旦那様
「トーマス、意味がわかんないんだけど?」
「いいから早く言ってやれっ」
やっぱり迷惑だったのか。
まぁ、本来ここには関係無い話だからな・・・
「クロノ、どうすんだ? ここにいると迷惑みたいだ。他の人と相部屋にしてもらうか?」
「嫌よっ」
「ならどうすんだよ?ここにいられなくなるぞ」
「カ、カナタはどうしたいのよっ。私に一緒に来てほしいのっ」
「ここに居てくれた方が安全・・・」
ゴスッ
「痛っぇぇ。トーマス、何すんだよっ」
「なぁ、カナタ。本当は女神さんに一緒に来て欲しいんだよなぁ?」
「いや、ここの方が・・・」
はぁっとげんこつに息をかけるトーマス。
「なっ、なんだよっ」
「カナタ、お前、女神さんの事嫌いなのか?」
トーマスがそう言うとぐすぐすしているクロノがカナタを見る。
「別に嫌いではないけど・・・」
「なら一緒に来て欲しいよな?なっ?」
「クロノが俺と居るのが嫌がってるだろが。連れてったら四六時中一緒に居なきゃならないんだぞ?ベリーカは小さな一軒家だから寝る時もなんかあったらと思うと同じ部屋になるだろうが。そんな事出来るわけないだろっ」
「女神さんはそれでもいいんだよな?」
「べ、別にカナタが来て欲しいならいいわよっ」
「ほら、女神さんもこう言ってんだから連れてけ」
「クロノ、お前、俺と一緒に来たら四六時中一緒にいないとダメだし、走ったりしないとダメなんだぞ。それでもいいのかよ?」
「カ、カナタが来て欲しいなら我慢するわよっ」
「あー、もうっ。なら一緒に来い。ここにいたらトーマスやシアちゃんに迷惑だからな」
ということで、クロノを連れて帰る事になってしまった。俺はこいつを守ってやれるのだろうか?
今晩はもう遅いので、宿舎に留まって翌日に出発することになった。
クロノと部屋で話をする。
「服とか買ってないよな?」
「うん」
「じぁ、明日買いに行ってからベリーカに行くぞ」
「買ってくれんの?」
「ここに払うつもりだった金があるからな。ちょっと多めに買っておけ。特に下着類な」
「汚れないんだから別に一つだけあればいいじゃない」
確かに半月前からここにこもって風呂にも入ってないというのに汚らしさも臭さもない。女の子ってそういうものなのだろうか?
「外に出たらお前はどん臭いからこけたりするだろが。いいから予備を買っておけ。それに汚れないからってずっと同じ物着てるんじゃないっ」
「えーっ」
「なんか気分的に嫌なんだよっ。風呂にも入れ。埃とかもつくんだから。明日服と下着買ったら風呂に入れよ」
「わかったわよ」
今日はクロノの着替えが無いからな。風呂は自分だけだ。
翌朝、ご機嫌のクロノと食堂で朝飯を食ってるとシンシアがやって来た。
「あ、女神様もご飯食べてるんですね」
「シアちゃんおはよう。今まで迷惑かけてごめんね。今日からこいつを連れて行くわ」
「えっ?」
「いや、やっぱり迷惑みたいだしさ、ベリーカに家を借りてるからそこに連れて行くよ」
「で、出ていっちゃうんですか・・・」
「仕事もあるからね」
「女神様も行っちゃうならもうここには来なくなっちゃうんですか」
シンシアは寂しそうだ。
「うーん、そうだ。ここの食堂でも火酒扱うかな?」
「き、聞いて来ますっ」
「あら、カナタくん。あれ売り物なの?」
「樽なら割安というか格安で卸しますよ」
「通常はいくらで卸してるの?」
「瓶は銀貨1枚。樽は銀貨20枚です。瓶で31~2本取れると思います」
「そんなに安いの?」
「ここにはもっと安くでいいですよ。ほかの所と比べて物価も安いので、樽なら銀貨10枚でどうですか?」
「えー、そんなの悪いわ」
「ドワーフの国でかなり安く卸して貰ってるんで大丈夫です。もし他の店に聞かれたら他には通常価格でしか卸さないですけど」
「じゃ、お言葉に甘えて樽でお願いしよっかな」
「じゃ、近々持って来ますよ」
「シア、これでカナタくんがちょくちょく来てくれるわね」
「ありがとうっ」
その後、クロノを連れて服を買いに出掛ける。裸足のクロノはやはり砂利道を歩くのは足が痛そうだ。
「ほれ」
叶多がしゃがんでやるとクロノはエイっと飛び乗って来た。
「お前、もっと大人しく乗れよな」
「カナタ、レッツゴーっ!」
背中ではしゃぐクロノ。じろじろと通行人から見られてるけど周りからどんな風に見られてんだろうか?
