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王子と魔術師と

使いも寄こさず朝一番に訪ねてきたマクシミリアンに、オリヴァーは驚いたようだった。

浄化の旅を経て親しくなった二人だが、それでもこんな風に突然やってくることは無い。

人払いを済ませて自室に案内したオリヴァーが事情を聞けば、マクシミリアンは深刻な様子で口を開いた。


「昨日の夜、闇の王ハールニッヒが来たんだ」

「ぶっふ!!」

マクシミリアンから出たよく知る名前にオリヴァーは噴き出した。

噂を知っていたからではない。本人を知っていたからだ。

「彼女からお前と面識があると聞いたんだ。本当なのか?」

「あ、ええと、その…そうですね。知ってます。いや! あの女なにしに殿下の元に現れたんですか!?」


なに、と問われてマクシミリアンは首を傾げた。

「叱責と選択を迫りにやってきた」

叱責という言葉にオリヴァーは眉をひそめた。そして小さく「あの女、殿下にまで…」と呟いている。

察するにオリヴァーもあの少女に何か言われたのだろう。何しろオリヴァーは少女の言うところの誘拐実行犯だからだ。


「それはいいんだよ。彼女の言っていることに間違いはなかった。それよりも相談があってきたんだ」

「相談?」

訝しげなオリヴァーに、マクシミリアンは昨日の話を始めた。


――――


マクシミリアンが話を終えると、オリヴァーは石と小瓶を見つめながら「あの女らしい嫌がらせだ」と呟いた。


「正直迷っている。彼女の言葉は正しい。自国の責任を自国で追うのは当然だ。確率すれば聖女が来るまで犠牲を考えずにすむし、なによりサクラのような被害者を出さずに済む。だが、国民になん説明すればいい? 己の国の平和のために身を削れというのか」

「え? 仮に使うとして、なぜ国民に伝えなければならないんですか?」


深刻なマクシミリアンと対照的にオリヴァーは不思議そうに首を傾いだ。

そう問いかけたオリヴァーに陰りはない。その様子に、マクシミリアンは戸惑いを隠せなかった。


「国民の力を借りるのに説明しないのか?」

「そんな説明をしても国が荒れるだけでしょう。あの女の考えに同意するのは癪ですが、正直有効な手段だと思います。これ以上ない良策かと」

マクシミリアンは言葉を失った。同意するにしてもここまでオリヴァーが全面的に彼女の案を受け入れると考えていなかった。


そんなマクシミリアンを見透かすように、オリヴァーは言葉を重ねた。

「不敬罪を承知で言わせて頂きますが、殿下が躊躇われている事は、我々がすべてサクラ様に行ってきたことです。国は国のためならどんな事実も隠蔽する。我々は許してくださるサクラ様に胡坐をかいて、どれだけの嘘を重ねたでしょう。それが国民全員になるというだけです」


オリヴァーの言葉は固い。

その声音で、その台詞で、オリヴァーが飲み込んできた事が見えた気がした。

彼もまた国に従わなければならない身だ。意に沿わない指示を飲み込んできたのだろう。


「私は既にたくさんの偽りと裏切りを重ねてきました。もし遠い未来に同じことが起こらないですむのなら、あの女の言うとおり安いものです。しかも祈りが強ければ命を削ることもない。これは破格の条件かと思います。自分たちの暮らす場所は、自分たちで守るべきです。これは国の責任であり、国民の責任です」


責任という言葉がマクシミリアンに重くのしかかる。


少女はマクシミリアンに決断を委ねた。なぜなら命令されて行えば、自分の罪が減ったような気持ちになれるからだ。

サクラに行ってきた裏切りは、すべて国の平和のためだと言い訳を付けられた。しかし少女は言い訳をさせるつもりはないのだ。


「私自身は賛成です、とだけ言っておきます。ですが殿下がどの選択をしても責めるつもりはありません。それはあの女も同じでしょう。底意地の悪い女ですが、責任を持って決断したことに対しては平等です。殿下が案を受け入れず未来の罪も背負う覚悟をされたなら、何も言わないかと」


決断に対する覚悟とそれに付随する責任。

マクシミリアンはその重みに眩暈がした。


「なぜ彼女は父上ではなく私に決断を迫ったのだろうか。責任から逃げることばかりを考える、優柔不断な男に」

自嘲をこめてマクシミリアンは笑った。

「私も正直、なぜあの女が私に償いの機会を与えてくれたのかはわかりません。ただ一つ確かなのはあの女は問いかける価値もないと判断した人間に対して興味がありません。だから少しは見込まれたのだと、非常に、非常に癪なのですが、そう思います」


先ほどがらオリヴァーの少女に対するコメントが酷い。それがおかしくて、思わず笑う。

「オリヴァー、女性に対して先ほどから失礼だろう。それに少々過激だが、思いやりのある素敵な少女だったぞ」

「殿下は知らないからです! あの女はほんっとうにろくでもないんですよ! 人をおちょくるってばかりの最悪の女なんです!」

オリヴァーの声が部屋に響いた。


マクシミリアンは笑いながら、自分の中で答えが決まっていくのを感じていた。

3話くらいで後日談などが終わるかと考えていたのですが、思った以上に長くなってしまったため完結設定を外しました。あと10話以内で後日談含めて終われるように更新予定です。紛らわしい表記になり申し訳ありません。

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