洗車と幼女
久々の更新になります。
ちょっぴりエロい部分があります。
表現は極力抑えたつもりですが、問題があるようなら訂正する可能性があります。
急に暖かくなってきた。
一度は寒さが戻ったりもしたんだけど、とうとう春一番まで吹いちまった。
これはもう春かな?
「いい陽気だなぁ」
ある休日の朝、俺はサワナさんとこのアパートで単車を洗っていた。
うちのアパートは外に水道がなくて、コイン洗車にわざわざ行ってたんだが……その話をしたらサワナさんが、アパートの庭先がいいですよって。
いや、さすがに住民でもないのに借りたらまずいだろと言うと、水瀬さんからオッケーが出ちまった。
なんだか不気味な笑みと共に。
ちなみに、ここのアパートは外来者にもめしを食わせてくれる。
まぁご近所とか住人の縁者限定だけど、前払いで払っておけば用意してくれる。
だから最近はアパートで自炊せず、ここでいただくのが増えててさ。
しかも値段聞いたら俺の自炊より安く、しかもうまく、メニューに悩む必要もない。
なので、いっそ思い切ってと月払いで払っちゃったんだけど、それでも、あくまで外来でめし食ってるだけであり、俺は住人じゃない。
あ、まさか。
サワナさんの部屋代に、少しだけ応援はじめたのがバレてる?
え、何やってるんだって?
いやだってさ、週一だけど泊まったりしてるし、時々飲んでそのまま……ってこともあるから、多少なりとも出しとかないとサワナさんに負担かけるばかりと思ったんだけど。
ま、それはいいか。
単車を掃除して水洗いして、きれいになったことを確認する。
俺の洗車はピカピカにするためでなく、サビや故障がわかるように泥汚れなどを取っ払うのが目的なので、本当に軽く洗えばいいのだけど。
「あらいあらいー」
「きれいきれいー」
「ひかりひかりー」
いつものチビ三匹が、陽光でキラキラ光る濡れた単車の上で踊る。
こいつら、洗ってると単車の周囲を飛び回り「ここ泥ー」とか教えてくれるんだよな。俺は掃除がヘタクソなので正直ものすごく助かる。
掃除を終えると、なぜか単車まで喜んでいるような気がした。
あーうん、こんなズボラな主人で悪いな。
そう思いつつポンとハンドルに手をやっていると、ふと視線に気づいた。
その方向を見ると、三匹がニヤニヤ笑っている。
「なんだ?」
「べつにー」
「おんなたらし?」
「えろえろ?」
「……よくわからんがおまえら、サーナに変な言葉教えるんじゃないぞ」
子供ってのはどういうわけか、大人が覚えてほしくないと思うような汚い言葉をすぐ覚えるからな。
この三匹はサーナと接触が多いので、特に釘をさしておく。
「だいじょうぶ」
「まかせて」
「ぬかりない」
「……なんとも頼もしい限りだが、まあいい、たのんだぞ?」
「ういっす!」
「まかせりー」
「どすこい」
……不安だ。
「おはようございます」
「おはようございます……おはようサーナ」
「おはよう!」
「あらら、さっきまで眠そうだったのにパ……マコトさんがいらしたら元気になっちゃって」
「パ?」
「うふふ」
笑顔でごまかされた。
……パ?
「そういやサーナって、どうやって俺の部屋に来てるんですかね?」
「ああ、鍵かけてるのに入ってきちゃうんですよね?」
「ええ、それです」
たまに朝、俺の部屋で寝てたりするんだよね。
何か特殊技能でもあるんだろうか?
俺は寝る時きちんと鍵をかけるんだけど、そんなものサーナには関係ないみたいでさ。
だいいちサワナさんの部屋にも、このアパートにも鍵はかかっているわけで、深夜に幼女が外に出るなんて無理なはず。
「サーナくらいの頃の子には、時々いますよそういう子」
「ほう、種族特性か何かで?」
「通称『ひっつき虫』というんですが、両親どちらかの間を行ったり来たりする、幼少期にだけ発現する特殊技能なんですよ」
「ほほう?」
以下、サワナさんの説明である。
「たとえば、私と寝ていたこの子が、ふとマコトさんと寝たいと思ったとしますよね?
そうしたら、私の部屋の鍵も、アパートの入り口にある鍵も、ふたつの部屋の間の距離すらも無視してマコトさんのお部屋に瞬時にあらわれ、そして一緒に寝てしまうんです。
それだけといえばそれだけなんですが」
「なんですかそれ……いや、でも、距離も関係ないってマジですか?」
「大陸間を渡ってた記録もあるくらいですから」
「……おいおい」
呆れていたら、さらにサワナさんは付け足した。
「もともとこの技能は、生き残りのために身についたと言われてます」
「え、生き残り?」
「たとえば魔物もいる危険な山を越えているとしますよね?