まずは服屋でクロノに選ばせる。女の服なんてわからん。
店員に似合いそうなのを見繕って欲しいと頼んで、下着類もお任せしておいた。一着はここで着替えさせてもらう。
・・・
・・・・
・・・・・
長ぇ・・・。女が服を買うのってこんなに時間が掛かるのか。
叶多は何もすることがなく、ボーッと待ってると
「ねー、ねー、カナタ。どっちがいい?」
違いがわからん・・・
「もう、両方買え」
「わかった♪」
「ねー、ねー、これは?」
「もう好きに買えよ。俺には違いがわかんないんだよっ」
「ぶーっ。ちょっと見てくれてもいいじゃない」
「いいから早く買え。靴下とかもだぞ。次は靴を買いに行くんだから」
もう待ちくたびれてイライラが募る。こいつが誰にも狙われないのなら一人で買い物に行かせるんだけどな。
またしばらく待たされる。
「本日はたくさんのお買い上げありがとうございました。お支払は現金か身分証でどちらになさいますか?」
「じゃ、身分証で」
えっと、金額は・・・ブッ
金貨1枚と銀貨11枚・・・。支払でフィーバーさせてんじゃねぇ。って、女の服ってこんなに高いのか。この世界の服は確かに高いけど、こんなになるとは舐めてたわ。俺、こいつを養って行けるのか?
・・・というか、この歳で彼女でも嫁さんでも無い女を俺は養なわなきゃならんのか。なんて人生だよ。
「旦那様、お買い上げ頂いた服はどちらお運び致しましょうか?」
「あ、運んでくれるの?じゃ、ギルドに届けてくれるかな?」
「かしこまりました」
「クロノ、次は靴を買いに行くぞ」
「じゃーーん、どう?」
「あぁ、はいはい。早く乗れ」
「もうっ!ちょっとは見てよっ」
クロノはピンクのワンピースだった。まぁ、女の子らしい服装だな。
「お前、そんな短いスカートだったらおぶさった時にパンチラすんぞ」
「そんな事聞いてないっ」
「ズボンはけよ、ズボンっ」
「もうっ!」
「だって事実だろうがっ」
「旦那様、少しはその・・・、お褒めになられた方が・・・」
「あーっ、もうっ。ハイハイ、可愛いですよ」
「ふふっ♪」
「毎度ありがとうございましたー」
と、店員総出で見送られながら、クロノを背負い出て行く。心なしか見送ってくれている店員の目が生暖かいような気がした。
靴屋にて。
「ねーねー、カナタ。これはどう?」
服屋と同じことが繰り返される。
「歩きやすい靴にしとけよ」
持ってくるのはパンプスとかヒール付きの靴とかだ。そんなのはいてたらいざという時に走れんだろが。
もう面倒なので好きに買えとクロノに言って座って待つ事に。チラッと値段を見ると靴もかなり高い。男物の靴もあるので予備に買っておくか。自分のは今はいてるスニーカーしかないからな。革靴とか滑りそうだけど、大丈夫だろうか?
「すいません、ゴム底の靴とかあります?」
「そういう靴はハンター用のお店に行かれた方が宜しいかと」
そんな店があるんだ。店員に場所を聞いて自分の靴はそこで買うことに。
ようやくクロノの買い物が終わったようで、クロノは服に合わせたかかとのあるパンプスをはいてきた。
「お前、靴下は?」
「こういうのにははかないんだって」
「お前、歩きやすい靴にしろっていっただろ?」
「いいじゃない可愛いんだから」
「お支払は現金か身分証のどちらになさいますか?」
「身分証で」
・・・金貨1枚と銀貨23枚。
何足買ったんだろう・・・?
