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元気な子供と実態

「キャハハハー!」

 波の音と共に響き渡る黄色い歓声。

 打ち寄せる波に大喜びし、無心に駆け回る幼子の声。

 もちろんその声の主はサーナちゃんなのだけど、それだけではない。

 どうやら俺たちの他にも子連れ客がいるようで、半分赤ちゃんみたいな幼い子がサーナちゃんの他にも一人いて、さらにその子のお姉ちゃんなのか、学校用と思われる水着姿の小学生くらいの女の子が油断なく二人のチビっ子を監視している。

 ああそうか、波打ち際だからな。

 砂浜で怪我なんてしないだろうと思うのは素人考えだ。

 むしろ波にさらわれたり、波打ち際で足元を乱してすっ転んだりと、特にバランスが悪く力も弱い幼子だと、どうしても怪我しやすくなるし危険もある。

 まぁ、管理されたプールよりずっと危険といえば、わかってもらえるだろう。

 

 さて、それはいいんだけど、いくつか問題がある。

 

 まずひとつめ。

「……まぁ、性別もあってないような年頃だしなぁ」

 そう、ちびっこ組は全裸(すっぽんぽん)で遊びまくっていた。

 なんつーか、ちびっこだから許される光景だよなあ。

 サーナちゃんと遊んでる子、ちんちんついてるし。

 

 いや、ちびっこでも五年後に見かけたら引っぺがすけどな、サーナちゃんにはまだ早い。

 まぁ今は、ほら、子猫が二匹じゃれてるのと変わらんから、う、うん。

「マコトさん、顔がひきつってますよ?」

 振り返ると、サワナさんが笑っていた。

「あーその」

 ちなみにサワナさんも水着である。

 シンプルなビキニなんだけど、細すぎず太すぎないサワナさんの体型に実によく似合っている。

 腰に巻いている白いパレオってやつがちょっとセクシーだな。

 

 え?おまえは普通の格好なのかって?

 いや、サワナさんがきっちりと用意してくれていた海パンを履いてるよ。

 まぁ野郎の水着なんてみんな興味ないだろ?な?

 

 ところで、ちょっと気になったことを質問してみたんだけど。

「その水着、とてもよく似合ってて素敵ですね」

「ありがとうございます」

「ところで、ひとつだけ質問いいですか?」

「はい」

「これは純粋に知的好奇心からの質問なんですけど。

 子育てという目的が入った時、女の人はどういう水着が便利なんでしょうかね?」

「あー……それは、ひとによると思いますね」

 ほほう。

「わたしの場合は母乳なので、授乳中は胸のところだけ簡単に外せるタイプがよかったです。

 だけど離乳してからはどうかしら。

 妊婦用や授乳期用の水着もあるけど、いっときの事だからって普通ので代用する人もいますよ」

「おお……妊婦さん用はわかりますけど、授乳期用の水着なんてあるんだ」

 これは知らなかった。

 ところで。

 忘れてる人もいるかもしれないが、サワナさんは海の一族ってやつで、平たく言えば半魚人的な種族だ。

 当然、ビキニの水着なんて着ると、人間と違う部分がモロに色々見えちゃうはずなのだけど。

「うーん……改めて見ても素敵だけど、不思議でもあるなぁ」

「不思議、ですか?」

「いや、失礼かもですけど。

 人間と違う種族なんだから、こう、もっと人間とは違う姿なのかなって思ってたんですよ。

 つまり人間の俺から見たら、キレイではあっても異質なものじゃないってね」

 なんせ耳たぶのところが、水かきつきの笹穂耳みたいになってるもんなぁ、身体だってどうなってることやらと思ってたんだけど。

 普通に女の人じゃないか。しかもきれいな。

 そういうと、サワナさんはクスクス笑った。

「うふふ、ありがとうございます。でもわかりませんよ?」

「え?」

「布にかくれて見えないところが、違うかもしれないでしょ?」

「あー、たしかに」

 でもこれ以上っていったら、完全に十八禁レベルになってしまう。

 もう女性に向かって「見せて」と言えるレベルじゃないよなぁ。

 そんなことを考えていたら、なぜかサワナさんが笑いだした。

 え、なんで?

「うふふ、いえ、ごめんなさい。友達の話を思い出しちゃって」

「というと?」

「いえね、同棲をはじめた友達で、彼に恥ずかしいところをはじめて見られた時の話なんですけど」

「……それは、ちびっこもいる昼間の浜辺でするような話じゃないのでは?」

 いちおう抵抗してみたんだけど、いいえと笑って流された。

「変なお話じゃないんですよ、ちょっと笑えますけど」

「というと?」

「流感にやられて高熱出しちゃったんです。それで色々あって彼氏さん、彼女に座薬入れたんですよ」

「それって……まさかと思うけど、彼女のお尻に?」

「ええそう。

 本人たちは大変だったみたいですけどね」

「そりゃそうだろ」

 思わずためいきをついた。

「ひとつ質問なんですが、それ以前のふたりの進展状況は?」

「手をつないだくらいですね」

「うわぁ」

 俺は、自分の顔がひきつるのを感じていた。

 

