歌姫
「そろそろ時間だ……緊張してきた〜」
今日のメインイベント、『スーパーノヴァ』の日本が会場の世界ツアー。子供っぽい雰囲気を会ったときは感じたけど、こういう凄いスターはその人のステージだと豹変するから。楽しみ。
「お、会場暗くなった!」
画面の向こう側が薄暗くなると、ジーニアイのイントロが流れ始めた。すると、ステージの客席を挟んで反対側から光の線が複数ステージまで駆け抜けると、彼女がイントロに合わせるように空からステージに向かって飛んでいる。
「お〜、空から登場!」
よくよく見るとサイバーパンクな印象を感じさせる服装に、口だけ出したマスクをしていた。スキルを使っているのかちょっときたアクロバットを交えた。そのまま一回転してステージに降り立つと照明と共に歌が始まった。
MVとかで聴いた時と同じ歌声を聴き、プロスゲェと思ったがライブならではのアレンジを加えて特別感が凄い。後半につれてどんどん盛り上がる曲のお陰で完全に会場の熱が温まっているように感じる。
曲が終わると付けていたマスクを外した。
「今日は『スーパーノヴァ』日本公演に来てくれありがとう!」
「「「「「うおぉおおおお!!」」」」」
「今日は忘れられない思い出にしてやる!」
「「「「きゃああああ!!!」」」」
突然のイケボに男女両方の悲鳴が上がった。
「続けていくよ!ーーー」
そうして三曲続いたライブは、ライブが好きな人の気持ちがわかる時間になった。工夫も盛りに盛られているが、こんな時に考えるのは勿体無いね。
休憩のような感じでMCする時間になったが、彼女の話が普通に面白い。買ってきたお昼を後回しにするくらいだ。
「さて!続いては!」
MCの次の曲を紹介しようとする時に、カメラに不審な動きをする人々が見えた。無理やり前に行こうと進み出した。前にいた人たちは怒る人もいたが力が強いのかどんどん進むのを許している。
「うわぁ、めんどくさい事起きそう」
警備員も気付いたのかライブを邪魔しないように動き始めた。相手も気付いたのか不審者の一人が突然上空に銃を放った。そのせいで観客もジーニアイも不穏な空気を感じてしまった。
「銃弾くらいは回収するか」
向こうで何が話されているかわからないが、画面では一時的にライブがストップしてしまった。しかし、その中でもジーニアイは素早くバンドに近寄りイントロを弾かせ始めた。
「ーーー次はこの曲だ〜!!」
イントロが始まると同時に戦闘が開始された。観客は演出の一つだと思ったのか、冷めた熱を取り戻すように一気にボルテージが上がった。
曲もアニメの主題歌になり、戦闘時に流れて一時期流行した曲で観客の認識はトラブルからスペシャル演出に切り替わった。
「警備員はまるで映画の主人公みたいな気分だな」
生歌、生演奏の中戦闘するのは人によっては興奮が止まらないだろう。現に成林の顔が見てられないくらい酷い。ニヤニヤしすぎだろ。仕事しろ仕事。
そこまで強い敵は居ないのか、続々と不審者は無力化されていく。銃を所持している人物は三傑の蔡恩さんがどっちが弾丸かわからないスピードで処理している。
「それにしてもステージ周りに少し空間があったの奇跡だな」
もちろん通路もあり、観客を巻き込む事を最小限に出来ている。実力差があるのも一因だろうけど。それに、歌姫が支援しているのもある。
成林の動きはよく訓練とかで一緒にやるのでわかるが、見るからにいつもよりもキレがいい。支援系のスキル持ちは警備員の中にはいるが、ライブ会場には居ないはず。
というかテレビで言ってた。
曲が終わる頃には壊滅され、速やかに撤収されて行った。観客の一部は違和感を感じてそうな顔をしていたが、大半がライブに熱狂していたのであっという間に空気に呑み込まれて、気にする人は居なくなった。
「後はライブ観戦だけだな〜」
ライブ終了後、燃え尽きた感覚と満足感が両方押し寄せてきた。初めてのライブどうかと思ったけど、
ライブ最高でした。
〈斉田視点〉
「ーーーはい……はい。ありがとうございます」
深夜、既に定時の時間は過ぎているが近くのホテルで残業をしていた。
「すぅ、はあぁぁ………なんでこんな大変な事起きちゃうのかな……」
ジーニアイこと才本藍の機転のお陰で不本意な形ではあるが、ライブを無事に成功させる事ができた。観客のSNSをチラッと見たが、特別な演出についての高評価が多かった。
そこまでは不幸中の幸いで済んだ………けど、ここからが問題ご山積み。戦闘時の観客の被害はゼロだったけども、会場の修繕費、数十人いたテロリストの引渡しと事情聴取、それに加えて予定通りのライブの後処理。
ライブの後処理だけでも大変なのに色々積み重なり、やっとさっき全てを終わらせれた。
「ホント!なんでこんな事起きるかなぁ〜?!」
ストレスが溜まったらあれしかない!
