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神々のいたずら

 神様の届け物で、別の神様にとやってきたのだけど。

 天塩川の河川敷でヒグマから変じたのは、美丈夫(びじょうぶ)という言葉が似合いそうな、豪傑めいた女性だった。

 外見的年代を言うなら「おばちゃん」なんだと思う。

 だけど、長髪をアイヌっぽい模様の鉢巻みたいなので止めてある容姿は、狩人のようでもあり戦士のようでもあった。

 たぶん、いろんな意味で肉食なんじゃないかな……。

 いわゆる美魔女なんて言われる人たちが到達する、これもひとつの美なのかもしれなかった。

 ああ、それから。

 背中にしょっている巨大な弓が、やたらと使い込まれていて異様にカッコいいのが印象的だった。

「ちょっとそのままで」

「あ、はい」

 言われるままに待っていると、俺の周囲から光がこぼれて、それが女性に移っていった。

「……なるほど、たしかに受け取った。ありがとう」

「いえ、間違いないですか?」

「ああ間違いないようだ……まったく、あの心配性め」

「?」

「ああ、ようするにだな。

 近況を伝える便りというのが本題のはずなんだが、たまにはこっちに顔を出せという内容のほうが多いんだ。くどいくらいにこっち来い、たまには飲もうとか書いてやがる」

「……それはまた」

 あの神様なら、確かに言いそうだなぁ。

「あいつはケェタイ(・・・・)というやつを駆使しているが、わしと友はそういう進んだキカイを使ってないからな……あいつの心配性を加速させているのかもしれないが」

「そうですか」

 たしかに、文明と隔絶してそうだもんなぁ。

 しかし、いくら緑あふれる北海道といっても獲物は減り続けているはず、そんなんで生活できるもんなのかな?

 まぁ人間じゃないんだし、心配はいらないのかもしれないが。

「ところで、わしからも返答を頼んでよいか?もちろん届けられるなら、で良いんだが」

「あ、はい。義務でないなら(うけたまわ)りますよ」

「うむ、では頼もう」

 女性から光が出て、それが俺に移って消えた。

「説明があったと思うが、ただ放置しても一月ほどで消える。

 こちらも念の為にあと二名ほどに託すから、あまり難しく考えることはないぞ?」

「はい、わかってます」

 ここに来たのだって、俺の目的地から遠くなかったからだしね。

 女性は「ふむ」と俺と単車をじろじろと観察していて、そしてノルンに目を止めた。

「ふーん、妖精連れか……しかしまたずいぶんと強化されてンな?」

「強化ですか?」

「いろんなヤツの祝福やら何やら、いっぱいついてるだろ?」

「あー……ま、まぁ、いろいろありまして」

 返答しつつも、俺は自分の顔がひきつるのを感じた。

 そういえば皆さん、なぜかノルンにばかり色々してくれるけど俺本人は放置なんだよね……。

 いいんだけど、軽く理不尽な気がするんだよなぁ。

 そう思っていると、女性がクスクス笑いだした。

「理不尽て、そりゃそうだろうよ」

「え?」

「その原因は、おまえからする海魔(かいま)の女のニオイさ。

 海魔の女は情が深いが、嫉妬深さも蛇以上だそうじゃないか。下手におまえに手を出して面倒事になりたくないんじゃないか?」

「え」

 なんだよそれ。

「その点、おともの妖精に色々つけておくのは問題ないからな。

 おまえ本体には手を出しちゃいないわけだけど、間接的におまえの強化にもなる」

「……そういうものなんです?」

「ああ、そういうものだ……どれ、わしもつけてやるかな」

 そういうと、女性もノルンに手をさがし、何かしたようだった。

「あの、えっと?」

「大したことはしてねえよ、獣の加護をつけただけだ」

「獣の加護?」

「ひとことで言えば、獣害にあわないようにする加護だ。

 近年、人里近くを獣がウロウロして問題が多発しておるだろう?

 おまえは旅好きのようだし、野営もするようだしな。つけといて損はないだろ」

「おお、ありがとうございます!」

 それは嬉しい加護かもしれない。

「あ、俺、(まこと)といいます。贈り物に心から感謝を。

 ちなみにお名前、伺ってもよろしいですか?」

 ヒグマの姿で顕現してるんだ、さぞかし勇ましい女神様だろうな。

「よせやい、そんなすごいもんじゃないっての。

 ……で、マ・コ・ト……ふむ、呼びにくいな。マコでいいか?」

「いえ、マコトでお願いします」

 って、この人もマコ呼ばわりすんのかよ。

「……そうかい、じゃあわかった。

 わしの名だが、実はカムイ(ヒグマ)とは関係ないんだ。

 本来の姿で顕現すると騒ぎになってしまうんでな、クマの姿を借りたんだよ」

「あらら……でもヒグマでも十分に騒ぎになるでしょ?今みたいに人のほうがいいんじゃ?」

「この姿だと普通の人間には見えなくてな」

「あらら」

 そういう事なら仕方ないのかな。

「うむ。名前は……そうじゃな、アミタンネカムイの名を、あとで調べてみるがいい」

「あみたんねかむい?」

「うむ」

 女性はいたずらっぽく笑うと、俺の頭をなでた。

「ではなマコト。旅の安全を祈っておるぞ」

「ありがとうございます」

 そういうと、女性は立ち去っていった。

 

