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邂逅2

 深夜。

 誠が寝静まってから、ノルンは小さなテントを抜け出した。

「……」

 あたりは静まり返っている。騒いでいる子供すらもいないようだ。

 だが遠くに微かな気配がしており、それに向かってノルンはとんでいった。

 はたして。

「また来たの、物好きなちびっこさん」

「……来た」

「ご主人様はどうしたの?」

「寝た」

「そう」

 そこに在ったのは一本の枯れかけた大きな木と……その枝に載っている、やせ衰えた少女だった。

 少女には生命感がなく、まるで木と共に滅びようとするかのようだった。

「わたしはもうすぐ枯れる。その運命は変えられないし、おちびさんにそれを止める力はない。

 ちゃんと説明したでしょ?」

「うん」

 ノルンは大きくうなずいた。

 そして、ずいと手をさしだした。

「その手はなに?」

「枝、ちょうだい」

「……自分に植え付けるつもり?」

「うん」

「だめよ。

 枝はわたしの一部であり、育てば、わたしでないわたしとなる。

 あなたでは逆に飲まれてしまうわ」

『ほう、そうかの?』

「!?」

 ノルンの口をかりてノルンでない者が語りかけ、少女は目を剥いた。

「何者ですか?」

『なに、かつて下野国(しもつけのくに)で小賢しい者どもに倒されし間抜けな狐よ。

 この者の主人は、おもしろい男子(おのこ)じゃが憑いておる女が面倒くさくてのう。

 ゆえに本体のかわりに、こちらの妖精の方に手心を加えておるのじゃ』

「ああなるほど、情の深い相手なのですね」

 少女は理解力があるようで、何者かの簡潔な説明でおぼろげに事情を察した。

「繰り返しますが、その子ではわたしの枝を扱いきれない。逆に飲まれますよ。

 取りつき先の男性にも影響が出るやもしれませんし、おすすめしかねます」

『たしかにのう、生まれたばかりに等しい妖精に木精霊の枝は荷が重すぎよう。

 されど心配はいらぬ。

 わらわが手助けをしてやるからのう』

 声の主、玉藻前はくすくす笑った。

「あなたは分体、それもカケラを一時的に憑依させているだけでしょう?

 それに、古き巫女の気配も感じます。

 男性が南に帰れば、払い落とされるのではありませんか?」

『うむ、じゃから手助けするのよ』

「……」

『これの主人はの、封ぜられ朽ち果てる祟り狐のために泣いてくれるような優しい子じゃ。

 わらわは、そんな不器用な子に昔から弱くてのう。

 理由なんて、そんなものじゃな』

「……なるほど。まぁ、そういう事なら信じましょう」

 少女はそう言うと、自らの右腕を左腕でポキリと折り、ノルンに手渡した。

 渡された腕は光り輝くと一本の枝に変わり、そのままスルスルとノルンの中に吸い込まれた。

『うむ、よき力である。

 妖精と、愚鈍で心優しき男子(おのこ)に代わって感謝を』

 そういうと、ノルンの腕から、ノルンのものとは違う気配が少女に流れ込んだ。

『これは礼じゃ……これで少しは失った腕に見合うであろうか』

「ありがとう狐さん」

『なに、わらわも他人事ではないからのう……ではな』

「はい」

 そんな会話をすると、ノルンは立ち去っていった。

 

 残された少女は、しばらくしてから、自分自身である背後の木を見上げた。

「……やさしい子たち」

 伝説となっている怪物的な化け狐も、少女にとっては幼子のようなもの。

 衰え、枯れかけた少女であったが、重ねた年月は決して短くはない。

「ふふふ」

 もはや動けもしない身で、彼女らの主人に思いを馳せる。

 子妖精の中にいた狐は、その力だけを問うなら人間の手におえるような存在ではない。

 そんな存在が手を貸す……おそらくそれは力によるものではあるまい。

「そう、そうね……このまま残り少ない時間を永らえるより、わたしも最後の実をつけてみましょうか」

 少女はにっこりと笑った。

 

