はちみつ付いてんぞ
まだ街見物をしたそうなクロノだったが、チンピラがうろついているから仕方がない。
「クロノ、宿の遊技場で遊ぶか?服ならポヨンしないからおもいっきり遊べるぞ」
「ポヨンするとか言わないでっ」
言った叶多も赤くなる。
宿に戻ってから一度ベリーカに戻る事に。泊まる用意をしてなかったので昨日と服も下着も昨日のままだ。
「クロノ、それ脱いで脱衣篭にいれとけ。帰ったら洗うから」
「私の下着を洗うときマジマジと見ないでよっ」
この前のまで下着なんて服と同じと言ってた癖に。
「なら自分で洗えよ」
「目をつぶって洗ってよ」
「洗うのは洗濯機だけど干すのは目をつぶってなんか無理だろうが。それに下着もなんて服と同じなんだろ?」
「だって」
「だってなんだよ?」
「カナタ、私の下着見て想像するんでしょっ」
するかっと言い掛けて止まるカナタ。
「する」
というかせざるを得ない。
「馬鹿 馬鹿 馬鹿 馬鹿っ」
「だったら自分で干せよ。こうやって一緒に暮らしてんだから、嫌でも目に入るんだ。お前に気を使ってくれと頼んだのに何にも変わらないのはお前だろ?」
「つ、使ってるわよ」
「どこがだっ」
「ちゃんと下着付けてるじゃない」
あ、そう言えば、初めてポヨンした時・・・。あれ?もしかしてあの時パンツも・・・
「もうっ、また変なこと想像したでしょっ」
返事が出来なかった叶多は無言で明日の着替えをカバンに摘めて宿屋に戻った。遊技場で遊んだ後にクリーニングされた浴衣を受け取り、部屋で着付けをしてもらう。叶多が先に着付けをしてもらい、部屋の外でしばらく待たされる。
「旦那様、お待たせ致しました」
中に入ると少しお化粧して、髪をアップにしたクロノ。お化粧しなくても可愛いのだがこうすると尚の事・・・
はっ。俺はいつの間にクロノが可愛いと受け入れてたのだろう?
「ではご案内致しますね」
と中居さんが観覧席まで案内してくれる。
「旦那様、奥様は本当に可愛らしい方でございますねぇ」
「え、あ、うん」
「旦那様も美しい黒髪をされておられますし、もしかしてどこかの王子様とお姫様がお忍びでいらしてるのでないかと・・・」
「違う、違う。思いっきり平民だよ。クロノは女神なんだけどね」
「まぁ、女神様でいらっしゃいましたか。お名前も同じでございますし、オホホホホ」
普通に女神だと伝えてるけどだいたい信用されずにベタ惚れしてる馬鹿旦那だと思われてんだろう。人前で嫁さんを俺のは女神だと公言しているようものだ。
宿の最上階まで上がるとそのまま横の山と繋がっていて、その山にある広場が宿専用祭りスペースになっている。祭りの時以外はビアガーデンみたいな使われ方やバーベキューとか季節で使い分けてるとのこと。ちなみに冬場は雪が積もるらしく、かまくらみたいな物を作るのだそうだ。
ここ、よく出来てるなぁ。飛び込みで泊まったけど、大当たりの宿だよな。
宿泊客の為の屋台もあり、通常は有料だけど俺達は無料だそう。それとお祭り料理は別にあるらしく、特別観覧席に運んでくれるそうだ。特別観覧席は寝転がって花火が見られるように角度調節機能付きの椅子。その横にテーブルが設置されている。飲み物の追加とかは近くにいる従業員に言えば持ってくるらしい。
この歳で贅沢してんな俺。元の世界でこんなリッチな生活することなんてないだろうなぁ。
「カナタっ、あれ食べたい」
「こぼすなよ?」
クロノが指差したのは焼き鳥だ。絶対にこぼすよなこいつ。
近くの従業員に声を掛ける。
「ヨダレ掛けみたいなものないかな?」
「前掛けでございますか?」
「そうそう、それ」
「お持ちいたしますね」
と前掛けと布を持ってきてくれた。座って食べる時の膝掛けらしい。俺の分まである。帰る時に椅子に置いといてくれとのこと。
食べ物と飲み物は無料だけど、遊戯的な物は有料。部屋番号を言って帰る時に精算だ。
まだ花火が始まってないので人は少ない。この間に遊戯を楽しむ。
「えいっ えいっ えいっ」
弓矢は矢が3本。的に当たった点数で賞品が貰える。どの遊戯も銅貨3枚だ。
「残念!」
クロノ0点。こんな近くで全く当たらないものなのだろうか?