「ここは配達してくれる?」
「はい、旦那様。どちらにお運びいたしましょうか?」
「ギルドにお願いね」
次はハンター用のお店だな。
ドンッ
「うわっ」
クロノがいきなりおぶさって来た。
「お前、靴買ったんだから歩けるだろがっ」
「あっ、そっか」
店員達は生暖かい目で俺達を見ている。そもそも女の子をおぶって買い物に来ることからして変だし。帰りもいきなり人の背中に飛び乗る変な女だ。そりゃあんな目になるわな。
また見送られながらハンターの店に歩いていく。
「カナター、どこに行くの?」
「俺の靴を買いに行くんだよ」
「さっきの店で買えば良かったのに」
「さっきの所は革底の靴しか置いてなかったんだよ。あんなの走りにくいだろうが」
「ふーん」
しばらく歩くと教えてもらった店を発見者した。
店の中をみて回ると、防具や武器、装備品とか置いてある。へぇ、革の胸当てとか膝当てとかもあるんだな。
「へい、らっしゃい。何かお探しで?」
「歩きやすい靴を探してんだけど、ゴム底とかのある?出来ればクッション性がある奴がいいんだけど」
「攻撃用より、移動重視か?」
「そうだよ」
「なら、こいつはどうだい?ゴム底に加えて中にスライムクッションが入った奴だ。移動商人とかにも人気だぜ」
へぇ、スライムクッションとかあるんだ。
試しにはかせてもらうと確かにムニムニした履き心地だ。エアチューブ入りのスニーカーと似ている。
「これいくら?」
「銀貨3枚だよ」
ほう、そんなもんか。
「こいつのサイズもある?」
「ん?こんなお嬢様にはかせるのか?」
「あぁ、これ歩きやすそうだしね。俺のとこいつの分を2足ずつ頂戴」
「えー、可愛くなーい」
「うるさいっ。これからこういうのが必要になるんだっ」
「あんちゃん、この靴は靴下をはいた方がいいぞ」
そうだよな。
「クロノ、靴下をはけ」
「持って無いわよ」
全部配達にしたのか・・・
「ここ、靴下もある?」
「あぁ、蒸れないハンター御用達の靴下があるぞ」
「じゃ、それは3足ずつもらおうかな」
クロノは椅子に座って足をぷらぷらさせている。
「ほい、これをはけ」
というとニコニコと足をひょいと上げるクロノ。
・・・・
・・・・・
あーっ、もうっ。
自分ではけといったらまたぎゃーぎゃー言いやがるだろうから、靴下をはかせてやる。
生暖かい目で見る店員。
「どうだ?」
両方はいて、その場を少し歩かせる。
「大丈夫よ」
「じゃ、これ頂戴」
「お支払・・・」
「身分証で」
銀貨24枚お支払。蒸れない靴下は足の保護機能。いわゆる水虫防止が施されるとのことで銀貨1枚もした。
「旦那、毎度ありっ」
配達はしてないとのことで布に包んでくれた。風呂敷みたいな感じだ。
しかし、支払いをすると皆が俺を旦那と呼ぶ。支払済みの韻語なのだろうか?
ギルドに戻ろうとすると、クロノが立ち止まる。
「どうした?」
「足が痛い」
というので足を見るとかかとの所に靴ずれが出来ていた。靴を脱がすと小指と親指の所もだ。
「だから履きやすい靴にしろって言っただろうが」
もう靴ずれが出来てしまってるのでスライム靴に履き替えてもムダだ。
おんぶしてやろうにも靴の包みがな・・・。
風呂敷みたいな包みにクロノのはいていたパンプスを入れてそれを背負う。泥棒スタイルだ。が、そうするとクロノをおぶれない。
「あー、もうっ。抱っこで帰るぞ」
とクロノをパンチラしないようにお姫様抱っこした。
人目を避けてギルドにワープ。クロノを抱き抱えたまま入るとハンター達に睨まれた叶多であった。