叶多の常識は非常識
「お、お帰りなさいっカナタさんっ。たくさんの荷物届いてますけど・・・」
「ただいまシアちゃん。もう届いたの?」
「は、はいっ」
荷物を見るとめっちゃある。単身者の引っ越しかよ・・・
「何買ったんですか?」
「クロノの服と靴だよ」
「こんなにですか?」
「俺も知らなかったんだよ、こんなにあるなんて」
シンシアと話をしているとトーマスが出て来た。
「なんだよっ?昨日あんなに渋ってた癖に、もうそんなイチャイチャしてやがんのか?」
叶多はクロノを抱き抱えたままだった。クロノは軽いのであまり気にならなかったのだ。
「ちっ、違うっ。こいつが慣れない靴を履くもんだから靴ずれが出来て仕方なくだよっ」
イチャイチャしてると言われて真っ赤になった叶多はクロノを下ろした。
「靴ずれ?見せてみろ」
トーマスに足をクロノの見せる。
「あーあ、こりゃ痛そうだな。シンシア、下級ポーション持ってこい」
トーマスはシンシアが持ってきたポーションをクロノの足に掛けてくれた。そうするとシュワシュワと靴ずれが治っていく。相変わらずポーションって凄いな。
「カナタ、銀貨1枚だ」
そして金を払わされる。下級ポーションは銀貨1枚のようだ。
「トーマス、ポーションってギルドで売ってるの?」
「売ってるぞ」
「なら10本ほど頂戴」
「全部下級でいいのか?」
「上級って金貨1枚だっけ?中級は?」
「銀貨10枚だ」
叶多はクロノにもしもの事があった時の為に上級1本、中級5本、下級10本を買った。
金貨1枚と銀貨61枚のお支払い。頑張って稼いだお金が湯水のごとく消えていく。
トーマスはサービスとしてポーションを携帯出来るウエストポーチのような物をくれた。20本入るタイプだ。隙間には袋に入れたお金を入れておこう。
「しかし、ずいぶんと服とか買ったんだな」
「まぁね」
「これ、全部新品の服だろ?ずいぶんと高く付いたんじゃないか?」
「全部で金貨3枚近く使ったよ」
「はぁ?お前、ここの奴等の年収以上の金を1日で使ったのか?」
「俺もこんなにするとは思ってなかったんだよっ」
「はぁー、服なんて中古でも良かっただろが。どんな服を買ったんだ?」
と、ここでお買い物した品評会が始まる。
・・・
・・・・
・・・・・
「カナタよ、これ着て行商に行くのか?」
「俺も動きやすい服と靴を選べって言ったんだけどね」
「どこの富豪のお嬢様だよ?こんなの着てたら金持ってると思われて拐われんぞ」
「えっ?」
「お前、この服が庶民のだと思うか?」
と、言われても叶多の世界だとこれぐらいの服はみな着ている。別にパーティー用のドレスとかではないのだ。
「違うの?」
「街中で他の女の服を見てこいっ。もっと地味だろうがっ」
そういや、街中の人は茶色い服とか地味なやつばかりだった気がする。客引きの女性は派手だったが。
「いいじゃないっ。カナタが好きな服買っていいって言ったんだから」
クロノは上機嫌だ。
「カナタ、お前この世界の常識を学んだ方がいいぞ・・・」
「あ、うん・・・。そうする」
「いいなぁ・・・」
シンシアはクロノの服を羨ましそうに見ていた。文字も教えてもらったし、服をプレゼントしてあげようにもサイズとかわからんし、まだ成長期だろうからすぐにサイズも変わるかもしれん。今度どこかでお土産を買ってこよう。アクセサリー類とかならサイズ解らなくても大丈夫だしな。
「これ全部運ぶのか?」
「ベリーカに荷車置いてるから取って来るよ。クロノはここで待ってろ」
「一緒に行く♪」
とニコニコと付いて来ることに。
「晩飯はどうすんだ?」
「じゃあ、戻って来たらここで食べようかな」
ハンター達に睨まれながら叶多はベリーカの家に移動した。
「へぇ、ここがカナタの家?」
「借り物だけどな。ほら、荷車取りに来ただけだからまた戻るぞ」
そういうとクロノは荷車に乗った。
こいつ・・・
クロノをドナドナしながらギルドに戻って服と靴を積み込み、またベリーカへ。クロノは荷台に乗ったままだ。これ、行商に行くときにずっとこうなるな。
ベリーカの家に荷車と服と靴を置いてまた戻る。
「だから、何でおぶさるんだよっ」
「別にいいじゃないっ」
お前はこなきじじいかっ
ギルドに戻るとまたハンター達に睨まれた。お前らも睨んでる暇があったら働け。
で、ギルドの仕事が終わってからトーマスとシンシアとご飯を食べる。
「ほら、カナタ飲めよ」
「いや、この前酒飲んでしんどくなったんだよね。俺がいた世界だと酒は20歳からだったし」
「ここは15歳で解禁だから気にすんなっ」
と言われて少し甘めのワインをグラスで渡される。
「ほれ、女神さんも。新しい門出に乾杯だ」
「私も飲んじゃおっかな」
「シンシアはダメだ。お前は未成年だからな」
「えーーっ」
トーマスとシンシアって親子みたいな感じだな。
