表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
登場人物 用語 上巻各章あらすじ 
3/189

上巻あらすじ ~禍の凶星~ ☆

 プロローグ~魔法少女(マホウショウジョ)剣術士(ケンジュツシ)


 西暦二〇七九年。科学の世界が魔法世界となってから、三〇年が経とうとしていた。人類は゛捕食者(イーター)゛に夜の世界を明け渡すと言う形で、一定の平和を築けてはいた。

 ヴィザリウス魔法学園に入学した一五歳の少年、天瀬誠次(あませせいじ)は、入学式の直後、学園の理事長であり育ての親でもある八ノ夜美里(はちのやみさと)から、黒い剣を渡される。天瀬誠次はなぜか同年代の中でも魔法が使えず、その代わりの剣であった。誠次は戸惑いながらも剣を受けとる。

 数日後の夜、男子寮棟を通過して夜の世界へ出ようとする少女、香月詩音(こうづきしおん)と遭遇する。人が夜の世界を諦めかけている中で、夜の世界に出ようとする彼女の姿は、両親と妹を゛捕食者(イーター)゛により失った誠次には、強く惹かれるものがあった。

 「私は゛捕食者(イーター)゛を倒すよう、ある人に言われたの」そう言った香月を追いかけた夜の世界の果て、誠次はとうとう、家族の仇である゛捕食者(イーター)゛と初戦闘を行う。魔法が使えない自分が、それでも゛捕食者(イーター)゛と対等に戦える(すべ)。それこそが、魔術師が使う付加魔法(エンチャント)だった。

 家族の仇を討つ。その復讐の思いに応えるかのように、香月の手から魔法の青い光が、誠次の握る剣に纏わりつく。それは、まだ剣を振るう覚悟が無い者が、ただただ己の為に見出だした、儚くも禍々(まがまが)しい、怒りの光だった――。



 魔法生(マホウセイ)たちの憂鬱(ユウウツ)~あの星空(ホシゾラ)をもう一度(イチド)


 ゛捕食者(イーター)゛を撃退し、香月詩音を救出した誠次であったが、心中は晴れやかではなかった。実技試験で人と戦う。それは、自分が握る剣には許されざる行為なのではないか。誠次は苦悩していたのだ。決心が定まらない誠次に対し、担任教師である林は、まるで自身の事のように「じゃあ逃げるのか?」と問いかける。

 ちょうどその頃、桜庭莉緒(さくらばりお)と言う少女と誠次は授業で出会っていた。あまりクラスに馴染めてはいない様子の香月とも友だちになりたいと言う桜庭に、香月もまんざらではなかった。

 決意が定まらぬまま迎えた試験当日。誠次の対戦相手は、一つ年上の先輩である波沢香織(なみさわかおり)と言う少女。香織は、誠次と偶然その場に居合わせた桜庭に対して、必要以上ともとれる発言をしてしまう。

 それに怒りを覚えた誠次は、香織と対峙し、真っ向からぶつかり合う。

 激闘の末、勝利した誠次は、桜庭から感謝をされる。一時の感情に任せて剣を振るい、素直に桜庭の感謝の気持ちを受けとれないでいた誠次の元へ、差出人不明のメールが届く。誘われるがまま向かった先の保健室で、香織の出自や思いを知り、誠次は自身の決意を固めていく。結局は香織も、林に騙されていたようなものだったのだ。

 なぜか騒動の責任を取る形で、クラスの学級委員に無理やり決められてから数日後、誠次は香月に誘われて、香月の家へと向かう。そこで出会ったのは、香月の里親と名乗る、東馬迅(とうまじん)と言う、惜しくも魔法が使えない年代の科学者だった。

 恒例となっている家族への墓参りを、香月が見守る中、八ノ夜と共に終えた誠次は次の日、ルームメイトの帳悠平(とばりゆうへい)に誘われて、同じくルームメイトの小野寺真(おのでらまこと)と、なぜか剣を持って着いてきた香月と共に、魔法世界のアイドルである太刀野桃華(たちのとうか)のライブを見に行くこととなる。人に残された平和な時間を楽しむ魔法生たちであったが、平和を崩す驚異は、なにも夜の世界に生きる怪物によるものだけではなかった。

