8節 三人目の
「シォハの身体、よく見るとカラフルですごく綺麗ですよ!」
「あんまりジロジロ見ないでおくれよ……」
セゥノなりの励ましか、本当にそう思っているのかわからないシォハは、片手でその瞳を覆い隠す。
変わった思考を持つ彼女だが、時折鋭く物事を指摘する。
「私、実はずっと考えてたことがあるです。……シォハは私の弟じゃないです?」
「厳密にはね。血が繋がっていないのは確か。年齢はわからない。外見的には君と同じくらいだけど」
「なら話が変わってくるでありますよ……」
「?」
セゥノは不満げに頬を膨らませる。
「1000年前の昔話です」
「それが……なに?」
「昔話のメインとなる登場人物は3人です。メルローズ伯爵と、私と、双子の弟。その3人目は、シォハだと考えていたのに」
シォハはぼんやりとセゥノの顔を見つめる。自身ですら予想が至らなかった部分であった。
「どうなんだろう。でも僕だけ存在がイレギュラーだよ。人工的な生命だし、生まれ変わりもなにも……」
「ああ! またネガティブな発言をし始めたです! 殴りつけますよ!」
そう言いながらすでに腹を殴っていたセゥノは、自身によりかかるシォハを見て笑い声をあげた。
「シォハが男になったのはきっと、神の奇跡の方ですよ。生まれ変わった姉とまた出会って、今度こそ結婚できるようにしてくれたです。粋な計らいです。メルローズは計らいに利用されたです。所詮は駒です」
「あ、ああ……そんな考えもできるか」
「絶対そうでありますよ! この説を私は押し続けます」
「――なら」
痛みが引いたシォハは不敵に微笑み、セゥノに唇へのキスを求める。
「神の加護の下に僕たちは、いつか必ず結婚しなくちゃね」
軽く触れるだけの口づけを交わし、セゥノは閃く。
「別に今でもいいでありますよー」
「なんだかノリが軽い。もっと真剣に考えてくれるようになるまで待つからね。ああ、でもその間に他の男に取られでもしたら……第二のアドルフ・ギリスみたいな」
「私そんな浮気女じゃありません! 失敬な!」
シォハの額を小突くセゥノの視界に、黒い気配が過ぎる。セゥノが気配を追って窓の外を見ると、そこにはギラギラとゆらめく金色の眼があった。途端、セゥノは悲鳴をあげる。
「リヒテだよ」
シォハは苦笑するが、セゥノは違う違うと首を振る。
「あれは完全に女の目であります……! 大好きなご主人さまが他の女に取られそうだから、睨みをきかせてるであります!」
「そうなの」
「シォハっ、お前一体どんな手懐け方をしたですか! 女の喜びを与えたですか?!」
「……僕にそんな趣味は無ーよ」
シォハは窓の向こうから睨みをきかせるルマン=リヒテに視線でなんらかの合図を送り、下がらせた。
シォハ曰わく、塔の窓から存在を確認していたルマン=リヒテに対し、ただ目を逸らさずに睨み続けることで服従させたのだが、セゥノに通用する理由ではなかった。
陽が顔を出し、世界が白みはじめた時間。開いた視界に愛しい者の姿を確認できなかったシォハは、静かな胸騒ぎを抱きながら廃屋の外へ出た。
セゥノは、海が一望できる崖っぷちに座りこみ、土を手で掘り返していた。ルマン=リヒテがその隣りで毛繕いをしている。
シォハは薄く息を吐き、その場所へ向かう。
「イーヴォちゃんに、ここでゆっくり休んでもらうです」
シォハが後ろに立ったことを気配で感じ取ったセゥノは、空いた穴の中にイーヴォの頭部を納めながら呟いた。
掘り返した土を元の場所へ戻すとき、新たに2つの手が加わった。
「本当にさ、僕らが昔話の中の双子の生まれ変わりなら、きっと、イーヴォともまたどこかで会えるよ。それがどんなかたちであれ」
「……はぃ」
イーヴォの頭部が土に埋もれて見えなくなったとき、セゥノはもう泣いていなかった。
「さ、行くですよ。メルローズに見つかるです」
「うん」
2人を乗せたルマン=リヒテが廃屋を離れる。霧を抜け、風を置き去りにし、自由を求める2人の意のままに、どこまでも。
「次に行くアテはあるですか?」
訊ねると、シォハは歯切れ悪く答える。
「実のところ、決めてないんだ。行きたいところは、いっぱいあるんだけど……」
「なら港へ行くです! 船に乗って、センフェロン大陸へ渡るですよー」
「いいね。でも、リヒテはどうしたら」
「あ」
そこまで考えが至らなかったセゥノは首を傾げ、思考を巡らせる。
「船にこっそり乗せるにしても、リヒテさんは大きすぎてすぐにバレちゃうですし、泳いで海を渡るなんて無謀ですし……」
結局のところ海など渡れず、いつどこから現れるかわからないランス・メルローズとアガレスを警戒しながらバルバラン大陸を回ることとなった。
だが最大の問題はそこではなかった。




