女の子との協同生活は気苦労が絶えない
「おい、クロノ。お前パジャマとか買ったのか?」
スースー
起きないクロノ。パジャマがあっても勝手に脱がせる訳にはいかないのでこのまま寝かせる事に。
叶多はリビングからソファをうんしょうんしょと寝室に運んで来た。そのままリビングで寝ようかと思ったけど、万が一クロノが寝ている間に何かあったらと思って寝室にソファを持って来たのだ。
寒くはないけど、クロノにタオルケットを掛けてやる。これもこいつの買わないとダメだな。あとはバスタオルとかそれぞれ別のが必要だな。
ここの冬はどれぐらい寒いのだろうか?多分今は夏だとは思うけど、さほど暑くはない。空気が乾燥してるからか。
ふぁーあ、明日も仕事だから寝よう。
ソファにごろんと寝転がるとさほど広くない寝室のベッドでスースーと寝るクロノの寝顔が目に入る。
ドキッ
確かにトーマスの言う通り、クロノは可愛い。クラスにこんな子がいたら好きになってたかもしれない。が、こいつは女神でクソ女だ。
「しかし、寝てるとくそ女とは思えんな・・・」
なんかクロノを女の子と意識してしまったら急にドキドしてきた叶多。
叶多は女の子と付き合った事もなく、父親との二人暮らしだったので、まったく女っけのない人生だったのだ。それが女神で今はくそ女とはいえ、目の前でスースーと寝息を立てて寝ているのだ。
「あっち向いて寝よ・・・」
叶多はクロノと反対側を向き、意識を他に向けようと努力した。
スースー スースー
反対側を向いて目を閉じても寝息が聞こえてくる。それになんとなく甘いような匂いがする気がする。
ドキドキドキドキ
意識しないように、意識しないようにと考えれば考えるほど耳に寝息が聞こえてくる叶多なのであった。
「くそっ、まったく寝られなかった」
夜明け前に寝るのを諦めて、日が昇るのを待つ。日が登ると魔物達は襲って来ないらしいからな。
まだ寝ているクロノをそのままにして、朝風呂で目を覚ますことに。それから朝食だ。簡単なスープとスクランブルエッグとトースト、そしてオレンジジュースを入れる。
「おい、クロノ。もう起きろ。飯食ったら出掛けるぞ」
「まだ眠~い」
「さんざん寝ただろうが。飯食ったらシャワーを浴びろ」
「んんん、何作ったのぉ?」
「パンとスクランブルエッグだ。早く食わんと卵が硬くなるぞ」
「んー、食べる」
のそのそっと飯に釣られて起きるクロノ。寝癖ついてんぞっ。
まだボーッとしてるクロノはスプーンを変な持ち方をしてスクランブルエッグを口に入れる。
「お前は幼児か。スプーンぐらいちゃんと持て」
と、ちゃんと持たせようとすると
「うるさいわねっ!あんたはオカン?私のオカンなのっ?」
イラッ
寝てる時にちょっと可愛いと思ったのがどこかに吹き飛ぶ。
「外で一緒に飯食う時に俺が恥ずかしいだろうがっ」
「ふんっ。小姑」
ムカムカムカ
ヒッヒッフー
ヒッヒッフー
落ち着け、落ち着け俺。ここで怒鳴ったらまた延々と拗ねるかもしれん。
ふわふわスクランブルエッグを食べてオレンジジュースを飲むとだんだんご機嫌になっていくクロノ。こいつに起き抜けに話し掛けるの止めよう。朝の親父とそっくりだ。叶多の父親も朝は機嫌が悪かったのだ。
食べ終わった後にシャワー浴びるか風呂に入れとクロノに伝え、その間に食器を洗う。元の世界でも家事は叶多の担当だったのだ。
カシャカシャと食器を洗ってると、
「きゃーーーっ」
しまったっ、日が登ったからと油断した。
「クロノっどうしたっ」
「冷たーーっい」
クロノはシャワーの使い方がわからず、水をいきなりかぶったようだ。
「脅かすなよ・・・・」
「きゃーっ きゃーっ!何覗いてのんよ、スケベっ変態っ!!!!」
ジャバジャバジャバジャバっ
「ぶっ、やめろっ」
覗きと間違われたクロノが叶多に水シャワーをぶっかける。
バタンッ。慌てて風呂場の扉を閉める叶多。
あーっもうっ。床も俺もビシャビシャじゃないか。後ろ姿とはいえクロノの裸を見てしまった叶多はその残像を打ち消すように頭を振り、ビシャビシャの床と自分を拭いていく。が、そこにはクロノの脱いだ下着が・・・
「何で床に脱ぎっぱなんだよっ」
真っ赤になった叶多はその下着をバスタオルでくるみ、脱衣篭に入れた。
「クロノっ!赤い方の蛇口と青い方の蛇口を温度をみながら捻れ。赤い方だけ出すと火傷するからなっ」
「うるさいっ!知ってるわよそんなことっ」
知ってるなら初めからやれよ・・・
叶多はビシャビシャになった服を着替えるとクロノがバスタオル一枚で身体を隠しながら出て来た。
慌てて後ろを向く叶多。
「お、お前、そんな姿で出てくんなっ」
「着替えがここにあるから仕方がないでしょっ。こっち見ないでよっ」
「風呂場に着替え持ってけっ」
はぁ、俺はこんな生活に耐えられるのだろうか?