 鳴り響くテロリストの銃声に、立ち向かう誠次。一瞬は仲間に強く当たってしまうが、誠次はすぐに自分の過ちを正し、またしても人を守るために剣を振るう。

 エンチャントが切れ、あと少しで桃華を救出出来るところで、逆に追い詰められる誠次。その時、桃華の手から発動された緑色の魔法の光が、人を守るために戦った誠次に次の一手を与える――。



 (アカ)付加魔法(エンチャント)気持(キモ)(アラ)たに


 季節は巡り、梅雨へ。周りの環境のお陰もあり、誠次はクラスメイトと上手く馴染むことが出来ていた。しかし、香月詩音は未だに、必要以上に他者との関わりを避けるような学園生活を送っている。そんな香月に対し、学級委員である篠上綾奈(しのかみあやな)は、あまりいい目を向けてはいなかった。

 迎えた初めての学園行事である林間学校。誠次の班には、香月詩音と篠上綾奈がいた。魔法を使った行事に悪戦苦闘するクラスメイトたち。そんな中、魔法が使えない誠次は香月と篠上の間を取り持とうと、悪戦苦闘する。

 昼食調理の際、篠上はただ、クラスに馴染めていない香月の事が心配なのだと告白をし、必要以上にも見えた張り切りの裏に隠れていた、本来の心優しい性格を誠次に(あらわ)にする。

 人、友達のため。その思いに、誠次も同調していた。

 そして、香月もまた、行事を共に過ごす中で人付き合いをわざと避けていた自分を見つめ直し、篠上へ謝罪をする。

 楽しい思い出で終わるはずの林間学校だったが、夜の世界より訪れた来訪者が、香月を(さら)う。

 奥羽正一郎(おうばせいいちろう) と名乗った男性に、香月を取り戻そうと立ち向かう誠次。男は魔法と刀を巧みに使い、誠次を圧倒する。エンチャント無しでは、自分はこうも無力だったのかと、思い知らされる誠次の元へ、赤い髪の少女が駆け付ける。

 篠上の予想外の援護と、情報になかったエンチャント能力により、奥羽を(から)くも撃退した誠次は、香月の救出にも成功する。

 無事に助け出された香月であったが、テロリストの施設で育っていた自身の問題に、篠上を巻き込んでしまったと、深い負い目を感じるようになってしまう。

 戦いで腹部を負傷していた誠次だが、気分転換だと言う友だちの志藤(しどう)の言葉のもと、みんなをプールへ誘うことになる。

 自分が関わってしまうとみんなを傷つける、とプールへ行くことを渋る香月であったが、誠次は一人で悩むべき事ではないと香月を(さと)し、どうにかプールへ誘う事に成功する。

 プールでは直前まで怪我で泳げないことを忘れていた誠次だったが、桜庭を初め友だちと楽しく過ごすことが出来ていた。香月もまた、友への負い目を乗り越えたようであり、前を向く決意を決めていた。

 そして。誠次もまたこの光景を、友を守ると、最初は香月の為だけだったはずが、知らずのうちに、剣を振るう自分の新たな決意を決めていたのだった――。



 (セン)(ウエ)()(モノ)たち~祭夏(サイカ)香月(コウヅキ)乱心(ランシン)


 夏休みが近づくある日、誠次は当時の生徒会長であった三学年生、兵頭賢吾(ひょうどうけんご)に生徒会室に呼ばれる。そこで夏に行われる、大阪のアルゲイル魔法学園との合同イベントである、二大魔法学園弁論会(にだいまほうがくえんべんろんかい)に来ないかと、誘いを受けてしまう。

 先輩の誘いには断れず、その場にいた桜庭と、誠次以外から姿は見えないがその場にいた香月と共に、大阪へ行くことを決める。

 制服で外出が出来るようにと張り切る桜庭に、誠次は調査と称したデートに誘われる。雨の中でも楽しく桜庭と街を回ったが、誠次はショッピングモールで、香月の里親である東馬と再会する。千を越える人を率いるのは楽ではないと言う、東馬。経験があるような物言いを奇妙に感じる誠次であったが、話は誠次の持つ剣の事へ。

