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腹を空かした狼

「はぁ?そんなことしたのか?」


「だって、早く元に戻って欲しかったのと、よ、喜ぶかなって・・・」


「そりゃあ嬉しいさ、嬉しいけどよ、その後なんにも出来ねぇんだぞ?どんな拷問なんだよそれ」


「だって」


「あのな、女神さん。めちゃ腹減ってるとするだろ?その時にこんがり焼けて旨そうな匂いのする肉を目の前に出されて、はい、食べちゃダメですよ、と言ってるのと同じだ」


「でもっ」


「でな、外に出ると、ほら食べて食べてって飯を出されるんだ。普通食うだろ?帰っても飯を見るだけで食えねぇんだから」 


「カナタはそんなことないもんっ」


「いや、そういう状況だってこった。だから食って帰って来ても知らんぷりしとけ」


「嫌よっ!そんな事絶対に嫌っ」


「しょうがねぇだろうが。17歳っていったら常に腹ペコ状態なんだからよ。それにあいつはエリナみたいなタイプを惹きつけるんだろが。その夜限りでもいいとか言われたらそりゃあ誰だって」


「嫌ぁぁつ!」 




叶多はベリーカの家にも戻れず、どこに行こうかと思っていた。服を買おうにもどこも開いてはいない。 


マップ開いて時差がある国を選んで行ってみることに。


ハイドと言う国に行ってみる。


ここ、結構寒いな。夕方を狙ったつもりが早朝だったようでかなり冷え込む。殺気も少し収まってきた。


待ち行く人々は少ないけど、整った顔立ちにグリーンアイか。エルフなんだろうか?黒髪は俺だけだから、めっちゃ見られるな。


さっさと服を買お。


店が開く時間までプラプラして店で服を購入。ついでにギルドに寄って依頼見ると賊の討伐依頼がやはり出ている。


それを見た瞬間に女の子が襲われているシーンが脳裏を過ぎった。それだけでも殺気が出るのに、もしあれがクロノだったらと思うと髪の毛が逆だって臨戦体制になってしまった。


その殺気に朝イチのざわざわしたギルドの雰囲気が静まり返る。


もうここを出よう。一人で依頼を受けるほどの経験は俺には無い。


叶多はギルドを出てすぐに姿を消した。


結局眠れないだろうと、着替だけしてゴーレンに。朝を待ってギルドに入る。


「カナタ、早いな・・・、お前今までどっかで戦ってたのか?」

 

「あ、ごめん。討伐は昨日だったんだけどね、なかなか気分が収まらなくて。軽い食事頼める?」


おう、とコックは返事をして、パンとベーコンエッグ、オレンジジュースを出してくれた。


食べながら気分を押さえつけていく叶多。


バンッ


「おっはよー!おっさん、カナタと同じのっ」


「おっさん言うなっ」


背中を叩いて来たのはリズだった。


「昨日のカナタすごかったねぇ」

 

「ごめんね、先走って」


「まだバトルモードだね。その調子じゃ寝てないんだろ?」


「寝そびれちゃってね」


「家には帰えんなかったの?」


「いま自宅を改装しててね、エスタートギルドの宿舎に泊まってんだけど、昨日帰ったら怖がられちゃって」


「あぁ、そういうこと」


「リズもエルメスも怖がってたろ?」


「エルメスは知らないけど私は違うかな」


「ん?」


「いや、えへへへへっ」


「朝から何赤くなってんだ?」


「うっさいな、さっさとそれ寄越せよっ」


リズは結構男まさりな所がある。男が多いハンターの中で活躍するにはこれぐらいの強さがいるのだろう。


リズが食べ終わる頃皆がぞろぞろと集まり出した。


「昨日の娘どうなったの?」


「ギルドで一時預かり。落ちついたら事情を聞いてどうするか決めるわよ」 


「どうするかって?」


「元の所へ帰るか、どこか他の街で暮らすか、教会に入るとかかな」


「みんな帰りたいんじゃないの?」

 

「盗賊に拐われたんだ。どんな目に合ってるか全員わかってる。小さな村だと尚更な」


そういう目で見られながら過ごすよりも誰も知らない所でってやつか。あいつら人の人生を台無しにしやがって。


ブワッと殺気が溢れだす叶多。


「おいっ、やめろって」


とフランクに肩を揺らされた。


「あ、ごめん。もし帰りたい人がいるなら送るからって言っておいて」


「わかった。あとこの前殺された商人の身元がわかってな。隣町のタンゴ商会ってとこの主人と従業員だったわ」 


「そう・・・」


「で、コレがお前の取り分。金貨12枚だ。賊は懸賞金が掛かってるかどうかわからず、ほとんどは荷を売却した金だ」


「わかったありがとう。今日は賊の村に行くんだろ?」


「おう、今から頼むぜ」

 

と、ギルド職員を連れて村に向った


生首集めをすると結構多い。

金品もそれなりにあり、これは俺たちの取り分になるらしい。


叶多は地下室に入るとまた殺気が溢れだす。


「カナタ、お前、襲われてる所に出くわしたんだな?」

 

