9
「グッゴガッグ!」
いえてぃ
朝六時。
左肩にぐったりと重さを感じながら、誠次は目を覚ました。
「ティエラ……」
すーすー、と寝息を立てているティエラの頭をそっと触り、起こさないように退かそうとする。こちらの左指と、ティエラの五本の右指は、絡まったままであった。
どうやら二人とも、寄り添い合った姿勢のまま眠ってしまっていたようだ。腰に変な違和感が残ったが、それも立ち上がって伸びをすれば、すぐに治った。
「喉が渇いた」
眠るティエラを部屋に残し、誠次はあくびをしながら通路を歩く。
ドリンクバーの前に立ち、温かい紅茶をセットしていると、見覚えのある男子が横に立った。
「おはよう誠次」
「ん。おはよう聡也」
こぽこぽと音を立て、ルームメイトの聡也はブラックコーヒーをよそっている。
「相変わらずブラックコーヒーか……。本当、よく飲めるよな」
「朝早くに飲めば目が冴えるし、その後の活動が効率的になるぞ」
聡也はコーヒーを待つ間、朝の新聞を、腕時計型の電子タブレットから出力したホログラム画像で眺めている。
誠次もまた、紅茶を待つ間、デンバコを起動し、インターネットサイトでネットニュースを確認する。
やはり、隻腕の皇女の事も、それを守る高校生剣術士の事も、どのサイトにも載ってはいない。目を引いたのは所詮、神奈川県で最新鋭のヘリコプターが立体駐車場の上に不時着したことと、静岡県のトンネル内で車両事故が起きた、ぐらいだ。
是が非でも光安はティエラの存在を、文字通り闇に葬ろうとしているのだろう。
「今年の魔法学賞に日本人魔術師が受賞される見通し、か……」
隣に立つ聡也も、ぶつぶつ呟いている。
誠次は淹れたての紅茶を口元で冷ましながら呑み、ふうと息をつき、電子タブレットをズボンのポケットにしまい、そっと、黒い瞳を横に立つ聡也へと向ける。
そうして、ようやく、ツッこんだ。
「いや、なんでここにいるんだ!? あまりにも平日の寮室の朝すぎる会話に、あまりにも自然と受け入れていたぞ俺はっ!」
仮にも他の利用客もいると言うのに、朝から誠次は元気の良い声で、聡也に向けて怒鳴る。
「……八ノ夜理事長から言われてな。昨日の夜から、ずっとここにいた。ここはみんな静かで、勉強するのには持ってこいな場所だな」
「なぜに!?」
「お前を援護するためだ。すでに街中には、大勢の光安らしき人がいる。大方監視カメラの映像を見て、お前がまだここにいると推測したのだろう。現にお前は、ここにいたしな」
聡也が赤い瞳を向けて言ってくれば、誠次は慎重に頷いた。
「そうか……。どうやってもティエラを葬りたいらしいな」
「安心しろ。バイクを預けている倉庫までのルートは確保している。問題は見つからないか、だが――そうこうしている時間もないな」
コーヒーを飲みながら、聡也が漫画喫茶の入り口を睨んでいる。
そこからは、二人組の私服姿の男が入って来ていた。
「――すまない聡也。紅茶の片づけを頼む」
「ああ」
誠次は台から腰を離すと、ティエラのいる部屋へと戻ろうとする。
そんな誠次の急ぐ背中を、聡也は呼び止めた。
「一つだけ、言っておく」
「なんだ?」
「もしも行先に霧がかかっても、森の博士ならなんでも知っている」
男らが近づいてきている。
そんな中で、聡也はそのような事を言ってくる。
誠次はその言葉を頭の隅に残しながら、急いでティエラの元へ戻っていった。
「――間違いないか?」
「――ああ、アイツだ」
その直後、二人組の男が私服姿の聡也の目の前を早足で行こうとする。
聡也はコーヒーカップと、誠次が残した淹れたての紅茶を両手に持ち、前へと進む。
当然、進行方向上にいた二人組の男と肩がぶつかり、聡也が両手で持っていた黒と紅の熱々の飲み物たちは、二人組の男の頭に綺麗に降り注ぐ。
「「熱っ!」」
湯気すら出ている状態の液体を浴び、二人組の男は悲鳴を上げる。
故意に衝突した聡也は、やや芝居じみた仕草で、両手を上にあげていた。
「す、すみません……。前を見てなくて……」
「ふ、ふざけんな餓鬼が!」
「熱いなちくしょう!」
二人組の男が揃って聡也を睨み上げる。
謝罪する聡也の右手では、すでに幻影魔法の魔法式が、光り輝いていた。