「安物だけど赤ワインといつもの燻製おつまみ〜」
明日は休みとしたので、飲んでも問題なし。この時間がこの時から解放してくれる。
コンコンコン
「ん〜?誰?」
扉の外を伺って見ると、才本の護衛の一人クスティルがいた。
「やっほ〜」
扉を開けて招き入れると、追加のおつまみを渡してきた。
「どうしたのこんな時間に?」
「ちょっと伝えた方がいいと思ってね〜」
「面倒は嫌」
「残念、面倒ごとだよ」
「はぁ………それで?」
赤ワインを彼女にも渡したが、海外から来た彼女がワインを飲む姿は絵画でも鑑賞してる気持ちになる。
「テロリストの組織の名前、確かわかってなかったよね?」
「……ええ、マークも見つからずに誰も口を割らなかったから」
真剣味を帯びた声に不安を感じた。薄暗い部屋の角が何気なく目に映った。
「”Hare's grave”」
ボールを溢したように彼女は言葉を離した。
「知ってるの?」
「うん、日本だと『野兎の墓』と呼ばれてる世界的な裏組織」
「え」
巨大な組織による犯行の衝撃でほろ酔いが冷めた。
「な、なんで世界的な組織が?」
有名人が恨みを買う事はハリウッドなんかでは聞いたりするが、まだこちらは世界に出たばかり。それに彼女がそんな事を?
「それはわからないけど、あの男がそこの幹部だったから」
「……あの男?」
「ほら、昨日一番最初に会った不審者。あれはその組織の幹部の一人『鼠』だよ」
「幹部が……?」
「うん」
「でも、第四級の警備員に捕まる程度の人が何でわざわざ現場に来たの?」
幹部になるのが力だけとは思わないけど、それでも現場に来る必要はないはずだ。相手の狙いは何だ?
「ん〜、彼は第二級指名手配犯の筈なんだけど?」
「え、なんでそんな重要な事言わなかったの?!」
「確信が持てなかったんだよ」
彼女の顔を見ると、彼女自身も不思議そうな顔をしていた。
「それは真実なの?」
「そうだよ。アメリカ大統領暗殺、第一級狩人暗殺、各国の情報漏洩の主犯格」
「ちょ、ちょっと待って!」
「などなど、世界に恐れられる犯罪者」
追加で出された情報は更に私を混乱させてきた。そんなの、そんなのーーー
「ーーー特殊討伐対象じゃない!」
「まぁ、何でなってないのかは色々と噂されてるけど、そういう認識で合ってる」
取り敢えず言いたいことは言った顔で、ウキウキとワインを追加する彼女の姿に思わずイラッ、ときた。
「まだツアー終わってないのにどうするの……?」
「第一級狩人雇うしか無いんじゃない?」
「………びゅう」
「あっ!斉田さん?!」
そこからの記憶は無かったが、翌日に彼女に会った時夢ではないと知ってしまった。
「彼は何者なんだろうね?」
妙に火照った頬に当たる風と共に、言葉は夜の喧騒の中に転がり落ちていった。