ドキドキする心臓を押さえながらヒッヒッフー、ヒッヒッフーと冷静さを取り戻す努力をする叶多であった。
着替えたクロノにこれから二人で生活するルールを決める。
「クロノ、お前が出来る事はなんだ?料理、洗濯、掃除。どれが出来る?」
「どれもやった事ないわよ」
マジか・・・
「わかった。なら、別に何もしなくていいけど、下着は自分で洗え」
「何でよ?」
「お前は俺に下着とか見られても平気なのかよっ」
「別に汚れないんだし、服と変わんないじゃない」
「そういう問題じゃないっ」
クロノは脱いだ物は気にしないみたいだが、俺は気にするのだ。女物の下着なんて初めて見るからな。
「いいから自分で洗え。そして俺の目の届かない所で干せ」
「そんなのどこにあるのよっ」
外に下着を干すと変な奴が来るかもしれんしな。
「わかった。寝室に衝立買ってきてお前と俺のベッドの間に立てるから、自分のベッドの所に干せ」
「えーーっ、狭くなるじゃない」
「なら、荷車を置いてる納屋に干せ」
しかし、納屋は俺も出入りするから嫌でも見てしまうだろう。これは俺が慣れるしかないのか?
ふとクロノを見ると髪の毛がビシャビシャのままだ。
「お前、髪の毛ちゃんと拭けよ」
「拭いたわよ」
「まだビシャビシャじゃないかっ」
これでいいと言うクロノからバスタオルを奪い取り頭を拭いてやるが、なんかぬるぬるしている。
「お前、リンス流しきってないだろ?」
「あれ付けるだけでいいんじゃないの?」
「ちょっとこっち来い。使い方を説明してやるから」
どうやらクロノは初めて風呂に入ったようで何も知らないようだ。
「これがシャンプー、これを少し出して髪の毛を洗う。これは汚れを落とすものだ。これをきれいに洗い流したら、このリンスを付けてしばらく置いてから綺麗に洗い流す。いいか?」
「面倒くさーい」
「いいから、早くもう一度お湯で頭を洗え。リンスつけっぱなしだといつまてまもぬるぬるのままだぞ」
「カナタがやってよ」
「は?」
「やり方わかんないからカナタがやってよ」
マジかよ・・・
風呂場だと脱がなきゃビシャビシャになるから洗面台に行って椅子に座らせる。
そしてクロノの髪の毛からリンスを洗い流していく。
こいつ、ちゃんと頭洗ったのだろうか?女の子の髪の毛を触るのはドキドキしたが、だんだんと子供の世話をしているような気になってきた叶多。リンスを洗い流すついでに頭も洗っていく。
「うふふっ うふふっ♪」
「な、なんだよっ。気持ち悪いっ」
「これ気持ちいいねぇ」
確かに人に頭を洗ってもらうのは気持ちがいい。楽だしな。
リンスが綺麗に流せた所で髪の毛をバスタオルで拭く。ドライヤーとか売ってるのかな?叶多の髪の毛と違ってクロノはロングヘアだ。クシだけじゃなく、ブラシとかも買わないとダメだな。
「クロノ、今日仕事に行くつもりだったけど、買い物に行くぞ」
「何買いに行くの?」
「お前の物が色々と必要なんだよ。その前にドワーフの国に行くからな」
これから行商に行く時にクロノは荷台に乗りたがるだろう。荷物の上に乗せる訳にもいかないから、ここに椅子を付けてもらうか。
叶多は荷車を引いてドワーフの国の魔道荷車の店にワープした。
「叶多、誰だそれ?」
「え、まぁ、同居人ってやつ?」
「お前子供みたいな顔してやりやがるなぁ。えれぇべっぴさんじゃねーか」
「名前はなんていうんだ?」
「クロノだよ。おいクロノ。世話になってるドグだ。挨拶ぐらいしろ」
「ヤッホー」
こいつ・・・
「クロノ・・・?女神さんと同じ名前か」
「そうよ」
「がっはっはっは。カナタの嫁さんは女神か。そりゃ商売も上手くいくはずだな。そうだ、お前が作ってくれといってたやつ出来てるぞ」
「マジで!やった」
とキックボードを出して来てくれた。
「もう稼いでるから買えるだろ?金貨1枚だ」
と手渡されるとめっちゃ軽いし、ちゃんと折り畳める。
「これ、魔道具仕込んであるからな。舗装された道しか使えんが、キック一発でグーーんっと進むようにしてやったぜ。あとこいつを握るとブレーキが掛かるからな」
素晴らしい。金貨1枚で高いなと思ってたけど魔道具まで仕込んでくれたのか。
「ありがとう。これ、もう一つ作れる?」
「あぁ、一つ作ったら次は簡単だからな」
「じゃ、それと、この荷車のここに座れる所付けられる?」
「そんなのすぐに出来るぞ。今日の夕方には仕上げといてやるよ」
「じゃ、お願い。もう一台のキックボード代とまとめて払うよ。身分証で払える?」
「構わんぞ。全部で金貨2枚と銀貨5枚だ」
はいとハンター証を渡すと
「おいおい、同居人って嫁さんだったのかよ?」
「え?」
と自分のハンター証が支払いの所に表示されているのを見る。
【妻】クロノ
げっ、あれ無しになったんじゃなかったのかよ?
「クロノ、ハンター証貸して」
クロノからハンター証を借りてそれもみてもらうと
【夫】カナタ
おぉう、クロノのもちゃんとそうなってるじゃないか・・・。
「お前、嫌だって変えて貰ったんじゃないのかよ?」
「こうしないと私を守れないんでしょっ」
「それはそうだけど・・・」
叶多は17歳の高校生でありながら既婚者となっていたのであった。