「「なにっ!?」」
「この魔法は嫌いだけど……《ヴェルミス》!」
どうやらあの人が言う通り、やはり同じ血が、流れているらしい。憎たらしいほど嫌いな兄と同じ種類の魔法が、自分も得意なのだろうか。
だとすればそれは、抗うことの出来ないもの。ならば精々受け入れて、自分なりに納得していかなければならないのだろう。
そうと割り切った聡也は、大嫌いな兄も得意な幻影魔法を発動していた。
誠次が部屋に戻ると、ティエラはすでに起きていた。
寝ぼけ眼を擦りながらも、黒いシートの上で立ち上がろうとしているところだ。
「ティエラ、立てるか?」
「ええ……この騒ぎは、追手ですか?」
誠次が差し伸ばした手を左手で取り、ティエラは完全に立ち上がる。
「ああ。包囲されているようだ。逃げなければ」
誠次はティエラの手を繋いだまま、ティエラが靴を履くのを手伝う。
「さあ、行こうティエラ!」
「お願いします、誠次!」
見れば、入り口側の通路の先の方で幻影魔法《ヴェルミス》による魔法の霧が発生している。
「ここの店の出口は二カ所。入り口の昨日の夜来たところか、非常口だ。入り口から追手はすでに来ている。反対側の非常口から逃げよう」
「かしこまりましたわ。私はいつでも行けます」
「――見つけたぞ!」
入り口側の方から、男が一人、猛然と走って追いかけてくる
ティエラの首元目がけて伸ばされた男の手を、誠次は咄嗟に腕ではらう。
その隙にティエラを後ろに走らせると、男が誠次の腕を掴み、固めようとしてくる。
影塚との訓練でその掴み技を知っていた誠次は、男の身体の横に動きながら腕を解き、逆に男へ向けて拳を突き出す。
が、男もただ者ではない。魔法以外の戦闘訓練も日頃からこなしているのか、誠次の打撃を難なく片腕で受け止め、弾き返す。
誠次も引かず、今度は男の脇腹を目がけ、右脚を振り上げる。
男は誠次の攻撃を今度はいなしきれず、鋼鉄の腹筋にばちんと、痛々しい音が鳴った。
誠次はすぐに足を引くと、怯んだ男の背後に回り込み、逆に男の腕を掴み、関節を押さえつけようとする。
誠次の動きを読んだ男は、腰を一瞬だけ低くすると、背中に回った誠次を身体ごと持ち上げ、前方へ投げ飛ばす。
狭い天井通路の下で投げ飛ばされた誠次は、空中でしなやかに身体を制御すると、男の方を向きながら片膝をついて着地する。
「なにっ!?」
すぐに顔を上げる誠次であったが、その黒い瞳が捉えたのは、男が腰のホルスターからシューター式のスタンガンを抜き出そうとしている瞬間だった。
誠次は立ち上がりながら、一気にトップスピードで男の懐に接近。手刀にて、男がこちらへ向けたスタンガンを弾き飛ばした。スタンガンは床を滑るように転がっていき、誠次の後ろの方へ。
こうなればと、男は誠次目がけて右手を突き出す。
誠次はそれを顔を傾けて躱すと、お返しとばかりに男の顔目がけて右手を突き出す。
男は誠次の一撃を左手で掴んで受け止めて見せ、腕を捻り上げるように回転させた。
誠次はその動きを見切り、腕の回転に合わせて自身の身体も回転させ、男の拘束から逃れると、男の顔めがけてニ発のジャブを喰らわす。
男が顔をガードして怯み、後ろへ下がったのを見た誠次は、床を蹴って高く跳び、男の顔目掛けてキックを行う。
顔から腕を離した瞬間、誠次の靴底を男は顔の全面で受け止め、大きく仰け反った。反動を両足では受け止めきれず、とうとう男は、背中から通路の上へと倒れていた。
「ハアハアっ! 朝からとんだラジオ体操だな……!」
一瞬にして額に滲んだ汗を拭いはらい、誠次は再びティエラと共に走り出す。彼女の手を掴んで、向かうのは非常階段。外へ出るために、階段を駆け下りようとするが。
「っく、下から大量に来ている! ――使い魔か!」
気配を察知した誠次は進退窮まり、思わず立ち止まる。
「いたぞ!」
店の中からも、すでに異変を感じた追っ手の仲間が迫ってきている。
焦る誠次とティエラの元にまで、店の中で発生した《ヴェルミス》の霧は追いついた。
一瞬にして周囲が夕闇のような視界不良になり、誠次とティエラの視界にまで、影響を及ぼす。
「なんだこの霧は!? 空間魔法を起動しろ!」
「無駄だ! 奴にそれは効かない!」
