よくわからない自分の気持
ぷんすか怒るクロノは叶多からワインボトルを奪い取りガブガブ飲んでいく。フライをあーんさせても拗ねて口を開けない。
参ったな・・・。しかし、俺はさっき何をしようとしたんだ。それに俺はクロノに見とれてたのだろうか・・・。
叶多は恋をしたことがない。クロノと一緒にいる時間が増えて少しは女の子慣れはしてきたとはいえ、クロノは神様で普通の女の子ではない。
実体化したクロノは人間と同じような感じだが、トーマスに言われた「可愛いだけであんなにモテるのか」と言われた言葉を思い出す。
クロノってもしかしたら魅了みたいな能力を持ってるのかも。魔物やチンピラみたいな奴らは理性より本能が優先されるとしたらその魅了という能力がよく効くのだろう。神々は生物に崇拝される存在だから自然とそういう能力が備わっててもおかしくはない。
俺は無神論者だ。魅了への抵抗力があったがクロノと一緒に過ごすうちに段々と影響が出て来ているのかもしれない。クロノが自分の世界に戻って実体化が解けたらより魅了の能力が強くなり崇拝という物に置き換わるのだろうか?
叶多はクロノに魅かれ始めているのを自覚しだしたが、これはクロノというか神々の能力ではないかと疑った。
「お客様、ボトルが空いたようでございますので何かお代わりをお持ちいたしましょうか?」
あいつ、もう全部飲んだのか・・・
これ以上飲ますのも、自分が飲むのも危険かも。二人とも酔うとろくでも無いことになるからな。
「水を・・・」
「お代わりっ」
「かしこまりました」
水を頼もうとした叶多の声を遮りクロノがもう一本ボトルを追加した。
まぁ、酔って風呂に入る前に寝てしまった方がいいかもしれない。昨日みたいな事になったら、自分でも一線を越えてしまうかもしれないと叶多は思った。ふわふわしてご機嫌になったのか嬉しそうなクロノの顔を見ると素直に可愛いと思ってしまうのだ。
初めに思ってたクソ女というイメージがどんどん薄くなっている。それどころか何かしてやりたいと思う自分の気持ちを自覚する。最近は一緒にいるのも嬉しいし、いつもこういう笑顔でいられるようにしたいと思う。多分俺はクロノの事を好きになっているのだろう。
しかし、それはクロノの能力のせいなのかもしれない。
そう思った叶多は切なかった。
クロノが普通の人間だったらこんな思いをしなくて済んだのに・・・・
叶多はご機嫌になったクロノに注がれた酒をその切なさを消すように一気に飲み干したのであった。
花火も終わり、食べ物も酒も無くなり部屋に戻る事にした。まだ酒も料理も注文出来るそうだが親子連れや若そうなカップル達で屋台の有るところは賑わっている。問題が起こる前に部屋に戻ろう。すでにクロノが笑いだしているからな。
小さな子供がお父さんに高い高いされた後に肩車をされている。それを見たクロノのが、
「ねぇ、あれやってよ」
「あれは小さな子供にするもんだ」
「えー、いいじゃない」
「こんなところでみっともないだろ?」
「別に誰に変な風に見られても平気だもーん」
「俺は恥ずかしいんだよっ。ただでさえバカップルに見られてんだから」
「バカップルってなーに?」
「人目を気にせずイチャイチャする恋人達の事を言うんだよっ」
「じゃあ大丈夫。私達恋人じゃないもーん」
そう言われてズキンと心が痛む叶多。
「それはそうだな」
「じゃ、早くやって♪」
「あんなのしたらパンチラすんぞ」
「えー、それはやだぁ」
「じゃ、諦めろ」
「ぶぅー」
そう言ったクロノは叶多に腕を組んできたので、部屋に戻ったのであった。
「さ、クロノ。その浴衣を脱いでこっちに着替えろ」
「わかったーっ」
ご機嫌だな。
着替えを見ないようにしながら冷蔵庫を開けると日本酒の瓶が何本も入っていた。昨日空い酒瓶を置いてあったから飲み足りないのかと思われたのかな。
ドンっ
「ブッ」
着替えたクロノがしゃがんで冷蔵庫を覗き混込んでいるカナタの首目掛けて飛び乗ってきた。
「な、な、な、何してんだよっお前」
カナタの顔の横にはクロノの生足がある。
「ここなら誰も見てないからいいでしょー?」
ほにょほにょと柔らかい感触がカナタの顔に当たっている。
「お、お前やめろっ。足が顔に当たってんだよっ」
「早く立ってよ」
もういうことを聞きそうにないクロノ。これは早く肩車をやって下ろさねば。
クロノは軽いのでスクッと立ち上がれる。
「わぁ、目線が全然違うー」
クロノは小柄だ。正確にはわからないけど確実に160cm以下だろう。高くなった目線が嬉しいのは解る。解るがこれは良くない。生太ももが顔に当たっているのだ。それに素肌から甘いような匂いがする。
「クロノ、もういいか?」
「あの高い高いは?」
「それもやってやるから降りろ」
と叶多はしゃがむ。
そして高い高いと投げるのではなく持ち上げるだけに。手に胸が当たってるがそれを顔に出さずにクロノを持ち上げていた。
「もういいか?」
「うん♪」
クロノを下ろすとてててっと冷蔵庫を覗き、昨日とは違う酒瓶を持ってきた。これは甘い方の酒だろう。
「飲も♪」
クロノはどこまで酔ってるのだろうか?こいつ、酔ってるのあまりわからないんだよな。
ご機嫌で酒を注いでくれるクロノ。自分もクピクピ飲んで行く。こいつはやはり酔ってるのだろう。お化粧のせいだけではなく頬もピンク色だ。
「ねぇ、カナタ。返してよ」
いきなりそんな事を言い出すクロノ。
