退屈で素晴らしい日常へ
お待たせしました。
相手は武器は持っていないが、魔法で周囲に多くの玉を纏っている。さっきの結界もあれを飛ばしたとすると、かなりの威力がある。
しかし、竜と同等か……
「安全な場所で見てます」
「あの世でな」
「うぉお!」
視線も向けずに突然こちらに玉を飛ばしてきた。『スキル』でギリギリ止められたが、いくつかの玉は後方へ飛んで木々に綺麗な風穴を開けていた。
「意外だな。予想よりも時間がかかりそうだ」
鋭い視線と共に大量の玉がこちらを狙っている感覚がした。
「忘れてませんか?」
重厚な装甲に反する静かな移動で坂目さんが相手を斬りつけたが、獣人と呼べる姿をする男は軽く回避して流れるように玉を彼女に打ち込んだ。
「少しは力があるようだが、未熟だ。当たらなければ問題はない」
「当たるまでやるだけです」
「軽い反撃を受けるような力量でか?」
光の鎧を貫通したのか少し血が流れている。既に治療をしているが、獣人の男は見下した視線を送りながらも邪魔をしなかった。
「長はこの娘の足留めと指示をされたが、本当に必要だったのか?」
「足留め?」
治療を終えた彼女は構えながら質問した。
「なんて事はない、お前達には既に聞かせても無駄な事だ。すぐに消えるお前達には、な」
「坂目さん!一旦逃げるぞ!!」
無慈悲にも見ただけで数千は超える玉を生み出された。攻撃の面積はそれぞれは小さいが威力は竜の攻撃にも耐えた彼女の装甲を軽々貫通する。それを機関銃のように弾幕を打とうとされるのは、良くて即死、悪くて瀕死。
「逃げれるといいなぁ?」
嘲笑するやつの顔を一発殴りたいが、彼女と避難するのが最優先。渋々、全力で逃げた。いや、決して、決して!元から逃げたいとかそういう訳ではないです。はい。
後ろから木の破裂音を聞きながら森の奥へと逃げ込んだ。遊んでいるのか追い立てるように打つだけで、相手は追いかけては来なかった。
「アイツどうしますか?」
「…………」
今回の依頼は調査が最優先事項にある。追加で討伐の依頼も含まれてはいるが、現状の戦力ではどちらか犠牲になる。それも、両方全滅する可能性の方が高い。
「調査は不十分ですが、坂目さんが仰った竜と同格の存在がいることを伝えるだけでも報告の価値はあります」
「………も……て?」
「個人としては撤退が判断として最適だと思いま……坂目さん?」
「え、あ、はい。私も賛成です。相手は私より格上と思います。『覚醒』からの期間も近いので、戦闘は時期早々に感じました」
「それじゃあ撤退の計画を立てましょう」
彼女は何度かこの森の撤退経験があるということで、素早く計画の目処が立った。
「相手の動きが不明なのでこのまま奥に向かい、一番危険とされる中心を避けながら反対方向へ退避しましょう。この森の四方向に基地が建っているので、そこから森を迂回して、依頼主である服部さんに報告しましょう」
「これ以上奥へ行ったことはあるんですか?」
「はい。前回は師匠と共に行きました。実力的に危険ではありますが逃げるだけなら可能です」
「了解です。途中、獣人みたいな奴の妨害もありますかね?」
「………恐らく無いかと、彼は『足留め』と言っていたので中心を避ければ邪魔する必要もないと考える、かもしれません」
何の足留めかわかったら楽なんだけど、相手は人ではなく魔物だから何も言えない。ただ、中心へ行かせないならこちら側に誘導するように攻撃をしないはず。向こう側も反対側にも基地の存在くらい知って………。
「とても嫌な予感がする」
「はい。私も強くそう思います」
彼女を見ると焦っている雰囲気が伝わる。
「急いで行きましょう」
「……行ったな」
「サハル様宜しかったのでしょうか?」
「いいさ、長が目を掛けているということは下手に手を出すと此方に被害が生まれてしまう。それよりも今は離しておいた方が都合がいい」
「承知しました。長からの伝言です。『計画は直ぐに終わる』と」
男が伝達役を戻らせると、逃げた2人の方角を眺めた。
「そっちには何も無いのにな」
約一時間走り、あと基地まで数分の距離に近づいた。道中は無言で出会った魔物も無理やり彼女が倒すことで殆ど直線距離で駆け抜けた。
「見えてきました!」
「休めますね」
「報告した後で…す……が………」
「どうしまし……」
唖然とする彼女の横から見ると、元基地の姿があった。
「ここで合ってますか?」
「………はい」
「だから、見逃したのか」
狼狽える彼女は基地の跡地を歩いているが生存者はいない。代わりに死体が乱雑に捨てられていた。
「…………」
死体を避けながら司令練に辿り着くと、門の前には悪趣味な飾りがされていた。
「彼らは………」
「…まるで昔の戦争ですね」
呆然とする彼女を傍に生臭さの発生源を覗いたが、胸糞悪い光景だったので『スキル』の応用で火葬しておいた。今の彼女には見せてはいけないだろう。
「彼らは知り合いですか?」
「数人は、ですが全員この基地の最高戦力です」
「戦国時代の首級をしているつもりなんでしょうかね」
「………」
この場で誰がやったか見当もつかない馬鹿は居ない。あの獣人達だろう。つまり、あの時の足留めという発言は基地を壊滅させるのを邪魔させない為の作戦の一つ。この基地は血の乾き方から数日前には既に襲撃された。ならば、依頼主の基地への襲撃が今日だったのだろう。
「………戻りましょう」
「え、この規模を壊滅できる戦力に二人では」
「戻りましょう」
「…………」
「戻らせてください……」
彼女の握る手から血が垂れている。
「犠牲を増やすだけです」
「…………」
「諦めてください。狩人にはよくあることです」
街で暮らしていると忘れてしまうが、この世界は人の命が酷く軽い。魔物の襲撃も減ってはいるが、少なくても一年に数千の命が消える世界。一般人でそうなのだから、狩人は更に死ぬのが軽い。
「……田中さんは外部に報告に向かって下さい」
「………」
一人で行けばいい訳じゃ無いんだけどなぁ。放置したら世間から恨まれそ〜。
「とっておきがあります」
逃げた後もどうせ生きづらいなら、まだ死んだ方がマシだな。
「一回だけ基地に転移させます」
「お願いします!」
そんな期待の目で見てるけど、これ失敗する可能性あるから下手したら坂目さん死ぬんだけど。無茶振り言ってくるんだからこれくらい覚悟できてるだろ。言わなくていいや。
「それじゃあ行きますか〜」
次からちゃんと戦います。




