ダンジョンで無難に生き残る方法
「………」
目を見開いた状態で数秒ほど呆然としていた。
周りを見渡すと洞窟型と呼ばれるダンジョン特有の湿った岩が視界全体に広がっている。つまり、洞窟の中だ。
「うそやん」
突発ダンジョンがこの世界には災害の一つとして認知されている。地震、雷、火事、ダンジョンとこっちの世界では言われてる。
発生時、一定範囲に居ると階層の何処かに転送される。ダンジョンの階級によるところもあるけど、世界中で数万人の命を奪っている『災害』だ。
世界狩人機構、通称『WHO』によると、一般人が生還できる可能性は約30%、突発ダンジョンに巻き込まれる確率は約0.003%。狩人の生還は6割。これは装備を持っている場合を対象としている。装備が無い状態では3割を切る。
現在、装備なし。
「…Oh……」
ここからでも入れる保険ありますか?
そんな現実逃避はさておき、ダンジョンのレベルはなんじゃろか。第四級だと有難いなぁ〜。
とか考えながら角を曲がると緑のお顔ーーー
「クギャア?」
「…………」
一旦、一旦ね?戻って、もう一度角を曲がると緑のお顔……緑のお顔?!
「クギャア!」
「○ね!」
「クジュア?!」
「我が拳に迷いなし」
ゴブリンを殴り飛ばした後に更に奥に複数体のゴブリン+αたち。総勢十数匹。と目が合った。
それは聞いてない。
「「「クギャア!!」」」
「逃・走☆」
一匹しつこいのがいたが殴り飛ばしておいた。階級的に身体能力で勝てるが、数の暴力は聞いてない。
「ん〜〜」
装備無しだとキツイけど、装備あった余裕ありそうだから同じ階級かな?
角を今度は慎重に曲がると、一般人の被害者と思われるカップルと親子揃った家族を巨大な四つ足の蜘蛛が捕食していた。
取り敢えず角を戻る。
前言撤回。ここ、階級が一つ上だ。
「シュー、シュー」
「………」
クラウチングスタートを自然と構えていた。
「シャアァァア!!」
「来るんじゃねーー!!」
「暴力反対」
相手は糸を主体とする魔物で、私のスキルとの相性が良く上手く撒くことができた。蜘蛛のくせに四つ足で足が遅かった。自重が重かったんだろう。ダイエットした方がいいよ。
体力はレベルが割と高いので大丈夫だが、武装面がどうしても必要だな。逃げる事しかできなくなる。拳を使う武術も習っておけばよかった。
今度こそ角をクリアリングするため、探偵の様に可能な限り露出面積を減らして確認すると、真横を高速で頭が飛んで行った。
見覚えのある緑フェイス………、
「…………」
角を曲がると事件が起きる罠があるのか?さっきから曲がるたび何かに遭遇してるんだが……。
もう一度確認するとこちらを見観る人の姿があった。
「そこにいるのは誰ですか?」
「民間人です」
剣を携えた麗人がゴブリンの首を綺麗に跳ね飛ばし、こちらを向いた。リアル王子様とビビるくらいイケメンだが、顔が死んでる魚みたいだ。
あ、これは王子様を馬鹿にしたわけではなくて、思わず心の声が、いえ、王子様でもこのような環境では恐怖や緊張をするのだと言う親近感を覚えただけです。俗言うギャップ萌えを婉曲に表現しただけなんです。古典のテストの悪影響なんです。それに、死んでる魚の顔もよく見ればかっこいいと思うんですよ!人それぞれ感じ方違うように、褒め方も個人差があるとおもうんですよ!多様性万歳!!民主主義万歳!!!
「ふぅ」
「そうですか?では、脱出に向かいますので着いてきてください。必ず守りますので」
「あ、お願いします」
嘘ついて一般人のフリしたが、必ず守ると言うとはカッコいいな。騎士みたいだ。身長が165cmもない自分と比べると非常に高い。175以上ありそう……。
「第三級狩人の坂目新芽と言います」
「田中です」
お、有名人じゃん。彼女は自分より階級の高い狩人かつ、狩人業界を代表するモデルさんだ。サイン貰えるかな?そしたら成林に自慢する。アイツの悔しがる顔が思い浮かぶぜ………ケッケッケッ。
落ち着いたのか、顔色が戻り、微笑みがこちらに向けられていた。眩しい?!
「お兄さんは社会人ですか?」
「いいえ。大学2年生やってます」
「年齢、近いですね」
「そちらは坂目さん、ですよね?」
「はい。私のこと御存知でしたか?」
「はい。有名ですから」
知らないとかモグリと言われちゃう。高校生にして第二級は世界最速記録。他の国からもスカウトを狙われる期待の新星。イケボで顔も王子様系のイケメン。完璧か!
あっそうだ。
「ここのレベルはどのくらいか分かりますか?」
「……レベルですか?おそらく三級かと。なので、一人でも無事な方がいて良かったです」
その時放たれたスマイルにより肉体が消滅……、はっ!これが尊死……?!
……なんかさっきから落ち着かないな。顔に出てないよな?変な奴と思われたら傷つくぞ〜。
突然の賢者モードになっていると新星さんが敵を薙ぎ払っていた。わあぁ、敵がミンチだ〜。
「……少し多いですね。田中さんスキルは何ですか?」
狩人の常識だと尋ねるのはタブーだか……、今は一般人設定だからいいか。
「『領域支配』ですね」
「え?支配系スキルですか?」
「まぁ、一応。制限多いですが」
「なるほど……、田中さんのスキルについて詳しく教えて下さい。出来る範囲で敵から最低限身を守って欲しいです。さっきから異様に敵が多いので」
「わかりました」
確かにさっきから敵の数減ってないな。
「え〜と、半径30cmの領域を好きに操作できます。ネズミ以上の大きさの生物は対象外の効果ですね。支配による効果も範囲外になるとなくなります」
「強力ですが微妙ですね」
「まぁ、はい。範囲内で音速を超えて物体飛ばしても、範囲外では何もなかったようにポトンと落ちます」
「……なるほど、別世界が30cm広がっている感覚ですか」
「そんな感じです」
「わかりました。では、いつもの様に敵を倒して下さい」
ん?
「いつもとは?」
「田中さん狩人でしょ?」
バレてますやん。いや、まだいける。
「いやいや、戦闘経験なんて」
「袖の血」
「……鼻血です。つい拭いちゃって」
「ゴブリンの血ですよね?狩人にとってゴブリンの血と人の血を見分けれること知ってますか?」
……存じ上げてます。最初の数ヶ月は必ずゴブリン討伐しか討伐系の依頼は受けれないルールがある。そのせいで狩人の殆どは上手く狩れずに血を浴びちゃうことが多い。何故かゴブリンは死後血を穴という穴から大量に血を吹き、一気にミイラになる特性を持つ。嫌がらせ仕様だ。
加えて独特な臭いと若干紫色の色もあり。見分ける大会が開かれる程業界では有名な話。袖に血があったの気付かなかった。……洗濯大変だ。
「一般の人ではゴブリンに素手で勝てないですよ?」
「たまたまですよ〜」
「さっきから魔物からの攻撃を上手く躱しているのに?」
「危ないので」
「諦めてください」
彼女、さっきからわざと敵の攻撃後ろまで通しているだろ。最初は防いでいたのに途中から無視し始めたぞ。
「レベルを趣味で上げてて」
「資格無しでですか?」
すごい笑顔で見てくる。
「………」
「出たら通報しないと」
「………第四級です」
その笑顔はとても怖かった。
強い人に守ってもらう。
※WHOは完全に偶然です。