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石蕗学園物語  作者: 透華
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学園 5

 冊子は昨日の内に無事完成し今日の全校集会の後、新入生に配られることになったらしい。流石生徒会お抱えの専門業者だ。大変だっただろうに本当に仕事が速い。

 生徒会長達はファンクラブの上層部と話をして、それぞれのファンクラブの会長と副会長には支給されたスマートフォンの連絡先を教えてきたそうだ。私が昨日言ったことを実行したら意外と上手くいったらしく朝から貢ぎ物を渡され盛大に感謝された。

 貢ぎ物の中身は生徒会長からは高級洋菓子の詰め合わせ、あかね先輩からは実用的で非常に助かる可愛らしくセンスのいいハンカチ十枚、水瀬みずせからは高級紅茶葉の詰め合わせ、そして、話した時には居なかったはずの龍崎りゅうざきたちばなからも、何故か高級和菓子の詰め合わせを贈られた。

 なんでも橘と龍崎も水瀬や茜先輩に教えられ私の話を参考にして実行したそうだ。どんだけ蔑ろにされてきたのか中には労いの言葉に感動して泣き出す人もいたらしく、というか大半が泣くないし半泣きだったそうで、生徒会長達も今までの態度を反省したと言っていた。

 龍崎の場合は自分が緊張で半泣きになったらしく橘が「浅葱あさぎスッゴく頑張ったんだよ!」と生徒会長達に言いふらしていた。そんな龍崎と橘を水瀬は褒め、茜先輩は頭を撫で、生徒会長は生暖かい目で見ていたのが印象に残っている。

 ちなみになぎちゃんはその話中ずっと冷めた目で生徒会役員を見つめていた。凪ちゃんはファンクラブと仲いいし女心も分かるからこその視線だと思う。水瀬の私への貢ぎ物は凪ちゃんが少しアドバイスしたらしく、お礼を言ったら嬉しそうに微笑んでくれた。

 うん。やっぱり凪ちゃんには笑顔が似合う。しかし、上手くいったらラッキーと割と軽い気持ちでしたアドバイスで思わぬ収穫を得た。これで、凪ちゃんが来たとき高級洋菓子と高級紅茶葉でもてなせる。本当にいいことしたなぁ。

 私達はこれから講堂の舞台に上がり挨拶をしなければならない。ちなみに挨拶するメンバーはかなり多く、生徒会役員及び顧問と特別委員会と部長会役員だ。

 特別委員会と部長会に顧問がいないのは、風紀委員会には風紀委員会の顧問が保健委員会には保健委員会の顧問が写真部には写真部の顧問がバスケ部にはバスケ部の顧問がとそれぞれの委員会や部活に顧問がいるかららしい。

 生徒会の場合は生徒会としてしか集まらないため相談できる教師が必要と考えられ顧問がついたそうだ。まぁ。妥当な判断だと思う。特別委員会や部長会に顧問つけたら、ややこしいことになるし。


「浅葱大丈夫?」


「だ、だ、だ、大丈夫だ」


「相変わらずのあがり症だな」


「そうですね」


 緊張で青ざめている龍崎を橘は心配そうに見ているが、生徒会長と水瀬は呆れたというよりも困ったような表情で見つめている。まぁ。龍崎は次期副会長候補なのでしっかりして欲しい気持ちがあるんだろう。


「浅葱君より慣れてないはずなのに瑠璃るりちゃんは落ちているわね」


「瑠璃ちゃんは一年の時新入生代表で舞台上がってたから。ね? 瑠璃ちゃん」


「うん。そうだね。あの時に比べたらまだマシかな」


 凪ちゃんに返事をしながら思い出す。今になって思えば、あの新入生代表の挨拶が無ければ私は此処に立っていなかったわけだ。会長達の推薦があっても、本来なら存在しない生徒会補佐にはなれなかっただろうし。入試も一応筆記試験に入っていたらしいから「本当によく頑張ったな。過去の私」と自分を褒めてやりたくなった。


「そろそろ時間だ。用意したまえ」


 烏羽からすば先生の涼やかな声に控えていた椅子から立ち上がる。チラリとカーテンの隙間から覗くと空席が割と目立って、やっぱり挨拶する人数が多いよなと余裕のある感想を持てたことに少し安心した。

 舞台に上がった生徒会、特別委員会、部長会のメンバーを見た途端、講堂にいる生徒は男女共に色めき立った。何故か分からないが、やたらと学園統治組織の連中は容姿のいい生徒が集まっているからだろう。此処にいる人間の殆どにファンクラブあるし。

 挨拶するのは生徒会役員が一番最初、次に特別委員会、部長会と続くが、自分の挨拶が終わった後は舞台上で後ろに下がり部長会の最後の人の挨拶が終わるまで待っていなければならない。正直に言って面倒くさい。舞台から下りれないなら、せめてパイプ椅子くらいは用意して欲しいものだ。

