カナターーーっ
「トーマスっ トーマスっ!カナタを助けに行ってよっ」
「女神さんよ、ここからどうやって魔族領に行けってんだ。ゴーレンに行くのも何日掛かるかわからんだろがっ」
「だって、だって、カナタが死んじゃうっ」
「もう俺達には祈っててやるしかねぇ。女神さんはなんかしてやれねぇのかっ」
「こ、この状態じゃ私は何も・・・」
カナタが、女神を自分の世界に帰す事に拘ってたのはこういうことなんだな。世界に異変があったときにどれだけ強くなろうとも人間には手が打てない。神しか出来ない事は神にお願いするしかないのだから。
クロノが自分は何も出来ない事を激しく悔やんでいた。
ワープゲートから飛び出した叶多は神器を奪い取った。魔王は叶多を捕まえようと攻撃をしてくるところをゲートを出してキャンセルして腕を奪う。そして下半身を罠に落としてキャンセル。魔王は上半身だけになった。
イケるっ
そう思った叶多はゲートを出して魔王から離れ、上半身の魔王をゲートに落とそうとした。
ガッ
魔王は腕が再生し、ゲートをこじ開けようとする。
「きゃ、キャンセルっ」
ゲートの魔法陣を掴む魔王。ワープがキャンセル出来ない。
魔王ってこんな事が出来るのかよっ
攻撃手段を失った叶多は他の魔族や魔物に蹂躙されていく。
ガハッ
ヤバい。もう助からんかもしれない。
クロノ クロノっ!
叶多は自分が死ぬ事を覚悟してクロノの名前を呼ぶ。
「カ、カナタが呼んでるっ」
突如としてクロノがそう叫ぶ。
「カナタっ 死んじゃいやぁーーーーつ」
「クロノっ?」
すでに死にかけていた叶多の心にクロノの泣き叫ぶ声が響く。
「誰だっ、クロノを泣かした奴はっ」
叶多はクロノの悲痛な叫び声を聞いて殺気が溢れだす。
「許さんっ」
叶多は渾身の念でワープゲートをキャンセルした。
バツンっ
魔王がこじ開けようとしていたゲートが閉じて腕より下が無くなった魔王。
叶多はポーションをがぶ飲みして、自分に襲いかかる魔族や魔物を次々とゲートに落として消していく。
テレレレッレッレー♪
けたたましく連続で鳴るレベルアップ音。それに混じって何か聞こえたがそんなのは後だ。
ガハッ ガハッ ガハッ
九死に一生を得た叶多は大量の血を吐いた。
クソっ、あの繭の霧は毒か・・・
魔王をあともう一息で仕留められそうなのに意識が朦朧としてくる。もう一度魔王にワープゲートをこじ開けられたら命どころか神器まで奪われてしまう。
叶多は撤退を選んだ。魔王はもう再生を始めているのが見えたからだ。
一気に戻ると亜空間でやられるかもしれない。
叶多はワープの距離を短く、少しずつ撤退をしていく。何度か魔族達の残党に追いつかれそうになるもゲートでかわしていった。
ブオン
「カナタっ!無事だったのねっ」
「エスタート、始まりの地」
叶多はそう言ってゲートを開く。
「カナタっ、何やってんだっ」
「クロノ、お前は元の世界に戻って勇者スキルを取り戻すんだっ」
有無を言わさずクロノをゲートに連れて行く叶多。
「カナタっ!カナタっ!大丈夫なのっ」
「時間がない」
カナタはクロノを抱き上げて残り少ない命を削って走る。
トーマス達もそれに続いた。
「クロノ、早く戻れ、魔王はまだ倒せてない。だけどチャンスなんだ。幹部達はほとんど倒した。魔王も覚醒途中で今なら倒せるっ」
「カナタは大丈夫なのっ」
「大丈夫だ。ポーションをありったけ飲んだからな。それに今クロノを抱きしめて楽になった。だから、心配すんな。さっさと行ってさっさと戻って来てくれ」
「わかった」
クロノは叶多から神器を受け取り、天界への入口を開いて飛んで行った。
それを見届けた叶多。
「カナタ、お前本当に大丈夫・・・」
がはっ
叶多は大量の血を吐いてその場で倒れる。
「きゃぁぁぁぁつ」
シンシアがそれを見て叫ぶ。
「カナタっ、カナタっしっかりしろっ。ポーションをっ」
