作戦準備 其の二
キヴェラ王への『おねだり』。
勿論、突拍子もないものが許されないことは判っているし、私が欲しいのは『物』ではない。
キヴェラ王が面白そうな顔をしているのも、私が『何かをねだる』という状況が珍しいこともあるだろうが、単純に興味がある模様。
……。
うん、私の性格を理解しているようで何よりだ。
この状況での『おねだり』が普通のものであるはずないよね!
何せ、私は金に困っていない。と言うか、一般的な人が欲しがるものに興味がない。
装飾品やドレスは仕事仕様の物しかない上、欲しければ『お仕事のご褒美に欲しいな♪』とか言えばいいだけだ。
そんな状況を知っていれば……ねぇ?
面白がるか、警戒するかの、どちらかなわけですよ。ねだる相手がキヴェラ王ということも、警戒心を抱かせる一因だけどさ。
事実、サイラス君は明らかに警戒している。ルーカス達は……私が何を欲しがるか判らず、首を傾げていたり。
「やだなぁ、そんなに警戒しないでよ? サイラス君」
「アンタが普通の『おねだり』なんてするはずがないでしょうが!」
安心させるように口にすれば、即座に否定の言葉が返ってくる。
酷いじゃないか、玩具よ。内容を知れば、一番喜ぶのは多分、君だというのに。
「ふむ……必ずしも叶えるとは言えないが、聞くだけは聞いてやろう」
「あらら、警戒しますねぇ」
「これまでの其方の行ないを知ればこそ、な。まあ、この状況で言い出すくらいだ。キヴェラにとっても利があることなのだろう?」
『確実に叶えるとは言えないけど、考慮する余地はあるよ!』と、断る可能性もあることを踏まえ、キヴェラ王が促す。
さすが、キヴェラ王。ここで安易に『働いて貰ったから、お願いを聞く』と言わないあたり、賢い選択です。
今回の一件がキヴェラのためのものであろうとも、即許可を出すのはアウト。
『何でも願いを叶える』なんて、物語の中だけである。
リアルにこれをやらかした場合、後になって、とんでもない損失を招く可能性があるからね。
いくら相手に恩を感じていようとも、『できる限り叶えるようにする』(=断る場合もある)という回答がベスト。
『お礼をする気はあるし、感謝もしてるけど、王として許可できないこともあるからね! それは理解しなさい』(意訳)
恩を感じつつも、押さえるべきことだけは押さえておくという、交渉術の一環です。
何かしら含むものが相手にあった場合、こういった言い方をするだけでも警戒してくるので、相手を見極める要素にもなったりする。
って言うか、ウィル様あたりを相手にする場合、常に気を付けなければいけないことだ。
あの人のフレンドリーさに巻き込まれ、安易に口を滑らせれば、待っているのは言質を取られる未来である。
王族、マジで怖い。有能な高位貴族とかも、同じくらい怖いけど!
……では、そろそろ本題に移りましょうか。
「あのですね……ルーカスに対し、まだ『色々』言ってる人って居ますよね?」
ぴくり、とヴァージル君が反応した。私が何か言われたとでも思ったのかな。
「まあ……『居る』とだけ言っておこうか」
キヴェラ王は『誰か』ということまでは口にしない。しないけれど、否定する気もないのだろう。
……まあ、当然かな。
前回、キヴェラに来た時、私は『ルーカスをキヴェラ王と比較し、無能扱いする奴って何様よ?』(意訳)と言っている。
勿論、そう思う根拠も揃えて、だ。単純に、ルーカスの味方をすると決めたからではない。
事実、あの時、つらつらと根拠を語る私に、キヴェラ王の側近の皆さんは顔面蒼白だった。
あれは心当たりがあると同時に、自分達がそんなことを口にする資格はないと、気付いたからであろう。
側近の皆様が自覚できるような人達で何よりです!
キヴェラ王を妄信したまま、平気で反論してくる場合もあるからね~。
で。
そんな風に自覚した側近の皆様ではあったけれど、長年、彼らがルーカスを『キヴェラの次代として不甲斐ない』と言ってきたのも事実であって。
側近の皆様に追従する形で、ルーカスを見下してきた輩というのは、それなりに存在すると思うのです。
この時点で、そいつはアホ確定である。
だって、キヴェラにそう言えるだけの優秀な人って居なかったもん!
そんなに優秀な奴が居るなら、キヴェラを敗北させた時のイルフェナとの交渉で、農地をぶん取られていないしね?
私も無条件にキヴェラの貴族達を貶めているのではなく、そう思うだけの根拠が十分にあるのだよ。
「『陛下の側近の皆様がそう言っていたから』という事実がある以上、いくら彼らが否定しても、思い込みはそう簡単に消えないのでは?」
「……」
「それも含めて、あの時は『馬鹿じゃねーの?』と思ったんですよ。他国からすれば、キヴェラを突き崩す要因になりますからね」
「耳が痛いことだな。気付かなかった儂とて、人のことは言えないが」
溜息を吐きつつ、それでも否定しないキヴェラ王。おそらく、相当、後悔したのだろう。
しかし、私は『それは違う』と首を振る。
「いや、キヴェラ王陛下が自分と比較してそう言っても、ただの事実なんですってば。ルーちゃんだって、それならば怒らないでしょう?」
「当たり前だ! そんなことは私自身が一番理解できているからな」
「だよねぇ。弟君達だって、そこは怒っていないものね」
即答したルーカスに頷きつつ、弟君達のことを思い出す。
弟君達は『兄上が正当に評価されないこと』や『兄上を見下す資格がない奴までもがそう口にすること』を怒っていたのであって、父親は除外されている。
しいて言うなら、そんなことを言わせておくキヴェラ王を不甲斐なく思ったことだろうか?
