心臓破裂するかも
買い物が終わると夕暮れだ。荷車を取りに行かなきゃ。
ドグの所に移動しすると準備が出来ていて、2人乗りキックボードまで出来ていた。
「おう、どうだった?」
「色々買ったからめっちゃお金使ったよ」
「まぁ、嫁さん貰うってのはそういうこった。バリバリ働いてちゃんと旨いもん食わせてやれよ。こんなべっぴんさんを嫁にした果報者なんだからよ」
ガーハッハッハと背中をバンバンと叩かれた。
こんなにお金が必要なら元の世界に戻ったら嫁さんなんて貰えそうにないな。ここでチート能力があるからこそ、しかも流通が発達していないからこその稼ぎなのだ。
クロノの為に買い揃えた物はもう金貨10枚ぐらい使っている。元の世界で手取り年収って新人だと200万円ぐらいだろうか?せっせと貯金して10年ぐらい貯めてようやく支払える額だな・・・
荷車にキックボードを乗せてベーリカの家に帰る。飯作るの面倒臭いな・・・
「クロノ、なんか食べに行こうか?」
「えー、カナタがなんか作ってよ」
こいつ・・・
「なにが食べたいんだ?」
「フライドポテト?」
「あんなもんおかずになるかっ」
「じゃ、何でもいい」
なら外食でいいじゃないか。回る寿司とかあったらいいのに。
米を炊いて牛丼にでもするか。生卵入れたいけど、この世界の卵が生食できるかわからんから、温玉にすることに。
肉も塊だからスライスするけど、包丁だとあんなに薄く切れないだよな。ドグはスライサーとか作れるかな?
取りあえず明日はハーテンに行って防犯魔道具を買って、洗濯機と家具を取りに行かないとな。
ご飯を作っている間にクロノに風呂へ行かせた。
分厚めの肉々しい牛丼を作っているとクロノがいつまでもたっても風呂から出て来ない。
ちょっと心配なので風呂場に見に行く。
「おーい、クロノ。寝てんじゃないだろうな?」
またこいつ、ここに下着脱ぎっぱで・・・。
2回目でも恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
えいっと見ないようにして脱衣篭に入れておく。
「クロノ、寝てるんじゃないだろうな?おいクロノっ」
返事もしないし、シャワーの音もしない。まさか溺れてないだろうな?
「は、入るぞっ」
と、大きな声で呼び掛けても反応が無い。
扉を開けると案の定湯船で寝てやがる。どうすんだよっ!
後ろを向いて何度も呼び掛けるも起きる気配がない。その時にごぼごぼっと音がした。
「おいっ、クロノっ」
顔が半分浸かったクロノ。
ヤバイっ
もう恥ずかしいとか言ってられないので、湯船からクロノを抱き上げてバスタオルで巻く。
「おい、クロノっ クロノっ。大丈夫かっ」
スー スー
寝てやがる・・・
しかし、どうすんだよこれっ。
足でもう一枚バスタオルをひょいっと投げて自分に乗せて寝室へ行き、クロノを一旦ソファに置いて、ベッドにバスタオルを敷く。もう一枚バスタオルを持って来て枕にしてそこにクロノを寝かせた。見ないように見ないように気を付けていたが、さすがに湯船から抱き上げる時には見えてしまった。胸のドキドキが収まらない。
一応髪の毛を拭いて買ったばかりのドライヤーで髪の毛を乾かしておく。身体を巻いていたバスタオルは濡れているので、タオルケットをかけてから濡れたバスタオルを取った。
俺、心臓が持つだろうか?
これが恋愛して付き合って好き合った同士なら別にいいだろう。が、自分とクロノは形式上婚姻関係ではあるが、それはこいつを合法的に守る為だけの物。
はぁ、一緒に来いと言ったのは間違いだったかもしれん・・・
昨日も寝てないし、今日も寝れるだろうか?
