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バレなくてよかった。

「わ、だいぶ変わってる」


「だろ? リビングもベッドがなくなると広く感じるだろ」


「あっちの部屋はカナタが使うの?」


「その為に作ったからな」


今まではリビングとクロノが使ってる寝室は扉一枚だけ、叶多の寝室に行くにはリビングに出て、また扉を開けないといけない。クロノは少し遠くなってしまったのが寂しく感じた。


叶多はクロノの寝室に置いてある自分の服を新しく出来た寝室へと運びだす。


「こ、ここに置いておいたらどうかな?」

 

「なんでだよ。自分の部屋にあった方がいいに決まってるだろ」


「それはそうだけど・・・」


「じゃ、俺、もう一度風呂に入ってから寝るわ。グボボして身体ほぐしたいからな」


と叶多は約一ヶ月ぶりにクロノと会ったというのにほとんどクロノに構う事なく風呂に行ってしまった。



グボボボボボ


はぁ、約一ヶ月ぶりにクロノに会うともうドキドキが止まらんな。俺、どんな顔をしてたんだろ?


クロノは俺の事を怖くないと言ってくれたが本当だろうか?無理して言ってるんじゃいのかな?離れる前は俺にビクッとしてたし。


もうそろそろ今年も終わりだけど、半年ほどで色々とあったよなぁ。もうずっと昔からこの世界にいたような気がするのは不思議だ。元の世界の記憶がどんどん後ろに追いやられていく。このまま何年もいたら忘れてしまうんじゃなかろうか?


ふと、そんな事を考える。


ん?待てよ。もしかして異世界に来ているとそれがより強いのか?


元の世界の記憶を辿ってみる。


ここへ召喚された直後の事はよく覚えている。が、小学生時代の友人とかの名前がどうしても思い出せない。


物凄く強い記憶しか残っていかないんじゃ?というかそれすら消えていく?


いや、消えても問題ないか。向こうには俺の本体が・・・


いや、消えたらまずい。向こうへと戻る動機が消えてしまう。将来的にどうするかは後で決めてもいいが、クロノを自分の世界に帰す状態にまでには絶対にしないといけない。


動機が消えて、自分の気持ちを優先したらクロノをあいつの世界に帰そうとか思わなくなるんじゃ・・・


これはヤバい。魔王討伐は10年ぐらい掛けてとか思ってたけど、もっと早くやった方がいいかもしれん。ちゃんと時野叶多としての記憶があるうちに。



「わっ」


風呂から出てリビングに行くとクロノが立っていた。


「なんでこんな所で立ってんだよ。寝に行ったと思ってたからビックリすんだろっ」


クロノは俺をジッーっと見つめたかと思うとグスグスと泣き出した。


「どっ、どうした?」


「ぐすっ ぐすっ」


「な、なんだよ?なんで泣いてるんだ?」


クロノは何も言わずにグスグスと泣く。


「わ、私の事、どうでも良くなった?」


「なんでそう思うんだよっ」


「だって、久しぶりに会ったのに、ぜんぜんかまってくれない」


「いっ、いつも通りだろっ」


「違うっ。怖いカナタから元に戻ったあとは私にベタベタしてくるもんっ」


「だっ、だってお前俺の事がまだ少し怖いんだろ?」


「だから怖いなんて思ったことないっ。怖いと思ったのは」


「怖いと思ったのは?」


はっ!クロノは元気カナタの事を言いそうになった。そして真っ赤になる。


「な、何でもない」


「なんだよそれ?あと、お前俺がいない間もちゃんと飯食って、風呂入ってただろうな?」


「ちゃ、ちゃんとしてたっ」


「お前の服は誰が洗ってくれたんだ?」

 

「じ、自分で洗ってたわよ」


「嘘つけっ。いくら汚れないからって風呂には入れって言っておいただろ?まだ起きてるなら入ってこい。あと風呂で寝るなよ」


「ね、寝ないわよっ」


おかしいと思ってたんだよな。服が持っていったそのままだったからな。


クロノはシャワーだけ浴びてですぐに出て来たようだ。


新しく寝室のベッドで寝転びながら音でその事を確認した叶多。


クロノはシャワーから出て来たら叶多がもうリビングにいない事がとてつもなく寂しい。


落ち込みながら自分の寝室へと行く。そして眠れないまましばらくじっとしてたあと、


(あ、せめて服、服だけでも叶多に持っていて欲しい)


