運命
わーはっはっは!
きゃーーっ
とか一気に騒がしくなる後夜祭。
「ねー、ねー、カナタくんって呼んでもいいかな?」
と、同じ歳ぐらいの女の子が酒と料理を持ってこっちに来た。
「カナタでいいぞっ」
「じゃ、カナタ。今いくつ?」
「永遠の17歳だ」
「じゃ、私の一つ上か。二人は結婚してるんだよね?男ってどうやったら結婚する気になるの?」
「ん?どうやったら?」
はて?
「俺はいつの間にか結婚してたぞ」
「そんな訳ないでしょっ」
「いや、ほんとほんと。クロノが俺と結婚するか?って話になった時にこいつ、『私とあなたが結婚?ぷーくすくす』とかやりがったんだぜ」
「えー、ひっどーい」
「う、うるさいわねっ、カナタがどうしても私と結婚したいって言ったからでしょっ」
「言ってませんー。結婚した方が良いって言ったんですー」
もう叶多もクロノも結構酔ってるのだ。
「な、何よっ。一生お前を守ってやるって言ったじゃないっ」
「それは言った。俺はお前を絶対に守る。お前が望む限りずっと側にいるからなって」
「きゃーーっ、プロポーズは一生お前を守ってやるなんだぁ!」
盛り上がる同年代。
ん?あれはプロポーズなのか?
「クロノ、あれはプロポーズなのか?」
「プロポーズってなに?」
「自分のお嫁さんになって欲しい人に言う言葉だ」
「じゃあ違う。結婚したの初めて会った日だもん」
「えーーっ?初めて会った日に結婚したのー?」
「いや、初めて会った日に結婚してたってのが正しいな」
「そんなの運命じゃん。絶対に運命じゃんっ」
「クロノ、俺達が結婚したの運命なんだって」
「運命って何?」
「生まれた時からそうなるよって決められてるみたいな感じかな」
「じゃあカナタは私と結婚して守る為に生まれて来たってこと?」
「そういうことなんだろうな」
「だから誰とも付き合ったことなかったの?」
「あー、なるほど。だから俺は他の女の子と縁が無かったのか。そうかクロノは俺の運命の女神様だったんだな。だからお前、俺を呼んだのかぁ」
もうベロンベロンの叶多。
「あー、そうかもー」
クロノも顔には出てないがだいぶ酔っているのだ。
そうだったのかーこいつーとかほっぺをぐりぐりしあう馬鹿夫婦。
「私はあいつと運命の人じゃないのかなぁ?」
「ん?どゆこと?」
「ここって閉鎖的な町なんだよね。生まれてから死ぬまでここにいる人ばっかりで、歳が近いとなんかもう結婚して当たり前みたいな雰囲気になっていくの」
「嫌なの?」
「い、嫌じゃないけどさー、いつの間にか結婚して変わらない生活が始まるわけ。なんかそれって夢ないじゃん」
「俺達もいつの間にか結婚してたぞ」
「でも、すっごい奥さんに優しいよね?」
「そうか?」
「だって物凄く大切そうにしてるじゃん」
「うん、こいつは自分より大切だぞ」
「ほらぁ、そんな事普通しれっと人に言わないじゃん」
「え?旦那ならみんなそう思ってると思うぞ」
「そうかもしんないけどさぁ、言葉に出さないじゃん」
「言いたいことを出さないんじゃなくて出せないんじゃないか?」
「なにそれ?」
「自分に自信が無くて覚悟が出来ない時とかかな。俺の役目はこいつを守るのと、魔王を倒すことなんだ。まずは為すべきことを成してからちゃんと言いたい」
「うっわ、魔王を倒すってなんなの?」
「ん、あと100年以内に魔王が覚醒化して手に負えなくなって人類が全滅するかもしれないんだって。だからその前に倒すんだよ。今の俺はまだ弱いから強くならないとダメなんだ」
「本気で言ってんの?酔っ払って適当な事を言ってんの?」
「ほんとほんと。何も嘘は言ってないぞ」
「お兄ちゃん、魔王倒すって本当?」
「今の俺には無理だけど、倒せるように強くなってみせるぞ。キルトも強くなったら一緒に行くか?俺が魔王と戦ってる時にクロノを守っててくれるぐらいにな」
「頑張ってみるよっ!」
「おいおいカナタ。うちの跡取りを誘惑すんなっていったろ?」
「あれ?ミラさんは?」
「娘と寝に行ったぞ」
「ダメダメ、付いててやらないと。ドンガも寝に行くか、こっちで寝かせないと」
「大丈夫だと思うがな」
「また居なくなったらどうすんだよ?」
「お前が全部やっつけてくれたんだろ?」
「俺はクロノがまた拐われたりするんじゃないかと思って今でも怖いぞ。だからずっとそばにいる」
酔った叶多は真剣な顔をしてそう言った。
「もう安全だとは思うけど、ミラさんも娘さんもまだ怖いと思うから一緒に居てあげなよ。娘さんは絶対に泣いて起きるから。父ちゃんが血塗れになって死にかけたの見てんだぞ」
「そ、そうか・・・」
とそんな話をしているとミラが泣いている娘を連れて来た。
「ほらな」
「ああ、すまん」
「カナタってなんでそんな事わかるの?」
「ん、自分もそうだからかな?」
「自分も?」
「俺、今日あのチンピラどもを全員殺したんだよね。全員首だけにして」
「えっ?マジ?」
「マジ。でさちょっと俺の事を嗅いでみてくれない?」
