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女子高生と王子と4

半年という期間を長いと言う人間もいれば、短いと言う人間もいる。

歳を経る毎に時間が過ぎるのが早くなり、20代になれば短いと感じるものの方が多いだろう。

だが、半年分の寿命と言われたらどうだろうか。平均寿命が40〜50歳のこの国で、お前の命の半年分をもらうと言われ、果たしてどれだけの人間が色よい返事をするだろうか。


マクシミリアンは石をじっと見つめていた。

境界線の綻びが無くなれば、多くの犠牲を払わなくてすむ。

それはいい。そんな夢のような事があれば、喜んで飛びつくだろう。

だが、引き換えに命の一部を取られるのだとしたら話は変わってくる。

誰でも自分が1番かわいいものだ。たとえ1日でも嫌がる人間は出るに違いない。


「半年の寿命が安いと君は考えているのか?」

「平和を求めるなら安いと思うよ。関係のない世界の人間を巻き込まずに済むしね。そもそも、女神への感謝が足りないのが原因なら、自業自得でしょ」

「しかし、その…人道に悖るんじゃないだろうか」

「聖女の召喚は人道に悖らないってこと?」


痛い所を突かれてマクシミリアンは表情を歪めた。少女はつまらなそうにため息をつく。

「殺さないから聖女の召喚は許されるなんて詭弁だよね。そもそも聖女の命なんてどうでもいいんでしょう? 国が助かれば」

「そんなことは…」

「ねえ、婚約者くん。人間一人の命って、軽いよ」

少女は木箱から石を取り出してテーブルに並べ始めた。右側に複数の石を置き、左側には一つの石を置く。


「1人の犠牲で大多数が助かるなら、大抵は大多数の命を取るからね。そう考えると、1人の命なんて羽みたいな軽さだよ」

少女は左側に置いた一つだけの石を掴んで木箱に投げ入れた。

「マリアベラ、だっけ? 君、彼女が好きなんだってね」

「なにを…」


「私の世界に連れてって、彼女を死ぬまで扱き使ってもいいかな? 大丈夫、待遇は悪くはしないから。ただ監視をつけて教育して、いいだけ利用するだけだよ。それで今後の聖女の件を見逃してあげるよ。どうかな?」

問い掛ける視線は真剣で冗談には思えない。脳裏に自身が惹かれた少女が過ぎる。柔らかく笑う彼女の顔を悲しみに染めるなど考えられなかった。

「彼女はこの国の人間じゃない。私だけの判断で返事などできない」


「じゃあなんで桜さんはいいのかな?」

少女は静かに問い掛ける。

「桜さんには、彼女を愛する家族がいて、今も彼女の帰りを待ってる。なんでマリアベラはダメで、桜さんはいいのかな。説明してみてくれる?」

「サクラを呼んだことがいいことだとは思ってない」

マクシミリアンは辛うじて答えを紡ぐことができたが、少女がそれで納得するはずがない。


「へえ? でもさ、それならどうするの? 聖女呼ぶのは避けたい、境界線の綻びは防ぎたい、でも国民の寿命は減らしたくない。どうやって問題を解決するの?」

「それは…」

「1人の命は軽いよ。何百万、何千万、何億の数がいる中で、あまりにも軽い。だけど目の前の親しい人間の命は、何億の命よりも重い。人間なんてそんなものだよ。我儘で、自分勝手な生き物だからね」

少女は責めるでもなくマクシミリアンを見据えた。


「その上で婚約者くんは答えを出さないといけない。一つ言っておくけど、これは強制じゃないからね。あくまでも選ぶのは君だよ。どちらの人道に悖るのか、一晩考えてみて。そして決断したからには、君はそれを背負わなければならない」

少女はそこまで言うと、石を木箱に戻した。


「正直、君1人に決めさせるのは酷だとは思う。婚約者くんは優柔不断だけど悪人ではないしね。信用できる相手なら相談してもいいよ」

苦笑した少女は木箱を持って立ち上がった。

「明日の夜、また来るよ」


「待ってくれ、この石と小瓶を忘れてる」

テーブルには小瓶が、マクシミリアンの手には石がまだ残っていた。

「相談するのに必要でしょ? ちなみに、誘拐実行犯の魔術師くんは私の事を知ってるよ」

少女はそう言うと、一瞬でどこかに消えてしまった。先ほどまで確かにいたはずなのに、気配も無く、音すら立てずに。


マクシミリアンは力が抜けたように椅子に身を沈めた。

嵐のように現れた少女は、どこまでも甘い考えのマクシミリアンに現実をぶつけて帰っていった。

答えを簡単に出せるわけも無く、一晩眠る事は出来無かった。

そして翌日朝早くに、マクシミリアンはオリヴァーを訪ねたのだった。

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