マイクとリンダ
「相変わらずクロノはカナタにべったりだね」
リンダがそう言うとクロノがガシッと腕をホールドする。
「どうしたクロノ?」
「カナタは私のだからねっ」
「知ってるよ。奥さんなんだから。だから私は諦めたんでしょっ」
「だって」
「だって?」
「カナタの好きなタイプはリンダとかリズなんだもんっ」
「お、おまっ、何を言い出すんだよっ」
「マジで?えーっ、それならもう一度アタックしようかなぁ」
「やっ、やめてよっ」
と、その時マイクがリンダに何かをこそこそっと話し掛けた。
「冗談だってぇ。もぅっ」
と、リンダはマイクに甘え出した。何だラブラブじゃんかよ。
そしてまたねとこっちを見もせずに向こうへ行ったのであった。
「はぁ、私もいい人見つけないとな」
その様子を見ていたリズが呟く。
「相手はゴブリンか?」
ガスッ
テトラはM系なのだろうか?
入れ替わりでシンシアとニックがこっちに来た。
「シンシアちゃんモテるんだなぁ」
と、ニック。
「エスタートのギルドでもそうだったみたいだよ」
「皆、女神様に乗り換えましけどね」
そういやそうだったな。その後、俺とクロノに目も合わせられなくなったけど。
「女神さんは可愛すぎて、この世の者とは思えないんだよな」
「この世の者じゃないからね」
「あっ、そうか。何かやっぱ俺には神々しくてよ。エルメスもやめろと言われたから人前ではやらないけど、陰で女神さんの事を拝んでんだぜ」
「神官だから仕方がないかもね」
「カナタは女神さんの事が恐れ多くないのか?」
「俺がいた世界というか国は八百万の神々とか言われててね、色々な神様がいるんだよ。それこそトイレの神様とかもね。まぁ、御伽みたいな物だし、俺は神の存在なんて信じてなかったから恐れ多いとか初めから無かったよ」
「なるほど。そうじゃなきゃそんなイチャイチャ出来んわな」
「まぁ、今は普通の女の子だからね」
「カナタは普通じゃねーけどな」
「スキルはクロノの力だから、それがなきゃこの世界だと普通以下だ」
「いや、シンシアちゃんに好きだと言われても動じず、リズに対して可愛いとか、パンツ見るとか普通じゃねぇ」
そっちかよ。
「なんだよそれっ。私も女だろうがっ」
「いーや、女の子ってのはシンシアちゃんみたいな娘を言うんだ。お前みたいなガサツな奴は女じゃねー」
「ニック、リズは俺にパンツみられて真っ赤になったりしてるだろうが?」
「俺達にはあんな反応しねぇからな」
「お前なんかにするかっ」
「テトラにスカート捲くられた時は真っ赤になってたよね?」
「あんな見られ方したら恥ずかしいに決まってんだろがっ」
リズをからかうと面白いな。テトラもこれを楽しんでるのだろう。ニックは心底女扱いしてなさそうだが。
「エルメスは女の娘らしいけど、女の子扱いしてないよね?というかあまり近付いてないみたいだけど」
「そうなんだけどよ、あいつも平気で俺達の前で着替えるし、どうしても最初の頃は目が行くじゃねーか。そしたらどうなると思う?」
「怒られたの?」
「スッゲぇ冷たい目でゴミを見るような感じで見やがるんだよ。それ以来あいつには女として全く興味がない」
なんとなく想像出来る。
「男女のパーティってみんなそんな感じ
?」
「いや、フランクみたいなやつもいるしな。ただ遠征に行くと便所も離れてやると危ないし、狭いテントで雑魚寝。しかも汗まみれになって何日も風呂に入ってない状態だからな。お互い臭ぇとかなるだろ?」
「し、しょうがねぇだろっ。カナタの前で臭いとか便所とか言うなよっ」
「それはそうだろうね」
「女神さんは臭くならねぇんだろ?」
「そうだね。でも毎日風呂に入らせて着替えもさせてる。まぁ、ずっと風呂も入らず着替えもしなくても全然変わらないんだけどね。俺はちゃんと臭くもなるし汚くもなるよ」
「カナタさんが魔族領に一ヶ月ぐらい行ってた時はそうでしたね。汚かったけど、臭くは無かったですよ」
とシンシアが言う。
「確かに、カナタって汗臭くなってるイメージねぇな」
「そうかな?自分では汗臭ぇとか思うけどね」
どうやら、アジア人である俺はここでは臭いが少ないらしい。ちゃんと毎日風呂入ってるし。
「カナタさんとパーティ組んでたら毎日家に帰れますから助かりますよ」
「そうだよなぁ。獲物もちゃんと持って帰れるし。ずっとゴーレンで私達と一緒にやろうぜ」
「それもいいんだけどね、しばらくは各地で魔族が出てるらしいからその討伐しなきゃダメなんだよ」
「おー、それ聞いたぞ。あちこちで出てるらしいな」
「うん、ちょっとヤバい感じだね」
魔王の覚醒が近いとは皆には言わなかった。今は宴会を楽しもう。
その夜はテトラとニックはトーマス達の屋敷に。そしてリズとシンシアはうちに泊まりに来た。
女の子3人で泡風呂で遊んでいる。
その頃、エリナはマイクを呼び出していた。
「このまま大人しく人間達と暮らすなら見逃してあげるけど?」
「貴様っ、魔族の癖に裏切るつもりかっ」
