本音?
相変わらずクロノは男連中にちやほやされている。ここにいる皆は俺と結婚したことを知っているから悪さするような奴はいない。
そして入れ替わり立ち替わり男連中がやって来てどこで見つけたんだとか、どうやって引っかけたんだとか酒を注いでは絡んで来る。この街は生産者達の街でみな知り合いで新しい出会いは少ないようだ。繁華街の方の女性達は生産の家に嫁ぐと休み無しの労働が待っているからなかなか嫁さんに来てくれないらしい。元の世界と似てるよなこいうとこ。
そうこうしているうちに叶多も酔って来てわーわー言い合いするようになってきた。リンダの親父は寝てしまい、リンダはクロノの元へと向かった。
「今晩は。楽しんでる?」
「何よ?」
「私はリンダ。あんたクロノよね?あんまり可愛くてビックリしちゃった。カナタのお嫁さんなんて羨ましいわ」
「ふんっ、あんなの欲しかったらあげるわよっ」
「本当?じゃもらっちゃおっかな。私来年成人だからカナタのお嫁さんになろっかな」
そう言ったリンダをクロノがキッと睨む。
「そんな怖い顔するならあげるとか言わなければいいじゃない」
「う、うるさいわねっ」
「あーあ、カナタが可哀想。あんなに必死であなたの事を想ってるっていうのに」
「え?」
「ここで前にこうやって宴会した時にね、私の事をずっとクロノって呼んでたのよ」
「どういうことよ?」
「ここに来てすぐの時よ。飲めないお酒を飲んで酔っ払って、私をあなたと思ってたんじゃないの?本当失礼よね。他の女と間違えるなんて」
「で、あんたになんか変なことしたのっ」
「変なこと?」
「そ、そのポヨンさせたりとかっ」
「何、ポヨンって?」
「か、関係ないでしょっ。私と間違えて怒鳴ったりデコピンしたりしたんでしょっ」
「謝ってたわよ」
「え?」
「守ってやれなくてすまん、でも俺が必ずなんとかしてやるって何回も何回も言ってたわ」
「嘘・・・」
「本当よ。いま頑張って稼いでるのも全部あなたの為なんだって。いいなぁ、そんな旦那様。あなたが本当にいらないなら本気でモーションかけるわよ」
「ダ、ダメよっ」
「だったら拗ねてないでカナタの所に行ったら?皆酔ってきてるから変なことされても知らないわよ」
リンダは酔った男連中がどうなるかを良く知っていた。悪気はないけど酔うと抱き付いて来たりするのだ。リンダは慣れてるので上手くかわしたり蹴飛ばしたりして酔っ払いをあしらうが、このクロノはそういうことが出来なさそうなのでさりげなく警告をしにきてくれたのだった。
「おい、カナタっ。お前子供みたいな顔してやることやってやがんなぁ」
「やることってなんだよっ」
「そりゃあ新婚であんな可愛い嫁さんなんだからそりゃあ」
「やめろっ!俺とクロノはそんなんじゃないっ」
「なーに、言ってやがんだ。お揃いの指輪もしちゃってよー」
これは違うとは言えない。
「だから違うんだって。俺はあいつを守らなきゃダメなんだよっ」
そう叫ぶと奥様連中が
「キャーッ熱いわねぇっ、私は旦那にそんな事を言われたことないわっ」
「いや、そう言う意味じゃなくてね」
奥様連中もかなり飲んでいるようでキャッキャッとカナタをからかってくる。
あー、もうっ。
叶多は気を紛らわすのに水割りを飲む。
クロノを見るとリンダと何か話してるけど険悪そうでもないから大丈夫か。さっき思ったけど、クロノは自分の世界でずっと独りだったのではなかろうか?あそこ何にもなかったしな。ここで実体化してちょっと楽しかったのかもしれない。ああやってベタベタしてきたりするのもそのせいかも。親父とかリンダの親父も寂しそうだもんな。
「ほら、何ぼーっとしてんだよ。飲めっ飲めっ。で、嫁さんはどうやって口説いたんだよ?」