一人でモソモソと肉々しい牛丼を食べて食器を洗い、さっとシャワーを浴びた。さてどこで寝るかだ。
ソファで寝ている時にクロノが起きたら自分を脱がせたと勘違いするだろう。それかうっかり起き上がったクロノを俺が見てしまうかもしれない。かと言ってリビングで寝てたらクロノになにかあった時に気付かない可能性がある。今は眠気が飛んでるとはいえ、昨日寝てないから寝入ったら爆睡してしまうだろう。さすがに隣で異変があれば気付くだろうけど、リビングだとなぁ・・・。
迷った挙げ句、叶多は寝室のソファで寝ることにした。変態呼ばわりされてもクロノになんかあった方がまずいのだ。
叶多はうっかり見てしまわないようにタオルを顔に巻いてソファで寝る事にしたのであった。
身体は眠たいのに神経が高ぶって眠れない。スースーと聞こえる寝息も聞こえるし、風呂場で見えてしまったクロノの裸と抱き上げた感触が叶多の思春期を刺激する。
まだ心臓が破裂しそうだ。
そして、そろそろ夜明けというときに叶多はうとうとと寝てしまった。
「きゃーーっ!」
「どうしたっ」
叶多はクロノの叫び声を聞いて慌てて飛び起きる。しかし目の前は真っ暗だ。
「くそっ!前が見えんっ。大丈夫かクロノっ」
「あんた私に何をしたのよーーっ」
それを聞いて我に返る叶多。
あ、顔にタオルを巻いてるんだった。
「クロノ、俺の目隠しとるぞ。大丈夫か?」
「あんた何をしたのよっ!」
「お前、風呂に浸かって溺れたんだよっ。何も覚えてないのか?」
「えっ?」
「何回外から呼んでも返事しないから風呂場に入った。で、お前が湯船で寝てたから後ろを向いて何回も声掛けてる時に溺れたんだよっ。ベッドに枕代わりのタオルで下が濡れないようにバスタオルが敷いてあるだろが」
クロノはそう言われて確認すると確かに叶多の言う通りだった。
「な、何もしてないわよねっ」
「してるか馬鹿っ。今もこうやってタオルを顔に巻いてんだろが。それともパンツはかしてほしかったのかよっ」
「馬鹿っ!変態っ」
「だからそのままにしたんだろが。いいから早く着替えろっ。タオル取るぞっ」
「待って、待ってよっ」
まだだからね、まだだからねっと言いながら着替えるクロノ。
「も、もういいわよっ」
と言われてタオルと取るとクロノも真っ赤だった。
「み、見たの?」
「あぁ、バッチリ見たわっ」
叶多は開き直ってそういう。見てないとか嘘は言えないからだ。
ぐすっぐすっ
泣き出すクロノ。
「あのなぁ、俺は思春期なんだ。女の子とこうして一緒にいるのも初めてなんだ。母親も早くに死んで全く女っけがない生活をしてきたんだ。ちょっとは気を使ってくれ。もう心臓破裂しそうなぐらいドキドキすんだよっ」
ぐすぐすっ
「えっ・・・?」
「お前も俺に見られてショックなのは解ってるよ。だけどな、覗こうと思って見たわけじゃないっ。見たのは事実だけど、叫び声が聞こえたら心配するし、風呂場で物音もせずに声かけても返事しなかったら心配するだろうが。それに今回風呂場にいかなかったら溺れ死んでたかもしれないんだぞ」
「だって・・・」
「それとな、さっき言った様に俺は女の子をどうやって扱っていいかわかんないんだ。拗ねても何が原因かわかんないし、どうしてやればいいかもわかんないし。下着脱ぎっぱにされるだけでもドキドキして心臓が飛び出しそうになるんだよっ」
「わ、私にドキドキしてんの?」
「そうだっ」
「ふーん。私にドキドキしてるんだ?」
「お前じゃなくても、他の子でもこんな生活してたらドキドキするわっ」
ベシッ
枕がわりにしていたタオルを投げつけるクロノ。
「何よそれっ!さいってーっ!!」
「なんで怒るんだよっ」
叶多はクロノがなぜ怒ったのか理解出来なかった。
クロノはブスっとしながら肉々しい牛丼を食べて少し機嫌が直っていく。甘じょっぱい味がお好みにあったみたいだ。
「今日はハーテン王国に行って、戻って来てからアッキバ、また戻って来て荷物を下ろして肉を購入。それからドワーフの国で酒を仕入てエステートのギルドに行くからな」
「なんでそんなにあちこちに行くのよ」
「色々とすることあんだよ」
ハーテンを指定してワープ。
「ほら、後ろに乗れ」
「歩くからいい」
まだ怒ってんのか。面倒臭ぇ。
せっかく作ってもらった2人乗り用のキックボードは大きめのゴムタイヤだ。横幅もあるから安定感もある。これは楽チンだ。ただ一人乗用より持ち運びには不便だな。
クロノの歩調に合わせてちょいちょいと進んでると歩くのが面倒になったのかドンッとおぶさってきた。
「後ろに足乗せるとこあんだろ?」
「いいのっ」
そう言って首にしがみつくクロノ。
むにょんとした男のロマンが昨晩の出来事を思い出させる。
「あんまくっつくなっ」
「なんでよっ」
「ドキドキすんだよっ」
「私にドキドキしてんの?」
「そうだよっ」
そう答えるともっとギュッとするクロノ。
「だからやめろって」
「別に私じゃなくてもドキドキするんでしょっ」
叶多は返事をしなかったが、クロノは叶多が本当にドキドているのかギュッとして確かめた。
クロノはドクドクドクっと激しい鼓動が叶多の背中越しに伝わるのを確認して機嫌が直っていったのであった。