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セカンドお狐様[1]

「ん?月居隧道(つきおれずいどう)なら日帰りできるだろ?」

「え?」

 それは、またしてもアパートの……つまりサワナさんとこのアパートの夕食での席上だった。

 そして相手も、例のスーパーカブで木更津方面に行ってるという例の人だった。

 しかし、その、なんだ。

 古いトンネル見物なんてマニアックな趣味を理解してくれる人がいるとは意外だった。

「けど、月居隧道(つきおれずいどう)のあたりって、茨城といってもほとんど福島ですよね?」

「大丈夫だって。朝出れば半日で着くよ。

 心配なのは帰りの渋滞くらいだけど、最悪でもどこかで休めばいいだろ?」

「……」

「ふーむ」

 カブおじさん……ちなみに小御岳(コミタケ)さんというらしいけど本名かは不明。

 まぁそれ以前に、まず人間なのかも確認してないけどな。

 え、どういうことかって?

 前に新宿で、以前から見覚えのある店員が実は人間じゃなかった件などもあってさ、あれからいろいろと研究してたんだけど……どうも人間かどうか一発でわからない人もいるみたいなんだよね。

 で、小御岳さんもそういう「よくわからないひと」の一人。

 でもさ。

 ひとに面と向かって「あなた人間?」って尋ねる勇気は俺にはないわけで。

 それに、はっきりいって生活しているぶんには知人の種族なんかどうでもいい。

 だから俺は今も、小御岳さんが何者なのか知らずにいるわけだ。

「ま、とりあえず行ってみなって。この間の大多喜の隧道よりは簡単だぜ?ナビも通じるし」

「行ってみます」

 廃道と区別がつかないようなとこはダメだが、ナビも通ってるとこなら悪くないかも。

 そろそろ一日の限界距離も見ないとダメだしなぁ。

 

 

 そんなわけで。

 とある早朝に俺は単車に非常用の雨具を積み込み出発。

《しゅっぱーつ》

「……おまえら、のどかだなぁ」

 それだけつぶやくと、俺は夜明けの東京を走り出した。

「前方、車なーし」

「後方、原付一台、でも遠いー」

「問題ありません」

「おう、ありがとな」

 走行中でも普通に会話できるのは便利なもんだ。

 今やすっかり馴染んでしまったノルンたちは、単車のあちこちに自分の定位置を見つけたようだった……といっても三体とも全く同じで未だに区別すらできないんだけども。

 まず一体はデジタルメーターのそばにいて、スマホの画面を監視しては俺に伝えてくれる。

 運転に集中する俺の代わりにスマホの操作もしてくれるので、正直ものすごく助かっている。

 次なる一体は後部。

 シシーバーの上に飾り半分で縛り付けたキャップ型ヘルメットがあるんだけど、そのあたりを定位置にしている。

 で、最後なんだが。

「おまえ、本当にそこでいいの?」

「うん」

 こいつは遊撃手的にウロウロしているんだが、だいたいの定位置は社外品の大きなエンジンガード。

 俺の単車、ホンダレブル250は水冷エンジンなんだが、格好優先でラジエターまわりを防御するパーツがない。で、俺はそこに大きなエンジンガードをとりつけてもらっている。

 多少ダサくはあるが、カメラや補助ライトをとりつけたりする事もあるので、それはオイておこう。

 ノルン的には、カメラとりつけ用の雲台はちょうどよい椅子であり、ところどころに俺が追加した金具やフックは遊具のようなもんらしい。走行中にはほとんど膝のちょっと先くらいの場所で、ちみっこい妖精みたいなのがキャーキャーいってるわけだけど。

 ……まぁ当人がいいのなら、それでいいだろう。

 

 そんな賑やかな……でも普通の人には見えないお供をつれ、国道四号線を目指す。

 ただし出発地点が新宿区なので、中心部を横切らずに池袋経由で四号線合流をめざす格好だ。

「ふむ?」

 この時間の明治通りは通行人が少しいるが、さすがにノルンたちに気づく者はいないようだ。

 四号線に入ってしまえばバイパス道が増えるので問題ないけど、ここいらで見つかってしまうと、信号待ちとかで相手が来てしまう可能性もないとはいえない。面倒がないに越したことはないのだ。