 名無しの剣を振るっていた誠次であったが、東馬の提案で、レーヴァテインを元に、レヴァテインと名を決める。伸ばし棒を無くした理由は、レーヴと言う名が不吉や災い、裏切りを意味しているからであった。

 夏休みに入り、誠次は帳の誘いを受け、夏祭りのスタッフアルバイトへ向かう。ユキダニャンと運命的な出会いを果たし、三人のクラスメイトの少女と真由佳(まゆか)を無事に守りきる。

 同じ頃、主に魔法犯罪者を収監する刑務所、メーデイアにて、外部からの侵入者による一斉脱獄事件が発生する。対応に当たったのは、魔法犯罪や対゛捕食者(イーター)゛を想定した日本の独自組織、特殊魔法治安維持組織(シィスティム)佐伯剛(さえきつよし)と言う男性だった。

 メーデイアに侵入していたのは、林間学校で誠次と戦った奥羽と名乗る男性。対して佐伯は一歩も引かない戦いを見せるが、多数の脱走者を出してしまい、更には地上部隊が全滅してしまう。特殊魔法治安維持組織(シィスティム)を圧倒していたのは、東馬に操られる、まだ年端も行かない少女であった。

 メーデイアでの事件を聞き、八ノ夜の指導の元、誠次と香月は特訓を開始する。香月が戦う理由は、誠次にとってはいまいち()に落ちないものであったが、それは少女が少年に人として抱き始めていた、親愛と言う気持ちによるものからであった――。



 浪速(ナニワ)魔術師(マジュツシ)仮面舞踏会(カメンブトウカイ)(キラ)めく魔剣(マケン)


 大阪のアルゲイル魔法学園で開かれる二大魔法学園弁論会に参加するため、誠次と香月と桜庭は、その他多数の先輩たちと共に大阪へ向かった。

 昼食に立ち寄ったお好み焼き屋にて、誠次はアルゲイル魔法学園の同級生、星野一希(ほしのかずき)と出会う。お互いの夢が特殊魔法治安維持組織(シィスティム)に入ることだと知り合い、仲を深める二人であったが、その関係に早くも亀裂が走る。盗みを働いた犯罪者への一希の必要以上な攻撃を(とが)める誠次であったが、それでは生温いと一希は誠次を逆に咎める。

 自分が迷えばその分、周りの者へ火の粉が降りかかる。それは魔法が使えず剣しか振れない誠次にとっては、魔術師以上に大きな問題であった。再び迷いそうになる誠次へ道を示したのは、共に大阪へ来ていた生徒会長の兵頭の言葉だった。「傷つけるのではなく、守るために剣を振るえ」。例えすることは同じでも、そこへ至る覚悟は大きく違うものだった。誠次も兵頭の言葉に、改めて首を縦に振る。

 迎えた弁論会当日。誠次が見たのは、日本の魔法執行省大臣、本城直正(ほんじょうなおまさ)の姿だった。クラスメイトの本城千尋(ほんじょうちひろ)の、実の父親でもある。

 特殊魔法治安維持(シィスティム)のエース、影塚広(かげつかこう)もいる厳重な警備態勢の中であったが、すでに毒牙(どくが)はアルゲイル魔法学園の中にあった。

 アルゲイル魔法学園の理事長である、朝霞刃生(あさかばしょう)。彼こそが、林間学校で誠次と対峙した、奥羽正一郎その人であった。誠次と香月の前で本性を隠していた仮面を脱ぎ捨て、とうとうその目的を露にした朝霞。それは魔術師による、魔術師のための世界を作り上げること。武力で革命を急ごうとする朝霞に対し、誠次は武力で仲間を守ると言い切る。

 戦いに至る準備として、誠次は特殊魔法治安維持(シィスティム)と共同戦線を張る。特殊魔法治安維持(シィスティム)の隊員であり、波沢香織の姉である波沢茜(なみさわあかね)の指示の元、パーティー会場に紛れ込み、標的とされた本城直正の警護に就こうとする。直正には一瞬で正体を看破される誠次であったが、駆けつけた兵頭と共に、直正の意思を聞く。この、皆が魔法に親しんでいる時間と場を守るために、剣術士として自分のやるべきことは……。

