気まぐれ姫
「私だけ除け者なんて酷いなぁ〜」
「私達も同じだから行きましょう?」
「そうですよ。準備もありますし」
「綾たちも話に参加してたじゃん!」
「そんな事ありません」
「そんなことありますぅ〜!」
「はぁ……予定があるので才本さんは早く行って下さい。他の方のご迷惑になりますよ?」
話を終わらせようと斉田さんが話に加わったが、薮から蛇だったのか、
「そんな堅っ苦しいから彼氏に振られるんだよ!『君の仕事の邪魔になるから』〜てさ!」
「ぐっ!」
「クリティカルヒット〜」
「おい、やめろ」
斉田さん彼氏居たのか、そして振られてるのか。どんまい。私は生まれてからその道のプロです。先輩としてアドバイスしますよ?異性が居なくても楽しく過ごす休日とか、リア充を見ても応援できる心構えとか。
「と、ともかく!貴女には大事な仕事があるのだから行きなさい」
「え〜、気になって上手くいかないかも〜」
「プロでしょ!」
「だからこそメンタルケアをしようとしてるんだよ〜」
「ああいえばここ言う!」
「べぇ〜」
「っ?!っ?!?!」
「ちょ、ちょっと?!斉田さん落ち着いて!おい、クスティルも手伝え!」
「めんどくさい」
「おい!」
やばいな、ご老人がワガママ姫とか斬新すぎるな、コントしてるようにしか見えない。後、声とのギャップ凄まじいな。ゴリラがハスキーボイスで幼女向けアニメOPを真顔で歌うような珍事件。
「そちらの方は関係者?」
「あ、これじゃわからないか」
質問したら、ご老人はすぐ理解したのか発光した。………そしたらテレビでよく見る才本藍が目の前に現れた。………発光、………老人、………若返り。
「魔法少女ですか?」
「いや違うよ?!歌手の才本藍!」
なんだ、魔法少女的な仕様かと。本物だったら某アニメなら制約によって………。危ない、危ない。危うく力を奪うところだった。
「取り敢えずサイン下さい」
待っててよかったサイン用紙。
「え。あ、は、はい」
「片方に成林でお願いします。成長の「成」に「林」です」
「……この人、スゴイね」
「マイペース過ぎるだけでは?」
失礼な護衛たちだな。後で成林に高値で売ってあげよう。血涙流して喜ぶはず。
「ど、どうぞ?」
「ありがとうございます。責任持ってオークションで高値にします」
「ん?…ん?!そこは『家宝にします!』では?!」
「家放にします!」
「……なんか違和感あるな」
「いえいえ、信用してください」
「いや、もう無理でしょ」
誠実に対応しただけなのに酷いな。
「……確かにマイペースかも」
「度を越してる気がするが……」
ドン引きする護衛達を傍にサイン用紙をしまった。有名人のサイン貰うの夢だったんだよな。
「この鼠は後でしm、牢屋に仕舞って頂くので安心してライブ頑張って下さい」
「あ、はい」
護衛達が目を合わせてすぐに「控室行きますか〜」「朝食も食べないと」とか言ってさっさと連れて行った。
そして、一人荒ぶっていた斉田さんは静かに立ち上がると無言で歩いて出て行った。入り口で止まり一言、
「……9時になったら警察呼びますのでお願いします」
「はい」
そのまま去っていった。
管理職大変だな〜。
そして、9時になり、警察が不審者の身柄を拘束に来た。特に滞りもなく引き渡してから最後の関係者を引き入れて、本日の業務は終了!