と脱衣篭に入れた自分の服を取りに行き、叶多の寝室の扉を開けた。


「わぁっ!いきなり開けんなよっ」


「こ、これ」


「あぁ、服を持って来てくれたのか。ありがとう」


叶多は布団から出ようとせずに手だけ伸ばして服を受け取る。


「ひ、一人で寝れるの?」


「あぁ、大丈夫」


「本当?」 


「え、あ、うん。大丈夫」


「カナタ、顔が真っ赤だよ」


「ちょ、ちょっと風呂に長く浸かってたからかな」 


「少しだけ、一緒に寝ていい?」


「ダッ、ダメっ」


「少しだけ」  


と、クロノが布団に入ろうとする。


「ダッ、ダメだって!」


と叶多はめちゃくちゃ慌てる。


「エイッ」


と布団をはぐクロノ。


「やっ、やめろっ」


・・・

・・・・

・・・・・


「きゃあっ!なんでズボン脱いでんのよっ」


「あ、暑かったんだよっ」


灯りを消した寝室は薄暗かったが、叶多がスボンを脱いでるのがわかってしまった。しかも元気いっぱいだった気がする。


「ご、ごめんなさい」


「もう早く出て行ってくれよ」


クロノはすぐにでも寝室から飛び出してしまいたかったが、また叶多を怖がっていると思われるのが嫌だ。


そして目を瞑って叶多のベッドに潜りこんだ。


「ちょっ、ちょっ、ク、クロノさん」


「こうしていたい」


叶多の胸に顔を乗せるクロノ。物凄くドキドキしているのがよく分かる。


「私の事がどうでもよくなった?」


「そ、そんな事があるわけないだろっ」


「じゃ、このままにしてて」


叶多はゴソゴソとズボンを履き、また眠れぬ夜を過ごしたのであった。



翌日はベリーカの飲み屋に訪問。


「お、ようやく来たか。あのハポネの酒を頼む。スッキリと甘いのを1つずつだ。あと火酒を5樽」


「よく売れてるね」


「まったくだ。他の酒より高いのによく出るわ。寒くなったから余計にだな」


「じゃあ、今日仕入れて持って来るよ。あのハポネ酒はどうやって飲んでるの?」


「あのまま飲むんじゃないのか?」


「寒くなると熱燗っていって温めて飲んだりするんだよ。それ向けのハポネ酒もあるけど仕入れて来ようか?」


「なら、それも一樽頼む」



次は商業ギルドによやわ。


「こんちは」


「あ、カナタさん。荷車の注文承っております」


と注文書を見ると、大型7台、小型10台も売れていた。


「なにこれ?」


「はい、荷車の存在を知っている人が結構おられまして、実物を試して、即決された方ばかりです。あと、他の街の商業ギルドからも取り扱い出来ないかと問い合わせもございまして」


ベリーカという国は国土が広く、あちこちに街があるらしい。問い合わせがあった街を地図で見せて貰う。そして自分のマップを拡大して見ていくと、たくさんの街があった。ここはだいぶ端の田舎だったんだな。


首都と言うのか王都というかわからないけどかなり離れた所にある。問い合わせは近くの街だったけど。


今日注文をもらった分は数が多いので在庫は無いだろう。納品日を確認して来ると伝えてドワーフの国へ。



「随分と売れたな」


「他の街でも問い合わせあるからこれからもっと売れるかも」 


「よっしゃ、増産するわ。納品は年内にはなんとかする」


次はザイルの所へ。


「お、久しぶりじゃな」 


「ちょっと家をリフォームしている間、よそに行ってたんだよ。あ、ディックって知ってる?」


「は?やつと会ったのか?」 


「うちのリフォームをしてもらったんだ」 


「あいつ、ベリーカにいるのか」


「友達?」


「あぁ、あいつも酒を作ってたんだが売れなくてな。廃業してこの国から出ていったんじゃ。もう5〜60年は経つかの」 

 

「酒作ってるところは多いの?」


「あぁ、いくつもあるがちゃんと商売になってる奴は少ない。自分で作って自分で飲みおるからの」 


と、ガッハッハっと笑う。


「で、あいつは成功してんのか?」


「超特急でちゃんとやってくれたよ」 


「そうか、あいつの酒はイマイチじゃったが樽作りは上手かったからの。大工の方が向いておったんじゃろ」


と、10樽仕入れて家に戻り、次はハポネへ。


「デルモ、どう?」


「あ、やっと来た。ちょっと試食してみてくんない?」


と缶詰をいくつか出して来た。


ツナ缶、サバ味噌、オイルサーディンの王道だ。キンメの煮付けとかは缶詰にするほど数が上がらないらしい。


キコキコと缶詰を開けて試食。


「お、旨いよ。これなら売れるよ」


「良かったぁ。結構数作ったんだけど、まずいとか言われたらどうしようかと思ってたんだ」 


「味付けは誰?」


「食堂のおばあちゃん」


やっぱり。あのおばあちゃんの味付け俺好みなんだよね。


「これ数揃ってる?」


「これぐらい。たくさん作ってダメだったらもったいないから」


「じゃ、これ全部買っていくから増産して。売るところたくさんあるからすぐに足りなくなるよ」


「マジで?」


まぁまぁ、大きな缶詰だから1缶で1食になる。節約したら2人分くらいでも行けるな。


缶詰にする原価は10缶で銅貨1枚くらいか。


「1缶銅貨3枚で卸してくれる?販売価格は銅貨5枚にするわ」


「そんなに高くするの?」


「いや、これでギリギリかなぁ。俺が他国に5枚でおろしたら販売価格は銅貨7〜8枚ぐらいになるかな。余った魚とはいえ、みんなの給料とかも必要だろ?そっちもそれでギリギリ利益が出るくらいじゃない?」


ということで仕入れ値決定。


ついでに魚を仕入れられるか聞いてみる。


ブリとカツオがあるらしい。それぞれ2匹ずつ買っていく。おばちゃん達が慣れた手付きであっという間に3枚卸にしてくれた。


ついでにここで飲んでたハポネ酒の蔵元を教えてもらって仕入れに行く。ここで飲んだ酒は吟醸酒の半額だった。他にも吟醸酒やワサビを仕入れてベリーカへ。


飲み屋に酒を売って、缶詰をサンプルで置いて貰う。魚も今回だけサービスだ。


「クロノ、このブリとカツオ持ってエスタートに行くぞ」


トーマス達に刺身とカツオのタタキをごちそうしてあげなきゃね。


生の魚食べられるかな?


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