試しに自分もやるとギリギリ景品が貰えない点にしかならない。
次は輪投げ。
これも景品が取れない。
「カナタっ、あれ取ってよ」
「あんなの無理だって。輪っかギリギリじゃん」
「ぶぅっ。じゃあ、あれやろ」
水風船釣りか。
これは2回目で取れた。
ぼよん ぼよん ぼよん
クロノは水風船をぼよんぼよんさせて嬉しそうだ。少しずつ人が増え、遊戯屋台は子連れの人達で埋まっていく。
「混んで来たから席に座ってようか」
クロノはその前にリンゴ飴とかき氷をゲット。それを持って席に座った。
かき氷を食べては、んー、んーと頭を押さえるクロノ。叶多は従業員にぬるま湯をもらった。
「これ飲めば収まるぞ」
「あ、本当だ」
「誰も盗らないからゆっくり食え。そうしたら痛くならないから」
かき氷を食べ終わるとりんご飴だ。周りの飴をカリカリと食べ、リンゴはどうするのか?と思ってたら、一口齧ってはいと渡してきやがった。
「どうしろって言うんだよ?」
「あげる」
「いらんわっ」
りんご飴のリンゴは旨くないのだ。
「お前なぁ、食うならちゃんと食えよ」
「美味しくなかったのよね」
知ってる。が、飴だけ食べてポイするような事はしてはいけないと思い、クロノの食べ残しを食べる叶多。これ間接キスだよな、とか思いながら食べた。自分の箸でクロノに食べさせたりしているのでいまさらだけど。そういや俺、人が口付けたもの平気で食べられる人だったっけ?このリンゴは旨くないと知ってるから嫌だけど、クロノの食べ残しだから嫌と言う訳ではない。親父の食べ残しとか食うの勘弁だけど。
そうこうしているうちに特別観覧席も埋まって来た。ここは最前列なので前には誰もおらず一番良い場所なのだろう。それを証拠に一番前の席は金持ってそうな老夫婦とかだ。子供みたいな俺達の年代はいない。
どーーんっ
花火が上がり始めると料理を持ってきてくれる。食べやすいようにカットされた肉や鳥、魚のフライ、クロノの好きなフライドポテトとかだ。
「お飲み物は何になさいますか?」
「どんなのがあるの?」
説明してくれた中に発泡ワインというのがあったのでそれにする。後はラムネなんてあるらしいのでそれを頼んだ。炭酸が飲みたかったんだよね。
隣の老夫婦は枝豆にビールみたいだな。ビールって苦いんだよね。親父も枝豆とビール好きだったよな。俺もそのうち好んで飲むようになるのだろうか?
飲み物は氷の入った桶と共に持ってきてくれる。まずはラムネから飲んでみよう。
パシュッとビー玉を落として飲む。
クロノにやってやろうか?と聞いたら自分でやるとのこと。
「キャッ」
じゅわわわわっ
クロノは盛大にラムネを吹きこぼした。ヨダレ掛けと膝掛けしておいて正解だ。
「何よこれっ」
「そっとやらないからだよ。だからやってやろうかと聞いたのに」
「うるさいわねっ。子ども扱いしないでよ」
子供と同じだろうが。
そして瓶を傾けて飲もうとするが、ちょろっとしかででこない。
「出て来ないわよ?」
「瓶を傾け過ぎなんだよ。ここに中の玉が引っ掛かるようにして飲むんだよ」
と教えてやっても中々出て来ないので拗ねてもういらないと来たもんだ。
またクロノの飲み残しを飲む叶多。
発泡ワインを入れて二人で飲む。
スッキリとした味なんだなこれ。揚げ物と良く合うわ。
食べては飲みをしていると花火の数が増えて来た。元の世界にみたいな派手さが無い花火だけど、時折上がるどでかい花火は迫力がある。どーーんっという音が腹にしみる。
そういや花火があるということは火薬があるんだよな。兵器として使われてはいないのだろうか?
「クロノっ」
「なーにっ?」
「この世界に大砲とか鉄砲とか爆弾とかあるのか?」
「えー?聞こえない」
花火の音で声が聞こえない。まぁ、後でいいか。せっかくの花火を楽しもう。
発泡ワインを飲んで、なんかのフライを食べる。ん?なんだこれ?チーズ?
チーズの中にハチミツかなんか挟んであるのかコッテリ&甘じょっぱい。今飲んでるのとすごく合う。今のフライはどれだったんだろう?
どれも一口サイズに揚げてくれてあり、串に刺して食べるようになっている。これかな?違う。イカだわ。何が当たるかお楽しみ要素で同じような形なのだ。
中々お目当ての物に当たらない。
「ねぇーカナタってばっ」
「えっ?何?」
「何してんのっ?」
「えー?」
「もうっ!何してんのっ」
「今食べたやつ探してんのっ」
「何っ?聞こえなーい」
ダメだ。バンバン上がりだした花火で話が聞こえない。ジェスチャーでフライを探しているのを伝えようとするけど、伝わらないので、これかな?と一口かじったのが当たりだったので、残りをクロノの口に突っ込む。むぐむぐしたクロノはぱちくりと目を開けた。クロノもこういうの好きそうだからな。で、酒を飲む仕草をするとクロノも飲んで、うんうんと頷いた。
従業員が近くに来たので、耳元でこのフライと酒の追加を頼む。こうすると声が聞こえるので、クロノとの間にあるテーブルをよけて椅子をくっつけていいか聞くとやってくれた。
そしてフライとお酒の追加を持ってきてくれる。
「これなーに?」
「多分チーズとハチミツだよ。旨いねこれ。クロノもこういうの好きだろ?」
「うん♪」
お互いに耳元に口を近づけて話をする。
こんな事をしているのは俺達だけだ。
酒と食べ物が乗ったテーブルは俺の横にあるので、フライを口に入れてやる。
嬉しそうに食べる顔が花火の灯りに照らされる。
叶多は自分でも気付いていないが、花火よりクロノを見ていることの方が多かった。
「ねぇ、カナタ・・・」
とクロノがカナタの方に向いて話し掛けた時にカナタはクロノを見ていた。お互いの顔が目の間に前になり、止まる二人。
ドキドキ ドキドキ
後少しで唇が触れあう距離だ。
どーーーーっん
その時に打ち上がっ特大花火が二人の時を動かす。
「な、何でこっち見てんのよっ」
叶多はスッとクロノの頬に手をやる。
えっ、えっ、えっ。こんなところで・・・
そう思いながらも、クロノは目を閉じた。
ヤバい ヤバい ヤバい。俺は何をしようとしてるんだっ。
叶多は目を閉じたクロノにパニック。
そして・・・
「ハチミツ 付いてんぞ」
そうごまかして頬にやった手でハチミツを拭う素振りした。
「えっ? 何よそれっ」
ベシッ
クロノは真っ赤になってカナタにチョップしたのであった。