「口説いてないっ。俺はあいつを守るのとあいつが望むことをなんとかしないとダメなだけなんだよっ」
「おー、情熱的だねぇっ」
からかわれては飲み、からかわれては飲みをしている所にリンダがやって来た。
「カナタ、クロノが寂しいみたいよ」
男連中はカナタに絡んで来てるのでクロノがポツっと座っていた。
もうかなり酔っている叶多にはものすごくクロノが寂しそうにしているように見えた。
「クロノっ、こっちへ来いよっ」
「なっ、なんで私から行かなきゃなんないのよっ」
そう答えるクロノがとても悲しそうに見えたカナタはつかつかとクロノの元に行き、ガバッと抱き上げた。
「ちょっ、ちょっとカナタっ何すんのよっ」
「大丈夫だ」
「な、何がよ?」
「俺はずっとお前のそばにいてやるから」
「え?」
「俺が一生お前を守ってやるから心配すんなっ」
カナタにそう言われてカーッと赤くなるクロノ。
「ちょ、ちょっちょっと、酔ってんじゃないのっ」
「おー、カナタ熱いねぇ」
「ふっふっふ、羨ましいかっ。これは俺の嫁さんだぞっ。お前達にはやらんっ」
「くっそー!見せ付けてくれやがるっ」
「ちょっとカナタどうしたのよっ」
「クロノっ」
抱き上げたクロノを叶多はガバッと抱き締める。
「大丈夫だ。俺がなんとかひてやるから・・・」
クロノを抱き上げたままふらつく叶多。
「お、おいっ危ねぇっ。誰だっ、カナタにこんなに飲ませたやつはっ」
「なぁに、大丈夫、大丈夫。なっ、クロノ。俺がいたら寂しくないだろっ」
「う、うん」
「おい、カナタ。お前は嫁さん抱えたままこけんなよ」
「大丈夫っ大丈夫。クロノは俺が守るから」
「おい、誰か家まで連れてけっ」
叶多は酔いがマシな男連中にクロノを抱き抱えたまま連行されて行ったのであった。
「あーあー、カナタってばクロノにベタ惚れじゃん。男って酔うと本音が出るのよねぇ。父ちゃん、残念ながら私は脈無しだわ」
「ぐぉーぐぉー」
リンダは酔っぱらって寝ている父親に話しかけていた。
「おいカナタ。家に着いたぞ。こけんなよ」
「うん、ありがとう。ここの人達は本当に良い人達だ。帰りたくなくなっちゃうよっ ヒック」
「何言ってやがる。いま帰ってきたんだよっ。クロノちゃん、後宜しくな」
そういって男連中は帰っていった。
「カ、カナタ?」
「クロノっ」
「な、何よっ」
「もう寂しくないか?」
「さ、寂しくなんてないわよっ」
「そっか、そりゃ良かった」
寂しくないと答えたクロノ。それを聞いて嬉しそうにする叶多。
そして抱っこしたまま寝室へ。
「ちょっ、ちょっとカナタ・・・」
叶多はクロノを抱き上げたままジーと見つめる。
「な、何っ」
「うん、大丈夫だ。お前は可愛いっ。だから拗ねたりすんなっ。その方が可愛いからな」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
そういって、叶多はクロノをベッドに寝かせた。
もの凄くドキドキするクロノ。
叶多は優しくクロノの頭を撫でて電気を消した。
えっ、えっ、えっ、えっ
真っ赤になるクロノ。
「目を閉じろ」
どうしよう、どうしようとクロノは心の中で呟きながら目を閉じた。
「んじゃぁ、お休みぃ」
叶多は防犯の魔道具をセットしてリビングに移動させたソファに寝に行ったのであった。
「え?」
ぐおーぐおーっ
リビングから叶多のイビキが聞こえてくる。
「もうっ!なんなのよっ 馬鹿っ」
バンッ
クロノはドアに向かって枕を投げつけたのであった。
「痛ててててて」
夜明け前に頭が痛くて目が覚めた叶多。
気持ち悪っ・・・
また飲み過ぎたんだな俺。どうやって帰って来たんだろ。クロノはどうした?
