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神の足音2

聖女の対と名乗る黒髪黒目の“神”らしき青年と、眷属の黒猫の話は、じわりじわりとグレイヒ国内に広がっていった。


それは彼らが様々な場所に現れて奇跡を起こしたからだった。

悪漢に襲われた村を助け出し、死の淵にいたものを治し、幾多の魔物を指一本で消し去った。


礼を述べれば必ず神の青年は、聖女を指すであろう少女の話をした。

ーー曰く、迎えに来たのだという。


聖女がこの世界の存在でないことは知られている。召喚によって呼び出された事もだ。


彼は言った。悲しみに暮れる彼女を救いに来たのだ、と。


国民の半数は聖女がいなくなる事を恐れた。聖女が消えればこの国にまた魔物が蔓延るのではないか。


慌てて王都へ報せに走るものが現れる一方、もう半数は神の青年を支持した。

聖女はこの国のために尽くしてくれた。噂が真実で、聖女が悲しみに伏しているのなら神の国に帰すべきだと。

真っ向から意見が分かれたのだ。


神の青年が王都に向かう速度は速くは無かった。どうやら滞在できる時間に限りがあるらしい。

一つ街や人を救っては聖女の話を聞いて回る。それはまるで、聖女との別れの時間を国の民に報せるように。


やがて彼に嘘をつくものが現れた。

しかし何故か嘘はすぐにバレてしまう。激怒した黒猫は、嘘をついた村人に罰を与えた。

彼は三日三晩腹を下し吐き続けたらしい。

しかしこれは軽いものだ。神の青年が止めなければ、村人は雷に撃たれていただろう。


神の青年の話はとうとう王都ベイリッヒにまで到達した。

これには聖地を護る協会と、国王を含めた高官たちに混乱を招いた。

聖女は役割を果たしたが、彼女がいるだけで聖地は安定し、何より民衆の統括がしやすい。


緊急に議会が開かれ、彼らはどうやったら聖女を止めておけるのかを議論した。

神などただの噂に過ぎないと笑う者も複数いたが、奇跡の力を持つ聖女ならばありえない事ではないと叫ぶものもいた。


結局、魔術師を集めて聖女を隠す事になった。加えて、国王は婚約者であるマクシミリアンには彼女の説得を命じる。


噂を聖女に知られぬよう、秘密裏に事が進められた。聖女の侍女にも固く口止めをし、監視をつけた。


さりげなく公務を減らし離宮に閉じ込めるように聖女の護りを固める。幾重にも張られた隠蔽の魔術。最高の術者達が施したものだ。

しかし安心はできなかった。この二週間後、聖地復活祭が行われるのだ。


これは聖女が最後の浄化に成功した日に行われる祭りで、この日は王宮に国民が集まり国と聖女を讃える。流石にこの祭りに聖女を参加させないわけにはいかない。

近衛騎士団も魔術師たちも全てを集結させて、聖女を護るように支持を出す。


聖女にどうしたいかと問いかける高官は誰一人としていなかった。

誰一人として。


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