バカップル
「お、お帰りなさいっ」
「ただいま。シアちゃん」
まだちょっと怖いのだろう。笑顔がぎこちないな。
「宿舎にいるから、食堂の時間が終わったらトーマスに魚あるから飲もうと言っておいて」
と、エリナに魚やワサビを預けて部屋に行く。
「ここも年内しか使えないだろうね」
「どうして?」
「トーマスがギルマスをやめて俺達とパーティ組むだろ?そしたらこんな扱いしてくれないって」
「ふーん」
シンシアはどうするんだろうか。パーティに入らなければトーマスはシンシアから離れられないだろうし。後で聞いてみるか。
思ったより早くシンシアが呼びに来てくれた。エリナはまた客を俺を出汁にして追い返したのだろう。
厨房に行ってブリを刺身に、カツオはタタキにしていく。
「へぇ、海の魚ってこうやって食べるのね」
「気持ち悪かったら照り焼きかなんかにするけど」
「いえ、せっかくだからこのまま頂くわ」
と、トーマスが来る前に乾杯して食べ始める。
カツオのタタキ旨っ。ご飯炊いて来たらよかったな。
「この赤い魚に掛かってるソースはなんですか?」
「ポン酢。醤油と柑橘類の汁を混ぜた物だよ。今度、お鍋するときにもこれ使うと思う。味は好き?」
「はい、美味しいです」
と、食べて飲んでしているとトーマスがやって来た。
「先に飲むなよ。エリナ、閉店早ぇぞ」
「もう別にいいじゃない。年内で私はここ辞めるんだから」
「え?、ここ辞めんの?」
「そうよ。ギルマスが居なくなるからここにいる必要なくなるもの」
「この後どうすんの?」
「どうしよっかなぁ。あ、カナタくん養ってくれる?」
「な、何でカナタがエリナを養わないといけないのよっ」
「ふふふ、愛人? カナタくん、いつでも好きな事をさせてあげるからどう?」
「え、え、遠慮しておきますっ」
エリナは艶かしいのだ。もう精神力修行はしんどいです。
「あら、残念」
「本当はどうするつもり?」
「そうね、ギルマスとシンシアの3人で暮らすつもりよ。ベリーカに家建てようかって話になってるの」
「そうなの?」
「旅行が終わったらベリーカに宿借りて、それから家を建てる事になるわね。どこか借りてもいいんだけど、飲み屋付きの家とかないでしょ?」
「情報屋はどうすんの?」
「廃業よ。あれ結構しんどいのよ。シンシアも成人するから自分の力で生きていくしね」
あー、シンシアを守る為の情報屋をトーマスに依頼されてたのか。
「トーマスと結婚するの?」
「まさか。トーマスは父親みたいな感じ?」
「お前、俺の子供って歳じゃねぇだろうがっ」
「俺、二人の歳知らないんだけど?」
「俺が来年30で、エリナは25だっけか?」
「失礼ねっ。22よ」
若っか!トーマスは40前、エリナはそう言われるとそれぐらいなのかもしれないけど。
「シアちゃんは俺と一緒のパーティで大丈夫なの?」
「怖くてもカナタさんはカナタさんですから大丈夫ですっ」
「ならいいけど。トーマスもそれでいいの?」
「あぁ、シンシアが自分で決めた事だ」
というわけで、年が明けたらベリーカの宿を借りてそこでしばらく生活するとの事。
「うちの近くに飲み屋をやっても田舎だよ。地元の人しか来ないし儲からないと思うんだけどなぁ」
「まあ、大丈夫よ。暇つぶしみたいなもんだし。家はトーマスが建ててくれるから」
ということで刺身とタタキを堪能してベリーカに戻った。
叶多は翌日から缶詰をゴーレンのギルドに持っていく。
「お、これなんだ?」
コキコキと3種類の缶詰を開けて試食してもらう。
「む、飯にもつまみにもいいな。これいくらで卸す?」
「1缶銅貨5枚。ただ、魚は時期によって変わるし味付けや中身も変わると思う」
「なるほどな。よし、仕入れるわ。各10缶ずつ持って来てくれ」
「足りる?」
「ん?」
「これ持ってクエスト行く人とか出て来ると思うよ。それ用にギルドに直接置いてもらってもいいけど」
「いや、うちで置く。あるだけ持ってこい」
「はい、毎度おおきに」
「なんだよそれ?」
「あーーっ!カナタがいるっ」
とリズが俺を見つけて走って来た。
「カカタっ!あっ・・・、女神さんと一緒だったんだね」
クロノはリズが叶多にゾクゾクすると言ったコトを知っているので、叶多にベタッとくっついて牽制する。
「もう体調良くなったからね。今日もクエストいくの」
「え、あ、うん。もうすぐフランク達も来ると思う」
「これ、昼飯かなんかに持っていく?今日はサンプルとして持って来たからあげるよ。ちょっと食べてみる?」
と、今試食してたのを食べてもらう。
「わ、旨っま。カナタの持ってくるものどれも旨いねぇ」
「これは俺は作ってないけどな。飯にもいいし、酒のつまみにもなるだろ?」
「これくれんの?」
「いいよ。次からはここで買ってね」
と、ゴロゴロっとリズに缶詰を渡した。
「カナタはもうどっか行くのか?」
「そうだよ。この缶詰を扱ってくれる所を預けて探さないとね」
「そっか。次はいつ来る?」
「明日、缶詰の納品に来るよ。それで年内は終わりかな」
