第43話 腕時計
二時限でテストが終わったので、今日は昨日より早く探索者ビルに行くことができる。
だが、昼飯を食うことを考えれば、早く着きすぎるのも問題がある。
ダンジョンに入ってからすぐに戻ってきて食事というのも、なんだか面倒だ。
そうだ! 腕時計を買いに行こう。
俺は時間調整も兼ねて、時計屋に行くことにした。
確か石神駅前には、時計屋があったはずだ。
俺は学校を出て、石神駅前に向かった。
石神駅前のロータリーを抜けると、昔ながらの商店が並ぶ通りに出る。
その一角に、小さな時計屋があった。
ここだ。
ガラス張りのショーケースには、ピカピカの高そうな腕時計から、実用一点張りの安価なものまで雑多に並んでいる。
安価なものも売っているじゃん。
良かった、ここでいいな。
店内に入るとカウンターの奥に年配の店主が新聞を読んでいる。
「いらっしゃい」
視線だけ寄越して、あとは俺に任せるつもりらしい。
俺は値札を確認しながら、安い腕時計がまとめて置かれた棚を見た。
俺は千五百円の腕時計を手に取った。
デザインはシンプルで、黒いベルトに白い文字盤。
数字が大きくて見やすい。
防水、と小さく書いてあるのもポイントが高い。
なかなかいいじゃんこれ。
どうせすぐに壊されるかもしれないんだから、これくらいが適切だな。
「これください」
店主は新聞を畳み、ちらりと時計を見る。
「中学生かい?」
「はい」
「中学生ならそれで十分。壊れても泣かなくて済む値段だな」
余計なお世話だわ。
会計を済ませ、その場で封を開け、腕に通す。
ベルトを締めると、カチリと小さな音がした。
秒針は、ちゃんと動いている。
時間もあってる。
――これでいいだろう。
俺は時計屋を出ると、池袋西探索者ビルへ向かって歩き出した。
ここからだと、ちょうどいいバスが通っていない。
石神公園前のバス停まで戻ってバスに乗るより、直接池袋西探索者ビルに向かった方が早いと思う。
ちょっと小走りになりながら、池袋西探索者ビルを目指す。
全力で走ったら速すぎて、人目を集めてしまうし、昼食時に合わせたいから、早く着きすぎてもね。
池袋西探索者ビルに着くと二階の食堂・パーラーに入る。
お気に入りの和風ハンバーグ定食を頼む。
昨日はあの三人組に絡まれたが、今日はいないようだ。
運ばれてきた定食を食べ終えると、一階のゲートを潜りロッカールームで運動着に着替える。
さっき買った腕時計をちらっと見ると、今の時刻は12時10分だった。
よし、――秒針はちゃんと動いているな。
リュックはロッカーの中に置きっぱなしだ。
腕時計を壊されないようにしなくちゃな。
とは言え、ただのスライムなら壊される心配はまずないけどね。
鍾乳洞の入り口のような穴から入って坂を下ると、そこは第一階層だ。
……もうここに来るのも何度目だろう。
初めにメタルスライムが出た場所のチェックに向かう。
たぶんいないと思うけど、万が一を考えれば、確認しない理由はないよね。
いたら超儲かるし。
「スライムバレット!」
壁に向かって連射すると、音を立てて通路が開く。
周囲のスライムを倒しながら、奥へと進む。
20メートルほど進むと、あの銀色の大岩が見えてきた。
「チェ! 今日も空振りか」
分かっていたはずなのに、本当にいないとやっぱりがっかりするね。
銀色の大岩を前にして、ふと思った。
――この岩には、相当な量のプラチナが含まれていそうだよね。
そのプラチナを取り込んで、スライムがメタルスライムになったんじゃないのかな?
そんなことを考えながら、周囲のスライムを倒し続ける。
一通り倒し終わり、元来た道を引き返す。
次は、第二階層の入り口方面の探索だ。
第二階層の入り口までの途中に、まだ調べていない分かれ道があったはずだ。
まだ行ったことのないところを探索するのは、なんだかわくわくする。
分かれ道の先に進みながら、現れるスライムを倒していく。
出てくるのは、レベル5のスライムばかりだ。
スチールのレベルが5になったおかげで、処理速度は倍近い。
必要な手数が半分で済むのだから、当たり前か。
ふと、腕時計をチェックするともう3時を過ぎていた。
スライムの胃袋にしまったダンジョンの地図を取り出し、現在位置をチェックする。
……まだ、奥は深いみたいだ。
8時まで探索して、パーラーで晩飯を食べてから帰ろうかな。
そう決めて、また歩き出す。
俺は、せっせとスライムを倒しながら奥へと進んだ。
単純作業の繰り返しは、地味に精神力を削っているのか、なんだかすごく疲れたぜ。
再び時計を見ると、6時を指していた。
……あれから3時間も経ったのか。
あと2時間くらいしたら、引き返すとしようかな。
俺は気を引き締めなおして、またスライムを狩りだした。
「この道って、案外奥が深いな」
地図で知っていたけど、実際の体感とはだいぶ違うものである。
スライムを倒しながら進んでいるので余計長く感じるのかな。
単純作業でメンタル的には、だいぶ疲れてるし。
さらに奥に進んでいくとスライムが多量に集まっている。
「やべっ! あれ、スライムキングになるやつじゃね!」
……みるみるうちに、スライムが塊を作りスライムキングに変身した。
マジか――悪い予感は的中するものだわ。
本当にスライムキングになりやがった。
腕時計を買ったばかりだというのに、壊されたらたまらないじゃん。
スライムキングのスライムバレットは要注意だ。
やられる前にやるしかない!
この前みたいに悠長なことをしていたら、運動着と腕時計はボロボロにされるだろう。
俺は右手を掲げてスライムバレットの態勢に。
「スライムバレット!」
一度に672発の消化液弾が発射された。
「スライムバレット!」
「スライムバレット!」
立ち上る水煙。
この前戦った時は375発だったが、今はその倍近い弾数だ。
スライムキングは一瞬で魔石に変わった。
まあ、スチールしようと思わなければ、余裕だな。
俺は落ちている魔石を拾って収納した。
その後俺は、さらに奥に進む。
この辺のスライムは、たぶん長く生きている奴だろう。
長く生きていれば、変異をする奴が出る可能性も高まるんじゃないか?
メタルスライムに出会う期待が高まっていく。
この前も、……スライムキングを倒した後に出会っているし。
「あ!」
なんだか変なスライムがいる!
俺には遠くからでも、そのスライムが普通ではないことが分かった。
普通のスライムの色は水色だが、そのスライムの色はオレンジ色だったから。




