第193話 いいもの見せてあげる
「綾華にいいもの見せてあげるよ」
「え! 何?」
俺は、召喚カード(人型スライムオレンジ21)を取り出した。
「これは、オレンジ色のスライムキングからドロップした召喚カードさ」
「召喚カード? 召喚カードって、もしかして精霊を召喚したりするの?」
「精霊じゃないんだ。ちょっと変わったスライムなんだ。やって見せるね」
俺は、召喚カード(人型スライムオレンジ21)をかざして召喚と念じる。
目の前が光り輝きスライム君が召喚された。
スライム君は内側から光り輝き、そしてそのまま人型に形を変えて色づくと、俺そっくりに変化した。
「わー! すごい。天心君にそっくりだわ!」
綾華が驚いて両手で口を覆う。
「スライム君て名前を付けたんだ。
スライム君は、俺と意識が繋がってるみたいで、俺の考えてることがわかるんだよね。
俺もスライム君の気持ちは分る。
綾華に初めましてって言ってるよ」
「初めまして、スライム君。私は綾華、よろしくね」
綾華がスライム君に握手を求める。
スライム君はそれに答えた。
「今日は3人で探索しよう。スライム君は戦わないけれどね」
「弱いの?」
「レベル5のスケルトンより強いよ。
ステータス的にはHP210、MP210、力0、防御外皮42、知力210、速さ42、器用さ0、スキルはスライムの胃袋420、消化液105、火魔法・ファイアバレット42(火球を同時に42発、弾丸として飛ばす。消費MP42)」
「すごく強いじゃない!」
その言葉にスライム君が喜んでいるのが伝わってくる。
だがスライム君の表情は変わらない。
感情で顔の表情を変えるということはないみたいだ。
「ドロップしたオレンジ色のスライムキングと同じステータスみたいだよ。だからファイアバレット42とか、すごい強力な魔法も使えるんだ」
「ファイアバレット42は5回使えるってことかしら」
「そうなるね」
「3人目のメンバーとして、戦ってもらったらいいんじゃない?」
「第2階層じゃ、必要ないじゃん」
「そうだったわ。じゃあ……」
「魔石を拾う係をしてもらおうと思ってね。
俺が倒してスライム君が魔石を集める。
その方が早く進めるからね」
綾華は納得したように頷いた。
「なるほど、それで召喚したの」
「そういうこと」
俺は、薄明るい洞窟を進みスケルトンを射程に収めると、スチールを唱える。
「スチール!」
力10をスチールしました。
防御外皮5をスチールしました。
知力5をスチールしました。
速さ6をスチールしました。
器用さ5をスチールしました。
気配察知2をスチールしました。
毒薬(麻痺毒レベル1)1をスチールしました。
HP5をスチールしました。
スケルトンレベル1が魔石に変わった。
その魔石をスライム君が拾う。
俺はさらに先に進んだ。
綾華は俺と並んで歩きながら、ライフルを回転させた。
3匹スケルトンを倒した時、脳内に久しぶりで待望のメッセージが鳴り響いた。
スチール(ユニーク)のレベルが11に上がりました。
一度に512のものをスチールできるようになりました。
やったぜ。
これで20連スチールで奪えるものが、10240個になったぜ。
これは、20連スチールの攻撃力が10240に上がったのと同義のようなものだ。
サンダーストームサイクロプスだって1撃で倒せる。
それにしても、スチールのレベルが上がるためにどれだけの物を奪ってきたのだろうか?
……長かったぜ。
「どうかしたの?」
隣で綾華が聞いてくる。
俺が突然笑顔になったのが不思議だったのだろう。
脳内メッセージは、本人だけしか聞こえないからね。
「うん。スキルのレベルが1上がったんだ」
「ふーん。よかったわね」
綾華が喜んでくれてはいるが、俺がどれ程強くなったかは分からないだろう。
俺は、スチールをしながらどんどん進んだ。
スケルトンレベル5が現れるまで、スチールをし続ける。
薄明りの迷路を歩き回り、スケルトンにスチールをし続ける。
最奥部に近くなり、やっとスケルトンレベル5が現れた。
「やっと私の出番のようね」
綾華はスケルトンに詰め寄ると、ニケ―のライフルを一振り。
その1撃で、スケルトンは魔石に変わった。
「これじゃあ手応えなさすぎだわ。この階を選んだのは間違いだったみたい」
手応えのなさを嘆くけれど、平日での探索では時間がないので第6階層までは行けないよ。
「ピクニックに来たと思えばいいんじゃない。何ならレベル5も俺が倒すよ」
「そうね。ピクニックに来たと思いたいから、レベル5もお願いするわ。ピクニックに来て戦うのも楽しくないし」
「了解。じゃあ、全部俺が倒しちゃうね」
倒すといってもスチールを心のなかで唱えるだけだから、見た感じは綾華と一緒に歩いているだけだ。
魔石はスライム君が回収してくれているので、俺と綾華は、連れ添って歩いているだけ――本当にピクニックしているみたい。
「こうしてると、お化け屋敷に来たカップルみたいだね」
綾華が、俺の腕につかまってくる。
確かにスケルトンの現れる薄明るい迷路を歩いている感じは、お化け屋敷そのものだわ。
綾華は、戦っていないのになぜか上機嫌だ。
バトルジャンキーの綾華はどこに行ってしまったのだろう。
俺も、綾華に密着されるとなんだか恥ずかしくなるぞ。
それから俺たちは無言で最奥まで進み、引き返した。
いくつかの分かれ道を最奥まで行きつくし、第2階層すべてを踏破して第一階層に戻る。
第一階層も、俺がスチールを脳内で唱えながら、第2階層と同じように綾華と腕を組んで歩いて戻って行った。
俺の右腕に、綾華の体温がしっかり伝わってくる。
これはもう、恋人たちのする行動じゃないか?
こんなに長い間くっついてるって、綾華が俺のこと好きだってことだよね。
告られてるのと一緒だよね。
いいのか?
俺、秘密を隠したままでいいのか?
秘密を隠したままで、恋人関係になんかなれないよな。
それは、不誠実ってものだよな。
でもまだ、綾華にはっきり告られたわけじゃないし……。
俺から告るべきなのか?
でもその前に、秘密は打ち明けておかないと。
いやいや――綾華を守らなくてはいけないし、ただのパーティメンバーとして一緒に探索しなくちゃな。
うん。
このままで行こう。
告られたわけじゃないからな。
ただのパーティメンバー。
ただのパーティメンバー。
俺は自分にそう言い聞かせた。
クロークで魔石と毒薬、スライムゼリーを買い取ってもらい、2階のパーラーで晩飯にした。
俺はいつものように和風ハンバーグ定食を注文し、綾華も俺に合わせる。
「天心君は、いつも和風ハンバーグ定食だね」
「うん。お気に入りだからね」
「天心君って、和風ハンバーグが好きなんだ」
「あっさりだからね」
「私も、これ好きだなー」
「へー、そうなんだ」
なんでもない会話が続く。
食事が終わり、綾華が車で送ってくれた。
俺は、家の前で綾華の車を見送った。