 誠次は騒動を瀬戸際で止めるため、香月と共に朝霞へ戦いを挑みに行く。その途中、桜庭に対して戦いに行く上手い言い訳を出来ないでいた誠次であったが、香月が自身で歩み寄り、フォローをしてくれる。

 香月もまた、友だちを守りたい一心であったのだ。

 桜庭を守るためにも、誠次と香月は、すでに影塚と茜を倒していた朝霞を体育館のロフトで迎え撃つ。なぜか特殊魔法治安維持(シィスティム)の人員の居場所を知っていた友人の志藤颯介が、場所を教えてくれたのだ。香月に治癒魔法を任せ、単身で朝霞と戦う誠次。特訓で成長し、互角の戦いを繰り広げていたが、そこへ乱入して来たのは、戸賀彰(とがあきら)と名乗る、香月に一方的な好意を寄せる大剣持ちの少年だった。

 生まれた一瞬の隙に右肩を斬られて形勢を逆転され、香月までもが敵に捕らえられ、絶体絶命のピンチを迎える天瀬誠次。追い詰められたそこへ現れたのは、ヴィザリウス魔法学園の理事長、八ノ夜美里だった。一〇年前と同じく、またしても八ノ夜に窮地を救われた誠次。

 しかし今は、八ノ夜から託されたレヴァテインが、血塗(ちまみ)れの手にはある。あの時のように、無力ではない。誠次は再びレヴァテインを握り締め、眠らされていた香月の元へ駆け寄る。魔術師ではなく、自分にしかできない戦い方。それを朝霞に証明するために。自分を信じてくれ、傍にいてくれる香月のエンチャントを受けた誠次は、宿敵へ対し、魔法世界に生まれた剣術士としての自分なりの戦い方を、斬り示す――。



 (アネ)(アニ)と~大黒天(ダイコクテン)使(ツカ)


 無事にヴィザリウス魔法学園へ戻ることが出来た誠次へ、父親を救ってくれたことへの感謝の気持ちを送る千尋。その気持ちは、ただの感謝の気持ち、と言うよりかは少々大きすぎるような気もしていて。

 ちょうどその頃、アメリカのエウラモス魔法大学から、星野百合(ほしのゆり)と言う女性が教育実習生として、ヴィザリウス魔法学園へやって来る。彼女はアルゲイル魔法学園に通う、星野一希の姉であった。

 百合への学園施設紹介をする中で、多くの女性に好意を持たれている事実に誠次は戸惑いながらも、自分なりの答えを模索(もさく)するようになる。その時に力を借りたのは、ルームメイトである夕島聡也(ゆうじまそうや)の兄、夕島伸也(ゆうじましんや)であった。伸也からのアドバイス(?)を受けた誠次は、四人のクラスメイトの女子に対し、自分の戦い方の説明をし、全員を守るとの決意を真摯(しんし)に伝える。帰ってくる反応は様々であったが、誠次の思いは少女たちに十分に伝わっていた。

 ある日、誠次はまたしても兵頭により、生徒会室に呼ばれる。そこにいたのは生徒会長の兵頭賢吾と、春の試験の際に戦った一つ上の先輩である、波沢香織だった。

 兵頭が言うには、北海道に建設されたオーギュスト魔法大学の完成記念、及び開校記念式典参加してほしいとのこと。知り合いの男子に乏しい香織が、その相方に誠次を指名していたのだった。

 誠次自身も北の大地の魅力に誘われ、香月と共に香織と共に北海道へ向かうことに。そこでは春に戦い合った時とは違う一面をお互いに見せ合い、降り積もった雪にも負けずに打ち解けあっていく。

 一緒に来た香月もまた、誠次への特別な思いを自覚し始めていた。

 始まった北の日本初の魔法大学での式典。二階席で見学をしていた誠次と香月であったが、事件は起こる。会場であった体育館に氷の魔法が襲いかかり、更には白い巨大な怪物が現れる。大黒天の使いと言われる、イエティと呼ばれる雪男のような風貌をした怪物は、瞬く間に、新設されたオーギュスト魔法大学を蹂躙していく。

