魔導師は企む 表
――キヴェラ王城・通路にて
「♪」
上機嫌で『二つの物体』(意訳)を引きずる私に、微妙な表情で同行するブラッドさん。
王城の皆様達はそんな光景をポカーンとした表情で眺めた後、私が『何』かを思い出し、顔面蒼白さ。
簀巻きの二人には猿轡をしてあるため、藻掻くか唸るしかできない。まあ、煩いと私が一発入れる――すでに一度、実行済み――ため、今は静かだけど。
「あの、魔導師殿?」
「なぁに、ブラッドさん」
「その、重くない? 一応、成人二人分の簀巻きなんだけど」
ブラッドさんの言葉を受けつつも、私の歩みは止まらない。
と、言うか。
彼の言葉は『己の両親が引き摺られている』という状況に動揺しているわけではなく、単純に『え、この子、大人二人を余裕で引き摺ってない? マジで!?』と思っていることが窺えた。
二人の扱いに対しては、何の疑問もない模様。
どうやら、息子から見ても『いい加減にしろや!』という心境だったみたい。
まあ、そうですね! 普通はビビりますね! 魔術師とかも(一般的には)非力だし。
そんなブラッドさんの疑問――擦れ違う人達もそれを疑問に思っていたのか、私をガン見する人が続出中――に対し、私は手首に着けたブレスレットを振って見せる。
「これ、重さを軽減する魔道具なんですよ」
「ああ、なるほど。だから平気そうなんだね」
「そうでーす! 後は……ちょっと内緒話、いいですか?」
「……? うん、構わないよ」
不思議そうな顔をするも、素直に従ってくれるブラッドさん。
足を止めた私に合わせ、軽く屈んでくれた彼の耳元に、私は『この状況が必要な理由』を説明する。
「この状況って、誰がどう見ても『この二人が魔導師を怒らせた』って判るでしょう?」
「うん。君、殴られた所も治してないもんね」
ええ、微妙に腫れております。誰が見ても『殴られた跡』ですな。
「だから、王城の人達……今回の計画を知らない人達にもそれを知って欲しいんですよ。詳細とかは知らなくても、『アロガンシア公爵夫妻が魔導師を怒らせた』という情報だけは伝わるでしょ」
重要なのはそこなのですよ。そして、私は『王都を死霊だらけにし、キヴェラを敗北させた異世界人の魔導師』。
ルーカスやサイラス君といった、比較的親しい人達とは遠慮のない友好的な遣り取りをしておりますが、『一般的なキヴェラ王城の人達』(重要!)にとっては、恐怖の代名詞。
「アロガンシア公爵夫妻が処罰されれば、善意、もしくは次代のために減刑を願い出る人が居るかもしれないじゃないですか」
あれです、ガニアにも居た『忠誠心から行動する厄介な人』!
ガニアの場合はシュアンゼ殿下がターゲットだった。シュアンゼ殿下に罪がないのは判っていても、彼は王弟の実子……高い王位継承権を持つ。
行動しちゃった忠誠心厚い貴族(笑)は、後々、王家にとって憂いとなる可能性が高いシュアンゼ殿下を排除したかったのだ。
当然、処罰は覚悟の上。国王一家はシュアンゼ殿下を自分達の家族と思っているし、彼にそんな野心がないことも知っているのだから。
アロガンシア公爵夫妻にそういった人達が居るとは思えないが、『恩を売りたい人』、『夫婦が処罰を受けることで、アロガンシア公爵家に傷がつくことを恐れる人』とかなら居そう。
今回の計画を知っているのはキヴェラ王以下側近の皆様だけなので、こういった人達が湧く可能性もゼロではない。
「だから、今後、キヴェラ王から下される処罰を『適切』だと判断してもらいたいんですよ。怒れる魔導師の抗議に対して『当人達の幽閉』なんて、妥協した落としどころじゃないですか」
私には前科がある。それと比べたら、当事者達、それも政に殆ど関わっていない二人を表舞台から遠ざけ、領地に押し込めるなんて、とてつもなく優しい処罰だろう。
それを可能にした理由を『仲良し達を困らせたくないから』とするなら。
『仲良し達』に該当する人達へ向ける感情は『感謝』一択!