 

 

 ■ ■ ■ ■

 

 

 

「よう、おはよう。今朝もおでかけだったのか?」

「ういっす」

 どうやら今朝もノルンはでかけたようで、食パンにスライスチーズを載せていたら帰ってきた。

 スライスした野菜やソーセージを上に載せ、パンで蓋をしてホットサンドメーカーで軽く焼く。

 その間にナイフをシャープナーで少し整えておき、焼けてきたら蓋をあけ、熱いうちに切断する。

 んー……今朝は比較的きれいに切れたかな?

 あ、ちなみにこのホットサンドメーカーはIH対応で、家から持ってきたものだ。

 アウトドアでパンや肉まんを焼くには便利だよね?

「おまえ、どれ食う?こっちか?」

「これ」

 どうやらノルンは、余っていたソーセージや野菜を食べる事にしたようだ。

 温めておいたミルクを百円ショップで買ったおもちゃのミニカップに注ぎ、食事を開始。

 ……ん?

「草のニオイ?おまえ、何かに会ってきたのか?」

「あった!」

 ほほう。

「昨日もおでかけしたのは、そいつに会ってたのか……加護でももらったか?」

「もらった」

「そうか、じゃあお礼しないとな」

 しかしノルンは首をふった。

「いらない」

「どうして?」

「枝を引き受けた」

「枝?」

「うん」

 聞けば、相手は植物の精霊みたいなやつで、もうすぐおなくなりになるらしい。

 で、枝の一本をもらい、取り込んだんだという。

「それって時代を経た存在ということだよな?おまえ、そんなの取り込んで大丈夫なのか?」

「助けがあるから、問題ない」

 助け……?

「あー……誰かに助けてもらったと?」

「……」

 どうやら間違いないらしい。

「やっぱりお礼がいるんじゃないか?」

「貸し借りはない。それぞれに『おもわく』がある」

 思惑ねえ。

「枝、命……あ、もしかして、接ぎ木みたいなもんってことか?」

「うん」

 ()ぎ木……念のために少しだけ解説しておくが、要は植物同士を合体させる事である。

 たとえば、頑丈で生命力の強いかぼちゃの上に、近縁種だけど生命力が足りないスイカの苗を移植する。そうする事で生きる力を補い、元気にスイカを育て上げる。

 ふうむ。

「よくわからないけど……お礼はいらないんだな?」

「大丈夫」

「そうか……わかった、まかせよう。

 けど、もし当人の近くを通ったら教えてくれよ?さすがに無視はしたくない」

「わかった」

 

 朝の軽い食事が終わり、テント撤去とバイクへの積み込みを行う。

「うーん……撤収に時間がかかるなぁ」

 なんせ久しぶりのキャンプ旅行だ。

 もともと器用なたちではないけど、改めて手順の悪さを痛感する。

 何かこう、袋ひとつ出したらお泊りセット全部、みたいな工夫が必要な気がする。

「ん、よし」

「ういっす」

 ノルンはもうハンドルのところに陣取り「いつでもいけるぜ!」と言わんばかりの顔をしている。

 ……いいけど、おまえが着てるのって、あれだよな。バブル時代に大流行していた、某所のバトルスーツとかって名前のゴツいレザースーツだよな?全身プロテクターだらけのやつ。

 正直、俺よりかっこいい格好しているのが、なんかこう、複雑な気分だよ……ま、いいけどさ。

 エンジンをかける。

 軽く運行前チェックをする。

 うちのレブルには電圧計がついている……といっても標準装備ではなく、追加したグリップヒーターに電圧計がついてるんだけどね。

 うん、電圧もいいみたいだ。

 最後にグリップヒーターをオンに。

 ヘルメットとグローブをつけて、バイクにまたがった。

「いくぞ」

「おー!」

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