ポケットに入れとけ
「そうか、そんな平和な世界で生きてきたのか」
「そうだね。俺の居た国は1億人以上人が住んでるけど、人を殺すような事件は年間に数件だよ。悪いことして捕まって死刑になるのも極稀だよ」
「そうか・・・。俺はあそこに一緒にいて、てっきり殺り慣れてるもんだと思ってたわ」
「ギルマスが来てくれる前にあのチンピラどもが知り合いを傷め付けて、嫁さんと子供を拐ったんだよ。取り返しにアジトに行ったら子供が血塗れで死にかけた上に、クロノに手を出そうとしたからブチ切れちゃってね・・・。俺は自分が平気で人を殺せると初めて知ったよ」
「平気じゃないだろ?」
「そうかもね。自分からずっと血の臭いがしてるんだ」
「初めて人を殺したらだいたいそうなる。それで討伐依頼を受けなくなるやつもいるな」
「そうなんだね」
「お前、魔物は殺したことあるか?」
「ここに来た日にあるよ。でもこんな風にはならなかったな」
「そうか、なら大丈夫だ。血の臭いがダメじゃなさそうだからな。そいつは人を殺した罪悪感から来ている」
「そうだね・・・」
ギルマスはちょっと待ってろと言って席を離れた。
「カナタ、大丈夫?」
「クロノがいるから大丈夫。さっきもありがとう」
「うん」
しばらく待ってるとギルマスがドサッと紙束を机に置いた。
「これはな、今回賞金が掛かってた奴等がやったことが書き記されている」
殺人、強盗、強姦、誘拐と凶悪なものがずらっと記されている。
「把握出来てるだけでこれだ。仕返しを恐れて黙ってるやつも、襲われたことを誰にも知られたくないと黙っている女もいるだろう」
酷いな・・・
「これは人のやることだと思うか?」
「いや」
「魔族や魔物も人を襲う。が、それは生存競争だ。お互いに生き残りを掛けて戦っているに過ぎない。が、こいつらは違う。快楽の為に人を殺し襲う。こいつらは魔物以下だ。それを殺したんじゃない。駆除しただけだ。それにこいつらをほぼ壊滅したことでこんな酷い目に合う人がいなくなる」
「そうだね」
「お前、蚊が腕に止まって血を吸ってたらどうする?」
「叩くよ」
「それは前の世界でもか?」
「そうだよ」
「あいつらそういう存在だ。人の生き血を吸って生きてるんだ。見つけたら叩き潰せ。人の形をしているだけだ」
「それはそうかもしれないけど・・・」
「お前には力がある。友達、知り合い、そしてお前の大切な女神様が血を吸われないように先に叩け。そうしないと後で後悔するぞ」
「大切な人が・・・」
「お前、今回初クエストだったな。これから依頼は受けるのか?」
「あぁ、商売に使ってる時間を減らして討伐依頼を受けようと思ってる。強くならないとダメだからね」
「なら、賊の討伐依頼を中心に受けろ。強さとは腕っぷしだけじゃないぞ。心も鍛えないといつか壊れる。今回はアジトに被害者が居なかったろ?賊討伐をしてるとそのうち被害者を目の当たりする時が出てくる。その時に賊討伐の必要性を実感するだろう。それは自分の知らない所での出来事だから別にいいと思うなら別にいいがな。正直お前には関係のない話だからな」
「ギルマスは賊討伐でなんかあったの・・・?」
「俺は留守中に家族が殺された。妻はなぶられたあとでな」
ギルマスはものすごく苦い顔でそう言った。
「ごめん、悪いことを聞いた」
「いや、構わん。俺の中では消えない事だし、みな知っている事だからな。まぁ、世の中にはこういう思いを持って生きているやつがいるということは知ってくれると嬉しい」
