の百合ちゃんを助けてくれた先輩で……

 それがおかしいってことなのかな?


「無いって私の目を見て言える? ……私もね。自慢じゃないけど、よく人に憧れられたりするわ」


「ウチの部で部長に憧れてない人なんていないですよっ!」


「ありがとう。でも、殆どの人は私って人間の一部分だけを過大評価して見てくるの。理想化されてるとも言えるかもしれないわね。部長として凛としている私とか努力家の私とか。評価されてることを誇りに感じるときもあるし、頑張らなきゃって力にもなるわ。だけど、それが重たいと感じるときもあるのよ」


「…………」


 部長はどこか遠くを見つめながら言った。まさか、部長がそんな風に感じてたなんて知らなかった。部長はいつだって自信があって皆に平等に優しい凄い人だと思ってたけど、そんな気持ちが重たかったのかな?


「正直に言って私は雪城さんと親しいわけではないから彼女の人となりは知らないわ。だから、これは私が勝手に思っていることだけど、彼女はそういうのが嫌いなんじゃないかしら? 柊君と親しいなら朽葉さんが雪城さんに憧れていることは雪城さん自身も知っていたと思うのよ。それで、朽葉さんからお礼を言われることを避けていたんだとしたら、多分そういうことだと思うわ」


「でも……それじゃ、百合ちゃんが可哀想」


 そうだ。百合ちゃんが可哀想だ。皆、雪城先輩の気持ちばっかり考えて百合ちゃんの気持ちなんてこれっぽっちも考えてくれてない。そんなのおかしいよね。不公平だ。


「貴女は朽葉さんの方が雪城さんより親しいから朽葉さん寄りになって当然よ。でもね。逆の人もいるんだってことは覚えておかないと、大変なことになるわよ」


 部長には私の考えなんてお見通しだったみたいだ。「分かりやすい」ってよく言われるタイプだから仕方ないんだと思うけど、なんだか複雑。でも、気になったのはソコじゃない。


「逆の人って?」


「朽葉さんや貴女より雪城さんが大切な人達よ。今回貴女達は龍崎君にだけ注意されたのよね?」


「えっと、まぁ」


「貴女達が雪城さんに言ったことに対して、本当は生徒会役員、柊君、特別委員会の柚木さんや東雲しののめさん、姫倉ひめくらさんに部長会の篠原しのはら君に木賊さん。それから雪城さんが会長をしている「万寿菊の会」の会員達が憤ってたらしいのよね。だから、貴女達に個人的に注意しようとしてたそうよ」


「なんで、そんなに……」


 まさか、そんなにたくさんの人に悪く思われてたなんて知らなかった。それも、皆学園内で影響力のある人達ばっかりだ。


「まぁ。貴女達の発言が気に入らなかったというのは勿論あったみたいだけど、今回の件はいい機会だと思ったらしいわね。元々、去年から生徒会に属していた人達は雪城さんの異名をどうにかしたいと強く思っていたらしいし、他の人達も雪城さんの人柄を知っているから、色んな人に遠巻きで見られるのを不憫に感じてたみたい。その異名がつけられた理由についての誤解を解く意味でも見せしめとして貴女達を使うのもいいかもしれないって感じだったみたいよ。でも、雪城さん自身が大事にしたくないってとめてくれたんですって」


 なんで生徒会の人達が雪城先輩の異名をどうにかしたいと思ってるのか分かんないけど、取りあえず私達は雪城先輩のおかげで助かったのかな。元々、雪城先輩のせいで敵視されちゃったわけだけど。


「そう、なんですか」


「まぁ。私が言いたいことは今後、雪城さんに関わらないで欲しいってことよ。彼女に関われば学園内のヒエラルキーの頂点にいる人達を刺激することになるの。穏やかに学園生活をおくりたいなら、もう変なことはしないことね。話はこれだけよ。帰っていいわ」


「……はい。部長。お疲れ様でした」


 なんだか気が滅入ることばっかりだ。百合ちゃんに話したら、また悲しませることになるんだろうなって思うと余計に気が重い。でも、多分、誰に言っても自業自得って言われることは分かってしまった。

 そんなつもりは、全くなかったけど、私達は絶対に喧嘩を売っちゃいけない人に喧嘩を売ってしまったんだろう。明日からの日常も龍崎に注意されたせいで一変する。

 ああ。本当に雪城先輩は「石蕗つわぶきの魔女」だ。色んな人に魔法をかけて裏で操る怖い魔女。でも、本人に自覚がないだろうことが一番怖いんだよね。


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