ハッと魔道具を見るとちゃんとセットされていた。クロノがやったのかな?
そーっと寝室の扉をあけるとスースーとクロノが寝ていた。なんか暴れたような跡があるけど、こいつ酒飲んでたからな。新しいベッドでボヨンボヨンして遊んだんじゃなかろうな?
また扉をそーっと閉めて、水を飲んだ。前に比べると耐性が出来たのか頭は痛いがオロロロするほどでもない。
着の身着のままで寝てたので、熱いシャワーを浴びて湯を貯めて行く。その間にまた水を持ってきて風呂で飲むことに。
ゴッゴッゴッゴッ
ぱぁーっ。生き返るわ。
一度湯船から出て冷水シャワーを頭に掛けてまた湯船に。
昨日の宴会も途中から記憶が無い。リンダとクロノがなんか話している所までは覚えているけど、その後どうやって帰って来たか記憶にないのだ。まぁ、クロノもちゃんとここにいるし、こらから気を付けよう。
そして風呂から出て、脱いだものを洗濯機へ。昨日までの服もあるし・・・。クロノの下着も入っていた。あーっもうっ。面倒なのでまとめて洗濯機に突っ込んだ。
2曹式なので、洗うのが止まったら脱水曹に入れ直す。自分の脱いだものとクロノの下着を一緒に洗うのは恥ずかしいけど、あいつが自分で洗うとは思えないのでもうこれからも俺が洗うしかない。嫁のパンツを洗う旦那・・・。あまり人に知られたくないな。
ゴトゴトゴトっと脱水される様を見ながらそんな事を考える。
で、干す時も恥ずかしい。納屋にクロノの下着を干す。これは慣れ、これは慣れと自分に言い聞かせながらも、女物のパンツって小さいよなとか見てしまう。
「何見てんのよ、変態っ」
「うわぁぁぁぁぁっ。なんだよクロノ脅かすなよっ」
「私の下着をマジマジと見ないでよ。さすがに恥ずかしいわよっ」
「ちっ、違うっ」
違くはない。叶多が見ていたのは確かなのだ。
「おっ、お前が自分で洗わないからだろっ」
そういって他の洗濯物を外に干しにいったのであった。
「お前、昨日風呂に入ってないだろ?朝飯作っておくから風呂に入って来いよ」
叶多はいつもと変わらない。
「覚えて無いの?」
「えっ?」
「昨日の事よっ」
「お、俺なんかした?」
「もういいっ」
朝からご機嫌斜めのクロノ。そうだこいつに朝から話し掛けたらダメなんだった。
しかし、俺なんかしたのかな?
目玉焼きとベーコン、トーストの朝食を作っていくとクロノは風呂に入らずにじーーっと見ている。
「ほら出来たぞ」
無言で食べるクロノだが、美味しかったのか機嫌が直っていく。
「本当に覚えてないの?私にあんな事をしておいて?」
「な、な、何をしたのかな?」
「私、初めてだったんだからねっ」
「え?」
サーーーッと青ざめる叶多。
「ま、マジ?」
「責任取りなさいよね」
「は、はい・・・」
俺は知らぬ間結婚に続いて知らぬ間に大人の階段を登ってしまったのか・・・。全く覚えてないとは不覚にも程がある。
俺の初めての相手が女神・・・。責任ってどうやって取るのだろう?
というか、クロノと本当にそんな関係になったのか?俺は酔ってみさかいなくそんな事をする奴だったのだろうか?
いや、みさかいなくではないな。ん?みさかいなくではない?俺はクロノとこういう関係になっても嫌ではない?は?どういう事だ?
チラッとクロノを見ると上機嫌だ。
叶多はクロノの事ばかりか自分の事もよくわからなくなったのであった。