シンシアにはブドウジュースを渡されて乾杯だ。
お、これ飲みやすくて旨いかも。
クロノもフンフン♪とご機嫌に飲んでいる。
肉の焼いたのとワインって旨いんだな。しかし、ベリーカの肉の方が旨い気がする。
「エリナさん、この肉はエステートの肉だよね?」
厨房の優しいお姉さんはエリナという名前だ。この前唐揚げ作った時に教えて貰った。
「そうよ」
「ベリーカの肉を仕入れてみる?」
「あら、商売熱心ねぇ」
「いや、ベリーカの肉って旨いんだよ。穀倉地帯が多いから牛達の餌が違うのかもね」
「値段はどれくらい?」
と、いつも卸している値段で説明する。
「あら、安いわね。なら試しに持ってきて」
「了解です。持ってきて気に入らなければ買わなくて大丈夫なので」
「ふふ、いいわよっ。他にも何かあったら持ってきて頂戴ね」
「カナタ、ベリーカの肉は旨いのか?」
「バーベキューして貰ったんだけどね、ソースも美味しいし、肉も旨いんだよ。ここも安いとは思うけど、ベリーカだと生産してる人から直接買うから食べ物類はかなり安いね。店で買ったらまた違うんだろうけど」
「ドワーフの酒も安いって言ってたよな?」
「あそこって山に囲まれてるから他の国と距離があるんだよ。だから運搬費用が高く付くんだと思うんだ。もっと安く卸してもいいけど、他の商人よりあまりに安く卸すと恨まれそうだからね」
「まぁ、そうだな。国から国へ移動する商人は護衛雇ったりするし、それでも盗賊に襲われて荷物を奪われたりするからな」
「盗賊は多いの?」
「上手く昼間に移動して夜は宿に泊まれればいいんだけどな、山越えだと夜営しなきゃなんないからな。ま、盗賊もだいたい夜に出やがるから、やつらも魔物にやられたりとかする。盗賊も命懸けだな」
「なら、盗賊なんてせずにハンターとか仕事すればいいのに」
「俺もそう思うがな。悪さしてハンター証を消された奴とかが盗賊になるんだ。ハンター証は犯罪者以外誰でも登録出来る。それすら持てないやつは盗賊ぐらいしか生きていけねぇんだ。登録消されるような事をしたのが原因だがら自業自得だかな。ちなみに盗賊は殺しても罪にならんぞ。捕まえてどっかの国に売れば犯罪奴隷として高く売れるぞ。それ専門にしてるハンターもいるぐらいだからな」
犯罪奴隷とかあるんだな。しかし、人が人を売るとか嫌だな。
「言っとくけどな、もし盗賊に出会ったら何を言われても同情するな。迷わず逃げるか切れ」
「え?」
「この世界の常識って奴だ。やつらは平気で嘘を付く。中には困ってる商人や、女を装って助けを求め、盗賊のアジトに連れていくとかな。だから、辺鄙な場所で困ってる人とかいても助けるな。ま、お前は街から街へ移動するから大丈夫だとは思うがな。荷物を奪われるだけで済むならいいが、女神さんは間違いなく悲惨な目に合う。さんざん弄ばれた後に娼館に売られたりとかな」
その後もトーマスからこの世界の常識って物を教えてくれた。
「今日はここに泊まるのか?」
「いや、明日は約束があるし、クロノの荷物を整理したり、家具とか揃えないとダメだしね」
ベッドが一つしかないからな。今日はソファで俺が寝るしかないけど、毎日それは嫌だ。
「そうか、家具とか買い揃えないとダメなのか。家賃もあるし大変だな」
「今の所、家は空き家だから好きに使っていいってタダで貸してくれてんだよ」
「なら、家具とか運び入れていいか確認しとけよ。あと鍵とかも防犯のことも考えておけ。魔道具屋に行けば防犯の魔道具とか売ってるぞ。結構高いけどな」
ほう、防犯の魔道具とかあるのか。それは必要だな。
「色々と教えてくれてありがとう。またなんか珍しい物があったらお土産に持ってくるよ。シアちゃんは髪飾りとか付ける?」
「えっ?私に買ってくれるんですか?」
「文字教えて貰ったお礼もしてないしね。俺はそういうセンスないけど、好きな色とかある?」
「ピ、ピンクが好きですっ」
「わかった。じゃあ、ピンク色の何か買って来るよ」
「カナタ、安いのでいいぞ。お前の金銭感覚ズレてるからな」
多分、平均的な物価の国だと金貨1枚100万円ぐらいの価値があるのだと思う。が、商売してると動く金額が多いし、金貨1枚が一万円ぐらいに思ってしまうのだ。
そう考えると服と靴、ポーションで4百万円ぐらい使ったのか・・・。しかもこいつに貢ぐ・・・
ちっとも会話に加わらないと思ったら寝てやがる。酒飲んで眠くなったのか。
「おい、クロノ、帰るぞ。起きろ」
スースー
あーっもうっ。
「カナタ、いつもみたいに抱っこして連れてってやれよ」
トーマスはニヤニヤしながらそう言いやがる。
仕方がないので、クロノをパンチラしないように抱き上げて連れて帰った。また飲んでるハンター達に睨まれるが、ギルマスと友達みたいに飲み、ジェイソンをズタボロにしたと思われてる俺に絡んでくる奴はいなかった。