だって、下手をすればキヴェラという『国』が報復対象認定されるからなー♪
「これなら忠誠心から行動する人達もほぼ居ないだろうし、処罰を下したキヴェラ王陛下に抗議も来ないでしょ? だって、誰が聞いても『最も被害が少ない決着』なんだもの」
「た、確かに。……。魔導師殿、君、そこまで考えてこの状況にしたのかい……」
それだけ言うと、ブラッドさんは非常に申し訳なさそうな表情になった。
彼からすれば、私一人が泥を被った――ろくでもない評価が追加された、という意味で――ように見えるため、胸中複雑なのだろう。
……が。
当たり前ですが、私がそんなことのため『だけ』で行動するはずなく。
「いや、半分くらいはこの馬鹿夫婦を晒し者にしたかっただけ♡」
「え゛」
「あと、この内緒話とブラッドさんの同行も周囲に『あの二人は仲が良い』と知らしめる意味で使えると思ってます」
今回の計画の肝は『魔導師は仲良し達のことを考慮し、この二人だけの処罰を願った』ということ。お家や血縁者達は関係ないのよ~、みたいな?
そこに加えて、ブラッドさんは今後、ルーカスの側近として復帰する未来がある。
だったら、今から『ルーカスの側近達は魔導師と仲良しです!』と周囲に認識させておいた方がいい。
まあ、公爵夫妻にムカついたのも事実だけど!
忘れてねぇぞ? 魔王様への暴言……。
「君って……本当に……」
唖然としていたブラッドさんはその後、呆れたような笑顔となり。
「まったく! エルシュオン殿下が過保護になるのも当然だよ!」
ガシガシと私の頭を撫でると、そのまま抱きしめた。そして、私の耳に小さく聞こえる『ありがとね』という言葉。
端から見れば、私達は仲良しがじゃれているように見えるだろう。おお、見ていた人達が驚いている(笑)
内緒話で私がブラッドさんに何かを言って、ブラッドさんがそれを笑いながら受け入れて。
宥めるように頭を撫でた後、ハグをした……という感じだろうな。
実際には簀巻き二体を引き摺りながら、裏事情を解説していただけであることは言うまでもない。
ただ、会話が聞こえていない上、今回の計画を知らない人々にとっては、『私達のじゃれ合い』が親しい友人同士の遣り取りにしか見えないのだ。
そして、ここは王城。噂の発生源としては超優秀な場所。
噂は尾鰭を付けて、私の狙い通りに広まっていくに違いない。
「う~……結っていないけれど、髪がぐちゃぐちゃですよ、ブラッドさん」
「はは、ごめんね」
言いながら、私の髪を整えてくれるブラッドさん。髪を整える手も、私に向ける目も、とても優しい。
……駄目な子のお守りのようだ。あれか、ブラッドさんは『揶揄いながらも面倒を見てくれる兄のような存在』的なポジションなのか。
「じゃあ、行きましょうか」
そう言って、私達は再び目的の場所へと歩き出す。……蠢いている簀巻き達へと、魔力を込めた威圧を向けて。
ブラッドさんに対するものとはあまりにも違う態度に、周囲の誤解もガンガンと加速していくことだろう。
走り出した人達が向かうのは、キヴェラ王のいる部屋か、彼らの同僚達が集っている場所かは判らないが……とにかく、私の目論見は成功した模様。
よーし、よーし、そのまま噂を拡散してこい!
その噂が広がれば広がるほど、公爵夫妻への処罰は納得してもらえるだろうからね。
黒猫『噂って……怖いですよね(笑)』
鮮血君『君って子は……』
黒猫『……(目論見通り!チョロい!)』
王城の人達が忘れてはいけないのは、黒猫の所業。
※アリアンローズ公式サイトに『魔導師35巻』の刊行予定が載りました。