何の事かわからずに差し出された叶多の腕の匂いを嗅ぐ女の子。
「血生臭くないか?」
「ううん、血の臭いはしないけど男の人の匂いがする」
「あ、ごめん臭かった?」
「違う、違う。うちの男連中は汗と海の匂いがするけど、カナタのは違うね」
「そうかな?自分ではわかんないけど。でも俺、自分から血生臭い臭いが取れてない気がするんだよ。それがどんどん強くなって、怖くて手が震えるんだよ。そんな時にクロノがぎゅっとしてくれたら収まるんだよね。だからミラさんも子供達も同じなんじゃないかな」
「そうなんだ・・・」
「お前もさぁ、その好きな人が落ち込んでる時にぎゅっとしてみたら?」
「うん、やってみる」
同年代で盛り上がってるなか、周りを見ると男と女に別れるのではなく、それぞれが男女ペアで一緒にいる。
「お、お前ら何を話してんだよ?」
と、酔った同年代の男がやってきた。
「さっきの話はこいつの事?」
「しーっ、しーっ。余計な事を言わないでっ」
と、叶多の口を押さえる女の子。
「お、お前こんな可愛いい嫁さんいるくせにこの町の女にまで手を出そうってのかっ」
「ん?この子はお前の嫁さんか?」
「ちっ、違うわっ。誰がこんな奴と」
「じゃあ関係ないじゃん。あ、言っとくけど、酔ってクロノに触ったら承知しないぞ。クロノは俺の嫁さんだから俺にはそう言える権利がある。でも、お前はこの子と結婚もしてないし、付き合ってもいないから何も言えないんだ。どゆあんだすたん?」
「な、なんだよそれ」
「生まれてからずっと一緒にいて、これからもそれが当たり前とか思ってそうだからなお前」
「うるさいっ。ここはみんなそうなんだっ」
「今までそうだったからって、これからもそうとは限らんぞ。ある日突然変わることもあるからな。大事に思ってるならちゃんと大切にしとけよ」
「なんだよそれ」
「俺は明日にもこんな楽しい時間が失われるかもと怖いけどね。だから俺は強くなるよクロノ」
「意味がわからんぞてめぇ?」
「ん?そうか?ならいいや。取りあえず飲もうっ。俺、ここに来てから同年代の男と遊んだことないんだ」
「そうか、遊びか。ならこいつでな」
と酒飲み勝負が始まった。
「なんだこいつ?もうダウンか?」
すぐにノックアウトした叶多はクロノの膝枕でスヤスヤ寝ていた。
「カナタは今日大変だったみたいよ。ミラさんを拐った賊を皆殺しにして来たんだって」
「は?助け出して来ただけじゃないのか?」
「全員首だけにして殺したって言ってたよ。本当かどうかわからないけど、自分から血の臭いがするって言ってた」
「こんなひょろっこいやつがそんなこと出来るわけないだろ」
「魔王倒すのに強くなるって言ってたよ」
「お兄ちゃんが魔王と戦ってる時に俺が女神様を守るんだ。だから俺も強くなる」
「キルト、お前本当にこの人が女神様だと思ってんのか?」
「違うの?お兄ちゃんが女神様だって言ってたよ」
「こいつにとっての女神様ってことだそれは」
「ふーん」
「ならあんたの女神様は誰よ?」
「そ、そんなのいねぇっ!」
「あっそ。ふんっ。クロノはいいなぁ。運命の人に出会えて、女神様って呼んでもらえて一生守ってやるなんて言って貰えるんだから」
「うふふ。そうね。すごく嬉しかった。初めは私と喧嘩して怒鳴ってばっかりだったのに、他の男がびびって私を見捨てた時も助けに来てくれたし。仕事頑張ってお金稼いでくれてるのも全部私の為なんだって」
「へぇ、いいなぁ。高いお酒もみんなにポンってくれるぐらい稼いでんでしょ?」
「カナタがいくら稼いでるかしらないけど、私を守るのに結界の魔道具とかたくさん買ってた。全部で金貨10枚とか言ってたかな?」
「え?私達と同じ歳ぐらいなのにそんなに稼いでるの?」
「んー?今日はギルドで討伐報酬とか賞金を貰ってたよ。金貨150枚とかだったかな?やっつけたやつらに国から賞金が掛かってたてギルマスが言ってた」
「えーーっ?金貨150枚?ということは本当に全員一人でやっつけたの?」
「うん、帰って来てから叶多が震えたり、血の臭いが取れないってずっとお風呂で身体を洗い続けて出てこなかったから本当だと思う。でも私が呼ばなければこんな思いすることなかったのに・・・。叶多はね、とっても優しいの。私に会うまで喧嘩もしたことがなかったって言ってたから」
「それなのに賞金が掛かってるようなチンピラを殺したり、魔王を倒すとか言ってんの?」
「うん。私を守る為に強くなるって。私はなんにもしてあげられないのに・・・」
「はぁー、どんだけ愛されてんのよ女神様。あーあ、私も運命の人を探しにいこうかな。そうしたらこんな風に愛して貰えるのかなぁ」
「お、おいなんだよ、運命の人って」
「カナタと女神様みたいな関係。カナタは女神様を守る為に生まれて来たんだって。私を守る為に生まれて来てくれた人はどこにいるんだろう」
「そんか奴いるかよっ」
「この町にはいなさそうね、ふんっ」
それからしばらくして起きた叶多はポーションを飲んでいた。