シーズンオフ
正式営業してないキャンプ場やテント場を利用した事は何度かある。
シーズンオフや冬季のキャンプが一部で増えてるようなのでちょっと書いておくけど、こういう場所の利用にはいくつか注意が必要だ。
キャンプ場というのは当然だがオーナーや管理元が存在するわけで、しかも本来の営業外の時に利用しようというのだから、きちんと問い合わせをして確認をとるのが原則だ。もちろん「オフなので使わないで」と言われたら、あきらめて他を探さなくてはならない。
かりに許可がもらえたとしてももちろん、営業外の時に厚意で使わせていただいている事を忘れてはならない。
たとえば、ゴミ箱があってもゴミは持ち帰る必要がある……これはまぁ当然のことだ。営業中なら定期的に回収しているかもしれないが、やってない時に回収しにくるわけがないのだから。それこそ、鍵がかかっていて捨てられなくても不思議じゃない。
もちろん、水や電気を使いっぱなしで放置なんて論外である……まぁ最低限、炊事場も水も使えないと思って最低限の用意はしておくべきだろう。
最後になるが、営業外なのだから設営サイトも未整備の場合があり、適切に利用できるかは正直、行ってみないとわからない事もあるのは忘れないでほしい。
ぶっちゃけ。
同じキャンプ場にオンとオフの両方の時に尋ねると、管理人さんたちの仕事をしみじみと実感するよマジで。
どことは言わないけど、シーズンオフにいったらゴミの山だったところもあるからなぁ。
ところで年月というのはおそろしいもので、名寄と美深の間に高速らしきものができているのにはさすがに驚いた。まぁ今のところ旭川方面とつながってないのもあり、無料区間のようだけど。
あえてそこは使わず、40号を懐かしみつつ走る事にする。
「うわぁ……あのコンビニ、まだあったぜ」
昔と変わらない風景に一瞬、思い出の風景が重なった。
おりしも信号待ち。
そのコンビニの斜め前である、西八条北五丁目あたりの信号に停止する。
「?」
「ああ……昔、買い食いしてな、あの道端に座って食ったんだよ」
首をかしげているノルンに説明した。
「いわゆるコンビニおにぎりじゃなくてさ、惣菜パックみたいなのに2つとか3つ、入ってるやつがあるだろ?あれの、すじことツナマヨのやつがあってな。好物だったんだ」
一緒にあたためてもらって、道端で、むしゃむしゃとむさぼり食ったっけ。
ははは、若かったよなぁ。
「また食べる?」
「いや、さすがに恥ずかしいだろ」
ただの道端に座り、コンビニおにぎりですらない惣菜おにぎりを、あぐらをかいて貪り食う……ああいうのは若者、あるいは徒歩の旅人とかチャリダーとか、いっぱい食べなくちゃいけない連中の特権だと思う。
「俺はもう無理だよなぁ、色々と」
「……」
もちろん俺は知らなかった。
このほんの数日後、すじこのおにぎりと串ザンギで、道端で食事をとる羽目になるのだということを。
美深の市街地に着いた。
名寄で感じていたように、この美深の町も昔に比べると隙間が増えている。やはり過疎が進んでいるのだろうかと思うと、ちょっと悲しいものを感じる。
だけど、それでも美深の町は健在だと思う……少なくとも今のところは。
市街地を抜けてしばらく走ると、右手に道の駅が見えてきた。
「おーきたきた、久しぶりだなぁ」
だが、この道の駅は俺にとっては目印のようなものだ。温泉やキャンプ場があるのはこの奥なんだよね。
道をつたって奥に入り込む。
逆S字を描くようなカーブを通過すると駐車場のようなところに出る。左手奥に温泉施設の建物があり、右斜め前にはキャンプ場の管理施設が見える。
その横に単車を停めた。
「ふう」
テントサイトをぐるり、見渡す。
「あー……確かに残雪はあるけど」
三割くらいのテントサイトはもう乾いてて、そこに設営すれば問題ないように思う。
トントンと確認していると、アドベンチャーバイクが一台やってきた。
「やぁ、こんにちは」
「こんにちは」
「ここって「ああ、さっき管理の人と話しましたけど、正式オープンしてないけど使いたいならって事でしたよ」……なるほど」
説明しようとしたら、逆に教えてくれた。
ありがたいので、こちらで聞いた話を返しておく。
「なるほど。僕は電話で問い合わせたのですが、トイレと洗い場が使えるので、それでいいのならばと伺ってます」
「ありがとうございます」
お互いに同じ発想で来たようで、情報も大差なかった。
サイトも含めOKらしいので、一度街に戻りセイコーマートとコンビニで買い物をする。
惣菜にカット野菜があったので保護、あとバスタオルを入手。
肉類は買わず、ウインナーですませる事に。
あと、350ml缶の缶ドリンクをひとつ。
サンダルも欲しかったが、見当たらなかった。
とりあえず最低限はゲットしたので、再びキャンプ場に戻る。
キャンプ位置を決定すると、さっきの缶ドリンクを飲み干す。
で、それを踏み潰した。
薄いアルミ缶は軽い音をたてて潰れた。
……で、単車を停めると、サイドスタンドの下に潰した缶を敷き込んだ。
え、なんのためかって?
もちろん転倒防止だよ。
昔は空き缶なんてそのあたり中にあったけど、今はないからね。
最近は拡張スタンドってのがあるらしいけど俺は持ってない。
これなしで長時間停車をすると最悪、サイドスタンドがめりこんで単車が倒れる……野営ツーリングの知恵だけど、夏の北海道でも必須の知恵ですな。
うん。
帰ったら買おうっと。
テントの設営を開始する。
まず地面に敷くマットを広げる。
次に秀岳荘で買った袋を開き、テント本体を取り出してその上に広げる。
風上の二点にペグを打ち込みつつ、四隅の位置決めをする。
……本当は自立式テントなら最初にペグはいらないけど、風があったからね。
このテントはドーム型の吊り下げ式なので、ポールを広げて四隅に固定し、それに本体をパチン、パチンと吊り下げていく。
あっというまに本体ができたら、次にフライシートだ。
本体の四隅にあわせてフライシートを固定すると、さらに本体と重ならない四隅を広げ、フライシートをビシッと張っていく。
ここで手抜きすると、風で本体に張り付いたりして結露するからな。
はじめてのテントなので若干まごついたが、それでもやがて完成した。
「よし」
落ち着いたところで荷物だけ投げ込み、ローチェア……キャンプでよく使う座面の低い椅子だ……にどっかりと座り込んだ。
空を見上げる。
「……あぁ」
風の音がする。
遠くからは少し車の音もするが、それ以外は何もない。
視界に映るのは青空と、白樺の白だけ。
うん。
洞爺湖の方が環境は全然よかったけどいかんせん、ファミキャンが多すぎた。
この静けさ、やっぱり落ち着くなぁ。
ふと目をやると、徒歩旅の人がとぼとぼ歩いて入ってきた。
ああ……そういえば美深の町からこっちの途中で追い抜いたっけ。
やっぱりここに来たんだな。
よし、もういいかな?
セイコーマートで買ってきたチューハイを取り出し、開ける。
カップにも少しいれて、ノルンにも分ける。
「乾杯」
「かんぱーい」
俺たちはのんびりと飲み始めた。
「まこ、かんぱーいしてる」
「そうみたいね、はい、サーナも飲みなさい」
「ういっす……ぷはー」
「……変なとこがマコトさんに似てきたわね、この子」
「それだけ気に入ってるってことだろ。
まぁこの程度ならいいんしゃないかい?」
「ええまぁ」