夏休みまで 8
大変お待たせいたしました。
厄介な話をなんとかそらした訳だが、一年の間では一波乱ありそうだな。まぁ。凪ちゃんに迷惑がかからなければいいか。龍崎はともかくとして橘は事後処理も上手そうだし、多分大丈夫だろう。
「とりあえず、瑠璃さんの件については、もう少し様子見するってのに杏先輩達も同意してくれたよ」
「そう」
一応返事はしたが少し複雑な気分だ。説得に対する礼を言うべきな気もするし。いや、待て。そもそも、蒼依が情報を拡散しなければ、説得なんてしなくて良かったわけだし自業自得か。
「瑠璃さんの話が一段落しちゃったんで、とりあえず先輩方。卒業アルバム用の写真撮らせてください」
「えーと。写真って言うけれど、一体どんな写真を撮るつもりなのかしら?」
茜先輩のごもっとも過ぎる疑問に内心「そりゃ聞きたくなるよな」と頷く。なんせ、相手は自分の望む写真を撮るためなら盗撮も辞さないような人間だしな。そりゃ不安にもなるだろうさ。
「えっ? 普通の写真ですけど?」
「蒼依の普通は普通じゃないって自覚した上でとぼけてるのか、それとも自覚がないから本当に不思議がっているのか、どっち何だろうね」
「私は前者だと思うわ。だって、アイツだもの」
「じゃあ、僕は後者にしておくよ。蒼依だって自覚があったら、あんな失礼な答えはしないだろうし」
疑問系で尋ねたのは私だが正直に言って水瀬は蒼依を買いかぶり過ぎだと思う。アイツは割と失礼だし確信犯だぞ。そうじゃなきゃ、ハーレム作って平然としてないだろうし。
まぁ。今回の件でハーレム要員が確実に2人減ったわけだが。これは木賊先輩と話をするべきなんだろうか? 私はゲームの“男主人公”が彼女達をどう扱っていたか知らないし。
現状、役職にもついてない彼女達が脅威になるとは思えないが聞いておくにこしたことはないだろう。もしヤンデレ要員だったら質が悪いしな。凪ちゃんの為なら兎も角蒼依のせいで後ろからグサッとかされるのはゴメンだ。
朽葉も刈安も結構思い込みが強いようだったし。諦めも悪いときたらヤンデレ要員の可能性が非常に高い気がしてきた。
「……はぁ。写真を撮れば大人しく帰るんだな?」
「はい! あっ、生徒会メンバーの集合写真も撮りたいんで、瑠璃さん達も協力よろしくお願いしまーす」
「えっ? 私達も写真に写るの?」
「うん。卒業アルバム用だしね」
「私、アイツに真っ正面から写真撮られたら、つい睨みそうなんだけど」
「凪……そこは耐えそうよ」
「集合写真以外の写真はどんなのを撮るつもりなの?」
「そうだなぁ。仕事中の写真とリラックスモードの写真が欲しいな。まぁ。どれがいいか見比べるために、それぞれ最低でも十枚は撮らせてもらうけど」
「面倒くさいな。去年はそんなに撮っていなかったはずだが?」
「そりゃ。一発でベストな写真が撮れたらいいですけどね。俺、写真は妥協出来ないんで。納得いくモノが撮れるまで付き合ってもらいますよ」
「それは昼休み中に終わるのかしら?」
「終わらなかったら放課後また来ます! それでも無理だったなら、これから数日通いますよ」
「……はぁ。会長、茜先輩。蒼依は写真に対しては本当に妥協しないので面倒かもしれませんが付き合ってやって下さい」
蒼依は写真に関してだけはひいてくれないという非常に面倒な性格をしてるから諦めて付き合った方がある意味楽なのだ。基本的に写真を撮るのに夢中になってるときは無害だし。居るだけで邪魔だけど。
げんなりする会長は気の毒ではあるな。なんせ嫌いな男に何十枚も写真を撮られるわけだし。しかも、卒業アルバム用という大義名分がある以上、個人的な嫌悪感だけを理由に写真部部長を拒否することは出来ないのだ。
私達も付き合わされるわけだから、会長だけが苦労する訳じゃないし耐えて欲しい。他の人間をチラリと見ると、蒼依の友人だからか水瀬は割と気楽そうだった。
私も蒼依の性格を知ってるし嫌悪感も抱いてないから気楽なものだ。他も概ね平然としているが、凪ちゃんは会長と同じく嫌そうな顔してるし、何故か龍崎は青ざめてる。
凪ちゃんは蒼依が嫌いだから仕方ないけど、龍崎は写真も駄目なのか。いや、写真が駄目って言うより会長達と一緒に写ることに緊張してるって感じかな。周りは全然気にしてないのに、全く難儀なヤツだ。
蒼依は雰囲気作りも上手いから、そのうち緊張はほぐれるだろが、問題は凪ちゃんと会長だよな。この2人は蒼依が嫌いだから存在を無視するってのは無理だろうし。
いや、凪ちゃんは出来るかな。私が引きつけとけばいいし。会長は――あの紫堂家の次期当主だし自分で気持ちを切り替えてくれることを期待しよう。
「とりあえず、俺は居ないものだと思って、いつも通りに頼みます!」
「お前みたいな目立つヤツを無視するとか無理に決まってるだろう」
「黙って端に居ますから大丈夫ですよ」
ヘラヘラ笑う蒼依に怪訝な視線を会長は向けていたが、溜め息を吐くと仕事机に戻り書類に目を通し始めた。想像以上に気持ちの切り替えが上手いらしい。
会長に続き茜先輩や水瀬も戻り橘や龍崎は少し戸惑って居たがちゃんと仕事机についた。ちなみに烏羽先生は写真の話が始まった時から、ずっと書類に向かっている。本当にぶれないな。
「凪ちゃん。私達もお仕事しよっか」
「そうね。でも、仕事とかあんまりないんだけど……」
「そういえば、そうだったね」
思わず橘や龍崎に視線を向けると、どうやら彼らも机に戻ったはいいが何をしていいか分からず時間を持て余しているようだ。凪ちゃんに言われて思い出したが会長や副会長や顧問にしか出来ない仕事と全員で話し合うタイプの仕事しか残って居なかったな。
全くもって間の悪い男だ。だが、する事もないのに仕事机にいるのは折角、凪ちゃんと居るのに勿体ないよな。
「私達はソファーでお茶でもしとこっか」
「そうね。あっ、そうだわ。私、数学で分からないところがあるの。教えてくれる?」
「もちろんいいよ。じゃあ、お茶の用意してくるから凪ちゃんはノートの用意しといてくれるかな?」
「分かったわ」
「僕も、瑠璃先輩に勉強教えて欲しいでーす! 浅葱も分かんないとこあるって言ってたよね?」
「えっ? おっ、おう」
「じゃあ、2人もソファーにおいで教えてあげるよ」
私や凪ちゃんの復習に丁度いいし。そんなことを考えながら私は龍崎達の分も紅茶とお菓子を用意することにした。