 いやだって、それはきついだろ。

 手を握るのがせいいっぱいの仲で、いきなり座薬て。

 

 そういうのって男の方がハードル高いんだよなぁ。

 彼氏さん、どんな悲壮な覚悟で座薬使ったんだか。

 

「ちなみにこのお話には、ちゃんとオチもあるんですよ?」

「まさかと思いますけど、彼女が直ったあとに彼氏が倒れて今度は座薬入れられたとか?」

「ええ、よくわかりましたね?」

「物語では定番のオチですからね」

「なるほど」

「ちなみにそのお二人は今?」

「結婚してますけど、とてもいい関係なんですよ?……うらやましいくらい」

 

 なるほど、それは素晴らしいことだな。

 リア充だのなんだのといっても、そんな関係になれている夫婦なんて、全夫婦の何%いる事やら。

 

 そんなことを考えていて、ふと視線に気づいた。

「お」

 なんか、サーナちゃんが海からこっちを見ていた。

 突然に満面の笑みを浮かべると、すごい速さで海から上がってきた。

 そして。

「お」

「あら」

 俺とサワナさんの手をそれぞれ掴むと、がしっと自分の前でくっつけた。

 そして。

「……にひ」

 手をつないで、満面の笑み。

 その幸せそうな笑顔に、俺は、ほっこりとしつつも、ちょっと心にひっかかるものがあった。 

 

 

 サーナちゃんはまた遊びに戻っていってしまった。

 だけど、時々チラッとこちらを確認して、そして安心している姿が気になった。

 思い切ってサワナさんに質問してみることにした。

「ちょっといいですか?」

「はい、なんですか?」

「失礼は承知の上ですが、すみません気になりまして」

「?」

「もしかして前の旦那さんと、ぎくしゃくしてた事ってあります?」

「!」

 サワナさんは、驚いたような顔で俺を見ていた。

「……えっと、それは」

「あー、俺の思い過ごしとか、そういうのだったらごめんなさい。

 あと当然ですけど、言いたくない話ならいいです、ホントすみません。

 ただちょっと、サーナちゃんの笑顔っつーか態度っつーか、前から気になってたことがあって。

 それで今のサーナちゃんの行動で、それがハッキリと疑惑になったというか」

「……」

「なんというか、うまく言えないんですけど」

「……サーナはマコトさんがすごくお気に入りですから」

「それはそれですごく嬉しいけど、それだけなんでしょうか?

 なんか俺には、サワナさんと仲良くしてほしいって気持ちが大きいように見えるんですが」

「……」

 

 そうなんだよね。

 ただ俺が気に入って甘えたいのなら、俺にベタベタするだろう。

 けどサーナちゃんのは違う。

 単に俺にベタベタするのでなく、ことあるごとにサワナさんとペアにさせようとする。

 今だってそうだ。

 俺たちをふたりっきりにさせて自分は別の人と遊ぶ。

 で、浜辺に出てきたら、俺たちの仲を確認する。

 

 これ、少なくとも、単に俺に懐いてるのと違うんじゃないかな?

 

「すみません、立ち入ったこと聞いちゃって。

 けどサーナちゃんに関係する以上、俺も多少は知っとくべきなんじゃないかって」

「……そうですね、少しお話します」

 サワナさんは観念したように言うと、ちょっと悲しげに苦笑した。

「おっしゃるように、わたしたちはうまく行ってませんでした。

 都心に出たのはいいんですが、いい仕事もないし、やっぱり海は遠くて。

 こっちに帰りたいわたしと、都会で一旗あげたいあの人の間で色々と、まぁ」

「……そうですか、すみません本当に立ち入ったことみたいで」

「いえ、いいんです。

 まったくの他人ならそうかもですけど、マコトさんは違いますから。

 むしろ、もっと早く昔の話もしておくべきでした」

 でも、とサワナさんは言い添えた。

「一番ぎくしゃくしていた頃、あの子はまだ生まれてなかったんです。

 それにあの子の前では、そういうところは見せてなかったはずです。

 ですから……さすがに、それが原因という事はないと思いますが」

 考えすぎだっていうのか?

 でも。

「あーいや、それはどうかな」

 俺はちょっと首をかしげた。

「子供って、両親の不和には敏感なものだと思いますよ。

 それに、しばしば、ビックリするような理解力も持っています。

 態度に出さなくても実際にぎくしゃくしてたんなら、気づいてた可能性は決して低くないと思います」

「……」

 あー、これは「わかってたけど目をそむけてた」って顔だな。

「もちろん意味はわからないし、何があったのかも知らないでしょう。

 ただ、なんとなく仲違いを知ってるとしたら。

 仲良くしてほしいとか、何とかしなくちゃとか、そういう行動に反映される可能性はあると思うんです……ま、あくまで素人の推測ですけどね」

「そう、ですね。たしかに」

 サワナさんは大きくうなずいた。

 

 

「ところで話を戻しますけど」

「あ、はい」

 なんだろう?

「座薬のお話をしたあたりから、わたしの腰まわりに注目していらっしゃるようですけど。

 ……そんなに気になります?」

「いえいえ!」

 あわてて否定したけど、サワナさんはにっこりと笑った。

 どうやらお見通しのようだった。

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