「貴様?お前は誰にそんな口をきいてるんだっ」
突如としてエリナから威圧が放たれる。
マイクはガタガタと震えだす。
「まっ、まさか。あ、あなた様がなぜここに・・・」
「余計な口をきくな。消すぞ」
「も、申し訳ございませんっ」
「お前らが魅了してるのはカナタの友達だ。いらぬ事をしたらどうなるか分かってるな?それにこの地は我がいる。大人しくこのまま人間と暮らすかどこかへ行け」
「エリナ、どこに行ってたんだ?」
「やぁねぇ、トーマスったら。ちょっと私が居なくなっただけで寂しいかったの?」
「そ、そ、そんな事を言ってねぇだろっ」
叶多の家では風呂から上がったリズとシンシアはパジャマがあるのにパンツだけでカナタのベッドで嬉しそうに寝ていた。
翌朝、皆をゴーレンに送って帰ると、マイクとジェーンが突然いなくなったと大騒ぎになっていたのであった。
「あの二人はどこに行ったんだろね」
「カナタはあの二人はどうやってここに来たのか知ってるのか?」
と、トーマスに聞かれて、あの時の事を話す。
「なるほどな。おそらくあの二人は魔族だな」
「え?」
「ゴブリンを仕掛けたのは奴らだろう。そのままゴブリンが蹂躙してもよし、ダメなら自分達が入り込む。そんな作戦だな。そのリンダってのを呼んで来てくれ」
と、叶多はトーマスに言われてリンダを探しにいく。
「ギルマス、どうして魔族と分かるんですか?」
「だいたい、コブリンに追われた奴がゴブリンが向かった方向に逃げるかよ?」
「あっ」
そんな話をしていると、マイク達を探していたリンダを叶多が連れて来た。
「カナタ、あの男と付き合ってたのはこの娘で間違いないな?」
「そうだよ」
「リンダ、お前、本当にマイクの事を好きか?」
「当たり前でしょっ!どこに行ったか知ってるなら教えてよっ」
「女神さん、ちょっと勘弁してやってくれな。カナタ。この娘を抱きしめろ」
「は?」
「いいから、そうして安心させてやれ」
と、叶多は言われた通りにリンダを抱き締めた。
「ちょっ、ちょっとカナタ・・・。こんなことされたら私・・・」
そしてリンダもぐっと抱き締め返してきた。
「カナタ。もういいぞ。リンダ、まだマイクの事が好きか」
「えっ・・・?」
カナタに抱き締められたリンダは赤くなってポーッとしていた。
「もう大丈夫だと思うわよ。ね、リンダ、マイクの事はまだ好きかしら?」
「えっ?あっ、ううん」
叶多に抱きついたまま首を振るリンダ。
「もういいでしょ離れてよっ」
クロノは二人を引き剥がす。
「あなたは魅了掛かってたのよ。カナタくんを諦めた心の穴に付け込まれたの」
「どっ、どういう事ですか?」
「あの二人は魔族だったのよ。良かったわねここにカナタくんがいてくれて。あの二人は怖くなって逃げたのよ」
「そ、そうだったんですか・・・」
「ギルマス、どうしてカナタさんが抱き締めたら解けたの?」
「ん?この娘はカナタに惚れてたんだろ?それが勝っただけの話だ。悪かったな。しまい込んだ思いを引っ張り出して」
ううんと首を振るリンダ。
「今ちょっと幸せだったから大丈夫。ごめんねクロノ」
「もうっ。でもしょうがないか」
「怒んないの?」
「でもあげないからねっ」
「分かってるわよっ。でももう一回いいかな?」
「ダメ」
「ケチっ」
叶多とクロノはリンダを家に送っていき、リンダのお父さんにその話をした。
「そうか。いいやつだと思ったんながなぁ。リンダ、お前は大丈夫なのか?」
「うん、カナタが目を覚まさせてくれたから」
「そうか・・・カナタ。ありがとうな」
と、リンダのお父さんも寂しそうだった。
そしてリンダは涙を溜めていた。
リンダの涙を見た叶多から殺気が溢れ出てくる。
「リンダ、俺が言えた義理じゃないけど、お前の心の敵は俺がとる」
「カナタ・・・」
「お前はいい女だと俺は思ってる。きっといい相手が見付かるからな」
「ありがとうカナタ。私の為に怒ってくれてるの?」
「俺がお前にしてやれる事はこれぐらいしかないからな」
「ありがとうカナタ」
ふーっ ふーっ
外に出るとクロノが叶多をぎゅうっとした。
「カナタ・・・」
「うん、大丈夫」
叶多は決心する。一刻も早く神器を取り返して魔王を倒すと。
トーマスの家に戻ってリンダを送り届けた報告をする。
「トーマス、クロノをちょっと頼む」
「何する気だ?」
「様子を見てくる」
「ダメよっ。様子を見て来るって魔王の所でしょっ」
「見たらすぐに戻るから」
「私もっ」
「ダメだ。というかここで待っててくれ。俺だけなら気付かれずに帰って来れるけど、クロノがいたら気付かれる」
そう言うとクロノは黙った。
「大丈夫だ。本当に見て来るだけだから」
「カナタ、俺も行こう」
「いや、トーマスにはクロノを見てて欲しい。それに一人の方が動きやすいから」
「そうか。なら絶対に一人で無茶すんなよ」
「分かってるよ」
と、叶多は地図で魔王の場所近くにワープしていったのであった。