「わかった。アドバイスありがとう」
「お前、血の臭いがしても嫁さんの匂いで落ち着けるんだろ?」
「あはは、お恥ずかしい」
「なら、嫁さんの下着でもポケットに入れとけ。ヤバくなったらそれを嗅げばいいんだ。ガッハッハッハ」
「なんて事言うのよっ、馬鹿っ、変態っ」
「ガッハッハッハ、悪い悪い。あんまり可愛い女神様を奥さんにしたこいつが羨ましくてな。悪い冗談だった。申し訳ない」
「もうっ!」
「カナタよ、女神様ってえらく気さくなんだな。女神様ってもっと偉そうにしてるのかと思ってたぞ」
「まぁ、クロノは今は人間と変わんないからね」
「そうか、ならちゃんと守ってやれれよ」
「うん、命を掛けて守るよ」
「飯はどうする?」
「漁師達の後夜祭ってのにお呼ばれしてんだよ」
「そうか、奴等は気難しい奴が多いのに余所者を身内の祭りに呼ぶとか珍しいな」
「今回、嫁さんを拐われたのが漁師でね。そのお礼もあるんだと思うよ」
「そうだったのか。なら飲まされるな。酒飲み勝負をさせらるぞ」
「俺、そこまで強くないんだよねぇ」
「なら、下級ポーションを何本か持っとけ。気持ち悪くなったらそれ飲めば治る」
「そうなの?」
「そうだ。知らなかったのか?」
「いい情報ありがと」
「酔いは覚めないからな、気持ち悪いのと頭が痛いのが治るだけだからな」
「それ、助かるよ。あ、ポーションを補充していくから売ってくれる?」
と、下級、中級、上級をカバンぴったりになるように購入した。
ギルマスに火酒を樽ごと渡すと物凄く喜んでくれた。食堂に卸すならまた注文してねと伝えて、ドンガ達の所に向かう。
「おー、カナタ。待ってたぞ!」
「ドンガ、もう飲んでも大丈夫なの?」
「あぁ、血が足りねぇ。もっとガンガン持ってこい」
どっかで聞いたセリフだな。
「ねぇ、カナタ」
「なに?クラリス」
「誰よクラリスって?」
「あ、ごめん」
「知らない女の名前なんだけどっ」
「気にすんな。有名人だ」
「ふーん」
「あ、お兄ちゃん、あの樽はなに?」
「あっ、そうそう。ドワーフの火酒を差し入れに持って来たんだよ」
「火酒?」
「ここの酒より倍以上強いから気を付けてね」
なんだとっ?と男どもが立ち上がり、樽に群がったのでそのまま運んでもらって勝手に飲んでもらおう。
「お兄ちゃん、女神様。こっちにきてよ。父ちゃん達と一緒にいたら酷い目に合うよ」
とキルトが奥様や子供達が集まってる方に呼んでくれた。
「カナタさん、本当にありがとうございました。カナタさんがいなかったら私たちは今頃・・・」
と、ミラがカタカタと震えだす。
「ドンガっ!ちょっとこっち来て」
「ちょっと待て、いま火酒を・・」
「早くっ」
そう急かすと、火酒が無くなるじゃねーかとぶつぶつ言いながらこっちに来た。
「奥さんをぎゅっとしてあげて」
「は?」
「いいから早くっ」
「ひ、ひ、人前で何をやらせようってんだよっ」
「やらないなら俺がぎゅっとすんぞ」
「人の嫁に手を出そうってのかっ。いくら恩人でも許さ・・・」
「はい、ミラさん。ぎゅっとしてもらって」
「えっ、えっ、みんなの前で・・」
「いいから早くっ!」
と、叶多はミラをどんとドンガに押し付けた。
「ドンガにぎゅっとして貰ったら怖いのマシになると思うよ」
「お、お前まだ怖いのか?」
「ちょ、ちょっと・・・」
「すまん」
そう謝ってドンガはミラを抱き締めた。