 誠次と香月は床の崩落に巻き込まれた香織を救うため。そして、前日にホテルで香月の三日月の髪止めを拾っていた特殊魔法治安維持組織(シィスティム)第一分隊の隊長、日向蓮(ひゅうがれん)は仲間と総理大臣を救うため。また、氷の下に閉じ込められた香織は、自分の責任を果たし、総理大臣を守るため。戦場となった氷雪の大地で、それぞれが行動を開始する。

 そして、新たなレヴァテインの光が輝く。白い雪さえ更に白く染め上げる光を見つめる少女の影が、そこには二つ、あった――。



 テストのイロ紅葉色モミジイロ複合付加魔法フクゴウエンチャント


 北海道から戻った誠次を待ち受けていたのは、容赦のない中間テストであった。しようもない点数を取ったことが早速八ノ夜に知られ、誠次は召集を受けてしまう。テストの点数もそうであったが、そこには香月への気遣いもあった。東馬にレ―ヴネメシスとの関係の疑惑がある。そんな事を香月の近くで言ってしまった誠次の責任もあった。

 居合わせていた千尋の提案もあり、誠次は香月を含めた四人のクラスメイトの女子と街へ出かける。香月を気遣ったはずが、いつの間にかに誠次が気遣われており、誠次は改めて仲間を守る決意をする。

 千尋の家に向かう為、電車に乗り込んだ誠次たちであったが、そこで薺の発令した改革宣言に反対する活動に巻き込まれてしまう。レヴァテインもない中での戦闘であったが、香月との息の合った連携プレイにより、電車内を制圧していく。また桜庭と篠上と千尋も協力し合い、暴走していたリニア車を止める事に成功する。

 たどり着いた本城千尋の自宅であったが、そこにいたのはまさかの人物であった。大阪にて誠次が倒し、メーデイアに捕らえられたはずの男、朝霞刃生である。朝霞は直正と囚人取引をし、今は本城家の執事として働いていたのである。

 宿敵の再登場に、誠次は若気の至りを出してしまう。自信をたぎらせ、レヴァテインもない中で朝霞に戦いを挑んだのだ。勝てるはずはなく、誠次は完全に打ち負かされ、さらには精神的にも追いつめられてしまう。

 そんな誠次を救ったのは、他でもない、香月詩音であった。そして香月だけはない。誠次の思いを受けた四人とも、誠次に守られるだけではなく、誠次を守っていく覚悟を決めて行く。

 テストが終わったご褒美と言わんばかりに、次に魔法生たちを待ち受けていた学園行事は、文化祭だった。八ノ夜により、文化祭を全力で楽しんで盛り上げろと言う指令を下された誠次は、文化祭の準備に意気込む。担任の林の面倒臭がり屋が災いし、準備の期間が少ない中、実行委員となった帳悠平の作戦は、ライブに魔法世界のアイドル、太刀野桃華を誘うことであった。

 わらしべ桃華ちゃん作戦と銘打たれた帳の作戦とは、アルバイトスタッフとしてライブ会場に潜入し、桃華に直接会うという何とも直情的な案であった。この魔法世界じゃ何が起こるか分からない、と言う帳の言葉に何気なく頷ける誠次は、友の為、八ノ夜のげんこつをける為、またクラスの一員として実行委員に立候補していた香月の成功の為、桃華に会うためにとんでもない行為をやってのける。果たしてその行為は、現状の桃華にとって吉と出ていた。桃華の様子は春に出会った時よりも明らかにおかしく、異常であった。そして、桃華のマネージャー、怜宮司飛鳥れいぐうじあすかの姿を見るや、怯えだす桃華。誠次は怜宮司が桃華に何かをしていると直感し、桃華を守るために、彼女の誘拐を宣言する。

 怜宮司によってホテルから突き落とされた誠次と怯える桃華が迷い込んだ先は、都内の片隅に捨てられた廃墟の中であった。そこで共に一夜を過ごすうちに、春に聞いていた誠次の声や顔に反応し、桃華に掛けられていた怜宮司の幻影魔法が解かれていく。