親には町で子供をおんぶしているような余裕がないわけですが、それでも敵がいれば戦わなくちゃいけないんです。
こういう時、まだ弱く小さい子供は、最悪の場合捨て石に、つまり置き去りにされる事があるんです」
「え、ちょ、見捨てるの?」
さすがに驚いたが、サワナさんの話は続いていた。
「ひどいと思われるでしょう、けど考えてください。
親は身を挺して子を守りますけど、でも無理なものは無理なんです。
それに多くの場合、子供はその子一人だけでなく、家で待ってる子供もいるんですよ。
親が死んだら、家で待つ子はどうなりますか?
そして親の犠牲で助かった子は、生きてひとりで家に帰れますか?」
「……そういう事ですか」
きっついなぁ、それは。
「だから最悪親は子を捨て、そして、家に帰ってから自分の所業に泣き、見捨てた子に謝るんです」
「……そうか」
なんともいえないなぁ。
「ああ、それで親にくっつく能力か。置き去りにされても殺される前に、瞬時に移動するわけだ」
「はい、そう言われています。
研究家の話では、幼少期をすぎると能力を失うこと、発動中の子供がまったく声を出さない事がその証拠だそうです。
一時的なものとはいえ、やはりそういう特殊能力の行使は負担になりますから、必要なくなれば本能で捨てるか封印してしまうんでしょう。
それから、そういう危険な状況で大きな声を出せば、それだけで命にかかわるでしょ?」
「……そうだな」
そう考えると、たしかに合理的だからすごいな。
ところかわれば品も変わるというけど、変わった能力もあるもんだなぁ。
……あれ?
「ちょっと待ってください」
「なんですか?」
「今の論調だと、俺が父親という事になりませんか?」
「重要なのは、その子に親と認識されているかどうかですから」
「……」
笑顔で言い切られて、俺は困って頬をかいた。
「俺が父親ね……思ってくれるのは嬉しいですけどねってサーナ、もうごちそうさまか?」
「うん!」
「ごちそうさましたか?」
「うっ」
言葉に詰まった、やってないんだな。
「ああよしよし、ほれ、こうすんだ、マネしな?」
「ういっす」
「手をあわせてぇ、ごちそうさま!」
「ごちゅしょうしゃま!」
「うむ、いいぞ上手だな!」
「えへへ」
頭をなでてやると、とてもごきげんになった。
「サーナ、ごはんつぶついてるぞ、ほら」
「んー」
きゃっきゃ言いつつ俺の膝に乗ってくるサーナの頬から、ごはんつぶをとってやる。
サーナも歯を磨くが、まだ一人では難しいのでまた後だ。今は大人組が食事をすませないといけない。
……ん?
「?」
ふと気づくと、サワナさんが妙におだやかな目で俺を見ていた。
「えっと、なんですか?」
「うふふ、なんでもないわ」
「??」
見れば、なんか周囲で朝食を取っている人も笑顔でこっちを見ていた。そして俺が目を向けると、サッと自分の食事に戻ってしまった。
……なんなんだ、いったい。
その日の夜、おかしな夢を見た。
よく知ってるような知らないような、不思議な場所に俺はいた。
広大な森林公園、その隅っこの方にある小さなあずまや。
そこで俺は、見知らぬ……いや、どこか見覚えのある女の子に、とても人には言えないような事をしてもらっていた。
「うっ」
「♪」
黒一色のスレンダーなドレスに包まれた、日焼けした黒猫のような肢体。
髪はショートカットで、脱色の跡のかけらもない、一本一本が陽光にきらめくような見事な黒髪。
そんな子が、かわいい手で俺に迫ってくる。
「っ!」
どう、気持ちいい?と確認してくるような、にっこり笑顔。
でもその笑顔と裏腹に、下の方では同じ彼女の手が動き回り、俺から情熱を吐き出させようとしている。
ああくそ、この子はドSってやつか。
行きなさい、行っちゃいなよと普通の笑顔で言うさまが実におそろしい。
って、やばいっ!
「っ!!」
逃げようとしたのに、逃げられなかった。
逆に俺は彼女に押さえつけられ、その手の中に情熱を……。
うわぁぁぁ……しまった、やらかした、なんてことを。
焦った俺は全力で謝ろうと彼女を見たのだけど。
「……」
彼女はなぜか笑顔になり、むぎゅううと俺の頭を抱きしめるのだった。
……いや、気持ちいいけど苦しいから、おい。
「……」
なんというか、やけに息苦しい目覚めだった。
「……」
あー、うん。
なんで俺は、幼女に顔をボディプレスされてるんだ?
やたら楽しい夢だと思ったら、最後のオチがマヌケだろ。
年頃の娘さんの胸にしては妙だと思ったら、そういう事か。
俺にもたれて寝るなとは言わんが、せめて腹とかにしてくれよ。
なんで俺の頭を腹で押しつぶして、しかも、さかさまに寝てるんだよ。
「……」
サーナを落とさないよう、そーっと起き上がった。
で、同じく寝ている三匹と一緒にして毛布をかけておく。
よし、これでもう少し寝ているだろう。
今のうちに朝の急用をすませよう、うん。
急いで着替えをもち、洗面所に走る。
はぁ、最後の最後にこれかよ。
起きたらアパートまで連れて行かないとな。