まあ、これはキヴェラ王が悪いので、親子喧嘩でも何でもしてくれと思っているけど。
「……。だが、奴らばかりを責めることはできん。王である儂が止めなかったのだからな」
後悔を滲ませつつ、それでも『彼らばかりに責任はない』とキヴェラ王は口にした。
それは状況を正しく見ていなかった自分にも非があると、理解できているからだろう。
……が。
そんな風にシリアス感が漂うキヴェラ勢には大変申し訳ないのです、が!
「まあ、そんなことはどうでもいいんですよ。私の『おねだり』は、そいつらを使って実験したいってことなんですから」
『は?』
私以外の全員が綺麗にハモる。
まあ、そうですね! 『実験』なんて、意味が判らないものね!
「キヴェラには『未だにルーカスのことを悪し様に言っている人達』を提供してもらいたいんですよ。ああ、勿論、キヴェラにも利がありますよ? ……ガニアのシュアンゼ殿下の能力、知りたくはありませんか?」
にこやか―と言わんばかりに提案すれば、即座にキヴェラ王が反応した。
「ほう……確か、王弟の実子であり、今は国王夫妻の養子となった第二王子、だな。だが、『提供』とはどういうことだ?」
「外交として、シュアンゼ殿下+αと遣り合ってもらおうかと思って♡」
なお、『+α』はモーリス君と従兄弟君である。
彼らが新米当主となる前提でシュアンゼ殿下の補佐とし、新米三人組でキヴェラ相手に遣り合って来い! という計画だ。
「シュアンゼ殿下は表舞台に立ったこともないし、外交の経験も皆無。各国に情報が全くない状態なんですよ。だから、経験を積ませる意味でも良いかなって」
「ふむ、同行者達が経験豊富な補佐なのかね?」
「いや、今度爵位を継ぐ予定の新米当主。ちなみに男爵家と子爵家」
「……」
黙った。さすがにキヴェラを馬鹿にし過ぎな人選とでも思われたか。
「魔導師殿……それはキヴェラ側だけに有益とは言わないかい? シュアンゼ殿下は外交経験がないどころか、側近すら碌にいない状況なのだろう? しかも、同行者が新米当主では、補佐としても力不足では? それとも、成績優秀な者達なのかい?」
「真面目ですが、ぶっちぎりで成績優秀とは聞いてないですね~」
「お前……シュアンゼ殿下達に恨みでもあるのか……?」
哀れに思ったらしいブラッドさんの問いに素直に答えると、今度はルーカスが『止めてやれ』と言わんばかりに口を出す。
しかし、私は止める気など皆無でして。
「だって、誰が聞いても『気の毒なのはシュアンゼ殿下達の方』でしょ? ふふっ、そんな人達にボロ負けしてキヴェラに恥をかかせた挙句、キヴェラ王に失望されれば……そいつらは周囲にどう思われるかな?」
「……! 逆に言えば、『ルーカスを見下せるほど有能だと見せ付ける』ということか? 勿論、こちらが勝った場合だが。それ故に、『どちらにも利がある』と」
「ええ! だって、ブラッドさんが言ったように『普通はキヴェラ側に有利』なんですよ? 楽勝なはずですよね? それに、その人達も『ルーカスを見下せるほど優秀』という実績ができる! 素敵な状況じゃないですか」
――ただし、シュアンゼ殿下達に勝てれば、ですけどね?
私が言いたいことが判ったのか、キヴェラ王は思案顔。
シュアンゼ殿下の能力を知る機会だし、私が言ったことも事実だと理解できている。
ただ……『仕掛けたのが魔導師』ということに、壮絶に裏を感じているのだろう。
「口で言って理解できないなら、その有能さを証明してもらおうじゃないの。それで負ければ、今度は自分が言われる側になるでしょうよ……『あれだけルーカス様を見下していたのに』って」
「お前、それが狙いか!」
「勘違いしないでよ、ルーちゃん。私は『見下すだけの実力があるか示せ』と言っているだけ。勝てばいいのよ、それだけのこと」
そもそも、私は嘘など言っていない。
シュアンゼ殿下は外交経験は皆無だし、表舞台に立ったこともないのだから。
そして、モーリス君に至っては、超が付くド素人。従兄弟君の方も当主になってはいなかったから、こちらも素人扱いで良いだろう。
ただし、シュアンゼ殿下は灰色猫である。
そして、モーリス君は現在、私達が鍛えている。
モーリス君は私とシュアンゼ殿下、そしてヴァイスという『隙を見せたら死ぬ』という状況を生き残ってきた三人が教官役になってるので、普通の新人よりは使えるだろう。
……まあ、シュアンゼ殿下が居るので大丈夫な気がするけどさ。
シュアンゼ殿下はキヴェラの貴族を相手に畏縮する……なんてことはなく。
多分、ウッキウキ♪ で練習台……違った、外交の糧にするに違いない。
「……」
キヴェラ王は未だ、考え込んでいる。ルーカス達は……困惑しているみたい。
私とシュアンゼ殿下が仲良しと知っているので、余計にこんなことを言い出す意図が読めないのだろう。
「私の『おねだり』だけど、悪くない話でしょう?」
さあ、素直に『許可する』と言いたまえ!
黒猫『手頃な練習相手と思っているだけですよぉ(にこぉっ)』
キヴェラ王『……』
ルーちゃん&ブラッド君『シュアンゼ殿下に何か恨みでも!?』
普通は『キヴェラ側に有利な状況』。
しかし、相手は灰色猫。




