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五 仮契約みたいなもの

 椿の話はわかったようなわからなかったような感じだし。

『暫くの間』がどれくらいかわかんねぇけど。別にいい。

 大学に入ったからって特に何に向けて頑張ってるわけでもない俺。

 就職活動もそろそろ始めてる奴はいるけど、なんかその気になれなくて放ったらかしだしな。

 周りに比べてどうにも宙ぶらりんで。

 ホント、こんなでこの先どうするんだか。

 そんなことを思いながら。立ち上がった椿に少し遅れてベンチを立つ。

 帰り、またアレか……。

 ちょっと遠い目になりながら椿を見ると、じっと一方向を見つめてる。

 視線を辿ると、公園の外にあるカフェにテイクアウトの文字が見えた。


「腹でもへってるのか?」


 声をかけると思ったより勢いよく椿が振り返った。

 あれ? もしかして図星とか?


「そういうわけではないが……」

「ないが?」

「気になったものでな」

「気になったって?」


 椿はもう一度店を見てから、ああいうものが、と小さく呟く。


「今はテレビがあるからな、情報だけは有り余る程なのだが。ああいったものは供えてもらえないからな」


 ああいったものって……。

 カフェを見るけど、メニューは見えない。ソフトクリームのポスターが……ってもしかして?


「ソフトクリーム?」

「ああ。主様に供えてもらえたものは、私も味わうことはできるのだがな」


 まぁ確かに、ソフトクリームをお供えなんかしたら迷惑でしかないだろうけど。

 じっとポスターを見てる椿が、なんだか初めてその姿らしく見えた。


「食べるなら買ってやるけど?」


 この場合ってお供えっていうんだろうか、なんてことを考えながら。

 驚いて俺を見た椿が嬉しそうに笑う。

 それを見てると、なんか俺まで嬉しくなった。




「では人除けを解くからな」


 着物は目立つからと、黒地に黄緑と白のリボンのワンピース姿に変わった椿。ちょっと声が嬉しそうなのは気のせいじゃない、よな。

 たんぽぽたちは椿と一緒にいるらしいが、もう俺の目にも見えなくなってた。

 椿とふたり、店の前に行く。奥には当たり前だけど人がいて、妙に緊張してしまう。

 ……おかしいところ、ないよな?


「で、どれにする?」


 ソフトクリームはバニラとチョコとミックス。まぁ定番だな。


「待て。考えているから……」

「ミックスだったら両方食べれるんじゃ……」

「味も混ざってしまうではないか!」


 いや、そういうもんだろ、ミックスって。

 内心ツッコみつつ、ものすごく真剣な表情の椿がなんだか微笑ましかった。

 悩んだ挙げ句に椿が選んだバニラと、チョコのふたつを頼む。

 甘いもの、あんま好きじゃないけど。食えないわけでもないしな。

 先に渡されたバニラソフトを椿に手渡す。溶けるから食べ始めとけと言うと、プラスチックのスプーンで嬉しそうにすくって食べだした。

 もンのすごくいい笑顔してやがる。

 チョコソフトも受け取って。また公園のベンチに戻ってきてから。


「好きなだけ取れよ」


 そう言って椿の前にチョコソフトを出すけど、椿は首を振った。


「もうスプーンを使ってしまった」

「俺スプーンいらねぇから。それで先にがつっと取ってくれって」


 椿の驚いた顔、今日何度目だろうな。

 すぐいい笑顔に戻った椿。

 二言はないな、と浮かれた声で返してから。本当に遠慮なく、がっつり取っていった。




「……こんなに美味いものだったのだな……」


 恍惚の表情ってきっとこういう顔なんだって。自信を持って言えるくらい。

 ほわんとした椿の様子。喜んでくれたならホントよかった。


「ゴミ捨ててくるから」

「いや。これは持ち帰らねばならないんだ」


 そう言って、椿はコーンに巻かれてた紙にスプーンをふたつ(くる)んでしまい込んだ。それから俺を見上げ、そうだな、と呟く。


「この際響にも話しておくが。結ぶ縁には三段階あるんだ」


 突然、だけど真剣な椿の声に、立ち上がりかけてたのを座り直す。


「まずは言葉を交わす。この場合は普通そのうち忘れていく。次に触れる。一時的な…まぁ仮契約みたいなものと思えばいい。響とは、今この状態だな」


 頷く俺に、だから、と続ける椿。


「たんぽぽはいいが、それ以外のこやつらには望まれるまで触れるでないぞ」


 人除けをしてからまた見えるようになった人形(ひとがた)たちに視線を向けるその顔は、さっきのソフトクリームにはしゃぐ顔じゃなくて。小さな子を見守るような、そんな優しげなものだった。


「わかった。気をつけるよ」


 それでいいとばかりに頷き返してから、椿はまた俺を見上げた。

 慈愛に溢れた顔から一転、子どもらしくなんて全然なくて。

 いや、椿は子どもじゃないから当たり前なのかもしれないけど。時々、覗き込んでると戻れなくなりそうな、そんな目をする。

 気になって仕方ない一方で、踏み込んじゃいけないと感じる。怖くはないけど、覚悟を決めないとできない、そんな圧をかけられてるような――。

 俺の動揺なんて気にした様子もなく。椿は淡々と続けた。


「最後に。私の何かしらを取り込むと本契約となる。そうなればもう私と命運をともにしてもらわねばならぬ」


 俺を見つめる漆黒の瞳。

 椿は人ではないのだと、改めて感じた。

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 たんぽぽ主役の番外編と、その時の響と椿の様子です。
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