「何を返すんだよ?」
「私のドキドキ返してよっ」
「なんだよそれ?」
「ほっぺたにハチミツなんか付いてなかったもん」
「つ、付いてたよっ」
「嘘つき。あの後自分で触ってもべたべたしてなかったもん」
あー、食べかすとか言っときゃ良かった。
「う、うるさいなっ」
「何しようとしたの?」
「何もしようとしてないっ」
「ねぇ、キスしようとしたんでしょ?」
ドキっ
「ちっ、違うわっ」
「嘘つき」
・・・
・・・・
・・・・・
「ごめん」
「なんで謝るの?」
「俺達は恋人同士じゃないだろ」
「そうだよ」
「だからごめんなさいだ」
「別にいいじゃない。私たち結婚してるんでしょ?」
あ、恋人じゃないと言ったのはそういう意味だったのか・・・
少しほっとする叶多。
「クロノ」
「何?」
「俺はお前の事が好きなのかもしれない」
「ふふふっ。知ってる。カナタ私に優しいもん。初めは怖かったけどー、どんどん優しくしてくれたもん。それに守ってくれるしー」
「でもな、これが俺の本当の気持ちなのかどうかわからないんだ」
「どういうこと?」
「お前は生物から求められる。人間からも魔物からも。俺はそれはクロノの能力なんじゃないかと思うんだ。神々に備わっている能力っていうのかな。神様って崇拝されるだろ?それが今は人間みたいな存在だからモテる程度に弱まってるんじゃないかと思うんだ」
「それで?」
「俺がお前の事を好きかもと言ったのはその事だ。この気持ちがお前の能力だったとしたら偽物の恋心になるだろ?」
「偽物・・・?」
「そうだ。お前がこれが偽物だったらお前がこの世界、つまり実体化してるのが長くなるにつれて能力がもっと弱まったとする」
「うん」
「その時に俺はお前をなんとも思わなくなったらどうする?」
「えっ?」
「他の女の子に興味が出てそっちを好きになったらどうする?」
「他に好きな子がいるの・・・?」
「俺が知ってる女の人ってあんまりいないだろ?ずっとお前と一緒にいるんだし。これは可能性の問題だ。あと、俺はこの世界に来てからモテてるような気がする」
「モテてる?」
「そう、シンシアやリンダを見たらわかるだろ?会ってすぐに好意を持ってくれた。どこまで本気かはわからないけど、元の世界でこんな事は一度もなかった。こんなのはこっちに来てからだ。この世界の男は強い方がモテるらしい。俺は全然強くないだろ?どう考えてもおかしいんだよ。異世界から召喚されたらそういう能力みたいなのが付くんじゃないのか?」
「そんなの知らない」
「お前は初め俺の事を嫌いだったろ?それなのにどうして俺に初日からこだわった?」
「そんな知らない」
「俺に拘る理由なんてないだろ?」
「でも・・・」
「今のお前は人間みたいになってる。これがお前が自分の世界に戻って実体化が解けたら俺の事はぷーくすくす状態になってもおかしくはない。初めのお前がそうだったようにな」
「なんでそんな事を言うの・・・」
「お前は神、俺は人間。これ以上近付いたらダメなんじゃないかと思う」
叶多は自分がクロノに魅かれているのを自覚し、自分に言い聞かせるようにそう言った。
ぐすっ ぐすっ
「なんでそんな事を言うのよっ」
「目的を見失ってしまいそうだからだ。お前はなんのために勇者を召喚した?魔王が覚醒する前に倒さないとまずいからなんだろ?」
「まだ100年はあるから・・・」
「それ確実か?」
「え?」
「魔王覚醒までの期間はきっちり決まってるか?その100年ってだいたいだろ?」
「それはそうだけど・・・」
「もしかしたら覚醒するのはもっと先かもしれないし、すぐかもしれないんじゃないかと俺は思ってる。魔王の覚醒は神であるお前がまずいと思ったぐらいなんだからとてつもない影響が出るんだろ?こいうのは最悪を想定して動かないとダメだと思う」
「カナタ・・・」
「この気持ちが本物かどうか確かめるのはそれからでいいだろ?それとも魔王が倒れたら俺は自動的に向こうに帰るようになってるのか?」
「ううん」
「クロノ」
「何?」
「俺は本物だったらいいなと思ってる」
「本当?」
「正直、俺は誰かを好きだと思った事がなかったからな。自分でもよくわかんないんだよ」
「わかった・・・」
「じゃもう寝ろ。俺は風呂に入ってから寝るから」
「なんで自分だけ入るのよ?」
「お前にドキドキさせられて汗だくなんだよっ。お前と違って俺はそのままにしとくと臭くなるんだ」
「わかったわよっ」
叶多は昨日寝ていない。が、今日も神経が高ぶって眠れないかもしれないので、お酒を持って風呂にいった。お酒の力を借りて寝てしまおうと。
頭と身体を洗ってから湯船に入る。
あー、わざわざ今日、あんな事を言わなければ良かったな・・・。そうすればもう少し楽しく過ごせる時間が伸びたのに。
クピっと日本酒を飲みながらそう思う。クロノもご機嫌だったのに。
叶多はクロノの生足が顔に触れたことでいつ理性が飛んでもおかしくないと思った。
あれは他の女の子にされてもあんな気持ちになるのだろうか?例えばシンシアにされたら?
多分、冷静にはしたないからやめなさいとかいうだろうな。
リンダだったら?
これは嬉しいかもしれないけど、何かしたいとまでは思わないかもしれない。
俺は好きと女の子にドキドキするのを混同しているのだろうか?
叶多は例えばこうだったら?と一つ一つ頭の中で確認をしていったのであった。