「ほら、キルト。お前も妹と一緒に父ちゃんにぎゅっとして貰ってこい。落ち着くぞ」
照れ臭そうにしているが、妹が先に飛び込んだのでキルトも家族の輪に飛び込んでいった。
「良かったわ。ミラはなかなか自分の気持ち言えないし、ドンガも素直じゃないからねぇ」
と、奥様達が料理を皿に入れて持ってきてくれた。
「あの二人は同級生なんでしょ?」
「同級生どころか、二人ともここの出身だから生まれた時からずっと一緒なのよ」
そうなんだ。
そう思って見てると他の男どもがからかい出した。あー、こんな感じになるから、男と女が別々に集まるのか。みな知り合いだからこそ照れくさいんだろな。
「カナタ。イカ食べたい」
持ってきてくれた刺身のイカを指刺すクロノ。
「ほれ」
と食べさていく。
「あらまぁ、新婚さんって感じねぇ」
「クロノは箸がうまく使えないから生のイカ食べるの下手なんですよ」
からかわれても我関せずのクロノはうまうまと食べて酒をくぴくぴ飲む。叶多にも飲も♪と注いでくる。
お、また違う味の酒だな。スッキリ感とかはないけど、こうしっかりとした味だ。
「宿のお酒と味違うね。イカと一緒に飲むと美味しいっ」
「どれどれ? おっ、本当だ。イカがより甘い」
「ねっ、ねっ?美味しいよね」
と二人で仲良く食べて飲んでご機嫌になっていく。
「カナタ、ありがとうな。ミラは落ち着いたと言ってたがまだ怖かったんだな」
「クロノも一度拐われた時の事を思い出していまだに怖い夢みたりするからミラさんもそうだと思うよ。あと、キルトがおねしょしても怒らないでやってね」
「お、おねしょなんかしないよっ」
「いつもはな。でもするかもしんないから覚悟しとけ」
「しないってば」
「俺はするかもしんないなぁ」
「え?」
「今日、怖かったろ?」
「う、うん・・・」
「俺もだ」
「え?」
「みんな怖かったんだ。しばらく夢にみるかもかもしれない。だからおねしょするかもよ。でもそれはお前が悪いんじゃない。あいつらが悪いんだ。今日からしばらく、父ちゃん母ちゃんと同じ布団で寝ろ」
「お兄ちゃんは女神様と寝るの?」
「お兄ちゃんは女神様のパンツ持って寝るよ」
「もうっ!やめてよっ」
「だってギルマスがそうしろって言ったじゃん」
「そんなのこうしてればいいじゃないっ」
と、ぎゅっと抱きつくクロノ。それを見た奥様達がいやーっと嬉しそうに見る。
「女性陣も火酒飲んでおいでよ。で旦那にぎゅっとしても酒のせいにすればいいんだよ。ドワーフの酒はきついからすぐに酔うよ」
「あれ、珍しいお酒なんだろ?いくらぐらいするんだい?」
「いつもは銀貨20枚で卸してるけど、ハートンって国だと卸値で金貨2枚だから店で飲んだら相当高いと思うよ」
「そんなに高いもの持って来てくれたのかい?」
「俺は安く仕入れてるから気にしないで飲んで。男達がガンガン飲んでるから無くなるよ」
「ちょっと、あんた達っ。そんな高いお酒をガンガン飲むんじゃないよっ」
女性陣も飲みにいった。無くなれば取りに帰ればまだあるから、どんどん飲んで今日の傷を早く癒してくれればいい。俺もポーションという特効薬を手にいれたから飲もう。
「クロノ、今日は飲むぞ」
「へっへぇ。これ甘くて美味しい」
一口貰うと梅酒かな?焼酎を見かけなかったから日本酒で作ってるのかも。
焼き鳥と梅酒を・・・、旨っ。塩っ気と甘めの酒のコンビネーションがたまらん。15歳成人万歳だ。
こうしてここにいる成人したものはガンガンと酒を飲んでいくのであった。