光安らの怒声がそこかしこで聞こえてくる。大人数がこの漫画喫茶にいるのだろう。
誠次はティエラの右手をぎゅっと掴んだまま、周囲を睨む。
もはやどこがなんなのか、方向感覚すらなくなってしまった本の迷路の中、確かに聞こえてくる猛禽類の鳴き声があった。
――ホッ、ホーッ。
梟の、鳴き声だ。
「行き先が見えずとも、フクロウの声に従え、か……」
聡也の言葉を思い出し、闇雲に動かずに、誠次はそっと、目を瞑って森の博士でもあり、忍者でもある彼の声を聴く。
「――こっちだ!」
「誠次!?」
すぐにその声を割り出した誠次は、迷うこともなく、フクロウの声の元へと向かう。
「――天瀬さん、こちらです!」
フクロウの使い魔の主である、小野寺の声はすぐ傍で聞こえた。
相変わらず今どこに自分がいるのかよくわからないが、誠次は小野寺の手を掴み、彼と共に走り出す。
「出口まで案内してくれるのか、小野寺!?」
「残念ですけれど、入り口も非常口もすでに光安によって占拠されています。どちらからも出ることは容易ではないでしょうね」
小野寺はこの霧の中でも、まるで全てが見えているかのように、すいすいと進んでいる。
「貴女、この霧の中で見えますの!?」
ティエラも、驚いている。
「ええ、お姫様! 自分の使い魔のフクロウは、こんな霧の光景の中でもすべてを見通すことが出来ます。自分は彼から指示を受け取って、走っているだけですが!」
ここから階段です、と小野寺が言い、誠次とティエラも階段を駆け上がる。
「上へ逃げてどうするつもりだ!?」
誠次が問う。
「自分と聡也さんが、出来る限りこの漫画喫茶の中で敵を引きつけます。お二方は、ここから飛び降りてください!」
小野寺が立ち止まったのは、ビルの非常階段の途中にある窓を開け、二人を自身の後ろへと誘導する。
「すまない。助かった小野寺!」
「ありがとうございました!」
誠次とティエラが同時に頭を下げると、小野寺は少しだけ照れくさそうにして笑うと、頬に一筋の汗を流して、前を向く。
「絶対に無事に帰って来てくださいね、天瀬さん。部屋に帰って来た時に貴男がいないリビングのソファは、少しだけ寂しいですから」
「必ず!」
返事をした誠次は、窓から身を乗り出して地上を見下ろす。
ビルの四階と五階の間とあり、その高度はかなりのものであった。まともに飛び降りれば、骨の一本やニ本どころの騒ぎではない。
それでも小野寺は、信じてここから飛び降りろと言った。
意を決した誠次は、強張る身体のティエラを引き寄せる。
「よし行くぞティエラ!」
「はい!」
窓枠に足を付け、誠次はティエラを抱き締めると、そのまま飛び出す。
彼女たちは確かに、人差し指ほどの大きさだが、地上である歩道にいた。こちらと顔を合わせると、二人ともこくりと頷いてくる。
間もなく感じたのは、夏の朝日も熱も収まる冷気であった。見れば、屋上の窓を伝うように、氷の足場が次々と作られていく。ビルの外壁に無理やり作られた、氷の階段であった。
「せーじが通ったらすぐ崩れちゃうから、注意して!」
幼い狐髪の少女の声に、誠次は「分かった!」と大声で返答する。
忠告通り、即席の氷の足場はすぐに崩れ始める。これで、誠次とティエラを追っ手が同じように追いかけることは不可能だろう。
不可能なのは、いいのだが……、
「うわっ!? 少し脆すぎませんかこれ!」
「ご、ごめんなさい! 形勢魔法の強度配分少し間違えたかも!」
青い眼鏡を掛けた私服姿の先輩が、地上であたふたしている。
足場は凹むように次々と崩れていき、誠次とティエラは滑る氷の階段を、ほぼ滑りながら全速力で下っていく。危険すぎるアトラクションのようで、スリリング極まりない。
「助かりました、香織先輩、心羽!」
土壇場で誠次を鋼鉄の包囲網から救ったのは、ヴィザリウス魔法学園の生徒会長、波沢香織と心羽であった。
誠次とティエラが降りてくるなり、心羽は喜び、香織はほっとしている。
「二人も八ノ夜理事長から召集を?」
「うん。昨日のうちに八ノ夜理事長から連絡があったの。誠次くんが名古屋で待機するから、追いかけてくれってね。私も心羽ちゃんも、昨夜は名古屋で一泊してたんだ」
「かおりん先輩と旅行してるみたいで、楽しかった!」