「そうなんだ・・・。年明けたら他の奴とパーティ組むんだよね?」
「年明けたら旅行に行って、それが終わってからだね。あ、今度パーティになったら皆をここに連れて来るよ。トーマスも連携出来るなら連携してもいいって言ってたから」
「本当かっ?絶対だぞっ」
「えっ、あ、うん」
物凄い勢いで返事したリズに驚いた。
と、そこへフランク達がやって来たので缶詰の説明をしておいた。
「で、年明けたらパーティメンバーと来るんだな?」
「時期は未定だけどそのつもり」
「そうか。俺もトーマスに会えるの楽しみにしていると伝えておいてくれ」
そして叶多達が帰って行くのをリズは切なげに見ていた。
「おい、あいつはダメだって言ったろうが。嫁さんのいるやつに惚れんな」
「ほ、惚れてねーし」
「嘘つけっ。お前、切なそうにしてんだろが」
「うるさいっ」
「クロノ、アッキバに布団買いに行こうか?」
「今あるのに?」
「お前、寒いと言って潜り込んでくるだろ?だからもっと暖かいのを買うんだよ」
「べ、別にいいじゃない」
叶多も嬉しいのは嬉しいのだが、悶々として熟睡出来ないのだ。
叶多は有無を言わさずアッキバに行き、ダブルとシングルの羽毛布団を購入した。
アッキバの雑貨屋で面白い物を発見。泡風呂になる入浴剤。これやってみたかったんだよね。
それを購入してベリーカへ。
「晩御飯は鍋にしようか」
と、野菜と豚肉、鶏肉を購入。
帰ってから下ごしらえだ。
カツオのタタキ用に作ったポン酢は何かが足りなかった。醤油と柑橘類の汁だけじゃないのかな?
少し砂糖を足してみてもダメ。なんか旨味というか何かが足りないのだ。旅行の時に中居さんに聞いたら分かるかもしれない。というか買えばいいか。
コンロ部分をくり抜いたテーブルはなかなかグッドだ。焼肉用のコンロとかあるかな?今日アッキバで見とけば良かったな。
二人でホフホフとお鍋を食べる。
「暖まるね」
「冬は鍋だからな。旅行の時もこんな感じになると思うぞ」
なんせ、カニとフグだ。楽しみで仕方がない。元の世界だと年に1回カニ食べるぐらいだったし、フグなんて今までに2回しか食べたことがない。
「さ、風呂に入るけど、一緒に入るか?」
「えっ?」
「あ、いや、これ買ったから面白いかなって思っただけで・・・」
「何それ?」
「お風呂が泡々になるんだよ。やったことないからどれぐらいになるかわからないけど」
「いっ、一緒に入りたいの?」
「いや、別にそんな意味じゃなかったんだよ。だから大丈夫。先に入っておいで。俺は後から入るから」
叶多はそう言うと後片付けをしだしてしまった。恥ずかしいけど、素直に一緒に入ろうと言えば良かったと思うクロノだった。
身体を洗いながら叶多に渡された泡々の元を湯船に入れてジャグジーのスイッチを入れるとブクブクっと泡々になっていく。これなら見えないし、恥ずかしいのもマシだ。クロノはバスタオルを巻いて水着を取りに行く。
バスタオルで走って出て来たクロノに叶多はギョッとする。
また着替持っていかなかったのか?
と、またバスタオルを巻いたクロノが風呂場に走って行った。
何やってんだあいつ?
そして風呂場から叫ぶクロノ。
「カナタっ カナタっ。水着着て入ってきてっ」
言われた通りに水着を来て叶多は風呂場へ。
「おー、すっげぇ!」
バスタブが泡で埋もれている。
「凄いよねこれ。これなら恥ずかしくないよ」
「そうだな」
と叶多は頭と身体を洗って入って来た。
「ふーっ ふーっ」
泡を吹き掛けて飛ばして来るクロノ。
「キャハハハハッ。カナタ泡だらけっ」
「やりやがったな。エイっ エイっ」
「ぺっ ぺっ。もうっ口の中に入ったじゃないっ」
「お前か先にやったんだろうかっ」
「もうっ」
風呂でキャッキャウフフする二人。
そして叶多はジェットバスへ。
クボボボ
泡に埋もれていく叶多。
「プハッ ダメだ。泡風呂でジェットバスは死ぬ」
「カナタ泡まみれよ」
とクロノは楽しそうだ。泡風呂の元買って良かったな。久しぶりに純粋に楽しい。
泡をふーふーして顔の周りを吹き飛ばしてさんざん遊んだので風呂から出ることに。
シャワーで洗い流すとクロノはまだ出てこない。
「のぼせるぞ」
「バスタオル巻いてないから後で出る」
あの泡の下は水着だけだったのか。
叶多は水着姿を想像して元気君になったのを気付かれ無いようにそそくさと風呂を出た。
身体がほこほこになったので冷たい水を飲んでクールダウン。
ちゃんとクロノも出て来たので水を入れてやり、お休みなさいだ。
叶多は自分の寝室だけど、またクロノがいきなり入って来るかもとトラウマになって悶々したまま寝る。
羽毛布団って軽くて暖かいけど、クロノと一緒の方が暖かいなとか思ってるとクロノがやって来た。ノックはしてほしい。
そして何も言わずに布団に潜り込んで来てそのまま眠る。
毎晩これなら、ダブルベッドで一緒に寝る方がいいんじゃなかろうか?
スースーとすぐに寝たクロノを見て、明日からダブルベッドで寝ようと思ったのであった。