エピローグ:彼女たちの物語は、新たな夢のサイン
数年の時が流れ、世界は少しずつ平穏を取り戻していった。
マオたちの戦いから生まれた深い傷跡は、まだ至る所に残されているものの、人々は前を向いて歩き始めていた。
街には活気が戻り、市場には人々の笑い声が響く。
そして、その平和を守るため、マオたちは新たな一歩を踏み出していた。
「ギルド『デイブレイク』、本日も開店でーす!」
朝日が差し込む窓辺で、レイレイが元気よく看板を掲げる。
ギルドの建物は街の中心からは少し離れた場所にあり、木造の温かみのある二階建て。
一階には受付カウンターと休憩スペース、二階には事務所と会議室が設けられていた。
「もう、レイレイさん。朝から元気が良すぎますわ」
エナが優雅な仕草でお茶を淹れながら、苦笑する。
カウンターの上には、彼女お手製のクッキーが並んでいた。
来訪者のために用意したものだが、いつの間にかレイレイが半分近く平らげている。
「だって嬉しいんだもん! 私たちのギルドに、毎日たくさんの人が訪ねてくれて」
レイレイの無邪気な笑顔に、エナも柔らかな微笑みを返す。
確かに、設立から半年が経った今、このギルドは多くの人々の希望となっていた。
魔咏師団の圧政から逃れてきた人々を保護したり、各地で起こる魔物の討伐を請け負ったり。
時には街の祭りの警備や、孤児院の子供たちの遊び相手まで。
さまざまな依頼を、彼女たちは真摯に受け止めていた。
「おはよう」
階段を降りてきたヴァリアの姿に、二人が振り返る。
以前と変わらぬ凛とした佇まい。
しかし、その表情には柔らかな温かみが宿っていた。
彼女はギルドのリーダーとして、マオたちを導く存在となっていた。
「今日も依頼が山積みですわ」
エナが書類の束を手渡す。
ヴァリアはそれを受け取りながら、一枚一枚丁寧に目を通していく。
「魔物討伐に、護衛依頼、それに――」
「それに?」
レイレイが首を傾げる。
ヴァリアは一枚の依頼書を取り出し、静かに告げる。
「魔咏師団からの、新たな圧政の報告だ」
その言葉に、場の空気が引き締まる。
魔咏師団。彼女たちが立ち向かい続けている組織。
魔法による支配を目論み、世界各地で暴虐の限りを尽くしている集団。
その存在は、まだ世界に暗い影を落としていた。
「今度はどこの街ですの?」
「東の港町だ。魔咏師団の幹部が駐留し、市民から法外な税を徴収しているらしい」
「また、そんなことを……!」
レイレイが拳を握る。
その瞬間、玄関のドアが開く音が響いた。
「ただいまー!」
明るい声と共に、マオが姿を現す。
彼女は早朝から、街の見回りに出ていたのだ。
その腕には、大きな紙袋が抱えられていた。
「マオちゃん、お帰りなさい! あ、その紙袋は?」
「えヘヘッ、市場で買ってきた! 今日のお昼は私が作るよ」
マオは得意げに紙袋を掲げる。
その中からは、新鮮な野菜や魚の香りが漂ってきた。
「まあ、マオさんが料理を?」
エナが心配そうな表情を浮かべる。
マオの料理の腕前は、決して褒められたものではなかった。
前回の試みでは、キッチンが大惨事になったことを、誰もが覚えている。
「大丈夫だよ! 今朝も早起きして練習したんだから」
マオの自信に満ちた表情に、レイレイが思わず吹き出す。
その笑い声は伝染するように広がり、やがてギルド内に温かな空気が満ちていく。
そんな彼女たちの日常を、突然の来訪者が訪れた。
ノックの音もなく、おずおずとドアが開かれる。
そこに立っていたのは、小さな少女だった。
「あの、ここが……デイブレイクって、ギルドですか?」
華奢な体つきに、擦り切れた服。
目元には疲れの色が浮かんでいたが、その瞳は強い意志を宿していた。
「ええ、その通りですわ」
エナが優しく微笑みかける。
少女は一歩、部屋の中へと踏み込む。
「私、お願いがあって……。私の村が、魔咏師団に……」
言葉に詰まる少女の肩が震える。
その様子に、マオの胸が締め付けられる。
かつての自分を見ているような気がした。
運命に翻弄され、全てを奪われた記憶が、今でも彼女の心に残っている。
だからこそ、この子を救いたい。
そんな想いが、マオの心に強く芽生えた。
「よろしければ、お名前を」
マオが少女に近づき、優しく問いかける。
その態度には、これまでにない温かな慈しみが込められていた。
少女は僅かに戸惑った表情を見せたが、やがて小さく頷いて答えた。
その瞬間、マオの唇に柔らかな微笑みが浮かぶ。
それは、希望を見出した者の、清らかな笑顔だった。
全てを失い、全てを取り戻したマオ。
魔王の記憶を封印され、再び目覚めさせられ、そして自らの意思で克服した彼女。
その経験が、今この瞬間、新たな希望へと繋がっていく。
窓から差し込む陽の光が、彼女たちの姿を優しく照らしていた。
それは新たな物語の始まりを告げる、希望の光だった。
マオたち、すなわちギルド『デイブレイク』の戦いは、まだ終わっていない。
しかし、彼女たちには確かな絆があった。
共に支え合い、守り合い、時に笑い合う。
そんな大切な仲間たちと共に、彼女たちは今日も世界の平和のため、そして誰かの希望のために戦い続けていく。
新しい朝が、また始まろうとしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
このまま放置するのも、ずっと待ってる方に悪いと思ったので、一気に書き上げました。