香織が説明し、心羽もにこりと微笑む。
「それで朝、八ノ夜理事長から二人の現在地を聞かされて、急いで駆け付けたの。名古屋市内の宿泊施設と言う宿泊施設はもうどこも光安が包囲してるよ」
すると自然と、ずっと手を繋いだまま誠次の後ろに立つティエラに、二人の少女が視線を向ける。
「貴女が……ティエラさん」「お姫様……」
「お二人とも、ご助力感謝致します。このご恩、ティエラ・エカテリーナ・ノーチェ、忘れませんわ」
ティエラは誠次の手を固く繋いだまま、二人の青いイメージがある少女へ頭を下げる。
二人とも何かを言いたげではあったが、すぐにビルの方を向き、同時にそれぞれ魔法式を展開する。
「シヴァ!」
「イエティちゃん!」
二人の魔法式から飛び出したそれぞれの使い魔は、阿吽の呼吸で、ビルへ向かって行く。
「ビルの中にいるせーじのお友達の事は任せて! イエティちゃんとシヴァお姉ちゃんが、援護するから!」
「篠上さんと本城さんが、倉庫の方で待っているの!」
ビルを睨みながら、香織が言う。
「二人まで……!?」
走りかけていた誠次は、驚いて立ち止まる。
「私の付加魔法は使えないけど、二人から受け取って。……ごめんね、誠次くん」
「いいえ。俺の友だちを頼みます! ありがとうございました、香織先輩、心羽っ!」
頭を下げた誠次と、ティエラもまた、ぺこりと頭を下げ、朝日が昇る名古屋の市街地を走り出す。
「お姫様、か……憧れるな……」
誠次に手を引かれるティエラの後姿をじっと見つめた後、香織はすぐにはっとなり、頬を軽く叩く。
「今はこっちに集中しないと!」
そんな香織の姿を、くすりと微笑みながら見つめていた心羽は、狐の耳のような髪をぴんと立たせていた。
「かおりん先輩、行ってていいよ? ここは心羽一人でもへーきだから!」
「ええ!? だ、駄目だよ! 心羽ちゃん一人じゃ危ないよ!」
「へーきだってば! かおりん先輩は、せーじに魔法を貸さないと!」
心羽が張り切って言う。
尚も迷っていた香織ではあるが、最終的には心羽に向け、「ありがとう」と言い、誠次の元へと走って向かっていった。
現場に残った心羽の狐の尻尾のような髪が、ぴょんと跳ね、香織を見送っていた。
一方で、誠次とティエラは、名古屋の郊外にまで走ってやって来ていた。
すでに名古屋中に追っ手は点在しているようであり、油断はできない。
身の丈以上はあるフェンスを先に飛び越え、誠次は下で待つティエラへ手を差し出す。
「さあ、手を」
「ええ」
ティエラは左手を伸ばし、誠次の手をぎゅっと掴んでから、コンクリートの壁を駆け上がる。
「大丈夫か、ティエラ?」
「ええ、大丈夫ですわ誠次」
そうして見つめ合っていると、ものすごく冷ややかな声が、真横から聞こえてくる。
今度は年上と年下のコンビではなく、二人の、同級生であった。
「――いや予想はしてたけど……。まさか灯台の時と同じような事、本人の前でする?」
「――またしてもお姫様キャラが……なんだか私の存在意義がどんどん薄まっている気がいたします……」
夏の私服姿の篠上綾奈と本城千尋である。
誠次とティエラは、慌てて視線を逸らし、二人の元へ向かう。
「綾奈、千尋。貴女方もご協力、感謝いたします。たったの一日、共にげーむをした日の事は覚えています」
照れを誤魔化す為か、ティエラが真っ先に歩み寄り、綾奈と千尋に頭を下げる。
「結局貴女とは相性最悪だったけれど……」
「今度また会えた時は、ゲームよりも一緒に料理を学びましょう、ティエラさん!」
「ちょっと千尋!? ティエラさんは右手使えないのよ!? ちょっとはデリカシーをねえ……!」
「私、そこそこ料理出来ますけれど……」
「「お姫様とは一体っ!?」」
ティエラの告白に、綾奈と千尋が揃って驚く。
誠次はティエラの後ろに立ち、綾奈と千尋に申し訳なさそうな表情をしていた。
「す、すまない二人とも。東京から名古屋まで来て貰ったのに……」
「別に、ちょっとした旅行のようなものよ」
「綾奈ちゃんと一緒に、昨日は名古屋を楽しみましたから」
つんとそっぽを向く綾奈に、千尋が苦笑しながらフォローしてくれる。
一時的に四人組となった誠次たちは、レヴァテイン・弐とブリュンヒルデを隠してある倉庫に向かう。