「ト、トーマス。無駄 だ。もう 何本も飲んで る・・・ これは魔王の毒だ」
「おいっ!しっかりしろっ」
「トーマス 頼み がある」
「な、何だっ」
「魔王は 再生をする ゲートも こじ開けられ るから 首だけにしてゲートに落とさない と倒せない 後は頼めるか?」
「わかった、わかったからもう喋るなっ」
「カナタさんっ カナタさんっ」
「シアちゃん ちゃんと他の奴と幸せにな・・・ 俺が死んだら ちゃんと忘れられるか ら」
「いやぁーーーーーっ」
あぁ、もう力が入らん。
最後にクロノに会いたいな・・・。亜空間に閉じ込められたら元の世界に戻って記憶が残るだろうか?いや、亜空間で時間が止まってる可能性があるんだったな。諦めるしかないか・・・。
このまま死んだら、クロノは本体の俺をまた召喚するかな・・・。しかし、自分とはいえクロノが他の男とイチャイチャすんのは嫌だな。それが自分だったとしてもだ。不思議な感覚だ・・・。
横でずっと泣いてるシンシアの声が聞こえてくる。俺がいなくなったらみんなの記憶からなくなるのはいい事かもしれん。シンシアもリンダもリズの記憶からも消えるからな・・・
クロノ・・・
クロノ・・・・
俺はもっとお前と・・・・
・・・・・・プツン
「死ねぇぇぇぇ」
「きゃぁぁぁぁっ」
「えっ?えっ?どこだここ?」
「本日のニュースです。街中で突如剣を振り回して通行人に切りつけようとした少年二人が逮捕されました。二人は自分達は魔王討伐をしていたと供述しており、薬物鑑定と精神鑑定を・・・」
「うわぁぁぁぁぁっ」
「ど、どうした叶多?」
「えっ?あれ?俺落とし穴か魔法陣に落ちて・・・ないよな?」
「人の事をさんざん馬鹿にして、お前の方がおかしいんじゃないか?」
「うるせぇよ」
時野叶多と夢野彼方はお前の方がおかしいと言い合いながら登校する。
「な、なんで時間が動いてんのよ・・・」
クロノが叶多のいた世界に辿り着くと止めてあったはずの時間が動き出していた。
それより勇者スキルを取り戻さないとっ。あいつらどこにいるのよっ
「カナタさん、カナタさん・・・嘘でしょ・・・」
シンシアに幸せになれと言って動かなくなった叶多。
「クソぉぉぉぉっ。カナタ死ぬなっ」
クロノが勇者スキルを取り戻して始まりの地に戻って来たのは丸1日過ぎた後だった。
「カナタはっ?」
トーマスの服を上から被せられ動かなくなった叶多を見たクロノは半狂乱になって叶多を揺さぶる。
「嘘でしょ?ねぇっ嘘でしょっ。目を開けてよーーーーーっ!」
「すまねぇ女神さん。俺にスキルを付けてくれねぇか。カナタの敵を討って来る」
トーマスの声が聞こえないクロノ。
「早くっ!カナタのやった事を無駄にしてぇのかっ!」
クロノはそう言われて、トーマスに剣の勇者、シンシアに賢者の勇者のスキルを付けた。
「ワープのスキルも頼む」
ワープのスキルは叶多に付けた物。それをトーマスに付けられるということは叶多はもう・・・
「ワープ、魔王」
トーマスがそう唱えるとワープゲートが開いた。そして二人はそこへ消えて行く。
「カナタ・・・ カナタ・・・」
クロノは動かなくなった叶多の身体に顔を埋めた。
そしてトーマス達が魔王を倒して帰って来きた。
叶多の身体にしがみついて離れないクロノ。
「女神さんよ、ご依頼通り魔王は倒して来たぜ。って、誰が死んでんだ?」
「え?」
「女神さん、そいつは誰だ?魔物にやられたのか?」
「カッ、カナタを覚えてないのっ」
「カナタ?」
シンシアは叶多に手を合わせている。
「シンシアもカナタの事を覚えてないの?」
「カナタさんって言うんですか?その亡くなってる方は?」
「なんでみんなカナタを忘れるのよっ」
「女神さん、何を言ってるかさっぱりわかんねぇぞ。それより早く燃やしてやらねぇと腐っちまうぞ」
「嫌よっ!絶対にいやぁーーーーっ」
クロノは叶多の身体にしがみついて何度も何度も目を開けてと叫んでいた。