「あぁ、そうだ。もう少し早かったはあの娘だけでも無事に助けられたんだ」


「そうだな」


後10分早ければと叶多はやるせない気持ちになる。フランクからタラレバの話はやめとけと言われたを思い出す。


そう、今後悔してもどうしようもない。  


くそっ 


神器を取り返して魔王を倒す。それも重要。だが、目の前の事も重要だ。



生首を引っさげてギルドに戻る。


「タンゴ商会のある町を教えて」


とフランクに聞く。


「何するつもりだ?」


「遺族とはどうやって連絡取ったの?」


「ギルド同士の通信の魔道具があってな、それで連絡をしてもらった」

 

「その人達の遺品とかある?」


身分証と身に付けていたペンダントを預かった叶多はタンゴ商会へ向った。



「すいません」

 

「は、はい。申し訳ございませんが、本日はお休みを・・・」


この人は奥さんだろうか?憔悴した顔に目が腫れている。


「自分はハンターをしていまして、こちらのご主人を襲った盗賊を討伐した者です」 


「あ、あなたが・・・」


「討伐は仲間と一緒にですが。今日はこれをお届けに」

 

と、身分証とペンダントを渡す。


「こ、これは主人達の・・・」


「今回はご主人達を助けられなくて申し訳ありません。僕達が到着した時はすでにお亡くなりになっていて」


身分証とペンダントを抱き締めて、膝から崩れ落ちて号泣する奥さん。


「こ、この度は主人達のかたきを取って頂きありがとうございました。それがせめての救いでございます」


叶多はどうしようも無い気持ちに襲われる。

 

「今回の荷は回収して、売却となりました。これは討伐した我々の物になるらしく勝手に処分しました」

  

「は、はい。そのことは存じております」 


「これ、全額ではないのですが、少しでも何かの足しにして下さい」

 

と、叶多は自分の取り分を渡した。


「こ、これは必要ありません」

 

「いえ、受け取って下さい。自分が持ってるより役に立つのではと思います。自分も商人をしておりますので、仕入れ代金とか必要かと思いますので」


「ハンターが商人・・・」


「自分も商人だけ出来たらいいんですけどね。魔物よりクズなやつがいるので、ハンターとしてそんな奴らを狩り続けで行きます。この度はご愁傷さまでした」  


「あ、ありがとうございました。お名前はなんと・・・」


「カナタと申します」



と、カナタは頭を下げてゴーレンのギルドに戻った。



「タンゴ商会に行ってきたのか?」


「うん、奥さんに身分証とペンダントを渡して来たよ」


「そうか。奥さんも喜んでくれただろ」

 

「そうだね」

 

「今日はどうすんだ?」

  

「どうしよっかな」  


奥さんの悲しみを見た事で殺気はだいぶ収まった。沈んだ気持ちが勝っているのだ。


「飲むか?」


「いや、やめておくよ。酒は楽しい時に飲みたいからね」


「クロノちゃんの所に帰るのか?」

 

「いや、またすぐにスイッチが入るかもしれないからしばらく落ち着くまで帰らない。俺を見るなり怖がられたらちょっとやるせないからね」


「大丈夫だと思うがな」


「まぁ、ちょっと自分をコントロール出来るように頑張ってみるよ」


「そうか。今は落ち着いているか?」

 

「そうだね」


「なら、助け出した女達に合ってやってくれないか?お礼を直接言いたいそうだ」


「俺を見たら思い出すだろうし、怖いんじゃないかな」


「いや、これは向こうから言って来たんだ」


「わかった」


と、叶多は重い気持ちで助け出した女性達と面会する。


「この度はありがとうございました」

  

挨拶をしてくれたのは襲われていた所を助けた女の子だ。


叶多は涙が溢れ出した。そしてこう切り出した。


「間に合わなくてごめんね」 


それを聞いてブワッと泣く女の子。


「あ、あの地獄のような時間を終わらせてくれてありがとう」


絞り出すような声でそう言った女の子。


叶多はその娘を抱き締めて何度も間に合わなくてごめんと言い続けた。


その後に他の女性達からもお礼を言われ、叶多はフランク達の所に戻った。


「お願いがあるんだけど」


「なんだ?」 


「俺の取り分が決まったらあの娘達にあげてくれないかな」 


「全部か?」  


「うん。他の街に行くにしろ、戻るにしろお金いるだろ?」 


「そりゃそうだが・・・」


「だからお願いね。またしばらくしたら来るから、その時にどこか他の所に行くなら送って行くと伝えといて」


「わかった。お前無茶すんなよ」


「大丈夫。俺はクロノを守らないとダメだから死ぬわけにはいかないから」


「カ、カナタっ。行くとこないならうちに泊まりに来なよ。そんなに広く無いけどカナタ1人ぐらい泊まれるからさっ」

 

「リズ、お前、優しくていい女だな」 

 

「ばっ、ばっかよせよっ」


「ありがとう。でも気持ちだけ貰っとく」


「え?」 


「俺、ちょっと強くなってくるよ。戻って来たらみんなで飲もう」


叶多はそう言ってどこかへ消えて行ったのであった。




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