第41話 月曜日の探索
「松本先生、さようなら」
「天心君、明日のテストも休まずに来てね」
「はい。来ます」
チャイムが鳴って軽く挨拶を済ますと、俺は保健室を後にした。
いつものようにバスで池袋西探索者ビルに向かうつもりだが、途中でこの前のスポーツ用品店で運動着を二セット買う。
運動着は動きやすいし、制服を溶かされたら高くつく。
家でも部屋着として充分楽だ。
池袋西探索者ビルに着くと、まずは腹ごしらえのため二階のパーラーに入る。
昼時ということもあり、店内は賑わっていた。
軽装の若い探索者から、年季の入った装備を身につけたベテランらしき人物まで、客層は実に幅広い。
食器の触れ合う音と、低く抑えた会話が混じり合い、独特の活気を作り出している。
空いている席を見つけて腰を下ろし、和風ハンバーグ定食を頼む。
注文を確認したお姉さんが、慣れた仕草で会釈をして厨房の方へ消えていく。
運ばれてきた定食に箸をつけ、黙々と食べていると、入ってくる三人組に気が付いた。
梶谷猛、金城守、田畑康太の三人だ。
向こうも俺に気付いたらしく、何か言い合いながら近づいてくる。
「赤嶺じゃん! 今日は学校サボりか?」
ノリのいい田畑康太が遠慮なしに声をかけてきた。
俺に話しかけてくる探索者なんて、この三人くらいだ。
「今日は一斉テストの日なんで、半日なんです」
そう答えると、三人は揃って「ああ」と納得したような顔になった。
「そういや、そんなのあったよな」
「一斉テストか。懐かしいな」
「いやだったけど、午後は遊びに行けて良かったよな」
三人が顔を見合わせて勝手なことを言いだす。
「赤嶺は、遊びに行かず探索に来たのか? 真面目じゃん」
田畑の言葉に苦笑で返す。
「一緒の席に座って良いか?」
リーダー格の梶谷猛が許可を求めた。
怖いやつだと思っていたけど、わりと良いやつかもしれない。
「別に相席でもかまいませんよ」
「悪いな。ところでよ……」
三人が席につき、梶谷が少し声のトーンを落として切り出した。
「この前の件、まだ有効だからな」
この前の件というのは、俺をパーティに勧誘した話ね。
「どうだ。何回かダンジョン潜ったんだろう? どこまで潜った? 壁は感じたか?」
何回かは潜ったけどね。
十五歳以上だったら、今頃第二階層、第三階層を探索してたかもしれない。
だけど、俺は制限があるから行けていない。
壁を感じる状況になる前の段階なんだよね。
「俺、まだ十四歳なんで、第二階層には入っってないです」
「そういやこの前そんなこと言ってたっけ。で、何時解禁なんだっけ?」
梶谷が少し考えるように顎に手を当てて聞いてくる。
「誕生日は九月一日です」
パット明かりがついたように笑顔になる三人。
「ほー! あと少しじゃん」
「俺達もしばらく第三階層で装備を整える金を貯めなきゃならなそうだし、第四階層から俺達と組まねーか?」
「どうせ、おめー。俺達以外に組むあてなんてねーんだろう?」
三人にそう言われて、俺は返事をする前に、箸を止めて少しだけ考えた。
十五歳になったらパーティに入る……ねえ?
今のところ、こいつら以外に組むあてが無いのは当たっている。
第四階層から?
壁を感じたら……てっことだったよね。
こいつら第四階層で壁を感じてるみたいだな。
第三階層で装備を整える金を貯めるって言ってたな。
……第四階層は、装備が整っていないと危険ということか。
「第四階層を目指すかまだ分かりませんし、その時になってからでいいって言ってましたよね」
「ああ、そうだったな。でも一人じゃゴブリン相手だってきついはずだぜ」
「そういう意味じゃなくて、稼ぎがそこそこなら先を目指さないってこともあるんで」
俺の答えに三人が顔を見合わせて含み笑いをする。
そんなに稼げるはずはない……という顔だ。
でも俺は、夕方から探索を始めても、二万や三万は稼げるんだぜ。
こいつらにはスチールの能力は秘密にしておいたほうが良いだろう。
ここは、多くは語るまい。
「分かった。たぶんお前、九月にはパーティに入るかどうかを悩んでるはずだ。そのころまた声をかけてみるぜ」
俺は、和風ハンバーグ定食を食べ終えて、立ち上がった。
「そろそろダンジョンに潜ろうかと思います」
「おう。じゃあ、頑張れよ」
「じゃあな!」
「スライム相手でも、油断すんなよ」
俺は、頭を下げてその場を後にした。
ロッカールームで運動着に着替え、学生服はロッカーに入れておく。
第1階層に降りていくと、薄っすらと明るい蛍光石の洞穴。
奥に見える大きな岩にスライムがへばりついている。
俺はそれを無視して秘密の通路の前に急いだ。
立ちはだかるスライムは飛び越えてスルーだ。
今日はメタルスライムに出会えるだろうか?
再生した岩壁にスライムバレットを連射して、俺だけの秘密の通路に入っていく。
まあ、……他の場所も、第一階層はほとんど俺の貸し切りみたいなものだけど。
現れるスライムにスチール攻撃。
次々に倒して進む。
「今日もメタルスライムには会えなかったか。やっぱりなかなか出会える魔物じゃないんだな」
おれは、独り言ちて引き返す。
途中の分かれ道を第二階層への降り口がある方向に進んでいく。
こっちは、初めて入る方向だ。
この道の方向は、第二階層に向かう探索者も時々通る。
俺は警戒心を強めながら歩いて行く。
スチールしている姿を見られても、声さえ出さなければ、何をしているのか分からないだろう。
俺のスキルは、他人に知られない方が良い。
それは、身の安全のためでもある。
多量のドロップ品を持っているのが知られたら、それを狙われかねないからね。
スチール!
無言で唱える。
消化液2をスチールしました。
スライムゼリーをスチールしました。
防御外皮1をスチールしました。
狙ったスライムバレットがスチールできなかった。
スライムバレットを持っていなくて、消化液を2持っているってことは、このスライムはレベル2だ。
遠距離攻撃は考えなくていいから、後は動けなくすれば完璧に安全なはず。
速さ1をスチールしました。
スライムの胃袋3をスチールしました。
スチール(ユニーク)のレベルが5に上がりました。
一度に8つのものをスチールできるようになりました。
なんだって!
一度に8つのものをスチールできる!?
そいつは凄いな。
脳内に響いた声に、喜びと驚きを隠せない。
よし、試してその効力を実感しないとな。
スライムを射程圏内にとらえる。
魔力と知力に狙いを定める。
スチール!
無言で唱える。
魔力3をスチールしました。
知力3をスチールしました。
HP2をスチールしました。
残りはHP1だ。
スチール!
HP1をスチールしました。
レベル2のスライムが水と小さな魔石に変わった。
それから次々とスライムを倒しつつ先に進む。
第二階層の入り口まではかなり先なのか、倒しながらだとだいぶ時間がかかった。
途中で分かれ道が有ったので、そちらは後回しだ。
第二階層の入り口を確認し、時間もいい頃合いなので引き返した。




