俺、この戦いが終わったら結婚するんだ①
後には引けない。
今ここで嘘でしたなんて言おうものなら、たぶん俺の命はないだろう。
もし自分に可愛い娘がいたのならば、そんなふざけたことをした奴に容赦できる気がしない。
ましてや異種族であるエルフさんの村だ。
どんな掟や文化があるか予想もつかない。
まったく、なんということをしてくれたんだ!
なんで日本語喋れるんですかとか、とても聞ける雰囲気ではない。
ティナパパは獲物を狙うかのごとき鋭い眼光、ティナママは何故か情熱的でステキだわ~と感激しているご様子。
いつの間にか集まっていた他の村人たちに至っては、こいつマジかよみたいな様子でざわめいていた。
「もう一度聞こう。この俺、ハイネ村戦士団長たるジークリンデ=ハイネの娘と知っていながらそのような大言を吐いたのだな?」
「ハッ、我が藤島渉の名に誓って二言はございません!」
初耳だよ!
意志疎通なんて片言でかろうじてだったのに、そんな情報知るわけないだろ。
しかし俺の口からは否定の言葉が出やしない。
長年によって培われた習性は容易に変わることがないのだ。
「渉様……あの、ほ、本当にわたくしを?」
「ティナが欲しい。君でなければ駄目なんだ!」
彼女のエメラルドのような瞳を見詰め、真剣に告げる。
これは、これだけは嘘ではない。
「……ッ嬉しいです!この日が来るのを、ずっとずっとお待ち申し上げておりました。不束者ですが、どうか末永く可愛がってくださいませ!」
ティナも何故か急に喋べりだした上に、今の言葉で感極まったのかとても幸せそうな表情で抱きついてきた。
でも村に着くまで絶対、話通じてなかったよね?
言葉の意味が分かると彼女から受ける印象もまた違ったものに感じるが、脈有りどころか受け入れ体制は万全のご様子。
外堀も内堀も全部自分で埋めてしまった馬鹿がいる。
大馬鹿だ。
いったいどこのどいつだ?
俺だよ。
そんな奴に嫁ができるとか冗談だろ。
「よかろう、ティナに対する想いの強さだけは認めてやる。だがそれを叶えたいのならば、条件があるのも当然分かっているな?」
「覚悟の上です」
「フン、貴様には森を騒がすオークどもの軍勢を討伐してもらう。その程度もできない者に大切な娘を渡すわけにはいかん。話はそれからだ」
「そんな……お父様、あんまりです!」
「ティナ、お前は黙っていろ!なにも一人で全て蹴散らせとは言わん。村の戦士団とともについてこい。そこで見極めてやる」
「承知。オークなど我が魔剣ジェイソン(仮)で一匹残らず八つ裂きにしてくれましょう」
こうなりゃヤケクソだ。
やれるとこまでやってやるよ!
ブラック企業ではこの仕事できるか?なんて温い言葉は無い。
常にやれと命令されるのみだ。
美少女エルフのティナを嫁に迎えられるのならば、むしろ望むところだ。
「出立は三日後だ。それまでこの村で滞在することを許す」
それだけ告げると、ジークリンデは足を怒らせ立ち去った。
お父様は怖かった。
こんなに冷や汗をかいたのは社長が視察に来たとき以来だ。
上司同僚がピリピリしてて迂闊なことを言おうものなら……。
今さらながら、とんでもないことを言っちまったとガクブルしているとティナママが側に来た。
「うふふ、そうですかあなたが。怖がらせてごめんなさいね。でも、夫はああ見えてあなたにとても期待しているんですよ。ここに滞在する間、そうね……ティナ、あなたがお世話して差し上げなさい」
「はい、勿論です。お母様」
俺の胸元にぎゅうっと抱きついていたティナがその体勢のまま頷くと、今度は左腕にピッタリと寄り添いそのまま彼女の家へと招かれたのであった。
逃げ場は消滅したが、もうかまわない。
こうなったきっかけは最低だとしても、この手のぬくもりと真っ直ぐな好意だけは裏切りたくない。
だいたいオークの軍勢だと?
森までやって来て、エルフに一体ナニをする気なんだ?
まあ、おおかた奴らのやりそうなことなんて決まっている。
エッチなことだ!
エロ漫画みたいなことする気だろ!
きっとその獲物にはティナも含まれているに違いないのだ。
ならば、断じて許すわけにはいかない。
ティナにエッチなことをしていいのは俺だけだ!
まったく、やれやれだ。
嫁の貞操の危機とあらば俺も本気になるしかないな。
かつて感じたことのない闘志と殺意が身体中から沸き上がる。
心の底から決意した。
オークを討伐し、ティナを嫁にもらう。