 そうこう思っている内に生徒会長、茜先輩、水瀬の挨拶が終わり凪ちゃんの番になっていた。じっと凪ちゃんの後ろ姿を見る。後ろ姿だけでも美人さんだと分かる凪ちゃんは凄いと思う。


「皆さん。おはようございます。生徒会書記を前年度に引き続き務めることになった。水瀬凪です。よろしくお願いします」


 実にシンプルで短い挨拶だけど、下手に挨拶を長々と述べるより、凪ちゃんらしくていい。というか、凪ちゃんに無駄な言葉なんていらない。凪ちゃんは微笑むだけでも人を幸せに出来る子だし。凪ちゃんの挨拶への感想を頭の中で言っていたら、いつの間にか私の番になっていた。どうやら龍崎は無事挨拶を終えたらしい。

 舞台の真ん中に向かい生徒を眺めていく、目立つだろう“女主人公”の姿は、やっぱり何処にもない。少し落胆しながらも一度息を深く吸い、柄にもなくしていた緊張をほぐす。


「今年度から生徒会補佐を務めさせていただく雪城ゆきしろ瑠璃です。内部生、外部生問わず、皆さんにとって有意義な学園生活を送れることを願っております」


 無難な挨拶をして後ろに下がる。思ってもいない発言だが案外すらすら出てきた。私は凪ちゃんと私にとって、いい学園生活が送れるならば、周りは割とどうでもいい。でも、凪ちゃんに視線を向けると微笑んでくれたから多分これでよかったんだろう。


* * * * * *


 生徒会は私がぼんやりと聞き流せる程には真面目で無難な挨拶が多かったのだろうが特別委員会役員と部長会役員は結構それぞれの委員会や部活の説明及び勧誘を行っていた。それなりに、皆、個性的で聞いていて面白かった。中には、個性的すぎる人もいたが、高校生らしく溌剌としていたな。

 生徒会が挨拶だけで説明や勧誘をしなかったのは、人員が確定し意味がないからだ。逆に委員会は新しく入る人が必ずいる。部活は新入部員が入ってくれるにこしたことはないが、繰り返し部長達が言っていたのは「真面目に取り組んでくれる人」という言葉だった。

 というのも、石蕗つわぶき学園では部費が人数や功績だけじゃなく日頃の努力においても左右されるらしく、生半可な気持ちで入って辞められると困るからだ。だから、石蕗学園の仮入部は一ヶ月と結構長い。その間に正式に入るか決められるようにしている。

 どれだけ功績があろうが人数が多かろうが部活態度が不真面目だったり退部者を出せば、部費も減り、ペナルティーも等しく食らうので皆真面目に取り組むし出来るだけ退部者を出したくないらしい。逆に功績がなく人数が少なくても常に真面目に部活に取り組み努力しているなら部費はあがるのだ。

 ちなみにペナルティーは退部者がでた場合部活と個人共にくらう。それこそ家庭事情や受験問題やドクターストップなど、やむを得ない理由があれば話が別だが。ペナルティーを食らう理由は確か部活が「退部者が真剣に取り組むようになる程の努力をしなかった」ことで退部者が「自らが選び入った部活に真剣に取り組まず、簡単に退部した」ことだったと思う。

 ペナルティーの内容自体は私は部活に入っていない帰宅部なので詳しくは知らないし聞いたこともないが、恐らく部費の削減とか内申点の取り消しとかだと思う。この石蕗学園の部活に対するシステムに関しては良くも悪くも公正だと私は考えている。


* * * * * *


 HRを行うために戻ってきた教室で、私は頭の中で情報を整理する。昨日の内にまさかと思って確認した新入生名簿にも、今日、直に見た生徒達の中にも“女主人公”はいなかったはずだ。あの目立つ容姿を見逃すとは思えない。となると、やはり二年に転校してくると考えるのが妥当だろうか?

 二年という学年は先輩同輩後輩が一つの学部内に全ている唯一の立場になる上、普通の体育祭に加え修学旅行などのイベントも豊富なので、学年はゲームと変わってはいないだろう。それに、私の知っている限りだと学年が変わっている生徒はいないし。

 何はともあれ、今日から本格的に学園生活がはじまるわけだ。何が起きるか想像出来ないが、私は精々凪ちゃんの幸せのために暗躍させてもらおうかな。いつか来る可能性の高い“女主人公”との対峙のために使える駒は増やしていくことが今すべき最善のことだろう。

 先ずはクラスの人間や生徒会役員などに気は進まないが、認められることと特別委員会役員とも友好的な関係を出来る限り築く。勿論、成績は落とさずに教師受けもいいままにしなければならない。

 やることはかなり多いが、とりあえず今は――目の前に積まれた大量の教科書や資料集と今朝生徒会役員達に渡された貢ぎ物を凪ちゃんの家の車まで運ぶことが一番の課題だな。多分誰かに手伝ってもらわないと無理だと思うけど。



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