 朝になったら特殊魔法治安維持組織シィスティムに救助してもらおうと考える誠次であったが、それは浅はかな考えであった。

 怜宮司の方により、特殊魔法治安維持組織シィスティムに通報がされており、誠次は誘拐犯として逆に追われる立場となってしまっていたのだ。

 誠次と桃華のいる廃墟に駆け付けたのは、曲者ぞろいの特殊魔法治安維持組織シィスティム第五分隊。無実を訴える誠次であったが、証拠はなく、もはや桃華を怜宮司の魔の手から守る為には、武力での衝突は避けられなかった。憧れの組織を敵に回す形となったが、自分のすることは間違ってはいないと確信を持つ。そんな誠次の行動を肯定するかのように、騒動を聞いた八ノ夜の指示の元、香月と篠上二人の少女が誠次の元へ駆けつけ、同時の付加魔法エンチャントを行うのだった。誠次は二人の思いを同時に受け止め、それらを人を守る力へと変えていく――。



 Magician of the garden ~ここは、魔法マホウトオミチクロ再輝サイキ


 特殊魔法治安維持組織シィスティム第五分隊を退しりぞけ、誠次は桃華を守る事に成功する。当時の状況説明の為、誠次と桃華は本部へ向かう事に。憧れの組織の本部にて、大阪で戦った戸賀と再会。彼は新崎和真しんざきかずまと言う特殊魔法治安維持組織シィスティムの男の元で、保護観察された生活を送っているそうだ。誠次はさらに、国際魔法教会の最高指導者であるヴァレエフ・アレクサンドルの願いが込められた憲章を目の当たりにする。

 特殊魔法治安維持組織シィスティム本部にて、電話により桃華の所属する芸能事務所の社長と連絡を取り合い、桃華のヴィザリウス魔法学園の文化祭の出場が決定する。

 文化祭の初日、誠次は桜庭と共に、桃華にヴィザリウス魔法学園の案内をしてやる。その場へ殺到するのは、魔法で攻撃してくる無数の魔法生の先輩であった。なぜ襲われるのかもわからず、誠次たちが追撃をかわしながら辿り着いた場所は、巨大迷路となっていた図書棟。誠次と桜庭は力を合わせて、この巨大迷路を攻略するが、最深部で待ち受けていたのは三学年生の先輩、兵頭賢吾と夕島信也だった。

 結果的に、仕組まれていた戦いではあったが、先輩との実力の差を痛感した誠次。

 一方で帳も、桃華の件を誠次に任せきりにした負い目を感じていた。

 翌日の文化祭二日目。一般公開される魔法学園の文化祭の日を、誠次は千尋と共に過ごす。しばしの穏やかな時間であったが、平和は脆くも崩れ去る。ヴィザリウス魔法学園へ向け、魔法の力で飛ばされたミサイルの群れ。文化祭に訪れていた怜宮司の心境の変化により、攻撃の情報を掴んだ誠次は、千尋と篠上の複合付加魔法エンチャントを使い、ミサイルを迎撃する。会場内ではすでに文化祭に潜入していたテロリストのメンバーを、実行委員であった帳と香月が撃退する。

 同時刻、特殊魔法治安維持組織シィスティムの局長である志藤康大しどうこうだいから連絡を受けた特殊魔法治安維持組織シィスティム第五分隊の隊員が、ミサイルの発射場所である旧東海タワーへと向かう。南雲なぐもユエと沼田澄佳ぬまたすみか、たった二人だけでの突入であったが、二人は屋上へと到達する。そこで待ち構えていたのは、特殊魔法治安維持組織シィスティムが長年追いかけ続けていたテロ組織、レ―ヴネメシスのトップの男、東馬迅であった。

 後夜祭が行われているヴィザリウス魔法学園では、テロリストの気配を間近で感じてしまった香月が姿をくらましてしまう。どうしてもテロリストの施設で育った自身のことで思い悩んでしまっていた香月の手を、誠次は必死の叫びで引き寄せていた。しかしその直後、今度は誠次の身体に異変が起き、誠次は倒れてしまう――。


 

 堕落ダラクのイーカロス~ボーイズ ウィー・アンビシャス

 