「他の場所はどんな感じなのかな〜?」
この場を離れて良いか聞いていないので、大人しく監視カメラで見える範囲を確認する。
「開幕直前のステージこんな感じなのか。スタッフさん達バタバタしてるな〜」
照明や演出の最終チェックをしているスタッフの近くで、同大学の警備員が既に現場入りしていた。
「お、成林いるじゃん」
ズームにして確認すると、いつもとは見違える程に容姿を整えた格好で警備に当たっていた。ただ、欠伸とか気怠げな表情をしなければ完璧だったな。
「スゥ〜、あれ?三傑のお二人さんいらっしゃらないね?」
大学でも最上位を占める実力を持つ蔡恩さん、門崎さんはどこにいらっしゃるのやら?創作的に考えれば主人公ポジションかヒロイン役だから、特別な事してる筈。
先程、丁度、最重要警備対象こと才本藍さんも来た………。
「つまり、お二人は才本さんのところって訳」
我ながら完璧な予想。どうせ知り合いとかそんな感じだろ。成林はモブ要員か……可哀想に(笑)。
〈才本目線〉
「全く、あの警備員さんにペース崩されちゃったよ」
私は不満ですよ!とアピールする為に護衛に頬を膨らませて訴える。
「あのような言動は危険な事件に巻き込まれますので、自重してください」
お堅い斉賀さんはまるで執事の爺やみたいに小言を言う。
「確かに面白そうだったね〜」
「おい、やめろクスティル」
お気楽な言動をするのはクスティル・ロークさんで、私の行動に一緒になって遊んでくれる優しいお姉さんみたいな人だ。
「でも、今回はやめて正解だと思うよ〜」
しかし、今日はいつもと違って諭すような表情で私に話しかけた。実際に私もそこまで興味があった訳ではないが、ここにいるのはジーナアイだ。仕事はもう始まっている。
「え〜なんで〜!面白いって言ったじゃん!」
「お前が珍しいな」
「酷いな〜、後で斉賀はパフェね」
「何故?!」
「それで何で辞めた方が良かったの?」
「ん〜、これは個人的な感覚だからね?」
そう前置きする彼女は、いつの日かの魔性を感じさせる雰囲気を纏っていた。
「多分、あれは私達のが苦戦する程危険」
「確かあの警備員は第四級だったな?」
生真面目な彼は、仕事仲間の名前やプロフィールを覚えていたらしい。
「よく覚えてるね。流石バカ真面目〜」
「仕事だからな」
「それは相性が良かったのかもね。とにかく、あれは何だか不穏な気配がずっとしてた」
「……確かに少し妙な気配はしていたな」
少し神妙な空気になったが、彼女のパン!と手を叩き、「問題は解決してるからいいさ〜」と弛んだ空気になった。斉賀さんも若干心残りもありそうだが、こちらを多分見たのかな?特に追求はしなかった。
「けぇ〜、ま!いいや。これから何するの〜」
彼女の空気に呑まれかけたが、ここからは多くの人が関わる大舞台の一つ。私のせいで失敗させる訳にはいかない。
「あぁ、それは君の知り合いが最初に来るそうだよ」
「知り合い?」
コンコンコン
「来たようだ。入っていいぞ!」
誰だろう?と入ってきた人物を確認すると、最近よくテレビでも共演する蔡恩ちゃんと、配信者で有名な門崎さんもいた。
「あっ!蔡恩ちゃん!どうしてここに?」
「今日はここの警備を担当します。それで一応共演などで面識があるので、斉田さんから挨拶していいと言われたので」
「そうなんだ!じゃあ今日はライブは安心だね〜」
「そうなるように努力しますよ」
やっぱり彼女は壁があるように感じるな。まぁ、今日は立場を配慮したと考えておこう。
「それで貴女は門崎さんですね?」
「はい。知って頂いてるなんて光栄です。今日はただの付き添いで来ちゃったのですみません」
「いいよ〜、私も門崎さんのチャンネルよく見てるよ!」
「ははは……楽しませてるか不安になりますね」
「大きな魔獣を倒す姿いつもカッコいいよ!」
「ありがとうございます」
斉田さんは緊張をほぐす為に二人を挨拶に招いたんだろうな。ありがたいや。
その後、数分程度だが会話して解散となった。リハーサルの時に近くにいるらしいから、応援していると言われて二人は退出した。
「さて、頑張ろう!」
ここからはジーニアイだけのステージだ。
〈???〉
「イレギュラーに見舞われるなんてついてない」
路地裏でため息をつきながら歩いている男がいた。
「いや〜、他の仲間には申し訳ない。運が悪かったと思って欲しいね」
言葉とは違い、罪悪感など感じさせない楽しそうな表情をしていた。
「ボスに怒られるかも。暫くバックれるか!時間が解決してくれる事に期待〜期待〜♪」
陽気に街の中に消えて行った男の痕跡を辿ると、そこには首が消えた警官二人の遺体がパトカーに放置されていた。