 池袋を通り、王子(おうじ)経由で荒川を渡る。埼玉県に入ったわけだけど、このあたりは個人的には都心部の一部と考えているので、深く考えることなくナビに従って進んでいく。

 一時間半ほど走ったところで、道の駅『まくらがの里こが』に到着。

 よし、ひとまず休憩。

「とりあえず都心は出たか」

「でたかー」

「おぶー」

「なー」

 珍妙な反応をするノルンたちに苦笑しつつ、俺は体調を確認する。

 冷えたりはしてないな、よし。

「この調子だと11時くらいに着くかな?」

 ナビは10:40だといっているが、休憩だの迷ったりで二、三十分は余計にかかると見るべきだ。

 そんなことを考えていたら、突然に声をかけられた。

『妖精連れとは、また珍しい男子(おのこ)よのぅ』

「!?」

 ぎょっとして思わず振り向いたら、そこには平安時代のような異様な風体の女性が立っていた。

 古風な言い方に驚いたが、それよりも、そのインパクトの強い容姿に驚いた。

 ……ちなみに、ちんちくりん、あーんど、ぽっちゃりなお姉さんである……うん、ミニマムタンクな感じ。察してくれ。

『今どきの価値観とやらは寂しいものよのぅ。かの宮様(みやさま)()いのうと仰せられ、わらわのために和歌(うた)をくだされたというのに』

 宮様ってのは皇族のことだけど、これは間違いなく百年や二百年前の話じゃないよな。

 ついでにいうとこのひと。

「……ちなみにそれっていつの話だい、狐のお姫様?」

『ほほう、ひとめで見破りおったか……さすが、目が開いておるだけあって詳しいのう。

 スンスン、この()()つ国の海の者じゃな?ほほほ、若いのう』

 そんなことまでわかるのか。

『そう気負わんでよい、いかにわらわとて、印あるものに手出しなぞせぬ。

 ところで言葉はわかるかや?今どきの言い方とやらに、なるべく合わせているつもりじゃが』

「ちょっと変ですよ、でもまぁ大事ないかと」

 かなり変だとは思うけど、鎌倉や平安の頃の日本語じゃ会話にならないはずだ。

 そう考えると、かなり工夫して今風にしてくれているんだと思う。

「ところで、手出ししないというのなら、なぜ俺に声を?」

『珍しい者がおったので声をかけた、それだけじゃ。ちなみに行き先はどこなのじゃ?』

「茨城の山の中、じゃあダメか……常陸(ひたち)の国の山奥にある隧道見物に行くんです」

『ほほう、さようか……ひとつたずねるが、途中、宇都宮にある神社の近くを通るかや?』

「宇都宮の神社ってーと……宇都宮大明神あたりかな?」

『うむ、だいたいその理解でよい。

 よければ、連れて行ってもらえるかの?

 もちろん無報酬ではない、その妖精っ子どもに、わらわの恩恵をくれてやろうぞ』

「そりゃあありがたいけど、こいつらの人格が変わるような強烈なのはいらないぞ?」

『言いよるわ……もちろんわかっておる、わらわとてあの女の敵に回るつもりはないぞ』

「あの女?」

『そなたの背後におる巫女じゃ、あやつに封印をいじられでもしたら、こうして出歩けなくなりかねん』

「封印ね……まぁいいですよ、悪さしないなら運ぶくらいできますよ。

 でもさ、鬼怒川を渡るまでは四号線だから近くを通るけど、いいのか?」

『ん?何がじゃ?』

「いや、あそこって大物主様だろ。お狐様が近寄って大丈夫なのか?」

『大物主どのは和御魂(にぎみたま)ゆえな。

 目にあまる悪さでもすれば別じゃろうが、ふらふら浮世見物をしておるだけのわらわには何もせぬ』

「そうですか」

 問題ないらしい。

「わかった、じゃあ乗りな……ああそうだ、メットもかぶってな」

 シシーバーにとりつけてあるヘルメットを外し、平安っぽい姿の狐の姫様にかぶってもらおうとした。

 だが。

『いや、それには及ばぬ』

「え、でも」

『見るがよい、妖精が寝ておるではないか』

「あ」

 そういえば、ノルンがメットにしがみついて寝てた。

『寝る子は寝かせておくがよい。

 わらわは肉の身をもたぬゆえ、(かぶと)()らぬしのう』

 なるほど。

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