 高熱を出した誠次は、保健室で容態の回復を急いでいた。多くのお見舞い人が訪れる中、決着の気配を間近に感じる。そんな最中、誠次は自身の相棒であるレヴァテインがなくなっている事に気付く。保険医ダニエルの制止も振り切り、誠次は千尋と共に学園内を探し回る。

 レヴァテインは担任教師の林が隠し持っていた。林より忠告のような何かを受け取った誠次は、香月と千尋と共に、東馬の待つ日本科学技術革新連合本部へ向かう事を決める。八ノ夜がひとりでに片を付けようとしている状況に、香月の意思を信じて。

 かつての宿敵であった朝霞と共に、誠次は日本科学技術革新連合本部へ侵入する。予想よりは穏やかだったレ―ヴネメシスの抵抗であったが、誠次たちはそこでとある男性科学者と出会う。男性の正体は、魔法で姿を変えていた、アルゲイル魔法学園の星野一希であった。折りしも病人の身であった誠次は、もう一つのレ―ヴァテインを持っていた一希の刃に倒れ、東馬の生みだしたドローンにより捕縛され、連れ去られてしまう。

 今は亡き本当の両親との再会の約束を、遠い未来で交わした香月と、父親を救うために行動した千尋は、駆け付けた朝霞の声の元、連れ去られた誠次の救出へ向かう。直後、朝霞は弟子である一希の予想を超えた力に押され、敗北してしまう。

 一方、連れ去れた誠次は東馬と面会。そこで誠次は、東馬の本当の考えを聞かされる。日本の革命などはなから興味はない。自分が行おうとしていたのは魔法を用いた死者復活の研究。研究が終われば、死んだ家族を蘇らせることが出来る。その過程で消費した命でさえ。強力な薬物を使用してまで誠次を説き伏せる東馬であったが、誠次は強靭な意思と覚悟でその考えを真っ向から否定する。

 レヴァテインを自分に振りかざし、薬物を跳ね退けた誠次は、駆け付けた香月と千尋の力を借りて、狂った科学者、東馬を斬る。追いつめられた東馬が最後の部屋に逃げ込み、誠次もまた、因縁に決着をつけるために、香月と共にその後を追う。

 途中、もしかしたら、と変わっていたかもしれない未来を思って弱音を吐きかける誠次であったが、香月共々、ここへ来て迷いは捨てる。

 自らを陽の光を追いかけすぎた哀れな天使、だと告げる東馬を追いつめた誠次であったが、東馬は大量の魔素マナを自身の身体に注入し、゛捕食者イーター゛化。あともう少しの所で、東馬を生かしたまま捕らえる事は出来なかった。それどころか、人が゛捕食者イーター゛化した事実に驚愕する二人であったが、消耗しきっており、逆に追いつめられる。

 そこへ駆けつけたのは、薺率いる光安こうあんの部隊と、レ―ヴァテインを振るう星野一希であった。憎悪の光を放つ一希の一撃で、東馬であった゛捕食者イーター゛は消滅する。

 負傷した誠次は、注射された薬物の影響も重なり昏睡状態に陥る。そこで見た夢の世界で、香月の父親と出会う。そこで見せつけられたのは、西暦の世界に魔法と゛捕食者イーター゛が生まれる瞬間の、雪の日の残酷な光景だった。

 誠次不在のヴィザリウス魔法学園では、彼と繋がりある生徒それぞれが、この魔法世界への疑心を晴らそうと、行動を開始する。中には、元少年だった者も、みな大志を抱いていたのだ。

 日本の魔法革新を妨げていたテロは壊滅し、ようやくスタート台に立ったとほくそ笑む薺と、彼女と手を組んだ一希。゛捕食者イーター゛を含めた悪を滅ぼし、犯罪者無き平和な世界を作り上げる為に一希もまた、レ―ヴァテインを握ったのだった。これもまた、一つの大志ではあった。

 テロは滅んだが、暗雲は完全には晴れず。例え道が険しくとも、魔法世界の剣術士として前へ進むことを誓った誠次は、夢の世界と香月の父親に別れを告げる。

 そうして目覚めた誠次を待っていたのは、新たな敵の数々と激戦。多くの出会いと新たな力であった――。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