 

「アミタンネカムイねえ……はじめて聞く名だなぁ」

 俺、アイヌの神様は詳しくないからなぁ。エゾシマフクロウ、つまり集落を守る神(コタンクルカムイ)の事を知ってから昔、ちょっと調べたくらいで。

「ノルン、検索。アミタンネカムイ」

「ういっす」

 ハンドルにつけたままのスマホで、ノルンが検索をはじめた。

「ふむふむ、アミタンネカムイ……ほうほう、アシダカグモを顕現体とする女性のカムイか……って、アシダカグモ!?」

 ちなみにアシダカグモってのはネットで軍曹などとも言われる、茶色でデカくてGを捕食する例のアレだ。

 うっわぁ……ゾゾッと来た。

 益虫なんだよな、益虫……けど俺はちょっと苦手なんだよなぁ。

 頭の中に、巨大なアシダカグモの女神様って感じの容姿がポーンと浮かんだ。

「……あー、そういうことか」

 蜘蛛の姿なら人間の目に見えたとしても……蜘蛛だもんなぁ。

 人間の前に蜘蛛で現れたらトラブルにしかならないだろうしなぁ……いやま、ヒグマだって天塩の町に出たりしたら大騒ぎだろうけど。

 去っていく女性に目をやると、チラチラとこちらを伺っているが……どうみても面白がっているなアレ。

 なるほど、つまりわざと説明せず調べさせたんだな?

 最初から蜘蛛の神様だと言われたら、別にああそうですかと納得しただろうし。

 ははは、いい性格してるじゃないか、神様なのに。

 

 俺は遠目にもハッキリわかるよう、わざとふくれっ面で腕組みをしてみせた。

 女性はこちらに背を向けたまま……だけどたぶん笑ってるんだろう。

 で、ごめんなというようにこちらに向け、手をヒラヒラとふった。

 そして、次の瞬間には幻のように消えてしまった。

「はあ……やれやれ、遊ばれちまったかぁ」

 狐につままれるのならわかるけど、蜘蛛に遊ばれるってなんなんだよ。

 

 思えば、最初にわざわざヒグマで出たのも、驚かせるつもりだったのかもしれないな。

 けど俺はノルンを連れていて、ノルンは危険を感じることができる。

 そんなノルンがヒグマを見て危険を訴えなかったから、俺も必要以上には怯えなかった。

 ……あのひと、アミタンネカムイ様から見たら、ちょっとおもしろくなかったんだろう。きっと。

 

 はぁっとためいきをついていたら、ノルンがこっちを見た。

「ん、どうした?」

「おわびだって。おまけの祝福きた」

「あらら」

 義理堅いな。そこまでしてくれなくていいのに。

「さすがにもらいすぎな気もするけど、まぁくれるってんならもらっちまうか。

 で、内容はなに?」

「クモが出てもビビらない祝福って」

「……」

 それって、お礼を言うべきなのか?

 それとも、よけいなお世話というべきなのか?

 うーむ……まぁ貰いもんだし、あれか。

「ノルン」

「なに?」

「ありがとう、余計なお世話だけど、謹んでいただきますと伝えてくれ」

「わかった……返事きた」

「ほほう、なんだって?」

「言葉じゃない。イメージ」

「教えてくれ」

「目、閉じて」

「おう」

 目を閉じると、(・∀・)ニヤニヤ笑いで肩をすくめたアミタンネカムイ様の姿が脳内に広がった。

「ノルン」

「なに?」

「あんたの未来に幸いあれって返しとけ」

「わかった」

 まったく、神様ってのはもう。

 

ひとに化けたアミタンネカムイ神様のイメージ:

 豪傑無双で、剛弓を狩弓代わりに使うような女性です。

 これは彼女が狩猟を楽しむ時の容姿のひとつですが、同時にマコトのような者に見せるための仮の姿でもあります。

 その本性は、女であり蜘蛛でもある巨大な何かです。

 そう……肉食だと感じたマコトの勘は、いろんな意味で正しいです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでいて、ゆったりした気持ちになれます。 たまにドキドキ [一言] おお!もう1年になっちゃうじゃないですか! もったいない。 強制するつもりはないですが、いつでも更新お待ちしてます。
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