誠次が四桁の暗証コード(相変わらず0558)を入力していると、後ろの方から走って追いついてくる一人の少女の姿があった。
「ま、待って!」
「生徒会長さん?」
香織がやって来て、ティエラがそれに気が付く。
「ごめんね誠次くん! やっぱり私も、貴男に付加魔法をしないと、東京に帰られないから……」
「ありがとうございます……香織先輩」
再びやって来てくれた香織にも感謝し、誠次は改めて、駆け付けてくれた三人の女性を見る。
「三人とも、本当にありがとう。同時に、すまないと思う……。三人から魔法を受け取っておきながら、別の女性を守る為にその魔法を使うこと、どうか、許して欲しい」
「……今更そんなこと言う?」
半分呆れた様子で、綾奈が言ってくる。
「むしろ、最前線で戦えない私たちの代わりに誠次くんが戦ってくださっているのです。光栄ですよ? 私は」
千尋がにこりと微笑んでいた。
「そうだね。誠次くんが戦う理由は、いつだって正しいと思っているから、心配しないで」
香織も頷きながら言い、利き腕である左手を差し出してくる。
「遠慮なく、頼りなさいよ……。……だから、無事で帰ってきて」
綾奈もまた、最後までこちらを心配してくれているように、右手を差し出してくる。
「ありがとう」
誠次は倉庫から取り出したレヴァテイン・弐を鞘から抜刀し、半身のそれを三人の女性の真ん中に突き立てる。
間もなく、三人分の付加魔法が、膨大な量の魔力でもって、誠次のレヴァテイン・弐に注がれる。その魔力の高さに、前は身体の方が悲鳴を上げる事が多かったが、特訓を重ねた今ならば適応する事はできた。
誠次の前に立つ三人の女性も、この行為にもだいぶ慣れていた。
「ではセイジ。私が責任をもって、後輩のみんなを東京へ送り届けるわ」
誇り高き魔術師たちの長相応の覇気を纏った香織が、凛々しい表情で告げてくる。
誠次はレヴァテイン・弐を鞘に納刀し、目元を隠すゴーグルを装着しながら「頼みます」と告げていた。
「セイジは安心して、ティエラさんを守ることだけを考えてっ」
「セイジ様、ご武運をお祈りします!」
綾奈と千尋の言葉にも、誠次は力強く頷いていた。
「約束は果たす!」
倉庫の中から搬送されてきたブリュンヒルデは、装置で回頭を行い、そのまま前進すれば道路に出られるような向きとなっていた。
誠次は約半日ぶりにそれに跨り、感触を確かめるように、そっとグリップに手を添えてみる。
「お前もよく休めたか、ブリュンヒルデ? ――さあ、出発だ」
「誠次」
少女たちから魔法を受け取り、再び白い盾乙女に跨がる騎士の一部始終を見守っていたティエラは、左手を自分から誠次へ向けて差し伸ばす。
誠次は何も言わずに、アームカバーを再び嵌めた手でティエラの手を取り、その不自由な身体を引き上げてやる。
三人の少女が見守る中、ティエラは誠次の後ろに跳び乗り、左手でその腹部をぎゅっと掴む。
「安心してくれティエラ。何があっても、俺の信念は決して変わっていない。君を必ず、クエレブレ帝国へと送り届けるさ」
「再び祖国の大地を踏むためにも……。引き続き、お願いいたしますわ、天瀬誠次」
誠次は両手でブリュンヒルデのグリップを掴み、クラッチレバーを握ってエンジンをかける。その馬力に似合わず静音の白亜の機体は、再び起動する。微かな振動と、主を守護するその名に違わない静かな意思を、今の乗り手である誠次に伝えるように。
「「「行ってらっしゃい!」」」
三人分の力を受け取り、クエレブレ帝国の皇女を守るための最後の戦いが、始まった。
〜魔法世界の剣術士 クエレブレの城〜
「クソっ! 一足遅かったか!」
そうや
「天瀬さんめ、まんまと置いていきましたね!」
まこと
「いえ、セイジは無事に出発したわ」
かおり
「ティエラさんを守る為にね」
あやな
「何も残して行ってはいませんよ?」
ちひろ
「いえ、天瀬さんは、とんでもないものを残していきました」
まこと
「「「……?」」」
かおり あやな ちひろ
「あなた方の心です」
そうや
「「「……はい」」」
かおり あやな ちひろ
「「では、失礼します!」」
そうや まこと
「な、何これ……!?」
ここは




